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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第2章 第2章お転婆王女のお忍び漫遊と他の転移者たちのその後

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第58話 ついに完成! ……異世界初のトイレットペーパー

 翌朝。

「蝉丸、今日は頼むぞ!」

「朝から気合いが入っていますね、海斗さん」

 蝉丸の自宅にある錬金術工房。

 俺が勢いよく入っていくと、蝉丸は苦笑しながら作業台を整えていた。

「そりゃそうだろ。昨日の試作品、紙にはなったんだからな」

「ええ。材料による違いも分かりましたし、今日はその結果を踏まえて改良してみましょう」

「私も頑張ります!」

 唯衣も元気よく手を挙げた。

 俺たちの目標は、トイレットペーパーを作ること。

 昨日の試作品は、紙の形にはなったものの、少し引っ張るだけで破れてしまうものもあった。表面がごわごわしているものもあり、まだ実用には程遠い。

 それでも、有望な植物は見つかっている。

 ならば、次は改良だ。

「まずは、昨日一番丈夫だった植物を中心に使おう」

「はい。ただ、繊維を細かくほぐしすぎても、短くなりすぎると強度が落ちる可能性があります」

 蝉丸が帳面を開いた。

「今回は、繊維を取り出す段階と、ほぐす段階の両方を少しずつ変えてみます。条件を一度に変えすぎると、何が結果に影響したのか分からなくなりますからね」

「なるほど。さすが蝉丸」

「こういう実験は、錬金術でも基本ですから」

「頼もしいな!」

「……海斗さん、今日は褒めるのが早いですね」

「完成が懸かってるからな!」

 俺たちは顔を見合わせて笑った。

 よし。

 今日こそ、トイレットペーパーへの道を切り開いてやる!

