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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第1章 異世界転移とスローライフの始まり

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第41話 浄化槽の相談と、異世界のお風呂

 井戸と給水設備の配置が決まった翌日。

 俺たちは、村の水処理に詳しいガレスさんのもとを訪ねていた。

 目的は、浄化槽について相談することだ。

「なるほど。家ごとに排水を処理するのではなく、四軒分をまとめて処理したい、と」

 俺の説明を聞き、ガレスさんは腕を組んだ。

「はい。台所や洗面所、それから将来的には風呂の排水も、まとめて一つの浄化槽に集めたいんです」

「風呂?」

 ガレスさんが首を傾げた。

「すみません。そちらの風呂というのは、具体的にはどのようなものですかな?」

「ああ、そうですよね」

 俺は説明を始めた。

「この世界にも、身体を洗うために湯を使う習慣はありますよね?」

「もちろんです。湯を桶に入れて身体を洗ったり、蒸気を利用して汗を流したりすることもあります」

「なるほど。俺が考えているのは、それとは少し違うものです」

 俺は両手で、大きな四角い箱の形を作った。

「木で作った大きな浴槽に、温かいお湯をたっぷり入れます。そこに身体を沈めて、しばらく温まるんです」

「……湯の中に、身体を沈める?」

「はい。肩まで浸かれるくらいの深さにして、ゆっくり温まります」

「身体を洗うためではなく、湯に浸かることそのものが目的なのですか?」

「そういうことです」

 ガレスさんは、しばらく考え込んだ。

「それは……かなり大量の湯が必要になりそうですな」

「ええ。だから、浴槽から出たお湯を排水できる仕組みも必要になります」

「なるほど。つまり、浴槽に水を入れる仕組みと、使い終わった水を流す仕組み。その両方を用意するわけですな」

「その通りです」

 さすがは専門家だ。

 説明すると、すぐに必要な仕組みを理解してくれた。

「それで、風呂の排水も浄化槽に入れたい、と」

「はい。台所や洗面所の排水と一緒に処理できれば、管理もしやすいと思うんです」

「ふむ……」

 ガレスさんは机の上に紙を広げ、簡単な図を描き始めた。

「まず、四軒それぞれから排水管を伸ばし、こちらの浄化槽へ集める。浄化槽で処理した水を、さらに下流へ流す計画ですな」

「そうです。村の井戸や生活用水に影響が出ない場所を選びたいと思っています」

「それは重要です。川へ流すにしても、どこでもよいわけではありません。上流側の取水場所や井戸、畑への影響も考えねばなりませんからな」

 俺は頷いた。

 便利な生活を実現したいからといって、村の人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。

 むしろ、ここで暮らす以上、村の環境を守ることも大切だ。

「それと、浄化槽の大きさは、風呂の使用量も考えて決めたほうがよいでしょう」

「やっぱり、そうなりますか」

「ええ。普段の台所や洗面所の排水だけならともかく、大量の湯を一度に流すこともあるのでしょう?」

「はい。浴槽のお湯を抜くときは、一気に流れると思います」

「ならば、流入する水の量を受け止められる構造が必要です。容量が足りなければ、処理が追いつかなくなる可能性もあります」

 なるほど。

 単純に四軒分の排水を集めればいいという話ではないらしい。

 普段の排水量だけでなく、風呂のお湯を抜くときのことまで考えておく必要がある。

「あと、台所の排水には食べかすや油が混じります」

 俺は続けた。

「それがそのまま浄化槽に入ると、詰まりや管理の問題が出ると思うんです」

「その通りですな。入口に網や受け皿を設けて、大きな食べかすを取り除けるようにするとよいでしょう。油もできるだけ流さないようにする必要があります」

「分かりました。台所の流しには、取り外して掃除できる受け皿を付けるつもりです」

「それなら管理もしやすいでしょう」

 蝉丸が眼鏡を押し上げた。

「ところで、浄化槽の中にスライムを入れるという話もありましたね?」

「はい」

 俺は頷いた。

「ただ、まだ本当に排水を浄化できるかどうかは分かっていません」

 以前、泥水を使って試してみたことがある。

 スライムを入れた容器と、何も入れていない容器。

 両方を比べてみたが、泥が沈む様子に明確な差は見られなかった。

 つまり、現時点ではスライムに浄化能力があるとは言い切れない。

「いきなり実際の排水で試すのは危険です。まずは少量の水で、スライムを入れた場合と入れない場合を比較したいと思っています」

「賢明ですな」

 ガレスさんは頷いた。

「効果が確認できるまでは、スライムを入れれば浄化できると考えないほうがよいでしょう。浄化槽そのものは、通常の処理を行える構造にしておくべきです」

「俺もそう思います」

