ep.6《今後の相談と、唐突な別離》
PVが気が付いたら1,000を超えていました……。
皆さま、読んでくださって本当にありがとうございます。
感無量でございます。
さて、最近なんか、いい感じで筆が進んでいる!?
うーん、この後どうしようか悩んでいるのですが、やっぱり戦闘描写は多いほうがいいですかね?
何となくイメージはできるのだけど、文章にできないわたしの文章力のなさである。
「何で……何で現実世界の姿に戻ってるんだよ!」
《人災の悪魔・ヒューズ》のゲーム開始宣言の直後、オレ達プレイヤーの体は光で包まれ、次に気づいたときには現実世界と同じものになっていた。
なぜ、どうやってこの姿に変換させたのかはわからないが、あいつが消え際に言った『プレゼント』とはおそらくこのことなのだろう。
ゲームの世界なら、この忌々しい体と一時的にも別れられると思ったのに。
だからこそ、仮想の世界でも本来の姿を晒すことを嫌い、アバターの姿の時だけでもせめて男の姿でいたかったのだ。
なのに、その幻想が今まさに崩壊したのだ。
「……ふふふ、やってくれるなぁ、人災の悪魔」
「ル、ルナ?」
「人がせっかく、気持ちよくゲームしようと思ってたのに……やっと夢にも見た体で遊んでいたのに。それをぶち壊しやがって」
「お、お兄ちゃん、落ち着いて」
あー、なんかもう最悪の気分だ。
ゲームしようと思ってたら、閉じ込められて、しかもわざわざ嫌っている現実の身体に戻されて、『がんばってクリアしてね☆』だ?
……上等だ。
「……やってやるよ。さっさとこんなゲームクリアして現実世界に戻ってやる!」
「ルナ、とりあえずこっちにこい。さすがにその恰好はまずい」
ケイに手を引かれ、路地裏に引き込まれる。
何事かとケイを見上げると、顔をそらしている。
そしてそこでようやく、自分が裸に近い格好でいるのに気が付いた。
「……あのさ、ケイ兄。なにか服か羽織るものかしてあげて」
「ちょっと待ってろ」
オレは自分の肩を抱き、できるだけ体を隠そうとしゃがみこむ。
さすがにケイとはいえど、この体を見せるのは嫌な感じがする。
そしてケイのほうを見ると、【メニュー】を捜査しているもが見えた。
「……これしかないか。ルナ、こんなもので悪いが、しばらく羽織っておけ」
そう言ってケイが取り出したのは、ボロ布と言っても過言ではない、大きな布だった。
大きさはオレの体を軽くすっぽりと包み込むくらいはあった。
「なんだよこのボロ布」
そう言いながらもしっかりと体に巻きつける。
「いや、それしかないんだよ。β版から引き継げたのは低レアリティのアイテム数個だけだったからな。しかも、女性用のコスチュームなんて持ってねぇよ。……おそらくだが、お前が着ていたコスチュームが消えたのもお前のアバターの性別が変わったからじゃないか?」
「……それもそうか」
メニューを開いて確認すると、オレの性別は、あらかじめ設定していた『Male』ではなく『Female』になっており、アイテム欄に存在している【冒険者の服】も、装備ができなくなっていた。
ケイが言った通り、性別が不一致のためなのだろう。
ちなみに『コスチューム』とは、プレイヤーが装備できる、服のようなものだ。
現在確認されているコスチュームは防御力やパラメータ強化などの性能を持った者は確認されていないため、ほとんど見た目のみのために存在している。
レベルが上がっていくと効果付きのコスチュームなんかも出てくるおだろうか。
「……あの脳天おバカ『人災の悪魔』め、オレをこんな風に辱めて楽しいか? なにが『がんばってクリアしてね☆』だ」
「いやお前な、言うのは簡単だが、かなりクリアは難しいと思うぞ。ベータの時は一つのエリアを攻略するのに一か月かかった。正式版ではわかっているだけでもエリアは七つ、エネミーの強さやAIも強化されてる。しかも痛覚があって、死んでしまう危険性もあるなら、攻略に参加する人は間違いなく減る……」
「それくらいわかってるさ。最低でも半年はかかる。……いや、そんなに効率よくいくはずがない。でも、クリアしなきゃ元の世界に戻れない。こんな世界で人生を全うするなんて御免だ。それに何より、こんな体にされて黙ってられるか!」
「……わかったよ。じゃあとりあえず、俺らの戦力の確認を」
「お兄ちゃん、ケイ兄。その前に何処かに入ろう? お兄ちゃんもその格好だと危ないかもしれないし」
突然、穂花が会話に割り込んで来た。だが、言っていることは正しい。
穂花の一言で怒りがスッと引き、今の自分の状況を確認した。
今のオレは裸の上にシーツのような布をまとっただけの格好。
あいにくオレにはそんな変態のような格好で外を出歩く勇気はないので、今すべきことは『コスチュームショップ』を探して、何でもいいから着られる服を購入すること。
「……そうだな、行こうか」
ケイもそれがわかったようで、そう言った後オレ二人が頷くのを確認してから歩き出した。
喧騒が聞こえる街の中心から離れるように、路地裏の奥に進んでいくように。
そして、オレと穂花はその背中を追うのだった。
☆
オレは、幼少期から児童虐待の対象になっていた。
理由は簡単、外見のせいだ。
顔の作り以外はほとんど外人にしか見えないオレの外見は、両親にとって目障りでしかなかったらしい。
まあ、純粋な日本人の親の間に生まれた子供が金髪赤目だったら気味が悪いけどな。
そのため両親は、数ヶ月後に穂花が産まれると、大喜びしたらしい。
そして小学校に通うようになってからだろうか、ただでさえ気味が悪い体なのに、中身が男だと知った親は完全にオレを毛嫌いするようになった。
虐待は子供のころのオレでも、相当過激なものだったことがわかる。
リアルのオレの体には多種多様な傷跡が刻まれており、その白い肌をけがしている。
考えられるだろうか?
