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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第1章 異世界転移とスローライフの始まり

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第50話 辺境スローライフ、本格始動! ……のはずだった

第1章、ようやく終了となります。

 翌朝。

「……頭が痛い」

 俺は額を押さえながら、ゆっくりと身体を起こした。

 窓から差し込む朝日が、やけに眩しい。

 昨日は新築祝いだった。

 村長をはじめ、村の人たちが集会所に集まり、料理を囲んで、酒を飲んで、笑って。

 とても楽しい時間だった。

 ……楽しかったのだが。

「ちょっと飲みすぎたな」

 俺は深いため息をついた。

 別に、泥酔するほど飲んだわけではない。

 ただ、村人たちから勧められるままに杯を重ねていたら、思っていた以上に量が増えてしまったのだ。

 今度からは気をつけよう。

 そう心に誓いながら、俺はベッドから立ち上がった。

 顔を洗おうと台所へ向かう。

 蛇口をひねる。

 水が出る。

「……うん」

 何度見ても、ありがたい。

 異世界に来たばかりのころは、水を確保するだけでも大仕事だった。

 それが今では、家の中で水を使える。

 台所には魔導コンロがあり、調理もできる。

 食材を洗うことも、食器を洗うことも、以前よりずっと簡単になった。

 そして、昨日完成したばかりの風呂もある。

「……よし」

 俺は顔を洗い、冷たい水で頭をすっきりさせた。

 今日からは、いよいよ本格的なスローライフの始まりだ。

 家を建てるという大仕事は終わった。

 生活に必要な設備も、ひとまず形になった。

 これからは、もう少し落ち着いて暮らせるはずだ。

 ……はずなのだが。

「海斗さーん!」

 玄関の外から、元気な声が響いた。

「起きてますかー!?」

「……唯衣か」

 俺は苦笑しながら扉を開けた。

「おはようございます!」

「おはよう。朝から元気だな」

「はい! 昨日は楽しかったですね!」

「そうだな」

「村の人たち、みんな優しかったです!」

「うん」

「それでですね!」

 唯衣が身を乗り出す。

「今日は何をするんですか?」

「……何もしない」

「え?」

「今日は休みだ」

「休み?」

「そう。家もできたし、急いでやらなきゃいけないこともない。たまにはのんびりしよう」

 俺は胸を張った。

 そう。

 俺が求めていたのは、こういう生活なのだ。

 朝起きて、好きなことをする。

 疲れたら休む。

 気が向いたら散歩する。

 何も予定がない日を、心から楽しむ。

 それこそがスローライフである。

「……なるほど」

 唯衣が頷く。

「じゃあ、今日はお散歩しましょう!」

「……え?」

「村の中をゆっくり歩いて、いろいろ見て回るんです!」

「いや、まあ……それなら」

「決まりですね!」

「……決まったのか」

 俺の休日は、どうやら思っていたものとは少し違うらしい。

 ◇ ◇ ◇

 少し遅れて、慎之助と蝉丸もやってきた。

「おはようございます、海斗さん」

「おはよう」

「いやぁ、昨日は楽しかったな!」

 慎之助が豪快に笑う。

「村の酒も、なかなかのものだった!」

「……二日酔いじゃないんですか?」

 蝉丸が尋ねる。

「多少はな!」

「威張ることじゃないでしょう」

「細かいことは気にするな!」

「昨日も同じことを言っていましたね」

「細かいことは気にするな!」

「繰り返さなくていいです」

 俺は思わず笑った。

「それで、今日はどうするんです?」

 蝉丸が尋ねてくる。

「唯衣の提案で、村を散歩することになった」

「いいですね。僕も賛成です」

「おお、いいじゃないか!」

 慎之助も頷いた。

「散歩のついでに酒場へ寄ろう!」

「ついでにしなくていいです」

「なぜだ!」

「散歩が目的だからです」

「酒場も散歩の一部だろう!」

「違います」

 いつものやり取り。

 こうして四人が集まるのも、すっかり当たり前になってきた。

 飛行機の中で出会った俺たちが、まさか異世界で一緒に暮らすことになるとは。

 人生というのは、本当に分からない。

