第42話 快適な台所を作ろう! 魔導コンロへの挑戦
ガレスさんとの相談を終えた俺たちは、家へ戻ることにした。
浄化槽の設置場所や排水管の経路は、だいぶ具体的になってきた。
あとは、必要な材料を集め、実際に工事を進めていくだけだ。
……もちろん、簡単に終わるとは思っていない。
「さて、と」
自分たちの家が見えてきたところで、俺は足を止めた。
「次は台所だな」
「台所!」
唯衣がぱっと顔を輝かせた。
「ついに料理ができるようになるの?」
「いや、今だって料理くらいできるだろ」
「そうだけど! もっと便利な台所にするんでしょ?」
「まあ、そうだな」
俺は苦笑した。
今の台所は、必要最低限の道具を置いているだけだ。
作業台も十分とは言えないし、水を使うたびに運んでこなければならない。
火を使う場所も限られている。
これから長く暮らしていくなら、きちんと使いやすい台所を作っておきたい。
「蝉丸、昨日の図面は持ってるか?」
「はい。こちらです」
蝉丸が紙を取り出した。
そこには、四軒の家と給水設備、排水管、浄化槽の位置が描かれている。
「台所の位置も決めてしまいましょう。後から配管を変更するのは大変ですから」
「同感だ」
俺たちは家の中へ入り、台所に使う予定の場所を確認した。
◇ ◇ ◇
「まず、流し台だな」
俺は壁際を指差した。
「ここに水を使える場所を作りたい。食材を洗ったり、食器を洗ったりするところだ」
「蛇口を付けるんですよね?」
唯衣が尋ねる。
「ああ。給水タンクから水を引いて、蛇口をひねれば水が出るようにしたい」
「それ、便利そう!」
「ただし、排水はガレスさんに相談した通り、浄化槽へ送ることになる」
俺は図面を広げた。
「流しの下から排水管を伸ばして、家の外へ出す。ほかの家の排水と合流させて、浄化槽へ流すんだ」
「食べかすも、そのまま流すんですか?」
蝉丸が尋ねた。
「いや、それは避けたい」
俺は首を振った。
「流しには取り外せる網か受け皿を付けて、大きな食べかすが流れないようにする。油もできるだけ流さないようにしたい」
「なるほど。詰まりを防ぐためですね」
「そういうことだ」
排水管が詰まれば、せっかくの設備が使えなくなる。
浄化槽に余計な負担をかけないためにも、台所の段階でできる対策はしておきたい。
「それから、作業台も欲しいな」
俺は流しの隣を指差した。
「食材を切ったり、料理を盛り付けたりする場所だ。まな板を置いても余裕があるくらいの広さが欲しい」
「棚も必要ですね」
蝉丸が壁を見上げる。
「鍋や皿、調味料を置く場所がありません」
「そうだな。棚は壁に付けよう。重いものは下、軽いものは上に置けるようにする」
「私は、食器をしまう場所も欲しいです」
唯衣が手を挙げた。
「了解。食器棚も考えよう」
「あと、料理をする場所!」
「それが一番重要だな」
俺は台所の中央付近を見た。
問題は、調理に使う熱源だ。
この世界では、一般的に薪や炭を使って料理をする。
それ自体は悪くない。
ただ、室内で使うとなると、煙や熱、火の粉への対策が必要になる。
薪を用意する手間もあるし、火加減を調整するのも簡単ではない。
「できれば、もっと扱いやすい調理器具が欲しいんだよな」
「魔法を使うんですか?」
蝉丸が反応した。
「そう。せっかく魔法や魔石がある世界なんだから、利用できないかと思って」
「魔石を使って熱を生み出す仕組み、ですか」
「そういうことだ」
俺は頷いた。
「薪を燃やすんじゃなくて、魔石の力を使って鍋を温める。うまく作れれば、火の管理が楽になるはずだ」
「面白そうですね」
蝉丸の目が輝いた。
錬金術師として、こういう話には興味があるらしい。
「ただ、魔石からどうやって安定した熱を取り出すかが問題ですね」
「そこなんだよな」
俺も腕を組んだ。
日本にいた頃なら、電気コンロやガスコンロを買えば済む話だった。
だが、ここには電気もガスもない。
魔石を使うにしても、どんな構造にすれば安全に熱を発生させられるのか。
そこを考えなければならない。
「蝉丸、錬金術で何かできそうか?」
「試してみる価値はあると思います。ただ、いきなり大きな設備を作るより、小さな実験器具から始めたほうがいいでしょう」
「だな」
まずは仕組みを確かめる。
それから実際の台所で使える大きさにする。
順番としては、それが一番確実だろう。
◇ ◇ ◇
「ところで、海斗さん」
蝉丸が図面を見ながら口を開いた。
「魔導コンロを作るとして、どのくらいの熱が必要なんでしょう?」
「うーん……」
俺は少し考えた。
