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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第2章 第2章お転婆王女のお忍び漫遊と他の転移者たちのその後

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第52話 紙の材料を探そう! ……森で見つけた植物の可能性

「それで、紙作りに使える植物を探しているんです」

 村の集会所。

 俺は、村長や数人の村人を前にして説明していた。

「紙、ですか?」

 村長が首を傾げる。

「ええ。文字を書くための紙ではなく、もっと薄くて柔らかい紙です。できれば、使い捨てにできるものが欲しいんですが」

「使い捨て……」

 村長は不思議そうに呟いた。

 まあ、無理もない。

 この世界では紙そのものが貴重品だ。

 それを一度使っただけで捨てるなんて、普通は考えないだろう。

「なるほど。皆様の故郷には、そういう便利な紙があるのですな」

「はい。まあ、便利というか……」

 俺は少し言葉に詰まった。

 トイレットペーパーの説明は、意外と難しい。

 用途を詳しく説明すればするほど、妙な空気になりそうだ。

「ええと……衛生用品の一種です」

「衛生用品ですか」

「そうです。生活を清潔に保つためのものですね」

「なるほど」

 村長は納得したように頷いた。

 ……本当に理解しているかどうかは、少し怪しい。

「植物なら、森にいくらでもありますぞ」

 そう言ったのは、集会所にいた年配の村人だった。

 名前はダンさん。

 井戸掘りや土木作業に詳しく、以前から俺たちの設備作りにも協力してくれている。

「ただ、紙に使えるかどうかは分かりませんな。繊維が取れる植物なら、いくつか心当たりがありますが」

「本当ですか?」

「ええ。縄を作ったり、布を織ったりするのに使う植物もありますからな」

「それです!」

 俺は思わず身を乗り出した。

「そういう植物を探していたんです!」

「おお、そうでしたか」

 ダンさんは嬉しそうに笑った。

「でしたら、村の者に聞いてみましょう。森に詳しい者なら、もっと知っているはずです」

「ありがとうございます!」

 これで材料探しの手掛かりができた。

 やはり、最初から自分たちだけで何とかしようとするより、土地の人たちに相談したほうが早い。

 この世界には、この世界なりの知識と経験がある。

 それを教えてもらえるのは、本当にありがたいことだ。

「じゃあ、今日は森へ行くんですか?」

 隣で話を聞いていた唯衣が、期待に満ちた顔で尋ねてきた。

「そうだな。実際に植物を見てみたい」

「私も行きます!」

「もちろん。唯衣には植物探しを手伝ってほしいしな」

「任せてください!」

 唯衣は胸を張った。

 動物好きなだけでなく、自然の中で過ごすこと自体も好きらしい。

 こういう作業では、頼りになるだろう。

「俺も行くぞ」

 慎之助さんが片手を上げた。

「力仕事があるかもしれませんからね」

「そういうことだ。植物を引っこ抜くのも、荷物を運ぶのも任せろ」

「まだ何を採るかも決まってませんけどね」

「細かいことは気にするな」

「はいはい」

 いつもの調子である。

 こうして俺たちは、森に詳しい村人を案内役に頼み、材料探しへ出掛けることになった。

   ◇ ◇ ◇

 村を出て、森へ向かう。

 空は晴れていて、風も心地よい。

 足元には草が生い茂り、遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。

「やっぱり、森はいいですね!」

 唯衣が楽しそうに歩いていた。

「そうだな」

 俺も頷く。

 日本にいたころから、キャンプや山歩きは好きだった。

 ただ、今歩いている森には、見たことのない植物がいくつも生えている。

 葉の形が違うもの。

 茎が妙に太いもの。

 遠目には普通の草に見えるのに、近づくと表面が青白く光っているものまであった。

「……あれは何ですか?」

 俺が指差すと、案内役の村人が答えた。

「ああ、あれは夜になると淡く光る草ですな。薬草として使うこともありますが、紙には向かないでしょう」

「なるほど」

「こちらは繊維が強い植物です。乾燥させれば、縄の材料になります」

 村人が別の植物を示す。

 細長い茎に、細い葉が何枚もついていた。

「これなら、紙にも使えそうですね」

「どうでしょうな。繊維が取れることと、紙に向いていることは別でしょうから」

「確かに」

 俺は頷いた。

 検索で基本的な製紙方法を調べることはできた。

 だが、どの植物が適しているかは、実際に試してみる必要がある。

 繊維の長さや強さ。

 取り出しやすさ。

 加工に必要な手間。

 そして、完成した紙の柔らかさ。

 確認すべきことはいくらでもある。

「とりあえず、候補になりそうな植物を少しずつ採ってみよう」

「分かりました!」

 唯衣が元気よく返事をした。

 俺たちは案内役に教えてもらいながら、数種類の植物を少量ずつ採取していった。

 もちろん、根こそぎ採るようなことはしない。

 村人に確認し、採取しても問題のないものだけを選ぶ。

