第03話 やっぱり異世界ならステータスだろ!
本日、最後の投稿です。
ペーリンド王国の騎士たちに案内され、俺たちは移動の準備をすることになった。
とはいえ、俺たちは四百八十八人。
これだけの人数を、いきなり一斉に歩かせるわけにもいかない。
騎士たちは何人かに分かれ、人数確認や怪我人の確認を始めていた。
飛行機についても、勝手に触らないよう見張りがついている。
どうやら、この世界の人たちにとって、飛行機はかなり謎の存在らしい。
「しかし、どうするんだろうな」
慎之助さんが飛行機を眺めながら言った。
「何がです?」
「俺たちを乗せてきたアレだよ」
「……どうするんでしょうね」
俺にも分からない。
飛行機はこの世界に残していくことになるのか。
それとも、何か方法があって運べるのか。
そもそも燃料だって限られている。
帰る方法が見つかるまでは、あまり考えたくない問題だった。
「……ねえ」
唯衣が、何かを思いついたように口を開いた。
「異世界って言ったら、やっぱりアレじゃない?」
「アレ?」
「ほら、ステータス!」
「……ああ」
言われてみれば、確かにそうだ。
異世界ものの定番。
自分の能力を確認するための、あの画面。
「じゃあ、やってみる?」
唯衣は両手を胸の前に出した。
「ステータス!」
「…………」
俺は黙った。
慎之助さんも黙った。
蝉丸も黙った。
数秒待ってみる。
……何も起きない。
「……出ないですね」
唯衣が首を傾げる。
「まあ、そんな簡単には出ないだろ」
「海斗さん、ちょっと期待してませんでした?」
「してない」
「しましたよね?」
「してない」
「顔に出てましたよ」
「出てない」
「出てました」
「…………」
俺は咳払いをした。
「まあ、異世界だからって、何でもゲームみたいになるとは限らないだろ」
「それはそうですけど」
蝉丸が腕を組んで考え込む。
「もしかすると、言葉が違うんじゃないですか?」
「言葉?」
「はい」
蝉丸は眼鏡を押し上げた。
「『ステータス』だけではなくて……」
少し考える。
「『ステータスオープン』とか?」
その瞬間だった。
――パッ。
「……え?」
蝉丸の目の前に、突然、光る文字が浮かんだ。
「出た!」
「マジかよ!」
「でも、なんも変わらないぜ」
どうやら、ステータス画面は本人にしか見えないらしい。
俺も慌てて試してみる。
「ステータスオープン!」
――パッ。
今度は俺の目の前にも、半透明の画面が現れた。
隣にいる蝉丸の画面は見えない。
俺の画面も、他の三人には見えていないようだった。
「本当に出るんだな……」
感動よりも、妙な現実感があった。
俺は画面をじっと見る。
【名前】佐藤 海斗
【年齢】29歳
【種族】人族
【レベル】1
【スキル】
・گەڕان بە ئینتەرنێت
・هەڵگرتن
・بەهێزکردنی جەستە
「……」
「海斗?」
「いや……」
スキル欄を見て、俺は首を傾げた。
「なんだこれ?」
見たことのない文字だった。
アルファベットでもない。
日本語でもない。
というか、俺にはまったく読めない。
「何て書いてあるの?」
唯衣に聞かれて、俺は正直に答える。
「……分からん」
「え?」
「文字化けしてるみたいな文字なんだよ」
「文字化け?」
「うん」
俺は画面を指差す。
「これとこれとこれ」
「ていうか、何も見えないから分からないね……」
「まあ、そうだよな」
もちろん、蝉丸の画面も俺には見えていない。
だから、俺が見せることもできない。
どうやら、ステータス画面そのものを他人に見せることはできないらしい。
ただ、スキル名を口頭で伝えることはできるようだった。
「とりあえず、俺のスキルは三つみたいだ」
「三つかぁ」
唯衣が少し羨ましそうに言う。
「私も見てみる!」
唯衣が目を閉じる。
「ステータスオープン!」
しばらくして、唯衣が声を上げた。
「出た!」
「どうだった?」
「えっとね……」
唯衣が読み上げる。
「幸運、テイム、身体強化!」
「……三つか」
「うん!」
幸運。
なんとなく、唯衣らしいスキルだと思った。
「テイムって、魔物とか仲間にできるやつかな?」
「たぶん」
「犬とか?」
「お前、犬好きだもんな」
「大好き!」
即答だった。
なんだか嫌な予感がする。
◇
「じゃあ、次は俺だな」
慎之助さんが手を上げる。
「ステータスオープン!」
少し間を置いてから、慎之助さんが画面を見る。
「おっ」
「どうでした?」
蝉丸が尋ねる。
「二つだな」
