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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第1章 異世界転移とスローライフの始まり

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第46話 浴槽の試作と、魔導換気扇への挑戦

 翌朝。

「……よし、今日も頑張るか」

 俺はテント暮らしをしていた頃を思い出しながら、完成した自分の家の前で伸びをした。

 いや、もうテントではない。

 木造の家だ。

 屋根もある。

 壁もある。

 雨風をしのげるだけでなく、少しずつ生活に必要な設備も整いつつある。

 ただし、快適な暮らしには、まだまだ足りないものが多い。

「まずは、お風呂だな」

 昨日、ロドルフさんとグスタフさんに相談した浴室計画。

 木製の浴槽を試作してもらい、その寸法に合わせて湯を沸かす釜や配管を考える。

 同時に、台所と浴室の換気扇も作らなければならない。

 やることは多い。

 だが、こういう作業は嫌いではなかった。

 自分たちが使うものを、自分たちの手で少しずつ形にしていく。

 会社勤めをしていた頃には、なかなか味わえなかった充実感だ。

「海斗さん、おはようございます!」

 元気な声とともに、唯衣がやってきた。

「おはよう。朝から元気だな」

「だって、今日はお風呂が進むんですよね?」

「浴槽の試作が始まる予定だけど、今日中に完成するとは限らないぞ」

「分かってます!」

 唯衣は笑顔で頷いた。

「でも、楽しみなんです!」

「はいはい」

 そこへ蝉丸もやってきた。

 手には、昨日まとめた設計図とメモがある。

「海斗さん。換気扇の試作について、少し考えてみました」

「お、早いな」

「昨夜、魔導回路の構造を整理してみたんです」

 蝉丸が紙を広げる。

 そこには、丸い羽根のような図と、その周囲に描かれた魔法陣らしき模様があった。

「これが換気扇か?」

「はい。まだ構想段階ですが」

 蝉丸は図を指差した。

「魔石から供給される魔力を、回転運動に変換する魔導回路を作ります。その回転軸に羽根を取り付ければ、空気を動かせるはずです」

「なるほど」

「ただ、魔力を流したときに、どれくらいの速さで回転するのかは分かりません。回転が速すぎても危険ですし、遅すぎれば十分な換気ができないでしょう」

「確かに。まずは小さいもので試してみるか」

「僕もそのつもりです」

 蝉丸は頷いた。

「それと、台所用と浴室用で、羽根の大きさや回転数を変えたほうがいいと思います」

「台所と浴室で違うのか?」

「目的が違いますからね。台所では調理中の蒸気や臭いを排出したい。浴室では湿気を外へ逃がしたい。必要な風量も、設置場所も変わってくるでしょう」

「なるほどな」

 俺は腕を組んだ。

 現代の換気扇なら、用途に合わせてさまざまな製品がある。

 だが、ここではゼロから作らなければならない。

 まずは動くものを作り、そこから改良していくしかない。

「よし。今日は浴槽の様子を見に行って、それから換気扇の試作を始めよう」

「はい!」

 唯衣が元気よく返事をした。

「私も手伝います!」

「危ない作業は任せられないけどな」

「むう……」

「その代わり、材料を運んだり、完成したものを確認したりする仕事を頼むよ」

「分かりました!」

 唯衣はすぐに笑顔に戻った。

 こうして、俺たちはロドルフさんの工房へ向かった。

 ◇ ◇ ◇

「おお、来ましたな」

 工房に着くと、ロドルフさんが出迎えてくれた。

 その奥には、木材や工具が並んでいる。

 そして作業台の上には――。

「おお……!」

 思わず声が出た。

 大きな木製の浴槽が置かれていた。

