Part 40
正面の邸宅へと伸びる、白レンガの敷き詰められた道は、
太陽光を反射して目も眩むほどに光り輝いている。
道の左右には、色とりどりの草花で彩られた庭園が無限に広がり、
地平線まで続く緑の芝生が家主の財力を物語っていた。
純白のクロスの敷かれた細長のテーブルに、
正装した男たちはこぞってふんぞり返り、
料理を運んでくる給仕の女たちの、つま先から髪型までを、
眼を細めて丹念に観察しては邪な笑みを浮かべる。
「おい」
脇腹を肘で小突かれ窘められたのは若い男だった。
「…えっ、あ、申し訳ございません」
彼は硬直し、慌てて掛けていた黒縁の眼鏡を直した。
態度も風格も、列席する中年たちとは雲泥の差のこの若者は、
緊張で何度も手を拭いたのか上着やズボンはヨレヨレであった。
「この場で呆けるとは何事かね。ジェフ君」
「まぁまぁ。ハイベック家の使用人はどれもお美しいから」
「ははは。若者には酷でしょうなぁ」
禿頭の中年男がヒィヒィと腹を揺らして笑った。
「続けたまえ。取材ごときに会食の貴重な時間を割かれたくない」
列席する男たちはウンウンと頷いた。
「…では、続けてもよろしいですか?」
上座に座る老人は、横から差し出された葉巻を口にくわえて、
「ん?ああ。ハイハイ、うん、どうぞ」
鬱陶しそうな様子を隠そうともせずに言った。
ジェフは完全に邪魔者扱いであったが彼自身それを気にすることはなかった。
何処で何をしようと身辺を探ろうとする新聞記者は、
煙たがられる運命にあると彼は悟っていたからだ。
「本日は、ルドルフさんのお誕生日ということで」
「ああ、そうね」
ルドルフは葉巻を咥えた口から真っ白な煙を吐き出した。
「こうして取材する機会を頂戴したわけですが…」
彼の左右には常に執事が2名、
給仕の女とともに様々な世話をするため控えている。
彼らは先ほどから若者へ鋭い視線を向けており、
なぜ食事の席まで記者という下賤な者どもが、
という言葉が聞こえてきそうな程、冷たく鋭い視線である。
前菜の載っていた皿が下げられ、スープが現れる。
誰かが使用人の尻を撫でたのか小さい悲鳴が聞こえ、
男たちはその声を肴に酒を楽しんだ。
ルドルフが何かを問われ、物思いに更けている間、
座っている男たちは食事の手を止める。
若者は、相手の言葉を一言も逃すまいと
手元の手帳と睨み合い、書き込む。
使用人らは熱心な彼の横をすり抜け、
テーブルの上に並んだグラスへとワインを注いでいく。
ルドルフはグラスを手にして立ち上がると、
彼に倣って、その場にいる全員が起立した。
「せっかくだから君もどうだ。さぁ、彼にグラスを」
「あ、これは、いえいえ。私は…」
給仕から半ば強引にワイングラスを渡され、
ここで断っては今後の社との関係にも関わるだろうと、
本日、何度目かの乾杯の宣誓でジェフはグラスを傾けた。
緊張でワインの味や風味など分かるわけもなく、
唯々、熱い液体が喉を焼き尽くす感触だけがしつこく残った。
ルドルフは優雅な顔つきでグラスの中身を軽く揺らすと、
「いい色だ」と呟いて口元へと運んだ。
紅玉色のそれが放つ、豊潤な香りに鼻孔をくすぐられ、
彼は絶頂に似た満足そうな溜め息を漏らした。
「帝国が滅亡した当時…」
ナイフとフォークを持ったルドルフは、
牛ヒレ肉の分厚いステーキを切り分けながら口を開いた。
「自分の居場所も亡くなったと同時に悟ったよ」
「それはなぜ?」ジェフは尋ねた。
「後釜を狙って、各地で争いが一斉に起こった」
ルドルフは一瞬だけ昔を懐かしむような表情を見せた。
「どいつもこいつも、力任せに支配しようとしやがる」
「新大陸に目を向けたのは、いつごろから?」
「かなり昔からだよ。資源が眠ってるのは知ってたから」
「そして、いまや新大陸の王者」不意の野次に笑い声が上がった。
「数々の金鉱や油田を発見されたのは、なにか算段が?」
「いやぁ。偶然だよ」ジェフの言葉にルドルフはにかんだ。
「4人ぽっちの小さな会社を作って、朝から晩まで穴掘りさ」
「先住民の方々と、いくつか軋轢などがあったと聞きますが」
「ああ、軋轢ねぇ…」
ルドルフは口元を油とソースで汚しながら仰ぎ見た。
「いま現在も悩みの種だよ」
「どのように解決を?」
「そりゃあ、温和に、話し合いさ」
どこかから失笑が上がった。
同時に場がピリつくのをジェフは肌で感じとった。
「彼らの足下には、大量の資源が眠っている」
「ええ」ジェフは無数の視線を浴びていた。
「それらをもってすれば誰もが豊かな生活を享受できる」
「我が社の一面も、そう報じておりました」
「だが彼らはそのことを理解していないし、しようともしない」
「あそこは『神々の寝床』と言われ、神聖な地とされています」
「おや、物知りだなぁ。キミは」
ルドルフは、その日初めてジェフと目を合わせた。
「今の時代、我々は共存する必要がある」
主人が新しい葉巻を咥えると、控えていた執事が素早く火を点ける。
「幸せは全員で分け与えないと」
ジェフを追い出すように帰した後は本来のペースを取り戻す。
「彼はどこの記者だね?」
「はい。『フロンティア・タイムズ』だとか」
「ふぅん」
ルドルフは興味なさげに相づちを打った。
「挨拶は、とうに済ませてあります」
「よろしい」
メインが終わり、デザートの並ぶ、白いテーブル。
中央に数個置かれたガラス製の灰皿は吸い殻が山となっていた。
「諸君、これが正しい金の使い方だ」
ルドルフの言葉に男たちは笑った。




