ep.5《チュートリアル、そしてゲームスタート☆》
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ペース遅いなぁ……
(くそっ、ゲーム開始から約一時間。もう騒ぎになっててもおかしくない!)
【草原】の元来た道をひたすらに走る。
途中【ゴブリン Lv.1】が三匹出現したが、飛び出したケイとフィアが処理した。
手際が良すぎるだろう。オレは倒すのに何分かかったことか……。
そんなことはどうでもいい。
いま気にしなければならないことは、なぜか起きてしまった『ログアウト不能』という事態だ。
もしこれがプレイヤー間で話題になったら、間違いなくパニックが起きる。
冷静さを欠いた人間は恐ろしい。協調性を忘れ、最悪の場合お互いに反発しだす。
何かの不具合であってほしいのだが……もしも、よく小説やアニメなどの設定のように『ゲームに閉じ込められ、現実に変えることができない』なんて状況になったら、シャレにもならない。
「ねぇ! お兄ちゃん!」
「……なんだ?」
隣を走っていたフィアが唐突に話しかけてきた。
しかも語調が荒い。一体どうしたのだろうか。
「『……どうした?』じゃないわよ! いきなり走り出すし、何聞いても返事ないし、一体どうしたの!? 一応何回も話しかけたんだよ!?」
「え、そうだったか。気が付かなかった」
どうやら、話しかけられていたが、オレが気付いていなかったようだ。
「で、どうしたんだよルナ。お前が取り乱すなんてらしくないぞ?」
「ああ、すまん。一応説明すると、なぜかログアウトできない。【メニュー】の中のログアウトボタンが使えないんだ」
「はぁ!?」
「本当だ。信じないなら確認してくれ。それで、何か問題ならそろそろ【エリア】内で何かしらの騒動が起きていないかと思ったんだよ。もし不具合だけなら【ビギン】の神殿でGMコールできるし、もしかすると運営から通達が来ているかもしれない」
できるだけ簡潔に現状を説明したが、二人ともさすがに信じられなかったようで、それぞれメニューを開いて確認をしている。
そして、おそらくログアウトボタンを発見したのだろう。顔を青くしてメニューをとじて此方に振り向く。
「……本当だ。でも、なんで? こんなの事件になっちゃうよね? テストしたんじゃないの?」
「テストはしたよ。俺も参加したし、クローズドテストとオープンテストを繰り返して、不具合を極力減らしたはずだ。少なくとも兄貴はそう言ってた」
「それなのに、こんな単純な……それ以上に一番致命的な問題が起きたってなれば、信用問題にもなってくる」
……そうならなければいいのだけど。
そう思いながら、三人はひたすら草原を走り続ける。
☆
「……人がいないね」
そうつぶやいたのはフィアだった。
確かに、走ることによってかなりの速さで【ビギン】に近づいているはずなのに、先ほどまで【フィールド】にあふれえっていたプレイヤーたちの姿が一向に見当たらない。
まさかとは思うが……。
「……単純に考えて、気が付いたんだろう。あれだけ人が密集していたのだから、一人が気づけば伝言ゲーム式にその事実が広まっていく」
「じゃあ、その人たちはどこにいったの?」
オレがまさに考えていたことをケイが代弁してくれた。
そうだとしたら、他の【フィールド】でも同じような事態になっているのは間違いない。
そして、オレらがしているようにプレイヤーが起こす行動は……。
「……それはたぶん、この先でわかるよ」
オレたちの目の前にそびえたつ大きな石造りの【門】。
二階建ての一軒家くらいの高さで、横幅は10メートルほど。
荘厳と立つその門は常に開かれており、ここからプレイヤーたちは出入りする。
そしてこの【門】とその周りの城壁はシステムいよる保護のおかげで、破壊できない仕様になっており、エネミーの住む【フィールド】とプレイヤー・NPCが住む【エリア】を隔てている。
そしてオレたちは、その大きな【門】をくぐって【ビギン】の中へと足を踏み入れるのだった。
☆
「……ッざけんじゃねーぞ!! 早くリアルに帰せ!!」
「本当に困るのよ!! この後予定があるのに!!」
「オレ昼めし食ってねーよ! 餓死させる気か!?」
「ふざけんな!! 運営顔出せ!」
……入った瞬間にこれだよ。
【フィールド】と【エリア】は隔絶されているため、【エリア内】の声は外には届かないのだ。
しかし、これは若干やばいかもしれないな。
「……お兄ちゃん、ちょっとまずくない?」
「……ああ。まずいな」
すでに【エリア:ビギン】内は喧騒に包まれており、その中のほぼ全員が事実を知っているのだろう。
そして、様子を見る限りでは運営からの通達はまだ来ていないようだ。
さすがに『気づいていない』なんてことはないと思うが。
ワーワーギャーギャーと喧騒が鳴り響く中、ふと変な、『ザザッ……』というノイズのような音がしたのをオレは聞き逃さなかった。
「!? おい! ちょっと黙れ!」
「あぁ!? お前何者……なんだこの音?」
目の前で叫んでいるやつに忠告して少し黙らせると、そいつにもあのノイズのような音は聞こえたようだ。
そして、徐々に喧騒は収まっていき、誰もがその音に集中していた。
そして誰もが、GMもしくは運営からの通達であろうと思ていた。