「何です?」
「危険察知と……『空気』」
「空気?」
「そう。空気」
「…………」
全員が微妙な顔をした。
「なんだよ、その反応!」
「いや、スキル名としてどうなんですか、それ」
蝉丸が苦笑する。
「知らねえよ! 俺だって知らねえよ!」
「でも『危険察知』は便利そうですね」
「だろ?」
慎之助さんは満足そうに頷いた。
「これで危ない女にも気づける!」
「そこですか?」
蝉丸が呆れる。
「そこだよ!」
「……まあ、慎之助さんらしいですね」
「だろ?」
なぜか胸を張る慎之助さん。
この人は異世界に来ても、たぶん変わらない。
◇
「では、最後は僕ですね」
蝉丸が眼鏡を直し、画面を見つめる。
「…………」
「どうした?」
俺が声をかける。
「いや……」
蝉丸が少し困ったような顔をした。
「これは……」
「?」
「多いですね」
「何が?」
「スキルです」
「……何個?」
「数えてみます」
蝉丸が読み上げ始める。
「錬金術」
「おお」
「魔力上昇」
「うん」
「状態異常耐性」
「……もう便利そうだな」
「分解、合成、生成、再構成、変成、抽出、鑑定、レシピ解析……」
「ちょっと待って」
俺が思わず止める。
「まだあるの?」
「あります」
「多くない?」
「……僕もそう思っています」
蝉丸が苦笑した。
そして続きを読み上げる。
「スキル付与、属性付与、魔法付与、収納、魔力操作向上」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙。
俺たちは顔を見合わせた。
「……多くね?」
慎之助さんが代表して言った。
「多いね」
唯衣も頷く。
「多いです」
俺も同意する。
「ですよね……」
蝉丸本人も困ったように頭を掻いた。
「一、二、三……」
唯衣が指を折りながら数え始める。
「……十六?」
「十六個ですね」
「いや、待って待って」
俺は思わず蝉丸を見る。
「俺、三つだぞ?」
「僕に言われましても……」
「しかも、なんか一個一個が強そうなんだけど」
「……確かに」
蝉丸自身も改めて自分のステータスを見直す。
【スキル】
・錬金術
・魔力上昇
・状態異常耐性
・分解
・合成
・生成
・再構成
・変成
・抽出
・鑑定
・レシピ解析
・スキル付与
・属性付与
・魔法付与
・収納
・魔力操作向上
「…………」
「…………」
「…………」
やっぱり多い。
というか、錬金術関連のスキルが多すぎる。
「これ……」
俺は画面を見ながら呟いた。
「蝉丸、お前ってもしかして、この世界に来るために作られた錬金術師じゃないか?」
「僕もそう思えてきました」
「チートじゃん」
「まだ何ができるのか分かりませんよ」
「でも十六個だぞ?」
「それは……そうですが」
蝉丸は困ったように笑った。
「まあ、せっかく貰ったものなら、使えるようにしてみます」
「前向きだな」
「こういうの、嫌いじゃないので」
眼鏡の奥の目が、少しだけ輝いている。
どうやら蝉丸は、俺たちの中で一番この異世界を楽しみ始めているらしい。
俺はもう一度、自分のステータスを見る。
三つのスキル。
その名前は、俺には読めない。
意味も分からない。
俺の中では、ただの文字化けだ。
少なくとも今は。
「……俺のスキル、役に立つのかな」
そう呟くと、蝉丸がこちらを見る。
「分かりませんよ」
「え?」
「スキル名だけでは、性能なんて分からないでしょう?」
「まあ……そうだけど」
「僕だって『再構成』とか『変成』とか、何ができるのかまだ分かりません」
蝉丸はそう言って笑った。
「だから、これから試していけばいいんじゃないですか?」
「……そうだな」
考えてみれば、その通りだ。
ここは俺たちが知らない世界。
常識も、魔法も、スキルも。
何もかも分からない。
だったら――。
自分のスキルが何なのか。
少しずつ確かめていけばいい。
「よし」
俺は立ち上がった。
「とりあえず、王都に行こう」
「おう!」
「はい!」
「酒はあるのかね?」
「そこから離れてください、慎之助さん」
こうして俺たちは、自分たちのスキルを確認した。
ただし、このときの俺はまだ知らなかった。
文字化けしていると思っていた俺のスキルが――。
この異世界で、とんでもない力を秘めていることを。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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