アクヤクーヌ・レイジョリオンは日常に戻る②
テディ・ブライアンはあの後、王族や貴族に魔法のアイテムを使いその心を掌握しようとしたことが明るみに出て捕らえられた。
私利私欲で妖精の魔法を悪用したこと、複数の身分の高い令息達の将来を潰そうとし、ひいては妖精と魔の者の均衡を崩したとして修道院での幽閉や、それこそ処刑すべきだと重い罰が課せられそうになった。
しかし、被害者であるフィービー王子やゼルハルト、そして私自身も酌量を与えることを望んだのだ。
(まあ、本人はそのつもりは一切無かったみたいやからなぁ)
そうして彼女は学園を退学となった。
妖精を見る事は出来なくなったが、声や気配を感じ取る事はまだ出来るらしい。
そのため、魔法研究所に籍を置き王国の外の国や遺跡、ダンジョンなどを調べる調査員として各地を旅することになったのだという。
つまりは、王都追放である。
どうやら実家の大衆食堂も外聞を気にして彼女を勘当したらしく、頼る所も帰る場所も無くしたようだ。
一度だけ謝罪のため学園で顔を合わせたが、憔悴した様子で泣き腫らした顔をしていた事を覚えている。
(……世の中には、知らんかった幼いからで済まされん事も有るっちゅうことやな)
芳醇な香りを楽しみながらカップをソーサーに戻し、私は目を閉じる。
ハーレムルートをクリアした後、解放されるシナリオが一つある。
それは妖精の救いの声をはっきりと聞いたヒロインが王国を飛び出し、六つの遺跡を巡りそこに住まう魔の者を祓い、封印されていた『妖精の王子・シルフェリオ』を助け出すというルートだ。
シルフェリオは憂いを帯びた美青年であり、隠し攻略キャラでありながらもフィービー王子と並んで人気の高いキャラクターだ。
妖精の力を借りて世界中の魔の者を祓ったヒロインは、シルフェリオに見初められて幸せに暮らすというものである。
(あまりにも攻略が面倒くさすぎて完全に忘れとったけど、あのお嬢さんの本命は多分シルフェリオやろうな)
テディは数日前の早朝に、質素な馬車に乗って王都を去ったらしい。
その時彼女は、涙を見せることもなく前を見据えて堂々としていたのだという。
彼女にはもう、時間を巻き戻せる時計も人の心を絆す贈り物も持っていない。
(それでも、会いたいのなら自分の足で会いに行くしかないやろ?)
彼女はもう、シナリオに縛られたヒロインではなくこの世界を生きる、ただのテディ・ブライアンなのだ。
願わくば、彼女の夢が叶えばええなと思っている。
「――アクヤさん」
優しい声が、私を現実に引き戻す。
振り返るとそこには、猫背に瓶底眼鏡を掛けた我が国の第二王子様がはにかみながらこちらを見ていた。
「御免遊ばせ、ギイ王子。
どうかしましたか?」
「お茶会中にすみません、見ていただきたい資料が有りまして」
「課題のものでしょうか、分かりましたわ」
丁度スリーティアーズは空になった所だ。私は静かに紅茶の最後の一口を喉に流し込んだ後、音もなく席を立った。
「トリマーキ子爵令嬢、彼女をお借りしますね」
穏やかな物腰の第二王子に、トリマーキ姉妹はにこやかに口に手を当て笑ってみせる。
「まあ! ギイ殿下なら仕方ありませんね。 私達には気にせず、ごゆるりとお話くださいまし」
「くださいまし〜」
なんだか二人とも嬉しそうだ。
ほんの少しくすぐったい気持ちを隠しつつ、私はギイ王子の後をついていったのであった。




