Part 41
ルドルフは自室で3人の仲間と円卓を囲んでいた。
彼が新大陸へ渡って間もない頃、
奇しくも出会った4人は意気投合し結託、
それぞれが社会的成功を掴んだ現在でもなお酒を酌み交わす仲であった。
彼らは各々1人用ソファに深く腰掛けてテーブルを囲んだ。
中央の丸テーブルには高級ウイスキーと特注のショットグラスが置かれ、
夜食の皿はだいぶ前から空いている。
「私が運ぶわ、ベティ」
背後から声を掛けられたベティは振り返った。
「あら、大丈夫よ。たいした量じゃないし」
「違う。心配なのは貴女。もうあの人に付き合うの3日連続でしょ?」
「やぁだ、顔に出てる?」ベティは頬を赤らめた。
「部屋に戻って休んだら?」
「えぇ、でもぉ」彼女は困った表情をみせた。
その蠱惑的な顔がルドルフはえらくお気に入りなのだろう。
「私から言っておくから」
「わかった。ありがとう。貴女も気を付けてね」
「ええ、おやすみなさい」
「そういえば、お仲間は今どうしてる?」
「え?」向かい側に座る男からの言葉に、
ルドルフは一瞬、素の表情を見せた。
「昔、一緒にいたっていう仲間のことさ。軍隊の」
「ああ」彼は小さく笑った。「死んだよ。全員」
「どうして。流行病か?」右斜め向かいの眼鏡の男が尋ねる。
「いいや、殺されたよ。全員」ルドルフは平然と答えたあと、
「おおっと。ひとりはクーデターに失敗したんだった」
グラスに入ったウイスキーを呷り、赤ら顔で上機嫌に笑った。
左斜め向かいの、顎髭をたっぷり蓄えた男は口元を緩める。
「武器を提供したのは君じゃないか」
「はてさて、なんのことやら」ルドルフはとぼけてみせた。
「わたしは商人として、商売をしただけのこと」
「君も気をつけろよ、ルドルフ」
2人の用心棒が扉の前に立ち塞がった。
「お前、たしかルーシーだったな?」
「そうです」
「エリザベスが運んでくる筈だろう?」
ルーシーと呼ばれた女は4人分の小皿を乗せたプレートを両手で持ち、
ワインボトルの入ったアイスペールを右手の小指に引っ掛けて、
自分より頭1つ半ほど高い用心棒たちに小さく礼をした。
「彼女は体調が悪いと言って、先に就寝されました」
「来るのはエリザベスって約束だ。お前は通せん」
「おい、マーロウさんに連絡を…」
男たちの視線が彼女から外れるや否や、ルーシーは、
その場でクルッと軽やかにターンをしてみせた。
すると2人の男の首は木の幹が折れたような音を立てグルリと一回転し、
壁に顔面を擦りつけながら足下にへたりこんだ。
「ふぅ」
眼で捉えられないほど素早い回し蹴りで男2人の首を破壊した。
彼女は血の付いたヒールの爪先を男たちのズボンで拭うと、
扉を足先で軽くノックした。
廊下からのノック音に顔を赤く染めたルドルフは顔を上げ、
「おおう。入れ」と、間延びした声で上機嫌に言った。
扉を開ければ鮮やかな栗毛と笑ったときにできるえくぼが特徴の、
あの可憐なエリザベスが立っているのを想像し彼の股間はうずいた。
しかし扉は一向に開く気配が無い。
「おおい、どうしたぁ?」再び声をかけるも反応は無かった。
「ボディチェック中ですかな?」
「我々も参加しますか?」
「馬鹿な」ルドルフは眉間に皺を寄せながら腰を上げた。
けしからん。私のベティに手を出すとは。どいつだ。解雇してやる。
用心棒が使用人に度々手を出していることは承知している。
自分の物には手を出すなとマーロウに念を押したはずなのに。
いかんぞ、マーロウ。主人の機嫌を損ねるとは執事失格だ。
扉を開けると違う使用人が立っていた。
確かひと月ほど前に入ったルーシーであった。
なかなかに好みの女ではあった。
「なんだ、キミは……」
喉に違和感を覚えた瞬間、ルドルフは悶絶した。
物音に、座っていた3人が扉の方へ視線を向ける。
「おや、ルーシーちゃんっ」顎髭の男が猫なで声を上げた。
彼女は、苦しげに膝を突いたルドルフを長い脚でまたぎ、
男達の中心にある小さなテーブルに料理とワインを置いた。
「おい、どうした」眼鏡の男はルドルフの異変に気付いた。
ルーシーは座っている3人に歩み寄り、笑顔と、拳銃を向けた。
「こんばんは。皆さん」
銀色の短銃。銃の真ん中にある蓮根のような弾倉からは、
6発の弾丸の頭が息を潜めて出番を窺っている。