   ◇ ◇ ◇

 最初に、昨日と同じ植物から繊維を取り出した。

 外側の硬い部分を取り除き、繊維を傷つけないように分けていく。

 その後、鍋に入れて水で煮る。

「昨日より少し長く処理してみましょう」

 蝉丸が鍋の様子を確認する。

「ただし、繊維の状態を見ながらです。長く煮れば必ずよくなる、というわけではありません」

「分かった」

 俺は火力を調整した。

 唯衣は、取り出した繊維を種類ごとに分け、作業台に並べていく。

「これ、昨日より柔らかくなってます!」

「本当か?」

「はい。指でほぐしやすいです!」

 俺も確認してみる。

 確かに、昨日より繊維がほぐれやすい。

 それを水の中で少しずつ分散させ、木の棒で丁寧にかき混ぜる。

 昨日と違うのは、必要以上に叩かないこと。

 繊維を細かくすることだけに集中せず、ある程度の長さを残す。

「よし。これで試してみよう」

 蝉丸が、網を張った木枠を作業台に置いた。

 俺たちは繊維が均一に広がるよう、水の中でゆっくりとかき混ぜる。

 そして、木枠ですくい上げた。

 水が網目から落ちていく。

 残った繊維が、薄い層を作った。

「……昨日より、均一じゃないか?」

「そうですね。大きな塊が減っています」

 蝉丸が頷く。

「これなら、乾燥後の状態にも期待できそうです」

「よし!」

 俺は思わず拳を握った。

 とはいえ、まだ途中だ。

 繊維の層を慎重に板へ移し、余分な水を抜く。

 その後、工房の乾燥棚へ運んだ。

「乾燥には、もう少し時間が必要ですね」

「昨日も待ったからな。今日も焦らずいこう」

「はい!」

 唯衣が元気よく返事をした。

 俺たちは別の試作品も作りながら、乾燥するのを待つことにした。

   ◇ ◇ ◇

 昼過ぎ。

 工房の乾燥棚を確認すると、最初に作った試作品が、ほぼ乾いていた。

「……そろそろ確認できそうですね」

 蝉丸が慎重に端を持ち上げる。

 薄い繊維の層が、板からゆっくり剥がれた。

「おおっ!」

 唯衣が目を輝かせる。

「昨日よりきれい!」

 俺も手に取ってみた。

 表面のでこぼこが少なくなり、繊維も比較的均一にまとまっている。

 昨日のものより、見た目は明らかに改善されていた。

「じゃあ、強度を確認しよう」

 俺は端を持ち、ゆっくり引っ張った。

 ……ピッ。

「……あっ」

 小さな裂け目ができた。

「まだ弱いですね」

 蝉丸が冷静に記録する。

「ただ、昨日の試作品よりは、明らかに丈夫になっています」

「おお。改良の効果は出てるんだな」

「はい。もう少し繊維の絡み方を改善できれば、さらによくなるかもしれません」

「なるほど……」

 俺は裂けた部分を見つめた。

 確かに、昨日よりはいい。

 だが、トイレットペーパーとして使うには、まだ不安が残る。

「次は、ほぐし方を変えてみましょう。繊維を必要以上に短くせず、全体に均等に広げられる方法を探します」

「分かった。ほかの植物も混ぜてみるのはどうだ?」

「可能性はありますね。ただ、まずは一種類で条件を整えてから、混合した場合と比較するのがよいと思います」

「確かに。その方が違いも分かりやすいな」

 地道な作業だ。

 だが、こうして一つずつ問題を潰していくしかない。

「……紙作りって、大変ですね」

 唯衣がしみじみと呟いた。

「本当にな」

 俺も頷く。

 普段は何気なく使っている紙。

 その一枚を作るだけでも、材料の選別から加工、乾燥まで、さまざまな工程が必要になる。

 ましてや、肌に触れるものとなれば、丈夫さだけでなく柔らかさも大切だ。

「でも、ここまで来たんですから!」

 唯衣が顔を上げた。

「絶対に、使いやすいものを作りましょう!」

「……そうだな」

 俺は笑った。

「よし。もう一度、挑戦だ!」

   ◇ ◇ ◇

 その後も、俺たちは試行錯誤を続けた。

 繊維をほぐす時間を変える。

 水の中での混ぜ方を変える。

 木枠ですくい上げるときの厚さを調整する。

 条件を記録し、乾燥後の状態を比べる。

 すべてが一度にうまくいくわけではなかった。

 繊維が偏って、薄い部分から破れてしまったもの。

 乾燥したあと、板から剥がすときに崩れてしまったもの。

 表面が硬く、ごわごわしたもの。

 失敗するたびに、蝉丸が原因を考え、俺たちが次の試験方法を相談する。

 そして夕方。

「……これは、どうでしょう?」

 蝉丸が、最後に乾燥させていた試作品を持ち上げた。

 昨日より薄い。

 表面も比較的均一だ。

 俺は端を持ち、ゆっくり引っ張ってみた。

 ……ピッ。

 少し裂けたものの、すぐに全体が崩れることはなかった。

「おおっ!」

 唯衣が声を上げる。

「今日の中では一番いいんじゃないですか!?」

「そうだな!」

 俺は何度も頷いた。

「まだ改善の余地はあるけど、かなり進歩したぞ!」

 蝉丸も満足そうに笑った。

「ええ。少なくとも、繊維の処理方法と広げ方については、方向性が見えてきました」

 俺は試作品を光にかざした。

 薄い繊維が重なり、ところどころに小さな隙間がある。

 まだ、市販のトイレットペーパーとは比べものにならない。

 それでも、昨日より確実に前へ進んでいる。

「……よし」

 俺は試作品をそっと作業台へ置いた。

「今日はここまでにしよう」

「えっ、もう終わりですか?」

 唯衣が少し残念そうに言った。

「材料も少なくなってきたし、そろそろ片付けないとな。それに、今から作っても乾燥が間に合わない」

「……確かに」

「焦って雑に作るより、今日の結果を整理した方がいい」

 蝉丸が帳面を閉じた。

「明日は、今日の条件で再現できるか確認しましょう。それから、表面を柔らかくする方法についても調べたいですね」

「よし。明日も頑張ろう」

「はい!」

   ◇ ◇ ◇

 工房の片付けを終え、外へ出る。

 夕暮れの風が、頬を撫でた。

「……結局、今日も完成まではいきませんでしたね」

 唯衣が少しだけ肩を落とす。

「まあ、そう簡単にはいかないさ」

 俺は笑った。

「でも、昨日よりよくなっただろ?」

「……はい!」

「なら、十分な成果だ」

 俺は頷いた。

 紙を作ること自体は、できるようになってきた。

 次は、もっと柔らかく、使いやすくする。

 それができれば、トイレットペーパーとしての実用化に近づくだろう。

「……そういえば」

 唯衣が、ふと思い出したように口を開いた。

「ペローさん、紙を見たらどんな反応をするんでしょうね?」

「またペローか」

「ち、違います! 純粋に気になっただけです!」

「はいはい」

 俺は笑ってごまかした。

 けれど、唯衣がペローのことを考えているのは、もう隠しようがない。

 以前なら、耳や尻尾を撫でたいという話ばかりだった。

 今は、彼が何を考え、どんな暮らしをしてきたのかを知りたがっている。

 ……まあ、いい変化なんだろう。

「また会えたら、見せてみればいいさ」

「……はい!」

 唯衣は嬉しそうに笑った。

 その笑顔を見て、俺も自然と頬が緩んだ。

 さて。

 明日は、柔らかさの改善方法を調べよう。

 植物繊維だけで、どこまで使いやすい紙が作れるのか。

 それとも、別の材料を組み合わせる必要があるのか。

 まだ分からないことは多い。

 だが、俺たちには検索スキルがある。

 蝉丸の工房もある。

 そして、失敗しても一緒に考えてくれる仲間がいる。

「……よし。明日も頑張るか」

 俺は空を見上げた。

 異世界での快適な暮らしは、一日にして成らず。

 それでも、今日も一歩進んだ。

 そのことが、素直に嬉しかった。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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