「じゃあ、行こうか」

「はい!」

 俺たちは家を出て、村の中へ向かった。

 ◇ ◇ ◇

 村の朝は、思っていた以上に忙しかった。

 畑では村人たちが作業をしている。

 家の前では、薪を割る人。

 井戸のそばでは、水を汲む人。

 家畜の世話をしている人もいる。

 昨日の宴会とは違い、みんな普段の生活に戻っていた。

「おはようございます!」

 唯衣が元気よく挨拶する。

「おお、おはよう!」

「昨日は楽しかったよ!」

「またいつでも来てくれ!」

 村人たちが笑顔で応えてくれる。

 その様子を見て、俺は少しだけ安心した。

 俺たちは異世界から来た人間だ。

 この村の人たちからすれば、分からないことも多いだろう。

 それでも、昨日の宴会を通じて、少し距離が縮まった気がした。

「……いい村だな」

 俺が呟くと、蝉丸も頷いた。

「そうですね。皆さん、親切です」

「俺たちも、何か村の役に立てるといいな」

「そうですね」

 蝉丸は周囲を見渡した。

「ただ、焦る必要はないと思います。まずは自分たちの生活を安定させることが先でしょう」

「それもそうだな」

 村の役に立ちたいという気持ちはある。

 だが、無理をして生活が破綻してしまっては意味がない。

 できることを、できる範囲で。

 それが大事だ。

「海斗さん、あっちに何かありますよ!」

 唯衣が道の先を指差した。

「ん?」

 そこには、小さな畑が広がっていた。

 村人が数人、野菜の世話をしている。

「何を育てているんですか?」

 唯衣が近くにいた女性へ尋ねる。

「これは根菜だよ。こっちは葉物野菜さ」

「へえ……!」

 唯衣は興味津々だ。

「収穫はいつごろなんですか?」

「種類によるね。こっちはもう少ししたら食べられるよ」

「そうなんですね!」

 女性は笑った。

「興味があるなら、今度、畑仕事を手伝ってみるかい?」

「いいんですか!?」

「ああ。人手は多いほうが助かるからね」

「ぜひお願いします!」

 ……おいおい。

 また予定が増えたぞ。

 俺は苦笑した。

 まあ、畑仕事くらいなら悪くない。

 自分で育てた野菜を食べる。

 それも、田舎暮らしの楽しみの一つだろう。

「海斗さんも一緒にやりましょう!」

「……考えておく」

「絶対ですよ!」

「まだ返事はしてないぞ」

「じゃあ、前向きに検討ということで!」

「どこでそんな言葉を覚えたんだ……」

 蝉丸が小さく笑った。

 ◇ ◇ ◇

 村の散歩を終えたころには、太陽がかなり高くなっていた。

 俺たちは川の近くまで足を延ばし、しばらく水の流れを眺めていた。

 透き通った水が、石の間を流れていく。

 風が吹く。

 草木が揺れる。

 遠くでは鳥が鳴いている。

 何もない。

 少なくとも、都会のような騒がしさはない。

 ただ、自然がある。

「……いいな」

 俺は思わず呟いた。

「うん」

 唯衣が隣で頷く。

「私、こういう場所が好きです」

「俺もだ」

 慎之助は川辺の石に腰を下ろした。

「酒を飲みながら、ここで一日過ごすのも悪くないな」

「それは家でやってください」

 蝉丸が即座に突っ込む。

「なぜだ!」

「川に酒瓶を置きっぱなしにしたら危ないでしょう」

「ちゃんと持ち帰る!」

「そういう問題ではありません」

 俺は笑った。

 この世界には、まだ知らないことがたくさんある。

 魔法も。

 魔物も。

 さまざまな種族も。

 俺のスキルも。

 けれど、今すぐ全部を知る必要はない。

 少しずつ知っていけばいい。

 焦らず、無理をせず。

 自分たちのペースで。

「……さて」

 俺は立ち上がった。

「そろそろ帰るか」

「そうですね」

 蝉丸も立ち上がる。

「昼食はどうします?」

「家で簡単に作ろう」

「賛成!」

 唯衣が笑顔で手を挙げた。

「私、手伝います!」

「俺も手伝うぜ!」

 慎之助も続く。

「……慎之助さん、料理できます?」

「食べる専門だ!」

「堂々と言わないでください」

 俺たちは笑いながら、家へ戻っていった。

 ◇ ◇ ◇

 昼食を終え、俺は自宅の椅子に腰を下ろした。

 窓の外には、いつもの景色が広がっている。

 森。

 山。

 川。

 そして、少し離れたところに見える村の家々。

 昨日までは、家を建てることばかり考えていた。

 木材を集める。

