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アクヤクーヌ・レイジョリオンは第二王子と急接近中である②

 慣れないこと……か、何となく予想は付いたが私はニコリと微笑んで首を傾げてとぼけてみせた。


 眼鏡の奥からじっと覗く瞳が、正体を探ろうとしているようで怖い。


 「前々から思っていたのですが、貴女は何処からやってきたのですか?

 この国にはない訛言葉を話されているので、地域が特定出来れば旅人の受け入れ記録などから貴女を探せるかもと調べてみたのですが、他国にもそれらしい言葉を使っている地域は有りませんでしたので」


 「ほーん」


 めっちゃ喋るやん。


 ほんで、めっちゃ調べてるやん。


 というかこの世界に関西弁はやはり無いのか。其処から攻められるとは盲点だ。

 思い返せば攻略キャラにも関西弁のキャラクターは意外と居なかった気がする。


 ニコニコと微笑みながらはぐらかそうとする私に、ギイ王子は無邪気な顔でさらなる追撃を飛ばしてきた。


 「かつて極東の小国の、さらに一部の地域で貴女に似た訛言葉を使っていたみたいですが今はもう滅びているようで。 様々な角度からアプローチしていますが中々厳しいです……僕、上がり症の口下手なので初対面の方とお話するのも気が引けますし」


 「それを本人の前で言える時点で肝は据わってると思うで」


 バッと顔を上げたギイ王子が一歩私の方へと踏み出す。


 「どうか貴女のことを教えてほしいです、貴女のことを考えると僕は夜も眠れなくて……!」


 「ちょ、近い近い近い」


 「貴女は一体何処から来たのでしょうか、妖精は……魔法は今も人と共にあるのでしょうか?」


 「近いって!」


 ズイズイと迫ってくるギイ王子の胸元を押して制せば、彼は少し慌てた様子で一歩後ろに下がった。


 魔法オタクで、本編ではほとんど存在感がない第二王子。


 けれど、そんな彼が真面目ながらも一生懸命で、そして勇気のある青年だということを私は知っている。


 だからだろうか、私もほんの少しだけ『自分』を見てほしい気になったのだ。


 「――うちがやってきたのは、此処ではない別の世界や。

 訳あって正体は教えられへんけど、人々と妖精の平穏を願う気持ちはギイ王子といっしょやで」


 「別の、世界……」


 私の言葉を反芻したギイ王子が興奮したように表情を明るくさせながらパソコンもどきに何かを打ち始めた。


 「自分の意思からきたのですか?

 それとも何かに呼び出されたのですか?」


 「んー……まあ、呼ばれたんとちゃうかな」


 「なるほどなるほど、参考になります!

 ルナティック・フェアリーが、かつて居た世界はどのような場所だったのですか?

 トアールランドと生活はあまり変わらなかったりしますか?」


 知的好奇心に胸を膨らませ、瓶底眼鏡で分からないがその下の瞳は輝いているだろう。


 素直に可愛らしさを覚えながら、私は彼の問いに返した。


  「この国と同じように魔法は使われへんよ。

 科学がこの世界よりももっと発展しててそれを使って生活しとったわ」


 「そうなんですね!

 それはそれで興味深いです……この国には無い、貴女の世界独特の言葉も沢山有りそうですね」


 「せやなぁ」


 ふと、傍らで私たちを照らす満月が目に入る。

 今日のお月さんは一段と輝いていて……そこで私はとある言葉を思い出した。


 「……そういや、うちの居た国では『月が綺麗ですね』は『愛しています』という意味で使われたりしとったな」


 「そうなんですか?」


 「うん、うちの居た国は直接的な表現は避ける『柔らか言葉』が好きな奥ゆかしい人間が多かったからなあ。

 ある文豪が外国の本を訳すときに『愛してる』を『月が綺麗ですね』って訳したのがキッカケらしいわ」


 「とても素敵で美しいですね……」


 そこで、彼は思い切り真っ赤になった。


 パソコンもどきを抱えたまま必死に首を振る。


 「あ、ああああの、ぼぼぼ僕、そそそんなつもりは……!」


 そういや今日、挨拶代わりに言うとったな。


 あまりの慌てっぷりに私は思わず吹き出してしまう。


 「大丈夫やて、分かっとるから落ち着きぃや」


 「ふえぇ……」


 プシューという音が聞こえてきそうなほどに赤らんだ頬をギイ王子は己の手で冷やす。


 人のことは一切言えないが、恋愛慣れはしてなさそうだ。


 「はあ……でも、貴女の国の言葉は魔法と似ていますね」


 「そうなん?」


 「はい、妖精への問いかけも詩的というか……直接的な表現は避けるので」


 私は殆どノーブレスで魔法を使うから実感は無かったが、確かゲーム内では「清涼なる風よ、我が傍に巡れ」とか詠唱していたような気がする。


 「ホンマにキミは、魔法が好きやね」


 「はい!

 夢なんです……妖精に会うのも、魔法を使うのも幼い頃からずっと」


 「……そっか」


 分厚いレンズの奥で、薄緑の瞳が細められる。


 何処までも研究者気質な変わり者で、ストーカー気質の王子様。けれど真っ直ぐで好きなものにひたすら情熱的だ。


 そんな彼が、私は嫌いではない。 


 「ほな、ウチはそろそろ帰ろかな」


 「もう帰ってしまうのですか?」


 「お肌のゴールデンタイムまでには寝るって決めとるねん。

 キミも寝れる時は寝ぇや? 病み上がりなんやから」


 「ご心配ありがとうございます」


 今の私はピッチピチの十代だが、美しさと若さを保つためなら出来る範囲で努力はしようと思っている。


 若さというものは一瞬で失われる事を知っているのだ、十時就寝と八時以降の食事禁止は何が何でも習慣づけておきたい。


 「それじゃ帰るプモ〜」


 私の背後に隠れていたプモが、小声で魔法陣を発動させる。


 銀の光に照らされる私に、ギイ王子がおずおずと問いかけた。


 「あの……また、こうやってお話しませんか?」


 まるで意中の女の子をデートに誘ったような、勇気を振り絞った顔だ。


 真っ赤に染めた頬が可愛らしく思えて、私はニッと歯を見せて笑いながら頷いた。


 「断ってもキミ、追いかけてくるやん」


 「ま、まあそれはそうなんですけど」


 「ええよ、気が向いたらな」


 「……!」


 ギイ王子の顔がぱあと喜色で華やぐと同時に、私の視界から彼が消えた。


 そこは勝手知ったる私の部屋で、周りに気を使いながら変身を解く。


 「……アクヤ、何だか楽しそうプモね」


 そのまま寝間着姿で倒れ込む私の顔を覗き込んだプモが、怪訝そうに呟いた。


 

昨日初めて、日間のランキングに載りました。

滅茶苦茶びっくりしましたありがとうございます。

明日からは終盤、卒業パーティーからの婚約破棄へと物語は動いていきます。


ここまでで面白かったなぁと思っていただけましたら、リアクションやブクマ、お星様など頂けますと嬉しいです。

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