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アクヤクーヌ・レイジョリオンは断罪される②

 いやいや、その理屈はおかしい。


 一方の言葉を鵜呑みにするなど、盲目にも程があるだろう。

 それになんだ取り巻きとは、私の事を考えてくれる友人達に失礼だろうが。


 「このっ……それでも騎士となる御方ですか!」


 理不尽さに柳眉を逆立てて尚も食い下がろうとするトリマーキ(姉)に、私はやんわりと制止をかけた。


 バレンシアもシチリアも、婚約者がいる身だ。


 私に加担したとみなされたら、彼女達にも影響がいってしまう。それは避けたかった。


 「バレンシアさん、シチリアさん。

 もう大丈夫です、ありがとうございます」


 「アクヤクーヌ様……申し訳ありません、私たち許せなくて……」


 「ごめんなさいですの……」


 項垂れる双子達に微笑みかけた後、私はゼルハルトとテディへ一歩、歩み寄った。


 「私は、ブライアンさんの私物を破損したり怪我をさせた覚えはありません。

 ああ……、確かに私にぶつかってきて一人で尻餅をついた挙句、『アクヤクーヌ様に突き飛ばされた』と錯乱された事は有りましたか」


 「っ……ひどい、私あの時は本当に怖くて……」


 ウルウルと瞳を潤ませて、子犬のように甘えた声でテディ嬢が私を見上げる。


 「私がゼルハルト様と仲が良いのが気に食わないからって酷いです……」


 泣き落としなど効くわけもなく、私は話にならないと首を横に振った。


 「ブライアンさんは少し記憶が混濁される事が多いようですし、他者の話も聞かれたほうが良いのではないですか?」


 「……貴様の、そういうところが気に食わんのだ!」


 「これは生まれ持っての性分です。

 それに、この婚約破棄はオーレサーマ家は認めていらっしゃるのですか?」


 こんな行き当たりばったりな婚約破棄、オーレサーマ伯爵が認めているとは到底思えないが、一応確認をしてみる。


 私の発言に軽く鼻を鳴らし、ゼルハルトは自信満々にこう告げた。


 「父にはまだ告げていない!

 だが貴様のような性悪女の血を入れるよりも、純粋なテディが嫁いだほうが家のためにもなるだろう!

 きっと、父上も分かってくれる筈だ!」


 やっぱり独断かい。


 自分の行いを信じ、鼻息荒くまくし立てるゼルハルトに私は呆れてものも言えなくなった。

 周りも同じ気持ちなのだろう。


 仏像のような顔をして押し黙っているオーレサーマ伯爵が、本当に気の毒だ。


 ゼルハルトの人差し指に嵌められたピンクプラチナのリングがキラリと輝く。

 可憐で、魔性的な輝きだ。


 テディのプレゼントアイテムに、相手を盲目的に見るようになる作用でも有るのだろうかと思い至ったが、怖くなってやめた。


 とにかく、これ以上私の青春時代(一回目)の思い出を汚さないでほしいし、今の青春時代(二回目)に傷なんて残さないでほしい。


 「言いたいことは、よく分かりました」


 こんなバカらしい茶番に長時間付き合うなど、正気の沙汰ではない。


 茶番に巻き込まれた国王陛下と、今頃和やかに祝われていたであろうフィービー王子の苦々しい顔に心底同情する。


 フィービー王子の隣に立つ、猫背の眼鏡とふと目が合った気がする。

 心配そうな顔だ。 大丈夫、私はまだやれるぞ。


 私はにこやかに微笑み、興奮気味のゼルハルトの狂気的に輝く赤い瞳を見据える。


 「この結婚は政略的なもの。私が被る損害と貴方が受ける代償を理解出来るなら、どうぞ我が家に申し出てください」


 「フン、この期に及んで自分の非を認めんのか」


 「ええ、私はブライアンさんに危害は加えておりませんから、認めるものが有りませんわ」


 残念ながらゼルハルトの株は下がりきってしまっている。


 婚約破棄後は本気で出奔するかと考えながら、私はにこりと小首を傾げた。


 ぐぬぬ、と悔しげに唇を噛み締めるゼルハルトとは裏腹にテディは何かを焦っているようだ。


 「な、なんでそんなに余裕なんですか……?

 婚約破棄されそうなんですよ、どうして平然としていられるんですか?」


 「そうね、これからの後処理の事を考えると憂鬱な気分だわ」


 「……それだけ、なの?」


 「ええ」


 奇妙なものを見る目で、テディが私を見ている。

 彼女からすれば私はヒロインを邪魔する悪役令嬢、言わば物語の進行のために破滅するだけの舞台装置だ。


 それが意思を持っていることに気付いたのだ。得体のしれないものへの嫌悪感も沸くだろう。


 シナリオもあとはエンディングに行くだけだ、主人公(テディ)は幸せになり、悪役令嬢(わたし)は破滅する。


 なら、出来るだけ平和に終わらせて舞台を去らせてほしい。


 「これじゃあ、シナリオが違うじゃない……!

原作に無いことしないでよ!」


 「……何を言っているか分かりませんが、良かったではありませんか」


 テディがこちらをキッと見上げてくるのを黙殺し、私は堂々とした姿勢を崩さぬまま、一礼をした。


 「ちょっと、ちょっと待ってよ!」


 テディがドレスの裾を持ち上げながら、必死の形相でこちらに近付こうとする。



 その瞬間、足元から悍ましい色合いの赤黒い触手が、床とビロードの絨毯を抜き抜け飛び出してきた。

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