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第一話 伝説、吸血少女

空が、裂けた。


黒雲が渦巻き、まるで深淵が降りてくるかのようだった。


大地は砕け、炎と黒い霧がすべてを呑み込んでいく——


その破壊の中心に、一人の男が立っていた。


白い炎が、剣の切っ先から静かに燃え上がる。


派手ではない。だが、決して無視できない存在感だった。


「——邪神。」


男は低く呟いた。


その声はあまりにも静かで、まるで結末を告げているかのようだった。


黒い霧が蠢き、無数の歪んだ影が空中で目を開く。


「人間……神に挑むつもりか?」


重く低い声が、天地に響き渡る。


だが——


男はただ、剣を構えた。


「この世界を傷つけるものは——」


「すべて、斬る。」


次の瞬間。


光と闇が、正面から激突した。


天地が揺らぎ、空間が軋む。


その戦いは——


後に、空さえも砕いたと語り継がれることになる。


——


「これが伝説の英雄、レッド様の物語だ!」


広場の中央で、語り部が興奮気味に声を張り上げる。


周囲には、子どもたちが集まっていた。


「すげぇ……!」


「オレも将来、英雄になる!」


「レッド様みたいに!」


彼らの目は、憧れで輝いていた。


まるでその伝説が、今もどこかで続いているかのように。


だが——


「……英雄、ねぇ。」


広場の外れ、大きな木の下。


一人の少年が、木陰に寝転がっていた。


片手で目元を隠し、葉の隙間から差し込む光をぼんやりと眺めている。


「そんなもん、本気でなりたい奴なんているのか……」


小さく呟く。


風が、そっと吹き抜けた。


葉影が揺れる。


戦いだの、伝説だの——


そんなものより、何もせずに過ごすこの時間の方がよほど大事だった。


「おい、またこんなところでサボってんのかよ!」


誰かが近づき、少年の足を軽く蹴る。


「みんなあっちで話聞いてるぞ? 行かないのか?」


「興味ない。」


少年は体を起こそうともしない。


「そのままだとダメな大人になるぞ?」


「それでいい。」


大きなあくびを一つ。


「面倒ごとに巻き込まれないなら、その方が楽だ。」


気の抜けた声だった。


「……ほんと変なやつだな。」


呆れたように言う相手に、少年は答えない。


ただ目を閉じる。


何も気にしていないかのように。


だが——


誰も気づいていなかった。


彼の手首の影に、かすかな痕があることに。


それは、まるで炎に焼かれたような跡で——


あるいは、何かが眠っているかのようにも見えた。


——そして、この平穏は、すぐに終わる。


「やっと見つけた。」


頭上から、声が落ちてくる。


少年は目を開けた。


差し込んでいた陽光が、遮られる。


木の枝の上に、一人の少女が立っていた。


銀色の長い髪が、風に揺れる。


血のように赤い瞳が、まっすぐ少年を見下ろしていた。


その瞬間——


空気が、変わった。


「あなたが、探していた人ね。」


少女は微笑む。


危うさを帯びた、確信に満ちた笑みだった。


少年は眉をひそめる。


「……誰だよ、お前。」


「迎えに来たの。」


「断る。」


「却下。」


「おい——」


言い終わる前に——


少女は枝から飛び降りた。


そのまま少年の服を掴む。


「行くわよ。」


「どこに?」


「細かいことは気にしないの。」


「ま、待てって!!」


その瞬間——


少年の日常は、終わりを告げた。

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