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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第1章 異世界転移とスローライフの始まり

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第36話 浄化槽づくりは試行錯誤! ……スライムを増やしたいのに、まさかの上限?

 翌朝。

 俺たちは、昨日森から持ち帰った魔物素材を前にしていた。

 グレイウルフの骨。

 角ネズミの骨。

 岩甲虫の外殻。

 どれも、浄化槽づくりに使える可能性がある素材だ。

 ただし、可能性があるというだけで、実際に使えるかどうかは別問題。

「まずは、洗浄と状態確認からだな」

 俺が言うと、蝉丸が頷いた。

「はい。汚れを落としたうえで、ひび割れや腐食がないか確認しましょう。特に骨は、古くなっているものもありますからね」

「錬金術で加工するのは、そのあとか」

「そうですね。加工前の状態を調べておかないと、何を変えた結果、強度が上がったのか分からなくなります」

「なるほど。最初から全部加工するのは駄目ってことか」

「比較対象がなくなりますからね」

 さすが蝉丸。

 こういう実験となると、本当に頼りになる。

 俺たちは素材を一つずつ洗い、布で水気を拭き取りながら確認していった。

 グレイウルフの骨は、見た目以上にしっかりしている。

 ただし、長く水に触れさせたときにどうなるかは分からない。

 角ネズミの骨は細く、短い配管の試作品に向いていそうだった。

 岩甲虫の外殻は硬く、形の合う部分なら、そのまま槽の一部や補強材として使えるかもしれない。

「この外殻、かなり丈夫ですね」

 蝉丸が指先で軽く叩く。

「ただ、曲面になっていますし、接合部分をどうするかが問題です。形が合わない部分は錬金術で加工する必要がありそうですね」

「全部を加工するんじゃなくて、必要な部分だけか」

「ええ。その方が素材の性質を損なわずに済む可能性もあります」

「よし。じゃあ、まずは骨で短い管を作ってみよう」

 俺たちは、比較的状態の良い骨を選び、試作品づくりに取りかかった。

 俺がインターネット検索で調べた配管の基本構造を参考にしながら、蝉丸が錬金術で形を整えていく。

 骨そのものを削って使える部分はそのまま利用し、接続部分だけを加工する。

 岩甲虫の外殻も、形の合う部分を選び、加工したものと加工していないものを分けておいた。

「……できた」

 しばらくして、短い骨製の管が完成した。

「思ったより、それらしい形になりましたね」

 蝉丸が満足そうに眺める。

「問題は、ちゃんと水が通るかどうかだな」

 俺は管の片側から少量の水を流した。

 水は反対側から出てきた。

 接合部分から漏れる様子もない。

「おお、成功か?」

「まだ早いですよ」

 蝉丸がすぐに釘を刺した。

「今は短時間、水を通しただけです。長時間放置した場合や、繰り返し使用した場合の耐久性は分かりません」

「分かってる。まずは第一段階ってことだな」

「はい」

 俺たちは試作品を記録し、次に岩甲虫の外殻を使った接合部の実験に取りかかった。

 こちらも、ひとまず水が漏れない形にはできた。

 ただし、強い力をかけた場合にどうなるか、長期間使えるかどうかは、これから調べる必要がある。

 浄化槽本体も、同じように少しずつ形にしていくしかない。

 急いで完成させるより、失敗を記録しながら確実に進める方がいいだろう。

 ……それにしても。

「海斗さん」

「ん?」

「ひとつ、気になることがあります」

 蝉丸が試作品から目を離した。

「浄化槽の構造そのものは、少しずつ形にできそうです。ただ、肝心のスライムによる処理については、まだ何も分かっていません」

「ああ……」

 俺は頷いた。

 そもそも、今回の浄化槽づくりで一番の未知数はそこだ。

 プルルが泥を集めるような動きを見せたことはある。

 だが、排水に含まれる汚れをどの程度処理できるのかは分からない。

「プルル一匹だけだと、処理能力が足りない可能性もありますね」

「やっぱりそう思うか?」

「ええ。仮に、プルルに何らかの浄化作用があるとしても、家から出る排水を一匹だけで処理できるとは限りません」

 俺は腕を組んだ。

 確かに、その通りだ。

 浄化槽は一度作れば終わりというものではない。

 毎日、台所や風呂、洗面所などから排水が出る。

 もちろん、トイレの排水はさらに慎重に扱わなければならない。

 プルル一匹に頼るだけでは、処理が追いつかない可能性がある。

「……だったら、数を増やしてみるか」

「数を、ですか?」

「そう。プルルの仲間を増やすんだ。できれば十匹くらい」

 俺がそう言うと、唯衣が勢いよく振り返った。

「十匹!?」

「うん。もちろん、テイムできるならだけどな」

「スライムが十匹……!」

 唯衣の目が輝いた。

「プルルのお友達がいっぱいできるってこと?」

「まあ、そういうことになるな」

「いいね! 絶対に可愛いよ!」

「いや、可愛いかどうかはともかく、目的は浄化槽の実験だからな?」

「分かってるよ!」

 唯衣は笑顔で頷いた。

 ……本当に分かっているのだろうか。

 いや、プルルを大切にしているのは知っている。