 まだ仕上げの途中らしく、外側には補強用の木材が取り付けられている。

 だが、形はほとんどできていた。

「これが、例の浴槽ですか?」

「ええ。まずは試作品です」

 ロドルフさんが浴槽の縁を軽く叩く。

「お話にあったとおり、大人が一人で入れる大きさを目指しました。底板は厚めにし、外側にも支えを追加しています」

 俺は浴槽の周囲を回りながら、出来栄えを確認した。

 木の香りがする。

 表面も丁寧に削られていて、手で触れても引っかかりがない。

「すごいですね。想像していたより、ずっと立派です」

「ありがとうございます。ただ、まだ完成とは言えません」

 ロドルフさんは真剣な表情になった。

「これから水を張って、漏れがないか確かめなければなりません。それに、実際に人が入ったときに底や支えが耐えられるかも確認する必要があります」

「そうですね」

 見た目が立派でも、実際に使えなければ意味がない。

 まずは水を張って、問題がないか確認する。

 その後、少しずつ荷重をかけ、強度を確かめる必要がある。

「水を張る場所は、工房の裏に用意してあります」

 ロドルフさんに案内され、俺たちは浴槽を運ぶのを手伝った。

 もちろん、かなり重い。

「せーの!」

 四人で慎重に持ち上げ、用意された台の上に設置する。

「ふう……」

 俺は額の汗を拭った。

「思ったより重いな」

「木材だけでも、かなりの重量がありますからね」

 蝉丸が答えた。

「これに水が入るんですよね?」

 唯衣が浴槽を覗き込む。

「そうだな」

「……水って、重いんですね」

「今さらか?」

「いや、普段はあまり考えないじゃないですか!」

 確かに、そのとおりだ。

 浴槽いっぱいに水を入れれば、かなりの重量になる。

 人間が入ることも考えれば、設置する床や台も頑丈にしなければならない。

「よし。まずは水を張ってみよう」

 俺たちは桶を使い、少しずつ水を入れていった。

 十分。

 二十分。

 浴槽の底に水がたまり、徐々に水位が上がっていく。

「……今のところ、漏れはなさそうですね」

 蝉丸が底や側面を確認する。

「うん。目立った水漏れはないな」

 ロドルフさんも頷いた。

「ただ、もう少し時間を置いて確認しましょう。木が水を吸って膨らむことで、隙間が塞がる場合もありますから」

「分かりました」

 俺は浴槽を見つめた。

 まだ試験の途中だ。

 だが、第一段階は順調らしい。

「これなら、お風呂が実現できそうですね!」

 唯衣が嬉しそうに言った。

「そうだな。ただし、湯を入れたときにも問題がないか確かめないといけない」

「それもそうですね」

「熱い湯を入れると、木材の状態も変わる可能性がありますから」

 蝉丸が補足する。

「水漏れだけでなく、変形や接合部の緩みも確認したほうがいいでしょう」

「よし。今日は水を張ったまま、しばらく様子を見よう」

 ロドルフさんが頷いた。

「夕方にも確認してみます。問題がなければ、次の段階へ進めるでしょう」

「よろしくお願いします」

 俺たちは工房を後にした。

 浴槽は、ひとまず形になった。

 次は、湯を沸かす釜と配管。

 そして、換気扇だ。

 ◇ ◇ ◇

 家に戻ると、蝉丸はさっそく作業台を用意した。

「では、換気扇の試作を始めましょう」

「頼む」

「まずは、小さな羽根を作ります」

 蝉丸は木材を手に取り、寸法を測り始めた。

「羽根は軽く、回転したときに空気を押し出せる形にしたいですね」

「羽根の数は?」

「まずは四枚で試してみましょう。回転の様子を見て、必要なら形や枚数を変えます」

「分かった」

 俺は材料を押さえたり、工具を渡したりしながら手伝った。

 しばらくして、手のひらほどの大きさの羽根が完成した。

 中央には回転軸を取り付けるための穴が開けられている。

「これを魔導回路につなげるわけか」

