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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第1章 異世界転移とスローライフの始まり

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第02話 異世界の騎士と、まったく話が通じない俺たち

本日、3回目の投稿です。こんなに連投してもつかな?

「……異世界、ってことか?」

 俺がそう呟いてから、しばらくの間。

 誰も何も言わなかった。

 周囲には、俺たち四百八十八人のざわめきだけが広がっている。

 そして少し離れた場所には、馬に乗った騎士たち。

 俺たちと騎士たち。

 お互いに、お互いを警戒している。

 なんとも言えない空気だった。

「……あの」

 唯衣が小声で話しかけてきた。

「本当に異世界なんでしょうか?」

「分からない」

「ですよね」

「俺だって分かるなら教えてほしい」

「ですよねぇ……」

 そりゃそうだ。

 俺たちはついさっきまで飛行機に乗っていた。

 それが突然、光に包まれたと思ったら、こんな場所にいる。

 異世界だと言われても、はいそうですか、と納得できるわけがない。

「そもそも異世界って……」

 唯衣が空を見上げる。

「何をもって異世界なんでしょうね?」

「……哲学的な話になってきたな」

「ですよね」

「俺としては日本に帰れれば、異世界でも地球の裏側でも何でもいいんだけど」

「それはそうです」

 俺たちの会話を聞いていた慎之助さんが、口を挟んだ。

「まぁまぁ。とりあえず、生きてるだけマシじゃないか」

「慎之助さん、前向きですね」

「酒がないから、俺はまだ死んでるけどな」

「その話、まだ引っ張るんですか?」

「大事だぞ?」

「大事じゃないですよ」

 こんな状況でも、この人は平常運転だった。

 むしろ少し安心する。

 人間、緊張しすぎると何も考えられなくなる。

 こういう人が一人いるだけでも助かるものだ。

     ◇

「もう一度聞く」

 先ほどの騎士が口を開いた。

「お前たちは何者だ?」

 今度は、少しだけゆっくり話している。

 どうやら俺たちが混乱していることは理解しているらしい。

 俺は一歩前に出た。

「俺たちは日本人です」

「ニホンという国の者か?」

「そうです」

「この国の名は?」

「……この国?」

「そうだ」

 俺は答えに詰まった。

「俺たちは、この国を知りません」

「……?」

 騎士の眉が動いた。

「知らない?」

「はい」

「では、どこから来た?」

「日本からです」

「だから、その日本という場所はどこにある?」

「それが……」

 俺は空を見上げる。

「俺たちにも分からないんです」

 騎士の表情がさらに険しくなった。

 まあ、当然だろう。

 俺だって逆の立場なら警戒する。

 突然、知らない場所に巨大な物体が現れ、その周囲に数百人の見知らぬ人間がいる。

 しかも、誰も自分たちがどこから来たのか説明できない。

 怪しすぎる。

「では、あれは何だ?」

 騎士が飛行機を指差した。

「……飛行機です」

「ヒコーキ?」

「はい」

「何をするものだ?」

「空を飛びます」

「…………」

 騎士が黙った。

 後ろにいた別の騎士が小声で何かを話している。

「空を……?」

「翼があるようには見えるが……」

「鳥ほどの大きさではないぞ」

「そもそも、あのような大きなものが飛ぶのか?」

 聞こえてくる言葉に、俺は苦笑した。

 そりゃそうだ。

 飛行機を知らない人からすれば、あんな巨大なものが空を飛ぶなんて信じられないだろう。

「本当に飛ぶんですか?」

 唯衣が横から聞いてきた。

「飛ぶよ」

「いや、私たちは知ってますけど」

「……だよな」

 こんな当たり前の会話すら、今は妙にありがたい。

 少なくとも俺たちは、飛行機が何なのかを知っている。

 問題は――。

 ここがどこなのか。

 それだけだった。

     ◇

「少し待て」

 騎士の一人が馬に戻る。

 そして、仲間たちと何やら相談を始めた。

 その間、俺たちも状況確認を続けた。

「怪我人は?」

「軽傷者が何人かいます!」

「医療関係者は?」

「います!」

「水は?」

「機内の備蓄があります!」

 乗務員や乗客の中には、医師や看護師もいた。

 こういう状況では、それだけでもかなり心強い。

 幸い、食料や飲料水も飛行機に積まれている。

 ただし。

「これ、いつまで持つんだ?」

 誰かが呟いた。

「……分からない」

 別の誰かが答える。

 その言葉で、周囲の空気が一気に重くなった。

 そうだ。

 今は混乱しているから考えられていなかった。

 けれど。

 俺たちは遭難している。

 それも、普通の遭難じゃない。

 場所すら分からない。

 救助を呼ぶこともできない。

 飛行機もあるが、滑走路がない。

 スマートフォンも使えない。

 そして、周囲には見たことのない世界が広がっている。

「……これ、かなりヤバくないか?」

 慎之助さんが珍しく真面目な顔をした。

「そうですね」

 俺も頷く。

「でも、今できることを考えないと」

「おう」

 慎之助さんが周囲を見渡す。

「とりあえず、水と食料の確保だな」

「それと安全な場所」

「あと酒」

「最後のだけ却下で」