「それに、スライムを使うのであれば、状態を確認するための点検口も必要になりそうですな。異常が起きたときに取り出せるようにしておくことも大切です」

「そこも設計に入れましょう」

 スライムの力を利用できれば便利だ。

 けれど、便利そうだからといって、いきなり生活排水を任せるわけにはいかない。

 まずは安全性と効果を確かめる。

 それから実際の設備に使うかどうかを決めればいい。

「では、浄化槽の設置場所ですが……」

 ガレスさんが図面に印を付けた。

「四軒から排水を集めやすく、なおかつ村の井戸や川の取水場所から十分に離れた場所がよいでしょう。点検や清掃のために、人が入れるだけの通路も確保してください」

「分かりました」

「排水管も、途中で詰まったときに確認できるようにしておくとよいです。埋めてしまえば終わり、というわけにはいきませんからな」

「確かに。見えない場所だからこそ、後から手を入れられるようにしておく必要がありますね」

 俺は図面を覗き込んだ。

 家の位置。

 給水管の経路。

 排水管の経路。

 浄化槽の設置場所。

 川への放流予定地点。

 それぞれを一枚の図にまとめていく。

 ようやく、設備全体の形が見えてきた気がした。

   ◇ ◇ ◇

「そういえば、海斗さん」

 相談が一段落したところで、唯衣が口を開いた。

「お風呂って、どうやってお湯を温めるの?」

「それも考えないとな」

 俺は頷いた。

「浴槽にお湯を入れる方法も必要だし、使い終わったお湯を抜く仕組みも必要だ」

「水を温めるなら、火を使うんですか?」

 蝉丸が尋ねる。

「今のところは、そう考えてる。浴槽の外に湯を温める設備を置いて、温めたお湯を浴槽へ送る方法かな」

「なるほど。浴槽のすぐそばで火を使うより、安全そうですね」

「ただ、温度の調整や火の管理も必要になる。簡単にはいかないだろうな」

 俺は苦笑した。

 日本なら、蛇口をひねれば温かいお湯が出てくる。

 だが、ここではそうはいかない。

 水を確保し、温め、浴槽へ送り、使い終わったら排水する。

 その一つ一つを自分たちで用意する必要がある。

「浴槽そのものも、木で作ることになるんですよね?」

 唯衣が尋ねる。

「そうだな。木製の大きな桶を作れる職人さんに相談してみようと思う」

「楽しみ!」

 唯衣が嬉しそうに笑った。

「完成したら、毎日ゆっくりお風呂に入れるんだね!」

「その前に、ちゃんと使えるものを作らないとな」

「分かってるよ!」

 分かっているのか、少し怪しい。

 蝉丸も苦笑していた。

「ただ、風呂を作るなら給水設備と排水設備の両方に関係します。先に配管の位置を決めておくのは正解ですね」

「そうだな。後からやり直すのは大変だから」

 ガレスさんは、俺たちの話を聞きながら図面を見直していた。

「湯に浸かるための大きな浴槽……。興味深い仕組みですな」

「完成したら、ぜひ見に来てください」

「よろしいのですか?」

「もちろんです。ただし、完成するまでには、まだ時間がかかると思いますけど」

「それは構いません。どのようなものになるのか、私も気になりますからな」

 ガレスさんは楽しそうに笑った。

   ◇ ◇ ◇

 相談を終え、俺たちはガレスさんの家を出た。

「思ったより、考えることが多かったですね」

 蝉丸が言った。

「そうだな。浄化槽を作れば終わり、というわけじゃなかった」

「でも、これで必要なことが整理できたよね」

 唯衣が明るく言う。

「水を家まで運ぶ。使った水を浄化槽に集める。ちゃんと処理できたら、川の下流へ流す。これで合ってる?」

「大筋ではな」

 俺は頷いた。

「ただし、川へ流すのは処理の効果や安全性を確認してからだ。スライムの浄化も、まだ期待だけで終わらせるわけにはいかない」

「うん、分かった」

 唯衣も真面目な顔で頷いた。

 生活を便利にするための設備。

 けれど、それを使うのは俺たちだけではない。

 この土地には、村の人たちの暮らしもある。

 だからこそ、便利さだけを優先するわけにはいかないのだ。

「さて、次は浴槽を作ってくれる職人さんに相談だな」

「木工職人のロドルフさんですね」

 蝉丸が確認する。

「ああ。浴槽の大きさや形を相談して、湯を温める設備についても考えないと」

「お風呂かぁ……」

 唯衣が両手を合わせた。

「早く入りたいなぁ」

「その前に、まだ配管も浄化槽も完成してないぞ」

「分かってるってば!」

 唯衣が頬を膨らませる。

 俺と蝉丸は顔を見合わせて笑った。

 家を建てるだけでも大変だった。

 水を使えるようにするのも、排水を安全に処理するのも、簡単ではない。

 それでも、一つずつ進めていけばいい。

 快適な暮らしは、こうした小さな積み重ねから生まれるのだから。

 俺たちは次の相談先へ向かって歩き出した。

 目指すのは、木工職人ロドルフさんの工房。

 異世界での生活を、少しずつ快適にするために。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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