「はい。ただし、羽根だけでは危険です。回転中に触れないよう、周囲に保護枠を付けましょう」

「安全対策は大事だな」

 蝉丸は頷き、羽根の外側に木製の枠を組み立てた。

 次に、魔石を取り付ける台座を作る。

 回転軸と魔石を直接つなぐのではなく、魔力を回転運動に変換する魔導回路を間に組み込む構造だ。

「ここに魔導回路を刻みます」

 蝉丸は小さな板に、慎重に魔法陣を描き始めた。

 線の太さ。

 円の大きさ。

 刻み込む文字や記号の位置。

 一つ一つを確認しながら作業していく。

「……細かいな」

「回路が乱れると、魔力の流れが不安定になる可能性がありますからね」

「なるほど」

「まずは回転するかどうかを確かめます。長時間動かした場合の安定性や魔力消費量は、その後の課題ですね」

 やがて、魔導回路が完成した。

 蝉丸はそれを台座に取り付け、魔石を固定する。

「準備できました」

「よし。試してみよう」

 俺たちは羽根の正面から離れ、蝉丸が魔力を流すのを見守った。

 カチッ。

 魔導回路が淡く光る。

 次の瞬間――。

 ブンッ。

「おっ!」

 羽根が回転した。

 最初はゆっくり。

 それから、少しずつ速度が上がっていく。

 ヒュウウウ……。

 小さな風が、俺たちの顔に当たった。

「おお! 回ってる!」

 唯衣が目を輝かせた。

「本当に風が出てます!」

「成功ですね!」

 蝉丸も嬉しそうに笑う。

 だが、俺は手をかざしながら、風の強さを確かめた。

「……風は出てるけど、まだ弱いな」

「そうですね。試作品ですから」

 蝉丸が回転を止めた。

「魔力の供給量を増やせば回転数は上げられると思います。ただ、回転軸や羽根にかかる負荷も大きくなるでしょう」

「じゃあ、回転数を調整できる仕組みも必要だな」

「はい。魔導コンロと同じように、魔力の流れを調整する仕組みを組み込めば、弱運転と強運転を切り替えられるかもしれません」

「それは便利そうだ」

 台所では、調理中に強く換気したいこともある。

 一方で、常に最大の風量が必要なわけではない。

 浴室でも、入浴中と入浴後では必要な換気量が違うだろう。

 回転数を調整できれば、使い勝手はかなり良くなるはずだ。

「それと、音も気になりますね」

 蝉丸が言った。

「回転軸がぶれたり、羽根の形が合っていなかったりすると、大きな音が出るかもしれません」

「確かに。夜中にうるさかったら困るな」

「まずは軸を安定させ、羽根の形を調整してみましょう」

「頼む」

 試作品は、ひとまず回転した。

 空気も動いている。

 だが、実際に家へ設置するには、まだ改良が必要だ。

 回転数の調整。

 魔力の消費量。

 長時間運転したときの安定性。

 それに、壁へ取り付けるための固定具や、外から雨が入らないようにする仕組みも考えなければならない。

「……一発で完成とはいかないか」

「最初から完璧なものを作るのは難しいですよ」

 蝉丸が笑った。

「でも、動くことは確認できました。これなら改良を進められます」

「そうだな」

 俺は頷いた。

 魔導コンロに続き、魔導換気扇も一歩前進だ。

 ◇ ◇ ◇

 昼食を済ませたあと、俺たちは浴室の設計を進めた。

 浴槽の寸法をもとに、必要な広さを決める。

 床は水に強い素材を使い、排水口へ向かって緩やかな傾斜を付ける。

 壁や天井には湿気に強い材料を選び、換気扇は浴室内の湿気がこもりやすい位置に設置する。

「換気扇の排気口は、雨が入りにくい向きにしたいですね」

 蝉丸が図面に線を引く。

「外側には雨よけを付けて、虫が入り込まないように網も設けましょう」

「いいな。ただ、網に埃や汚れがたまると風が通りにくくなるから、掃除しやすい構造にしてくれ」

「分かりました。取り外して清掃できるようにしましょう」

「台所も同じだな。調理中の油や汚れが付く可能性がある」

