第49話 辺境の村で新築祝い! ……その前に、我が家の見学会?
翌日の昼過ぎ。
俺たちの家の前には、村長をはじめとする村人たちが集まっていた。
「皆様、本日はお招きいただき、ありがとうございます!」
村長が代表して頭を下げる。
「いやいや、こちらこそ。わざわざありがとうございます」
俺も頭を下げた。
そもそも、今回の新築祝いを提案してくれたのは村長だった。
俺たちが家を建て終えたことを知り、村の集会所でささやかな宴会を開こうと言ってくれたのだ。
もちろん、俺たちに異存はなかった。
村の人たちには、土地を用意してもらったり、材料について相談に乗ってもらったりと、何かと世話になっている。
感謝の気持ちを伝える、いい機会だと思った。
「それにしても……」
村長が、俺たちの家を見上げた。
「改めて見ると、立派なものですな」
「ありがとうございます。まだまだ試している設備も多いですけどね」
「ほう。設備ですか」
村長の目が、きらりと光った。
……ん?
今、ちょっと反応が変わらなかったか?
そう思った直後、村長の後ろから村人たちが口々に話し始めた。
「中はどうなっているんだろうな?」
「窓も大きいし、明るそうだ」
「屋根も変わった造りだな」
「台所も使いやすいと聞いたぞ」
……なるほど。
そりゃそうだ。
村人たちからすれば、見慣れない造りの家が四軒も並んでいるのだ。
気になるのも当然だろう。
俺だって、異世界に来たばかりの頃に、こんな家を見かけたら中を見てみたいと思う。
「海斗さん」
隣にいた唯衣が、俺の袖を引いた。
「みんな、家の中が気になるみたいですね」
「みたいだな」
「せっかくですし、見てもらったらどうですか?」
「……そうだな」
俺は村長たちに向き直った。
「もしよければ、宴会を始める前に家の中を見ていきますか?」
「よろしいのですかな!?」
村長が身を乗り出した。
「もちろんです。ただ、まだ試作段階の設備もありますので、何でも完成しているわけじゃありませんよ」
「それでも十分です!」
村長が嬉しそうに頷いた。
「皆も、それでよいな?」
「もちろんです!」
「ぜひ見せてください!」
「どんな造りになっているのか、ずっと気になっていたんです!」
村人たちの反応は上々だった。
こうして、予定にはなかった新築見学会が始まることになった。
◇ ◇ ◇
まずは、俺の家からだ。
「どうぞ。足元に気をつけてください」
玄関から中へ案内すると、村人たちが一斉に周囲を見渡した。
「おお……!」
「これは広い!」
「床が平らだな」
「壁もきれいに仕上がっている」
俺たちが建てたのは、丸太を組み上げたログハウスだ。
壁や屋根にはまだ改善の余地があるものの、雨風をしのぎ、生活するための家としては十分に形になっている。
村人たちは、壁や床を眺めながら感心した様子で話し合っていた。
「この窓は、どうやって作ったんです?」
「木材を組み合わせて、開け閉めできるようにしています。細かいところは、村の職人さんにも相談しました」
「なるほど……」
俺は台所へ案内した。
「こちらが台所です」
「おおっ!」
村人たちの視線が、一斉に流し台へ集まる。
作業台の横に設置された流し台。
その上には水を出すための蛇口があり、下には排水管がつながっている。
「水を使う場所が、家の中にあるのですか!?」
「はい。井戸から水を汲み上げて、いったん高い位置にある貯水槽へ送っています。そこから管を通して、ここまで水を引いているんです」
「水を汲みに行かなくてもいい、と……?」
「毎回、井戸まで行く必要はありませんね」
村人たちが顔を見合わせる。
「それは便利だ……!」
「ただし、貯水槽や管の点検は必要です。水も、今は砂や砂利で濁りを取り除いている段階ですから、そのまま飲めると保証できるわけではありません」
「なるほど。便利なだけではなく、管理も必要なのですな」