……しかし、その後の音声はそんな考えを打ち砕く、壮絶なものだった。
『……ザッ……ザザッ……あ!? ……あーあー、聞こえますか!? よし! つながりました!!』
『よくやった! 時間がない、説明するぞ!』
【エリア】内全体に響くような、空から聞こえてくる声は、間違いなく満兄さんのものだった。
しかし、何かものすごく焦っているような、切羽詰まったているような声が、何となく緊張感を掻き立てる。
『プレイヤー諸君! 突然になってしまうが、私の話をよく聞いてほしい! 私は志水満、このゲームのゲームマスターだ! 突然だが、緊急事態だ。現在、何者かがこのゲームに対してハッキング行為をしている。そのせいで、諸君の自発的なログアウトが不能となっているのは、もう気が付いているだろう』
ハッキングだって? このゲームに搭載されるシステムの防御は、現在世界に存在するどの防御プログラムよりも固く、且つ変則的なものであるため、『ハッキング』という行為自体が意味をなさないとまで言われているのだ。
しかし、現状から見てもハッキングの被害が出てしまっている。
そのハッカーは何者だ? それに、一体どうやって……。
『現在、諸君らを強制的にログアウトさせるためのプログラムを実行中だ。あと一分ほどで何もなく現実に戻るだろう。そして、戻った後はこのゲームのサービスの停止およびソフトの回収をする予定だ。なので、現実に戻ったら『……ッ!! だめです! 第三防衛突破されました! 最終防衛ラインも保ちそうにありません! ファイヤーウォールが機能していません!!』 何っ!? 何とか持ちこたえろ! 『……もちません! こんなデタラメなやり方……見たことがありません!』せめ……グアウ…………おい!? 聞こえ……』
ザーーー
突然音声が途切れ、後に残ったのはテレビの砂嵐のようなノイズ音。
突然の事態にプレイヤーたちは口を開くこともできず、先ほどまで声がしていた青い空を見上げている。
一体何が起こったのか。今のはドッキリか何かなのだろうか。
ちょっとだけ過激なオープニングセレモニーなのかもしれない。
……そして、困惑しているプレイヤーたちの前に、『ヤツ』は現れた。
『…………ふぅ、やっと入れたよ』
聞こえてきたのは、綺麗なソプラノボイス。どこか大人びていて、しかし幼さも残っているような女性の声。
先ほど満兄さんからの通信があった場所。つまり、オレ達の頭上に広がる青空から、その声は聞こえてきた。
そしてその声は、突然しゃべりだした。
『さて……と、【To-Arms】をプレイ中のみなさん! おそらく直接会うのは初めましてかな? でも、皆さんは私のことを知っているし、私もみなさんのことをよく知っていますよ! なので、こうしてこの場で出会えたこと……正確にはこっちは顔を出してないけど、会えてうれしいです!』
まるで引き金を引かれた散弾銃のように、とんでもないスピードとペースで喋り散らす女性の声。
しかし、まるで何が言いたいのかわからない。
直接会っていないのによく知っていて、向こうもオレ達のことを知っているだと?
『……まあ、いきなりこんな話をしても何の話か分かりませんよね? なので、まずは自己紹介からしたいと思います! 私こそがこのゲームをハッキングし、現在あなたたちをこのゲームの中に幽閉している張本人! ハッカー『ヒューズ』と名乗っているものです! どうぞよろしく!』
その声の直後、場が一斉にざわめいた。
そしてオレも、その言葉にかなり戸惑っていた。
(『ヒューズ』だと? なんでそんな奴がこんなところに現れた!?)
《人災の悪魔・ヒューズ》
その名前をこの世界で知らない人はほとんどいないだろう。
各先進国の最先端プログラムをハッキングし、その活動を強制的に中止させる天才ハッカーだ。
本名はもちろん、性別や年齢、所在地も分からず、警察も手の出し用がないのだそうだ。
どんな強固な防御プログラムやトラップも無効化し、正面から堂々と侵入して来る事で有名なヤツには世界的に最高額の懸賞金がかけられている。
また、各国の核弾頭の操作を手中に収め、指一本で一国を爆発させることもできるという。
そんなヤツがなんでここにいるのかは不明だが、あいつ自身が言っていた通り、この『ログアウト出来ない状況』を作り上げたのは間違いなくあいつだろう。
ヒューズは話を続ける。
『……少しざわついていますが、話を続けますね? この事件は各地で報道され、プレイヤーの皆さんの身体は近くの大型病院に運ばれるでしょう。何故か? それは、現在をもってこのゲームは、VR機器に一定の時間電力の供給が行われない場合、プレイヤーの皆さんの意識は強制的にシャットアウト。リアルの身体は生きていても意識が戻らない状態。つまり、症状だけ脳死に近い状態になっていただくように設定しました。ですから、プレイヤーの皆さんの体は電力を供給したまま、生命維持に必要な栄養を供給できる施設に送られるでしょう。……しかし、残念ながら既に数十人の人間が、外部からの電力供給の遮断をされ、意識のみが現実世界にも、この世界にも帰って来れなくなっています』
つまり、外部からオレ達を助ける事は不可能で、既に数十人の被害者が出ているとこいつは言っているのか?