十歳前後の子どもに馬乗りになって暴虐を加える両親を。
縛った子供の背中にナイフを滑らせる大人を。
今思い出しても吐き気が出る。
しかも、学校などで目立たないように普段露出しているところは狙わず、背中や腹などを集中的に狙うのだ。
オレは精神的にも強い虐待を受けた。
ことあるごとに『お前はいらない』『死ね』『産まなければよかった』などという言葉を浴びせられ、親がイラついていればその腹いせに怒鳴られながら何時間も殴られた。
現に、オレも親からの虐待で、多少なりと精神がゆがんでしまった。
両親がある事件で逝ってからもう二年近く経つが、未だにその顔が悪夢や白昼夢となって現れる。
そのたびに動悸が激しくなり、昔の記憶がフラッシュバックする。
ナイフや包丁などの刃物も、今は慣れたものの、最初のころはつらかった。
それに、学校でもいじめは絶えなかった。
穂花と違って不登校気味になっていた上に服や身体が汚れていたため、その事について散々に言われた。
しかもこの外見である。周りから一歩引かれるのは仕方のないことだった。
マーカーや絵の具で髪を無理やり染められたこともあった。
抵抗しようと思ったこともあったが、多勢に無勢。敵うはずもなかった。
それらのいじめが嫌になり、男子トイレに篭れば出て行け変態と言われ、しかし女子トイレに入るわけにもいかなかったので、再び教室に戻って虐められた。
そんな時にいつもかばってくれたのが、穂花とケイだった。
穂花はオレの事をお兄ちゃんと呼び、オレが男だということを気味悪がる素振りはしなかった。
親も穂花の前ではオレに暴力をふるうことはなく、穂花と会話している時間が、当時一番安心できる時間だったのかもしれない。
ケイも学校でのいじめを見つけてはそれを止めようと動いてくれて、一緒に遊んでくれたりもした。
オレは、この二人に感謝している。
おそらくこの二人がいなければ、支えてくれなければ、今オレはいなかっただろう。
今もオレが平常心で生活できるのは、まぎれもない二人のおかげなのだ。
……ま、学校には行っていないけどな。
オレと穂花の両親が命を落とした『あの事件』が起こるまでは、そんな日常が続いていた。
「……はぁ」
また、嫌なことを思い出してしまった。
昔のことなんてすぐに忘れてしまいたいが、内容が強烈なために忘れることができない。つくづく、オレは弱いなと思う。
中学を出た後もこの世が嫌になって引きこもって、しかし結局、ケイやほのかには迷惑をかけっぱなしなのだ。
ほんとに世話ないな。
「お兄ちゃん? どうかした?」
「ああ、何でもないよ。……で、何の話だっけ?」
現在オレ達がいるのはとあるカフェ、この世界でいう酒場。
客であるプレイヤーはおそらくまだエリアの中心部に集まっていると思われ、ガラガラの店内でマスターであるひげぼうぼうのオヤジがグラスを磨いている。
未成年はダメかなとか思いつつ入店すると、何も言わずにテーブルに通された。
心配そうに横からのぞき込んでくる穂花……いや、フィアに返答しながら、正面の机の向こうに座っているケイに尋ねる。
すると、何やら溜息を付きながら面倒くさそうに口を開いた。
「『何の話だっけ』じゃねーよ。お前の戦力をどうするかを相談してるのに、なんでお前が聞いてねぇんだ?」
「ああ、いや、すまん。ちょっと考え事してた」
「……はぁ。じゃ、もっかい説明するぞ? 正直言って、さっきの戦闘を見た限りお前の戦力はあてにならん。少し他のフィールドより難易度が高いとはいえ、【ゴブリン】にあれだけ苦戦していたら間違いなくレベリングの効率は落ちる」
「……まあ、そうだろうな」
「しかも、どっかのハッカーさんのせいでスキルの取り直しができないうえ、さっき確認させてもらったスキルじゃあ、戦闘どころか職人になるのも難しい。……なんでそんなことになってる?」
「いや、スキル自体はオレが選んだわけではなくて、システムが勝手n「その【ランダム】を選んだのはどこのどいつだ?」……すまん」
要するに、オレの現在のスキルがどれもハズレで、バランスもとれていない。
しかも【ログアウト】ができないのでスキルを取り直すこともできない。
そのため、死の危険性のある戦闘に参加するのは危険。しかも、生産職系スキルも所持していないため、何か知らの職人を目指すのも難しい。
で、オレがこれから生活していくためにはどうすればいいのかを今考えているのだ。