「では、台所用は羽根や枠を掃除しやすい形にして、浴室用は湿気に強い材料を優先するのがよさそうですね」

「そうだな。用途に合わせて調整しよう」

 俺たちは、換気扇を設置する位置だけでなく、給気口の位置も図面に書き込んだ。

 浴室では、外から新しい空気が入り、湿気を含んだ空気が換気扇から外へ抜けていく流れを作る。

 台所では、できるだけコンロ付近の蒸気や臭いを外へ導けるようにする。

 ただし、魔導換気扇はまだ試作段階だ。

 実際にどれほどの風量が出るのか、長時間動かしても安定しているのかは、これから確かめる必要がある。

「換気扇が完成すれば、台所も浴室もずいぶん快適になりそうですね」

 唯衣が言った。

「ああ。せっかく作るんだから、最初から使いやすいものにしたい」

「お風呂も、換気扇も、早く完成するといいですね!」

「焦るなよ。安全確認を忘れたら意味がないからな」

「分かってます!」

 唯衣は元気よく返事をした。

 その日の夕方。

 俺たちは再びロドルフさんの工房を訪ねた。

 浴槽に水を張ってから、かなり時間が経っている。

「どうでしたか?」

 俺が尋ねると、ロドルフさんは浴槽の側面を指差した。

「目立った水漏れはありません。今のところ、底や支えにも異常は見られませんな」

「本当ですか?」

「ええ。ただ、まだ熱い湯を入れたわけではありませんし、実際に人が入った状態での試験もこれからです。これで完成と判断するのは早いでしょう」

「分かりました」

 蝉丸が浴槽の縁や底を確認する。

「少なくとも、最初の試験は順調ですね」

「そうだな」

 俺は浴槽を見つめた。

 まだ湯は入っていない。

 薪で湯を沸かす釜も、配管も完成していない。

 換気扇も試作段階だ。

 それでも、ひとつずつ前へ進んでいる。

「ロドルフさん、引き続き試験をお願いします」

「承知しました。次は、少しずつ負荷をかけながら確認してみましょう」

「ありがとうございます」

 工房を出ると、夕日が山の向こうへ沈みかけていた。

「今日は、いろいろ進みましたね」

 唯衣が満足そうに言う。

「そうだな」

「浴槽ができてきて、換気扇も回りました!」

「まだ試作だけどな」

「それでも、すごい進歩です!」

 確かに、そのとおりだ。

 最初はテントで寝るところから始まった。

 そこから家を建て、台所を整え、魔導コンロを作った。

 そして今、浴槽と換気扇の試作まで進んでいる。

 もちろん、まだ完成ではない。

 釜の設計も必要だし、配管も用意しなければならない。

 換気扇だって、十分な風量と安全性を確認する必要がある。

 だが――。

「……悪くないな」

 俺は小さく呟いた。

「何がです?」

 蝉丸が聞く。

「いや。こうやって、必要なものを自分たちで作っていく生活も」

「そうですね」

 蝉丸も微笑んだ。

「大変ですけど、完成したときの達成感は大きいと思います」

「私は早く湯船に入りたいです!」

 唯衣が勢いよく言った。

「……まあ、それが一番の目的だな」

 俺たちは顔を見合わせて笑った。

 お風呂の完成までは、もう少し時間がかかる。

 浴槽の強度確認。

 釜と配管の製作。

 浴室の施工。

 魔導換気扇の改良。

 給排水設備との接続。

 そして、すべてを組み合わせた試運転。

 どれも欠かせない。

 けれど――。

 異世界で、温かい湯に浸かる日も、少しずつ近づいている。

 俺は空を見上げた。

 今日も、青空が広がっていた。

「よし。明日も頑張るか」

「はい!」

 唯衣の元気な返事が、夕暮れの村に響いた。

 こうして。

 俺たちの異世界スローライフは、少しずつ快適さを増していく。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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