アクヤクーヌ・レイジョリオンは普通の女の子である
ギイ王子とは、『秘密の共有者』となった。
あの後、転移魔法で王城の中庭に降り立ち、変身を解いてしれっと城内に紛れ込もうとしていた私を執念で探し出し、アリバイ造りに一役買ってくれたのである。
ギイ王子には既にルナティック・フェアリーの正体が私だということはバレてしまっている。
『聖女』として教会や魔法研究所の管轄に置かれると活動がしにくいため、正体については黙っていてほしいと頼み込んだところ、黙っておく代わりに『協力者』として私のサポート役をさせてほしいと持ちかけてきたのである。
それ以降、ギイ王子とはルナティック・フェアリーの姿の時はもちろん、アクヤクーヌとして過ごしている時も一緒にいる時間が増えた。
以前ゼルハルトから私を庇ってくれた場面を見ている者も多く、周りは概ね温かく見守ってくれている。
「まあ、まさか婚約の話を持ってこられるとは思ってへんかったけどな〜」
下町に現れた魔物を討伐し、ワンドを片手に伸びをする私に後ろに立つギイ王子が困ったように笑う。
「すみません、僕と仲の良い令嬢が現れたのが嬉しかったみたいで……」
「伯爵の、しかも婚約破棄されたばかりの娘にやで? お父様ったら驚きで目ぇ回してはったわ」
「大の大人が大慌てで面白かったプモ」
「それは大変でしたねえ」
ギイ王子がレイジョリオン伯爵令嬢と仲が進展している事は、どうやら王家も把握済のようだ。
一度婚約破棄された身の上を考えると奇跡のような話で、実直な父は一晩知恵熱を出して寝込んだ後、震える手で了承の返事を送ったようだ。
「まあ、近くに居てくださった方がルナティック・フェアリーのサポートもしやすいので、僕は嫁入りしてくれるのは嬉しいですね」
「すんごい独占欲プモ〜」
「はは、おおきに」
定期的に行っているパトロールも、治安が回復してきているため頻度は減ってきている。
しかし、やはり夜になると街外れなどに魔物が現れることもあった。
「一番ええのは、魔物も全て浄化されて魔法が復活することやと思うけどな」
「いいですねえ、そんな未来が来たら嬉しいのですが」
「そうなったら、ルナティック・フェアリーもお役御免や」
「……それは、少し寂しいですね」
妖精と魔の者たちの因果は、やはり根深い。
それでも、闇夜に魔物が現れる限り、私はルナティック・フェアリーに変身しようと思っている。
――大元の浄化は、旅立っていった誰かさんがいつか、果たしてくれると信じているから。
人ひとり居ない夜の街並みに、月の光が差す。
「おー、今日はまた月がくっきりと見えるなぁ」
見上げれば、美しい銀の満月が夜空に浮かんでいる。
パトロール帰りに、こうやって月を見ながらギイを送るのが恒例となっていた。
……まあ、これもデートというのだろうか。
ふと、隣を見やればギイ王子がこちらを見おろしている。
分厚いレンズ越しの優しい瞳が、穏やかに私を捉える。
「――月が、綺麗ですね」
薄金色の長いまつ毛がまばたく。
傍らに居るプモが、何かを察したようにやれやれといった顔をした後に姿を消す。
それは、夜半の挨拶ではない。
遠い昔の記憶となりつつある国の、奥ゆかしい愛の言葉なのだと教えたのも、またこんな月が素晴らしい夜だった。
「……せやな、これからの月もアンタと見たいわ」
だから、私の愛の言葉もふんわりと。
妖精に語りかけるような優しい声音でギイ王子へと返した。
差し出された手を、そっと握る。
寄り添いながら歩む私たちの姿を、月の光が優しく照らしていた。
『転生悪役令嬢は2度目の魔法少女をやらされている』はこれにて完結です。
気が向いたら、テディ・ブライアン視点の番外編を書くかもしれません。
アクヤクーヌのお話をここまで読んでくださりありがとうございました!
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