 だからこそ、仲間が増えること自体は嬉しいのだろう。

「ただ、スライムを増やすなら、先に確認したいことがあります」

 蝉丸が言った。

「何だ?」

「テイムできる数に上限があるのかどうかです」

「ああ、そういえば……」

 唯衣は以前、プルルの状態を確認したときに、従魔の情報が表示されることに気づいていた。

 レベルの表示もあった。

 ただ、テイムできる数については、まだ調べていない。

「唯衣、今の状態を確認できるか?」

「うん。やってみるね」

 唯衣はプルルをそっと抱き上げ、意識を集中させた。

 しばらくして。

「……あれ?」

「どうした?」

「自分の状態を確認するところに、従魔の情報があるでしょ?」

「ああ」

「そこに、なんか見慣れない表示が出てる」

 俺たちは顔を見合わせた。

「どんな表示だ?」

「えっと……」

 唯衣は表示を確かめるように目を動かした。

「従魔数……現在一匹。上限五匹、って書いてある」

「……五匹?」

 思わず聞き返してしまった。

「うん。現在のレベルでは、全部で五匹までみたい」

「十匹どころか、半分か」

 慎之助が腕を組んだ。

「まあ、上限があるのは仕方ないかもしれんな」

「でも、どうして五匹なんでしょう?」

 蝉丸が考え込む。

「レベルによって上限が変わるのか、それともテイムのスキル自体に制限があるのか……。今の表示だけでは分かりませんね」

「レベルが上がれば増える可能性はあるけど、確定じゃないってことか」

「はい。今は五匹が上限だと考えておくのがよさそうです」

 俺は頷いた。

 いずれにしても、今の唯衣がテイムできるのは、プルルを含めて最大五匹。

 新しく仲間にできるのは、あと四匹ということになる。

「じゃあ、あと四匹だね!」

 唯衣がプルルを見つめた。

「プルル、お友達を探しに行こうね!」

 プルルは、ぷるん、と身体を揺らした。

 ……相変わらず、何を考えているのかは分からない。

 ただ、唯衣が嬉しそうなのは確かだった。

「でも、無理に捕まえるのは駄目だぞ」

 俺は念を押した。

「テイムするなら、相手の様子をよく見て、危険がないか確認してからだ。仲間にしたあとも、きちんと世話をしないとな」

「分かってるよ。プルルと同じように、大事にするから」

 唯衣は真剣な表情で頷いた。

 その言葉を聞いて、俺は少し安心した。

 スライムを増やすのは、単に数をそろえればいいという話ではない。

 それぞれに意思があるのかもしれないし、性質も違うかもしれない。

 まずは、仲間になってくれる個体を探すことからだ。

「よし。じゃあ、次はスライム探しだな」

「森に行くんですか?」

 蝉丸が聞いた。

「ああ。ペローに案内してもらえれば、スライムがいそうな場所も分かるかもしれない」

「なら、俺も付き合おう」

 作業場所の入口から声がした。

 振り返ると、ペローが立っていた。

「また森に行くのか?」

「ああ。今度はスライムを探したいんだ。浄化槽の実験に協力してくれる仲間が増えればと思ってな」

「なるほど。スライムなら、水辺や湿った場所で見かけることがある。ただ、種類によって生息場所が違うから、必ず見つかるとは限らないぞ」

「それでも十分だ。案内を頼めるか?」

「もちろんだ」

 ペローが頷く。

 唯衣は嬉しそうに笑った。

「ありがとう、ペロー!」

「気にするな。俺も世話になった身だからな」

 その言葉に、俺は改めて頭を下げた。

「助かる。いつもありがとう」

「大げさだな」

 ペローは照れくさそうに視線を逸らした。

 その様子を見て、唯衣が小さく笑う。

「ペローって、優しいよね」

「……そうか?」

「うん!」

 ペローの耳が、ぴくりと動いた。

 ……まただ。

 最近、この二人のやり取りを見ていると、妙に微笑ましい気持ちになる。

 慎之助も、隣でにやにやしていた。

「いやぁ、若いっていいなぁ」

「慎之助さん、聞こえてますよ」

「聞こえるように言ったんだが?」

「堂々と言わないでください」

 蝉丸が小さくため息をついた。

「それより、スライム探しの前に、今作っている試作品の記録を整理しておきましょう。素材の状態と加工方法を記録しておけば、次の実験に役立ちます」

「そうだな」

 俺は頷いた。

 浄化槽の完成には、まだ時間がかかりそうだ。

 配管の耐久性。

 槽の構造。

 スライムの性質。

 そして、処理した水が本当に安全かどうか。

 確かめなければならないことは多い。

 それでも、一つずつ進めていけば、いつかは形になるはずだ。

 まずは、素材の試験を続ける。

 そして、唯衣のテイム上限である五匹まで、仲間になってくれるスライムを探してみる。

「よし。今日は試作品の確認を終わらせよう。スライム探しは、そのあとだ」

「賛成!」

 唯衣が元気よく返事をした。

 プルルも、まるで同意するようにぷるんと揺れる。

 こうして、浄化槽づくりは新たな段階へと進み始めた。

 ……ただし。

 スライムを十匹集めるつもりだった俺たちの計画は、唯衣のテイム上限という思わぬ壁にぶつかることになったのだった。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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