「鍋の水を温められるくらいは必要だな。料理によっては、強い熱が必要になることもある」
「熱の強さを調整できると便利ですね」
「そうだな。弱火と強火を切り替えられれば、かなり使いやすくなると思う」
「では、熱を生み出す部分と、熱を調整する部分を分けて考えてみましょう」
蝉丸は紙に簡単な図を描き始めた。
「魔石から魔力を取り出し、それを熱に変換する。さらに、魔力の流れを調整できれば、出力を変えられるかもしれません」
「なるほど」
「ただし、実際にどの程度の熱が出るかは試してみないと分かりません。魔石の種類や大きさによっても変わる可能性があります」
「そこは実験だな」
俺は頷いた。
現代の知識があっても、この世界の魔石の性質までは分からない。
知識をそのまま持ち込めば、何でも作れるというわけではないのだ。
「まずは、小さな魔石を使って熱を発生させる実験をしよう。熱くなりすぎないように、温度を確認しながらだ」
「分かりました」
「それから、鍋を置く台も必要だな。熱が台所の床や木の壁に伝わりすぎないようにしたい」
「耐熱性のある素材を使うべきでしょうね」
蝉丸が真剣な顔で頷いた。
「魔石の周囲を金属で覆うか、耐熱性のある石を使うか……。いくつか候補を考えてみます」
「頼む」
やることは多い。
それでも、少しずつ形が見えてきた。
◇ ◇ ◇
「ただいまー!」
そのとき、玄関から慎之助の声が聞こえた。
「お、帰ってきたな」
しばらくして、慎之助が台所へ顔を出した。
「何してるんだ?」
「台所の設計と、魔導コンロの相談だ」
「魔導コンロ?」
「魔石の力で熱を出して料理する道具だよ」
「おお! 薪を使わなくても料理できるのか?」
「うまくいけばな」
俺が答えると、慎之助は感心したように頷いた。
「それはいいな。薪を割るのも運ぶのも、結構な手間だからな」
「そうなんだよ。燃料の管理も楽になると思う」
「それなら、俺も手伝おうか?」
「力仕事なら頼むかもしれない」
「任せろ!」
慎之助は胸を叩いた。
「完成したら、まずは肉を焼こう!」
「……結局、そこか」
「大事だろう!」
慎之助が真顔で言う。
唯衣が笑った。
「私も賛成! お肉を焼けるなら、早く完成させたいね!」
「いや、まだ実験もしてないんだけどな」
俺は苦笑した。
だが、料理を楽しみにしてくれるのは悪いことではない。
便利な道具を作るのも、結局は生活を楽しむためなのだから。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
俺たちは台所に必要なものを、もう一度整理した。
流し台。
作業台。
食器棚。
調理器具を置く棚。
給水管と蛇口。
浄化槽へつながる排水管。
そして――魔導コンロ。
「よし。まずは流し台と作業台から作ろう」
俺は図面をまとめた。
「コンロは、蝉丸に小さな実験をしてもらう。安全に熱を出せることが確認できてから、実際に使うものを作ろう」
「分かりました。魔石の候補も調べておきます」
「俺は台所の棚と作業台を作るのを手伝うぜ」
慎之助が腕まくりをする。
「私も食器や調理道具の整理をするね!」
唯衣も元気よく手を挙げた。
「助かる。じゃあ、それぞれ進めていこう」
四人で役割を分ける。
俺は全体の設計と給排水の確認。
蝉丸は魔導コンロの実験。
慎之助は作業台や棚の製作。
唯衣は道具や食器の整理と、使いやすい配置の検討。
これなら、効率よく進められるはずだ。
……たぶん。
「ところで、海斗」
作業台の寸法を測っていた慎之助が、ふと思い出したように言った。
「台所が完成したら、次は風呂だよな?」
「ああ。浴槽を作ってくれる職人さんに相談するつもりだ」
「いいねえ……。異世界で風呂に入れるなんて、最高じゃないか」
「まだ浴槽も給湯設備もできてないぞ」
「分かってるって。夢を見るくらい、いいだろう?」
「まあ、それはそうだけど」
俺は笑った。
風呂を作るには、浴槽だけでは足りない。
湯を温める設備も必要だし、水を運ぶ仕組みも、使い終わった湯を排水する仕組みも必要になる。
ガレスさんとの相談で、そのことは改めてよく分かった。
だからこそ、先に台所と給排水の基盤を整えておく。
順番に進めれば、きっと形になるはずだ。
「よし、始めよう」
俺たちは、それぞれの作業に取りかかった。
異世界での快適な暮らしは、まだまだ始まったばかり。
まずは台所を整えて――。
その先にある、念願の風呂を目指す。
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