「そうは言ってもなぁ……どこかのパーティに『寄生』するにしても、経験値を取得するには一回は攻撃しないといけないし。まず、誘われそうもないしなぁ」
『寄生』とはゲーム業界の用語で、パーティに入っていても貢献せず、自分に有益なものだけを手に入れる行為のことを言う。
「まず、オレはパーティなんか組まないぞ?」
「そうだったな。じゃあ、とりあえずはこのメンバーでパーティ組んでおくか」
「……いいのか? オレは足手まといにしかならないぞ?」
「ったく、気にすんな。いつものことだから。それより、まだか? 正面の店が開くのは?」
「店長さんが、「開きそうだったら伝える」って言ってたし、ケイ兄も少し休もう?」
正面の店とは、いまオレ達がいる店の正面にあるコスチュームショップのことだ。開店時間はとっくに過ぎているのだが、なかなか店が開かない。
しかし、下手に探しても他のプレイヤーと遭遇する危険があるため、開店するまで待つことにしたのだ。
それまでは少し休憩。これから何が起こるかわからないし、体力は温存しておいて損はないだろう。
今頃、街の中心では大騒ぎしているだろうなぁ。
~30分後~
突然、『キィーーン』というマイクの電源を入れたときみたいな音が響き、その後、男性の大きな声がエリア中に響いた。
ケイの説明によると、これは神殿に設置されている放送装置らしい。
放送時間によって一定の使用料を取られるが、エリア内全域に声を響かせることができるらしい。
内容に関してはこんな感じだった。
『エリア【ビギン】に在中のプレイヤー諸君! 私の名は『オウガ』という! βテスト経験者だ! この放送を聴いているみんなに協力をお願いしたい! あのバカげたハッカー、『ヒューズ』の起こした出来事は、おそらく本当のことだ。私の仲間がフィールドに出撃し、エネミーの攻撃を受けた際、確かに痛みを感じた! しかし、エネミーは倒すことができるし、私たちはエネミーを倒すことでさらに強くなれる! そこでだ! 諸君の中から我々に協力するものを募集したい! 我々はβテスト時に存在した『ギルド』の設立のため、次のエリアを目指したいのだ! そのためにはフィールドボスの討伐が必須であり、そのために強くならなければならない! 皆で協力してこの世界から脱出して見せようではないか! もし、この要請に協力してくれる勇者がいるのなら、エリアの中心、【神殿】の前に集合してほしい! 諸君の協力を待っている!! ……『K』、お前がこの放送を聴いているのなら、どうか是非、参加してほしい。お前の協力が必要だ。よろしく頼む……』
さて、1分余りの放送だったが、その力強い言葉と真摯な態度は伝わってきた。
おそらく、有志は多く集まるだろう。
……それよりも、だ。
「ケイ兄、名指しされていたけど、知り合いなの?」
そう。ケイのアバターネーム『K』が、スピーチ内に登場したのだ。
どう考えても知り合いとしか思えないのだが……。
「ああ、知り合いだ。今の放送をしていたのは『オウガ』。俺がβテストに参加したとき、オレの設立したギルドの戦闘部隊長だった男だ。あいつは野心家だったから何かしらのアクションをすると思ったのだが、ここまで大規模のことを起こすとはな……まあ、何がしたいのかはあらかた予想できるが」
「さしずめ、βテストの時の経験を活かしてプレイヤーたちを統率、訓練しようって魂胆だろう? で、お前どうすんの?」
指名されてしまった以上、顔を出さないわけにもいかないだろう。
『ギルドマスター』という職を背負ってしまった以上、相応に期待されてしまうのはしょうがないのだと思う。
「俺は……いかな「さっさと行け、バカ野郎」……だけど、お前のことがあるし」
「行かない」なんて言おうとしたので遮ったら、言い訳にオレのことを使いやがった。
「あのなぁ、オレはお前が思っているほど弱くはないはずだ。それに、お前が行かなきゃこの状況は打破できないかもしれない。たくさんのプレイヤーの協力が必要なんだろ? お前はオレ一人と全プレイヤーの命、どっちが重いかわかってんのか?」
「……あーもう、分かったよ。行けばいいんだろう!? だがな、お前が言う以上にお前の状況は絶望的だぞ?」
「大丈夫だ、問題ない。っていうか、お前らにいつまでたっても世話になるわけにはならないだろう」
「死亡フラグにしか聞こえないんですがそれは」
そう言いながらケイは立ち上がる。
ようやく行く気になったようだ。まったく、こいつは状況を判断できないのか?