「そういうことです」
続いて、魔導コンロを紹介した。
「これは火を使うための道具です。魔石と魔法陣を利用して、熱を出せるようにしています」
「魔石で火を!?」
「火そのものを出すというより、魔力を熱に変える仕組みですね。まだ試作段階なので、使う前には必ず確認しています」
村人たちは、魔導コンロを囲むように集まった。
「薪をくべなくても料理ができるのですか?」
「はい。火力もある程度調整できます」
「それは……すごい」
ただ、俺は念を押した。
「便利ではありますが、まだ改良中です。勝手に分解したり、魔法陣をいじったりするのは危険なので、そこは注意してください」
「分かりました!」
村人たちは真剣な顔で頷いた。
……うん。
ちゃんと聞いてくれて助かる。
◇ ◇ ◇
次は、風呂場だ。
「こちらは……?」
村人の一人が、浴室の入口で首を傾げた。
「風呂場です」
「ふろば?」
「お湯を張った大きな浴槽に入って、身体を温めたり洗ったりする場所ですね」
俺が説明すると、村人たちは不思議そうに顔を見合わせた。
「身体を洗う場所なら、井戸や川でもよいのでは?」
「もちろん、そういう方法もあります。ただ、寒い日でも家の中で身体を温められますし、ゆっくり休めます」
「なるほど……」
浴室の中央には、木製の浴槽が置かれている。
その脇には、湯を張るための管がつながっていた。
「お湯は、外に設置した釜で温めて、管を通して浴槽へ送ります」
「火を使う場所が、浴槽から離れているのですな」
「はい。火元を浴室から離すことで、安全に扱いやすくしています。ただ、管の接続部分や温度の確認は欠かせません」
村人たちは、浴槽をのぞき込んだり、床を眺めたりしている。
「この床は、水が流れるようになっているのですか?」
「そうです。水が一か所にたまらないように傾斜をつけて、排水管へ流れるようにしています」
「床に傾斜を……」
「排水は台所と同じ処理設備につながっています。ただ、まだ処理方法を確認している途中なので、排水が安全に浄化できていると分かるまでは、勝手に川へ流すことはできません」
「水を使った後のことまで考えているのですな」
「ええ。使うだけでなく、後始末も大切ですから」
俺が答えると、村長は感心したように何度も頷いた。
「いやはや、これは勉強になります」
さらに、浴室の壁際にある魔導換気扇も紹介した。
「これは、湿気を外へ逃がすための装置です」
「風を起こす魔法道具ですか?」
「そうですね。魔法の力で羽根を回して、空気を外へ送り出します」
蝉丸が改良に関わった部分を説明すると、村人たちはまた驚いた。
「魔法で風を起こすだけでなく、空気を外へ出すこともできるのか……」
「ただし、これもまだ改良中です。動作を確認しながら使っています」
台所にも別の換気扇があることを説明すると、村人たちは興味津々だった。
……なんだか、家の設備を紹介するというより、発明品の展示会みたいになってきたな。
◇ ◇ ◇
俺の家を見終えると、今度は唯衣の家へ移動した。
「わあ、こっちも素敵!」
村人たちの中には、家ごとの違いを見比べている人もいた。
唯衣の家は、内装に彼女らしい工夫が多い。
小物を置く棚。
窓辺の飾り。
使いやすいように整理された台所。
「この棚、かわいいですね」
「ありがとうございます! 使いやすいように、自分で配置を考えたんです」
「なるほど。見た目だけでなく、使いやすさも考えているのですね」
唯衣は嬉しそうに笑った。
「はい! 毎日使う場所ですから!」
続いて慎之助の家。
こちらは、家具の配置が実用的で、荷物を置く場所も多い。
「おお、広い棚ですな」
「酒や食料を置くためにな」
「酒、ですか?」
「大事なものだからな!」
慎之助が胸を張る。
「……慎之助さん、それは宴会で説明してください」
「なぜだ!」
村人たちが笑った。
最後は蝉丸の家だ。