頭がおかしいのではないだろうか? とか普通は思うのだろうが、『ヒューズ』がやったというのであれば話は別だ。
もし本人であれば、これくらいのことは可能なのだろう。
今までも、最先端の防衛プログラムを潜り抜け、無効化し、数多のハッキングを成功させてきたのだから。
『さて、 この世界は現在をもって私の支配下に置かれました。私にとってこの世界の人間を殺すも生かすも思いのまま。
でも、私の目的は大量殺人ではありません。なので、ゲームをしましょう。この世界を脱出する方法はただ一つ。このゲームをクリアする事。ただ、私もこのゲームの事はよく知らないので、なにがクリアの基準なのかは知りません。それも自分たちで見つけてください。
それと、このゲームは限りなく現実世界に近い設定をさせていただきます。具体的には、五感の値を調整し、『痛み』や『味』などをしっかりとプレイヤーのみなさんに伝達できるようにします。
また、このゲームでの『死』。つまり『デス』にも制約をつけさせていただきます。簡単なことですが、HPがゼロになった場合の復活は可能です。ただ、このゲームで『死ぬ』ということは、相応の《痛み》を受けていただいた上で復活していただくのでご注意ください。
その『痛み』など、ゲーム内で受ける刺激に脳が耐えられなくなり、危険だと判断された場合には、強制的に意識の遮断が行われます。なので、刺激に弱い人やグロテスクなものが苦手な人は、できるだけ戦闘には参加しない方がいいかもしれません。
無茶してると、本当に死んじゃいますよ~?
機器による『死』が判断された場合、復活はもちろんされず、この世界に戻ってくることもなくなります。
……なお、このゲームは今までのゲームとは違い、極めて現実に近いものになっているということだけは言っておきます。この言葉の意味をどう取るかはあなた達次第です。それでは、早くクリアして現実に帰るために悪戦苦闘してください。私は傍観者としてゲームに参加したいと思います。
……さて、これでこのゲームにおける変更点、およびチュートリアルは終了になります!
では……』
なるほど、あくまでログアウト=ゲームクリアする事を餌にしてオレらを動かすつもりか。まあ、理由はなにであれ、ログアウトできなくなった時点でこうなる事は薄々分かっていた。
ヒューズが何者かはわからないが、相当にふざけたやつなのだろう。
5000人もの命をもてあそんでいるのだから。
『ゲーム・スタート!! この後、プレゼントもありますよ! それじゃあ、がんばってクリアしてね☆』
……そして、その直後、誰もが予想だにしないことが起こった。
「なんだこれ! どうなってる!?」
「ケイ!!」
突然隣にいるケイが叫び、その方を見ると、その体は白い光に包まれていき、そして消えていったのだ。
「きゃあ! お兄ちゃん助けて!」
続いてフィアもケイと同じように光に包まれていく。
……そして、オレの身体も光が包んだ。
目の前が真っ白に染まり、何も見えなくなった。
次の瞬間オレの意識は、さっきまでと同じように石畳の裏路地にあった。実感としては、なにも変化がないように思える。
じゃあ、さっきの光はなんだったんだ?
……まさかあれが、『プレゼント』?
「……ルナ?」
「……お兄ちゃん?」
背後から普段耳にしているケイと穂花の声が聞こえ、振り返る。
すると、そこにはさっきまでのキャラクターアバターの姿はなく、普段オレが現実世界で見ている、ケイと穂花がいた。
二人とも防具や服はさっきまでと変わらず、大きさだけが変わっている。
……そして、その変化はオレの体にも起こっていた。
さっきまで背はケイと同じかそれ以上あったはずなのに、背は急激に縮み、今では二人を見上げる形になっている。
あわてて【プレイヤーメニュー】を開き、【ステータス】項目に表示される自分のアバターのイメージを見る。
するとそこにあるはずの自分が一週間かけて作り上げたアバター面影は綺麗さっぱり無くなっており、代わりに映っているのは十六年間、鏡で毎日飽きる程見てきた自分の顔。
現実世界で何回も見て、そのたびに嫌になる淡いクリーム色の、艶のある長い髪。
日本人のソレとは思えない赤く大きい瞳。
身長が150cmにも満たない体躯。
下を見るとさっきまで着ていた服と防具は消え、インナーだけとなった中学生前半くらいの少女の身体があった。
そして、コンプレックスである女性特有の……ほとんどまな板に近い胸が見え、鍛えているのにさほど筋肉が付かない色白く細長い手と、くびれがあって丸く細い線の胴から伸びる、長いすらりとした足が見えた。
オレは思わずつぶやいた。
「何で……何で現実世界の姿に戻ってるんだよ!」
次回からようやく本編(かな?)