そして、酒場の出入り口であるドアに向かって歩いて行った。
「……ったく、お前のほうが大事に決まってんだろうが(ボソッ」
「あ? なんか言ったか?」
「何でもねーよ! ってかお前は来ねーのかよ!?」
「行くわけねーだろ。オレは他の人と関わりたくねーんだよ」
「はぁ、後で縋り付いて頼んできても知らねーからな!」
「いらねーよ、お前の助けなんか!」
そこまで言ってから、ケイは酒場を飛び出した。
ここまで言わないとダメとか、あいつはいったい何なんだよ。
「さて、穂花」
「フィアだよ……っていうかさぁ」
横にいる穂花に向き直ると、やたら不機嫌なのか、仏頂面だった。
はて、どうしたのだろうか?
「お兄ちゃんさぁ、なんであんなこと言ったの?」
「しょうがねぇだろ。ああ言わなきゃあいつ行きそうになかったんだよ。フィア、お前ケイを追いかけろ」
「はぁ!? なんでそうなるの!?」
「さっきからオレとケイ、どっちに付いていこうか迷ってただろ? お前のスキルならパーティの前衛にもってこいだし、お前は人をまとめるのがうまいから、ケイの助けにもなるだろ」
フィアのスキルは完全に前衛特化系の構成になっている。
そのまま育てばパワーアタッカーとして優秀な人材だ。
しかも、学校ではクラスの中心的存在であるフィアのカリスマなら、ケイの助け位なる人材としてこれ以上の人はなかなかいないだろう。
「わ、わたしはお兄ちゃんが心配で……」
「なら、なおさらだよ。早くゲームをクリアーしてプレイヤーたちを解放してやれ」
「……うう、お兄ちゃんのばかぁ!!」
それだけ叫び、穂花は飛び出していってしまった。
ま、あんなこと言えば当然か。
……はぁ、これでようやく独り。いつも通りの感覚だ。
「……お前さん、あれでよかったのか?」
木製の椅子の背もたれに身を投げ出し、天井を見てボーっとしていると、突然横から声がかかった。
驚いて振り向くと店長、この店だとマスターか? が立っており、その手には湯気の立つカップを持っていた。
もちろんこのマスターはNPC。つまりノンプレイヤーキャラクター、AIが搭載されていてシステム的干渉にしか反応しないはずなのだが、なぜ話しかけてきたのだろうか。
「……いいんだよ。あいつらはああでもしないと動かないし、オレはあいつらにとって邪魔者。お荷物でしかないんだ。なら、オレなんかは切り捨ててしっかりと集中して攻略に参加してもらわないとな」
「…………そうか」
しばらく、何か考えるしぐさをしてからマスターはオレの前に持っていたカップを置いた。
中身は……ココアだろうか?
「……頼んだ覚えはないが? 金も余裕はない」
「サービスだ。これくらいさせてくれ。それじゃあ、店が開いたら伝えるから、こんな店だがゆっくりしていてくれ」
「……ありがとう」
それだけ言うとマスターは背を向けて歩いて行ってしまった。
久しぶりにオレの口から出た感謝の言葉が届いたのかは知らないが、去り際に右手をひらひらと振っていた。
「ったく、あんなNPCいるのかよ。……わけわかんねぇ」
カップに口をつけて飲むと、仄かなミルクの香りとココア特有の甘ったるい味が口の中に広がった。
そして、飲み干した後、先ほどまでは薄れていた罪悪感が胸を締め付けた。
「……分かってるさ。でも、どうしようもないじゃないか……」
オレは誰もいなくなった店内で胸の痛みと目頭の熱を隠すように机に突っ伏し、声を潜めるのだった。
読んでくださってありがとうございます!
ルナの過去について、少し説明を入れてみました。
本当はもう少しシリアル展開になっていたのですが、その後の文が書きにくかったので、今回はそういう描写は控えました(つもりです)。
当初はもっとエグイ内容だったので、少しはましになったかな?
さて、読みにくい箇所、分からない用語等ございましたら、遠慮なくご意見ご質問ください。
より読みやすく、面白い文章を目指いして頑張ります!
ご感想、ご意見等お待ちしております。