彼の家には、本棚や作業机があり、錬金術の道具を整理するための棚も設けられていた。
「この道具は、何に使うのですか?」
「錬金術の作業に使います。薬品や素材を扱うので、用途ごとに分けているんです」
「ずいぶん細かく整理されているのですな」
「必要なときに、すぐ取り出せるようにしています」
蝉丸は少し得意そうだった。
「作業場は、使いやすさが重要ですから」
こうして四軒すべてを見学し終えた頃には、村人たちの表情がすっかり変わっていた。
単に珍しい家を見たというだけではない。
水の使い方。
火の扱い方。
湿気への対策。
道具や家具の配置。
俺たちが暮らしやすくするために考えた工夫の数々に、興味を持ってくれたようだった。
「皆様、本当にありがとうございました」
村長が深々と頭を下げる。
「いえいえ。こちらも、見てもらえてよかったです」
「これほど工夫された家を見せていただけるとは思いませんでした」
「まだ試している途中のものも多いですからね。安全性を確認できていないものは、簡単に真似しないでください」
「承知しました」
村長は真面目な顔で頷いた。
「では、そろそろ集会所へ参りましょう。宴会の準備も整っているはずです」
「そうですね」
俺たちは村人たちと一緒に、集会所へ向かった。
◇ ◇ ◇
集会所に入ると、長い机の上には料理が並べられていた。
焼いた肉。
煮込み料理。
焼きたてのパン。
野菜のスープ。
村で採れた果物。
そして、村で造られた果実酒。
「おお……!」
慎之助が目を輝かせた。
「これはいいな!」
「さっきまで酒の話をしていたでしょう」
「それとこれとは別だ」
「何が別なんですか……」
村長が笑う。
「さあ、皆様。今日は新しい家の完成を祝う宴です。遠慮なく召し上がってください!」
「ありがとうございます!」
俺たちは頭を下げた。
こうして、新築祝いの宴会が始まった。
最初は、俺たちが異世界で暮らし始めたことや、家を建てた苦労話が中心だった。
「最初は、木を切るところからでしたからね」
俺が言う。
「大変だったでしょう」
「ええ。木を切るのは何とかなっても、運ぶのが大変で」
「確かに、大きな木は運ぶだけでも一苦労ですからな」
村人たちが頷く。
「でも、こうして家ができたんです。皆さんのおかげでもあります」
「いやいや、我々は少し相談に乗っただけです」
「それでも助かりました」
俺は素直に礼を言った。
唯衣も笑顔で続ける。
「村の皆さんが親切にしてくれるので、安心して暮らせそうです!」
「それは何よりですな」
村長が嬉しそうに頷いた。
やがて、話題は家の設備へと移っていった。
「ところで、先ほどの水を送る仕組みですが……」
村人の一人が、遠慮がちに尋ねる。
「井戸から水を汲み上げる装置は、どなたが作られたのですか?」
「ポンプの部分は、村のダンさんにも相談しました。貯水槽や配管の配置は、俺たちで考えたんです」
「なるほど……」
「ただ、まだ水質や設備の耐久性を確認している段階です。すぐに同じものを作れるとは限りません」
「それでも、参考になります」
別の村人も口を開いた。
「魔導換気扇というものも、興味深いですな。家の中にこもる煙や湿気を外へ出せるなら、便利でしょう」
「ええ。ですが、換気のための空気の通り道も必要です。扇風機のように羽根を回すだけでは、十分に空気が入れ替わらないこともありますから」
蝉丸が補足する。
「装置だけでなく、空気の入口と出口を考える必要があります」
「ふむ……」
村人たちは、真剣な顔で話を聞いていた。
俺たちとしても、こうして興味を持ってもらえるのは嬉しい。
ただし、まだ実験中の設備もある。
すべてをそのまま村へ広めるわけにはいかない。
「まあ、まずは俺たち自身が使いながら、問題がないか確認していくつもりです」
「それがよいでしょうな」
村長が頷いた。