 柱を組む。

 屋根を作る。

 水を引く。

 台所を整える。

 風呂を作る。

 一つずつ、目の前の問題を解決してきた。

 ようやく、それらがひと段落したのだ。

「……これから、どうしようかな」

 俺は呟いた。

 急いでやらなければならないことはない。

 少なくとも、今日のところは。

 せっかく異世界に来たのだ。

 この世界のことをもっと知りたい気持ちもある。

 村の人たちと交流するのもいい。

 畑仕事を手伝うのもいい。

 森の周辺を安全な範囲で散策するのもいいだろう。

 そして、いずれは――。

 この世界の知識を、自分のスキルで調べてみたい。

 俺のスキルは、鑑定では文字化けしていた。

 だが、その正体が分かってからは、少しずつ使い方を試している。

 検索できること。

 必要な情報を探せること。

 そして、収納や身体強化もある。

 ただし、まだ分からないことも多い。

 便利だからといって、何でもできるわけではない。

 だからこそ、これから少しずつ確かめていく必要がある。

「……まあ、今日は休みだ」

 俺は椅子の背もたれに身体を預けた。

 スキルの検証は明日以降でいい。

 今日は、ただのんびり過ごそう。

 そう決めた瞬間だった。

 コンコン。

 またしても、玄関の扉が叩かれた。

「……今度は誰だ?」

 俺が立ち上がる。

 扉を開けると、そこには村長が立っていた。

「こんにちは、海斗さん」

「こんにちは。どうしました?」

「実は、皆様に一つお願いがありましてな」

「お願い?」

 俺は首を傾げた。

 村長は少しだけ真剣な顔をしていた。

「はい。先日の新築祝いで、皆様の家を見せていただいた者たちから、いろいろと質問が出ておりまして」

「質問、ですか?」

「ええ。特に、台所で水が使えることや、火を簡単に扱えることに興味を持った者が多いようです」

「……なるほど」

「もちろん、無理に教えてほしいという話ではありません。ただ、もし可能であれば、村の暮らしにも役立つ工夫を教えていただけないかと思いまして」

 俺は少し考えた。

 俺たちの家は、まだ完成したばかりだ。

 設備も試作段階のものが多い。

 何でも教えられるわけではない。

 それでも、暮らしを少し便利にする工夫なら、伝えられることもあるかもしれない。

「分かりました。ただ、俺たちも試している途中のものがあります。安全性を確認できていないものは、すぐに広めるわけにはいきません」

「もちろんですとも」

 村長が頷いた。

「できることからで構いません」

「では、まずは相談しながら考えてみましょう」

「ありがとうございます!」

 村長は嬉しそうに頭を下げた。

 ……どうやら。

 俺たちのスローライフは、完全に何もしない生活にはならないらしい。

 まあ、いいか。

 自分たちが暮らしやすくするために始めた工夫が、村の人たちの役にも立つ。

 それなら、悪い話ではない。

 ただし――。

「村長さん」

「はい?」

「今日は、もう仕事の話はここまででお願いします」

「……ほう?」

「今日は休む日なんです」

 俺が真顔で言うと、村長は一瞬きょとんとした。

 そして、豪快に笑い出した。

「はっはっは! それは失礼しました! では、また後日、改めて相談に伺います!」

「お願いします」

 村長が帰っていく。

 俺は扉を閉め、ゆっくりと息を吐いた。

「……よし」

 今日こそ、本当に休もう。

 窓の外では、風が木々を揺らしている。

 温かい食事が作れる台所がある。

 水も使える。

 風呂もある。

 そして、近くには一緒に笑える仲間と、俺たちを受け入れてくれた村の人たちがいる。

 会社を辞めたとき、俺はただ、少しだけ自由になりたかった。

 それが今では、異世界で新しい生活を手に入れた。

 もちろん、元の世界に帰れるかどうかは分からない。

 不安が完全になくなったわけでもない。

 それでも。

「……ここで、やっていけそうだな」

 俺は窓の外を眺めながら、小さく笑った。

 こうして、俺たち四人の辺境スローライフは、本格的に始まった。

 ――第1章 終わり。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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