アクヤクーヌ・レイジョリオンは第二王子と急接近中である①
あの後、騒ぎを聞いたフィービー王子と、その臣下である生徒たちが駆け付け、騒ぎは収まった。
発端となったテディとゼルハルトは臣下達に連れていかれた。
後ほどトリマーキ姉妹から聞いた話によると、教師からしこたま叱られ数日の自宅謹慎を言い渡されたらしい。
元々令嬢たちの間で良い顔をされていなくても、気にする素振りを全く見せていなかったテディだが、これからどうするつもりだろうか?
騒動を収めたあと、フィービー王子が失望したようにテディを見ていたことから、多分ハーレムルートは潰えただろう。
そして、ギイ王子も事情説明のためフィービー王子と共に食堂を後にし、それ以降姿を見せていない。
どうやら二人とは違い謹慎にはなっていないようであるが、どうも体調を崩して休んでいるらしい。
もし私を庇ったせいなら非常に目覚めが悪い。
何かしらコンタクトが取れればいいが、自分から父にお願いしてコンタクトも取るのもやりづらかった。
そして私はというと、特にお咎めもなく学校に通っているが居心地はあまり良くはなかった。
『婚約者に堂々と愛人がいることを堂々と宣言された可哀想な令嬢』として同情の声が多いが、それでも好奇の目に晒されるのは正直気分の良いものではない。
ちなみにレイジョリオン家の者は概ね私に同情的で、なんだかんだ言って子煩悩な父は婚約解消と別の婚約者を探すことを提案してくれたが、シナリオの破綻を考え丁重にお断りをした。
多分、こちらが動かずとも向こうが動くだろう。
婚約破棄イベントが起こる卒業パーティーは冬の月の終わりだ。秋は、少しずつ深まろうとしていた。
◆◆◆
こうして昼は令嬢、夜は魔法少女としての二足わらじはとくに変わることはなく。今夜も私は夜な夜な闇に紛れて暴れる魔物を狩っていた。
「ルナティック・プレス!」
今宵は満月、私の体内を巡る魔力は何時もよりも強く、まさに絶好調だ。
強烈な重力で、大柄な獣のような姿をした魔物の動きを押さえつける。
身動ぎすらとれず、地を這うようなうめき声を発するその無防備な背中に、月の魔力を込めた光弾を叩き込んだ。
「これで、終いや!」
まばゆい閃光が炸裂した後、立ち籠る煙の中、満身創痍の獣が『立ってるのがやっと』といった風によろめく。
今が機だと、私は片手を上げて浄化の魔法を発動させた。
「ルナ・サンクチュアリ!」
締めの大技、月の神々しい光が魔の獣を包む。
弱っていた魔物は一瞬抵抗するように目を見開いたが、すぐに諦め無に帰っていった。
「お疲れ様プモ〜」
「おう、今日もよう働いたわ」
立ちこめていた魔物の気配が霧散していく。
傍らで見守っていたプモが、ゆるーい調子で労いの言葉を掛けてくるのに軽口で返しながら私は一つ伸びをした。
「にしても最近はよう出てくるな、騎士団の面々も駆り出されてるらしいやん」
秋に入ってから、魔物の出現が頻繁になったように思う。
上流貴族達が住まうエリアにまで現れるようになったらしく、腕の立つ騎士団の精鋭たちが夜間パトロールをしては討伐に当たっているようだ。
「こういう時、優先的に守られるのは上の方の人間やなあ」
「どこも人手不足プモ」
魔物が現れるのは夜間が多いとはいえ、出現頻度が上がると必然的に護られるのは王族や貴族たちだ。
一般市民……それも下層の者たちは脅威に震えながら夜を過ごさなければいけないのだ。
「そんな人間、一人でも減れば儲けもんやねんけどな」
「これもまた、持つものの務めプモ。ぼぶれす・のぶりーじゅプモ」
「ノブレスオブリージュな、あとウチは無理矢理やらされてんの忘れんなよ」
「その割にはノリノリだプモ〜、満更でもないプモ」
「絞るぞワレ」
にんまーと腹の立つ笑みを浮かべる妖精を雑巾みたいに絞りたい衝動を抑えた。
ふと、ねっとりした視線を感じて辺りを見渡す。
建物と建物の影、人一人が入れる隙間にフードを被った人影がある。カタカタと片手で件の機材をタイプしつつ瓶底眼鏡を怪しく光らせながら、背の高い男が一人鼻息荒く私を見ていた。
「ひょっ……!?」
あまりの不審者ぶりに、思わず喉から絞め殺された鶏のような声が出てしまった。令嬢にはあるまじき失態だ。
「あ、あは、ルナティック・フェアリー……今日は月が綺麗ですね……ふへへへへ……」
城で療養中のはずのギイ王子が、はにかみながら機材を抱えてひょっこりと路地裏から出てきた。
ぎこち無い笑みが、更に胡散臭さを加速させている。
猫背に瓶底眼鏡、フードで体をすっぽり覆った姿は『怪しい』以外の言葉が見つからない。
驚きの後に、意外と元気そうな姿に心底安堵した。
――ギイ、お前生きとったんかワレェ!
と何処かの大御所芸人のようなセリフを脳裏によぎらせながら、私は咳払いをしてから彼へと向き直った。
「お、おう……久しぶり、やな……」
「僕の事覚えてくださったのですか!?
ああ、とても嬉しいです……!」
反応がファンボーイのそれだ。
そりゃ、曲がりなりにもこの国の第二王子なのだから忘れるわけにもいかないだろう。
プモは彼が苦手なようで、さっさと私の背後に隠れてしまった。
「あーその、なんや。
最近見かけへんかったけど、風邪でも引いとったんか?」
「ああ!
ちょっと知恵熱が出て寝込んでたんです、慣れないことをするとこうなっちゃって……」
「あれま〜、それは大変でしたねぇ」