「安全に使えると分かれば、村の暮らしにも役立つかもしれません」
「そうですね。できることがあれば、相談には乗りますよ」
「ありがとうございます」
村長は、ほっとしたように笑った。
◇ ◇ ◇
宴会は、夕方になっても続いていた。
村人たちは料理を楽しみ、俺たちも勧められるままに食事を取った。
唯衣は村の子供たちと話し込み、蝉丸は錬金術に興味を持つ若者から質問攻めにされている。
慎之助はというと――。
「この果実酒、香りがいいな!」
すっかり村の酒好きたちと意気投合していた。
「だろう? うちの村で採れた果物を使っているんだ」
「へえ! どんな果物を使うんだ?」
「季節によって違うな。リンゴに似た実や、赤い小さな実も使うぞ」
「なるほど……」
慎之助は真剣な顔で酒を味わっている。
……普段から、あれくらい真面目に仕事の話をしてくれればいいのに。
そう思っていると、慎之助が俺の肩を叩いた。
「海斗!」
「何です?」
「この村、いい村だな!」
「それはよかったです」
「酒も美味いし、人もいい!」
「はいはい」
「いつか、もっといろんな酒を造れるようにしたいもんだ!」
「……本当に酒のことしか考えてないんですね」
「失礼な! 今日は新築祝いだぞ!」
「それは分かってます」
俺が苦笑すると、近くにいた村人たちも笑った。
その後も、宴会は和やかに続いた。
家を建てた苦労。
村での暮らし。
これからやってみたいこと。
話題は尽きなかった。
そして、宴会の終わりが近づいた頃。
村長が俺たちの前に立った。
「皆様、本日は本当にありがとうございました」
村長は深々と頭を下げた。
「新しい家が完成したこと、村の者一同、心よりお祝い申し上げます」
「こちらこそ、ありがとうございました」
俺たちも頭を下げる。
「これからも、何か困ったことがあれば遠慮なく相談してください。村としても、皆様が安心して暮らせるよう協力していきたいと思っております」
「ありがとうございます」
俺は、改めてこの村に来てよかったと思った。
異世界に転移してから、まだそれほど時間は経っていない。
帰れるかどうかも分からない。
それでも。
この村には、親切な人たちがいる。
俺たちを珍しい存在として見るだけでなく、同じ場所で暮らす仲間として受け入れようとしてくれている。
そのことが、何より嬉しかった。
宴会が終わり、俺たちは家へ戻ることになった。
「今日は楽しかったね!」
唯衣が笑う。
「そうですね」
蝉丸も頷いた。
「村の人たちが、設備に興味を持ってくれたのはよかったです」
「ただ、まだ試作段階のものも多いからな。焦らず、ひとつずつ確認していこう」
俺が言うと、二人も頷いた。
慎之助は満足そうに腹をさすっている。
「いやぁ、食った食った。飲んだ飲んだ」
「明日、二日酔いになっても知りませんよ」
「大丈夫だ!」
「その自信はどこから来るんですか……」
俺たちは笑いながら、夜道を歩いた。
家に帰れば、使いやすい台所がある。
水を使える流し台がある。
温かい風呂もある。
もちろん、まだ改良すべきところは多い。
それでも、ここは俺たちの家だ。
自分たちで考え、工夫し、少しずつ作り上げた場所。
「……ようやく、生活が始まるんだな」
俺は夜空を見上げた。
満天の星が輝いている。
日本では見たことがないほど、たくさんの星が見えた。
異世界での生活は、まだ始まったばかりだ。
これから何が起こるのかは分からない。
けれど――。
「まあ、何とかなるか」
俺は小さく笑った。
こうして。
俺たちの新築祝いは、無事に終わった。
そして翌日。
俺たちの辺境スローライフは、いよいよ本格的に始まることになる。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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