 使える植物が見つかったとしても、森の資源を減らしてしまっては意味がないからだ。

「この草はどうですか?」

 唯衣が、葉の広い植物を指差した。

「茎がしっかりしているし、繊維が取れそうです」

「そうだな。これも少し持ち帰ってみよう」

「やった!」

 唯衣は嬉しそうに植物を採取した。

 その姿を見ながら、俺はふと思った。

 紙作りは、ただ便利なものを作るだけではない。

 材料を知ること。

 土地のことを知ること。

 そして、村の人たちと一緒に考えること。

 それも、この世界で暮らしていくために必要なことなのだろう。

   ◇ ◇ ◇

「……ん?」

 植物を採取している途中だった。

 唯衣が突然、森の奥へ視線を向けた。

「どうした?」

「今、何か動きませんでした?」

 俺もそちらを見る。

 木々の向こう。

 少し離れた茂みが、かすかに揺れていた。

「風じゃないか?」

「うーん……」

 唯衣は首を傾げる。

 その足元で、プルルたちもぴょこぴょこと跳ね始めた。

「ぷるっ!」

「ブルルッ!」

「グルルッ!」

「みんな、どうしたの?」

 唯衣がしゃがみ込む。

 スライムたちは、茂みのほうを向いていた。

 俺は少しだけ警戒した。

 この森には魔物がいる。

 普段は村の近くまで来ることは少ないらしいが、絶対に安全というわけではない。

「ダンさん、あの辺りには何かいるんですか?」

 俺は案内役の村人に尋ねた。

「さて……。小動物なら珍しくありませんが、念のため近づかないほうがよいでしょう」

「分かりました」

 俺たちは作業を中断し、周囲を確認した。

 だが、茂みから何かが飛び出してくることはなかった。

 しばらくすると、揺れも収まった。

「……行ったのかな?」

 唯衣が呟く。

「かもしれないな」

「ちょっと気になりますけど……」

「気になるからって、追いかけるのはなしだぞ」

「分かってます!」

 唯衣は頬を膨らませた。

「私だって、危ないことくらい分かります!」

「ならいいんだけど」

 俺は苦笑した。

 好奇心が強いのは悪いことではない。

 ただ、この世界では、好奇心だけで行動すると命に関わることもある。

 特に、森の中では。

「では、採取を続けましょう」

 案内役の村人が声を掛けた。

「日が傾く前に戻ったほうがいいですからな」

「そうですね」

 俺たちは再び作業に戻った。

 結局、持ち帰ることになった植物は四種類。

 どれが紙作りに向いているのかは、まだ分からない。

 それでも、最初の一歩としては十分だろう。

   ◇ ◇ ◇

 昼過ぎ。

 俺たちは採取した植物を持って村へ戻った。

「お帰りなさい!」

 村の入口では、何人かの村人が声を掛けてくれた。

「何か見つかりましたか?」

「ええ。いくつか候補が見つかりました」

 俺は採取した植物を見せた。

「これを使って、紙が作れるか試してみるつもりです」

「ほう。これが紙になるんですか」

「まだ分かりませんけどね」

 俺は苦笑した。

 植物を採取できたからといって、すぐに紙が完成するわけではない。

 これから繊維を取り出し、細かくほぐし、紙の形にする必要がある。

 それに、柔らかさや吸水性も確認しなければならない。

 先は長い。

「まずは、乾燥させるものと、すぐに処理するものに分けましょう」

「そうですね」

 唯衣が頷く。

「せっかく採ってきたんですから、無駄にしないようにしないと!」

「その通りだ」

 俺たちは家に戻り、採取した植物を机の上に並べた。

 四種類の植物。

 どれも、見た目は普通の草や茎にしか見えない。

 しかし、この中に紙作りの材料として優れたものがあるかもしれない。

「……さて」

 俺は袖をまくった。

「まずは、どれから試そうか」

「全部、少しずつ試してみましょう!」

 唯衣が答える。

「一つずつ比べれば、違いも分かりますよね?」

「そうだな。最初から一つに絞るより、そのほうがいい」

 俺は頷いた。

 現代の知識は、確かに役に立つ。

 でも、実際に手を動かして、試して、失敗してみなければ分からないことも多い。

 それに、この世界の植物には、この世界ならではの特徴があるはずだ。

 その特徴を知ることができれば、もっと良い方法が見つかるかもしれない。

「明日は、繊維を取り出すところから始めよう」

「はい!」

 唯衣が笑う。

 足元では、プルルたちが植物の匂いを嗅ぐように身体を伸ばしていた。

「こらこら。これは食べ物じゃないぞ」

「ぷるっ?」

「食べられるかどうかも、まだ分からないからな」

 俺がそう言うと、三匹は不思議そうに身体を揺らした。

 ……まあ、スライムたちにとっては、紙の材料なんてどうでもいいのかもしれない。

 それでも。

 この小さな試みが、いつか村の暮らしを変えるきっかけになる可能性はある。

 そう考えると、少しだけ胸が躍った。

 トイレットペーパー作り。

 まずは材料探しが終わった。

 次は、紙の形にできるかどうか。

 俺たちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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