「なんでだよ!」

「この状況で酒を優先したら怒られますよ」

「ちっ」

 舌打ちされた。

 そこまで飲みたいのか。

     ◇

 しばらくして。

 騎士たちの話し合いが終わったようだった。

 先ほどの騎士がこちらへ戻ってくる。

「我々はペーリンド王国の騎士だ」

「ペーリンド王国……」

 初めて聞く名前だった。

「ここはペーリンド王国の領土なのですか?」

 俺が尋ねる。

「そうだ」

 やはり。

 地球上の国ではない。

 俺は心の中で、ほぼ確信した。

「我々は、この近くで大きな音を聞いた」

「音?」

「ああ」

 騎士は周囲を見回した。

「地面が揺れるほどの音だった」

「……転移したときの?」

「たぶん、それでしょうね」

 唯衣が小声で言った。

 俺も頷く。

 どうやら俺たちがこの場所に現れたときの衝撃は、かなり大きかったらしい。

「それで調査に来た」

「なるほど」

「だが、我々にも何が起きたのか分からない」

 騎士は正直に言った。

「……分からない?」

「ああ」

 その答えに、俺は少し驚いた。

 てっきり、この世界には転移を研究している人間でもいるのかと思っていた。

 だが違うらしい。

 少なくとも、この騎士たちは何も知らない。

「このような大人数が突然現れたことも、あの巨大な乗り物も、我々には初めて見るものだ」

 騎士は飛行機を見る。

「だからこそ、王都へ報告する必要がある」

「王都……」

「そうだ」

 その言葉を聞いた瞬間。

 俺の中で、一つの問題が浮かび上がった。

「……俺たちは、どうなるんですか?」

「それは、王都で決めることになる」

「拘束されるんですか?」

「違う」

 騎士は首を横に振った。

「お前たちが何者なのか分からない以上、事情を確認する必要があるだけだ」

 少なくとも、敵意はなさそうだった。

 そのことに少しだけ安心する。

「ただし」

 騎士が続ける。

「あれを含め、こちらに危険を及ぼす可能性のあるものについては、勝手に動かさないでほしい」

「あれ?」

「飛行機だ」

「ああ……」

 俺は飛行機を見る。

「分かりました」

 正直、飛行機をどうこうできる状況でもない。

     ◇

 しかし、ここで問題が発生した。

「王都へ行くって……」

 誰かが呟く。

「歩くの?」

「……たぶん」

「四百八十八人で?」

「…………」

 全員が黙った。

 そりゃそうだ。

 王都がどれくらい離れているのかも分からない。

 この人数で歩いていけるのか。

 食料は?

 水は?

 怪我人は?

 高齢者は?

 子供は?

 問題が山積みだ。

 すると騎士が言った。

「まずは近くの町へ移動する」

「町があるんですか?」

「ああ。ここから数時間ほどだ」

「数時間……」

 歩けない距離ではない。

 とはいえ、四百八十八人。

 かなりの大移動になる。

「我々が先導する」

 騎士が続けた。

「途中で危険な場所もある。勝手に離れないようにしてほしい」

「危険……?」

 その言葉に、俺は反応した。

「何がいるんですか?」

「魔物だ」

「……魔物?」

 その単語を聞いた瞬間。

 俺の中で、嫌な予感がさらに強くなった。

 魔物。

 そんなものが普通に存在する世界なのか?

 俺が黙っていると、唯衣が小さく口を開いた。

「海斗さん……」

「うん」

「やっぱり、異世界なんですかね?」

「……たぶんな」

 もう否定する材料がない。

 王国。

 騎士。

 魔物。

 そして見知らぬ世界。

 俺はため息をついた。

「まいったな……」

 慎之助さんが肩を叩く。

「まあ、いいじゃねえか」

「何がです?」

「異世界なら異世界で」

「そんな簡単に……」

「だってよ」

 慎之助さんはニヤリと笑った。

「異世界って言ったら、魔法とかあるんだろ?」

「……まあ」

「だったら、一回くらい見てみたいじゃねえか」

「慎之助さん……」

「それに」

 慎之助さんが真剣な顔をする。

「俺は帰れるなら帰りたいけどな」

「……ですよね」

 その言葉だけは、妙に胸に残った。

 異世界だろうが何だろうが。

 俺たちには帰る場所がある。

 家族がいる。

 友人がいる。

 仕事を辞めたばかりとはいえ、俺にも日本での生活があった。

 だから。

「……帰る方法を探しましょう」

 俺が言う。

 唯衣が頷く。

 慎之助さんも頷いた。

「おう」

 そのとき。

 少し離れた場所から、声がした。

「佐藤さん!」

「ん?」

 振り返る。

 そこには、眼鏡をかけた細身の青年が立っていた。

「……真田さん?」

「はい」

 飛行機の中で少しだけ話した男だ。

 真田蝉丸。

 彼もまた、こちらへ歩いてきた。

「皆さん、王都へ移動するそうですよ」

「ああ」

「それなら、僕も一緒に行っていいですか?」

「もちろん」

 こうして。

 後に俺たちの生活を大きく変えることになる四人が、少しずつ集まり始めていた。

 ただし。

 この時点では、まだ誰も知らない。

 俺たちがこの世界で何を得るのか。

 どんな力を持つのか。

 そして――。

 この「異世界転移」が、一体なぜ起きたのか。

 その答えを。

 俺たちは、まだ何も知らなかった。

いつも読んでいただきありがとうございます。


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