第26話 基礎造りと水問題! ……蛇口をひねれば水が出る生活が恋しい
翌朝。
「……さて」
俺は、目の前に広がる土地を見渡した。
昨日は木材の加工を中心に作業を進めた。
蝉丸の錬金術のおかげで、丸太はかなりきれいに整っている。
俺のインターネット検索も、家造りに必要な知識を調べるうえで大活躍していた。
だが、家を建てるには、まだまだやることがある。
「今日は基礎造りだな」
「基礎って、家の土台になる部分ですよね?」
隣に立つ唯衣が尋ねた。
「ああ。ここを適当に作ると、家が傾いたり、雨が降ったときに困ったりするからな」
「なるほど……」
唯衣は地面を見下ろした。
「じゃあ、しっかり作らないとね!」
「そういうこと」
俺は頷き、頭の中でインターネット検索を起動した。
今回調べるのは、丸太小屋の基礎。
ただし、現代日本の住宅と同じ方法をそのまま使うわけにはいかない。
コンクリートも鉄筋も、ここでは簡単に手に入らないからだ。
材料がないなら、あるもので工夫するしかない。
検索結果を確認しながら、俺は使えそうな方法を探した。
「……石を使った基礎か」
「石ですか?」
蝉丸が近づいてきた。
「ああ。地面を整えて、適した大きさの石を配置する方法があるみたいだ。木材が直接地面に触れるのを避ければ、腐りにくくなる」
「なるほど。木材の耐久性を考えるなら、重要ですね」
「ただ、石を適当に並べればいいってわけでもない。地面の状態を確認して、安定するように配置する必要がある」
俺たちは、まず建物を建てる範囲の地面を整えることにした。
石を運び、土をならし、地面の高さを確認する。
身体能力強化のおかげで、重い石を運ぶ作業も以前より楽になった。
とはいえ、楽になっただけで、疲れないわけではない。
「ふう……」
俺は額の汗を拭った。
「やっぱり、基礎造りは地味に大変だな」
「海斗君、無理はするなよ」
慎之助さんが大きな石を抱えてやってきた。
「そっちこそ、重いものを持ちすぎないでくださいね」
「心配するな。俺はこう見えても力持ちだ」
「それは昨日、十分に分かりました」
「だろう?」
慎之助さんは満足そうに笑う。
「ところで海斗君」
「はい?」
「この石、もう少し大きい方がいいんじゃないか?」
「……ええと」
俺は石を確認し、検索結果を思い出す。
「大きさだけじゃなくて、形や安定性も大事みたいです。大きすぎる石を無理に使うより、安定して置ける石を選んだ方がいい場合もあります」
「なるほど。つまり、でかければいいってもんじゃないんだな」
「そういうことです」
「よし。じゃあ、こいつはどうだ!」
慎之助さんが、先ほどより一回り大きな石を指差した。
「……慎之助さん」
「なんだ?」
「話を聞いてました?」
「聞いてたぞ!」
「本当ですか?」
「大きさだけじゃない。形も大事!」
「分かっているなら、どうして大きい石ばかり選ぶんですか」
「男のロマンだ!」
「基礎造りにロマンを持ち込まないでください」
蝉丸の冷静なツッコミが飛んだ。
唯衣は笑いながら、小さな石を集めている。
「これくらいなら使える?」
「うん。形を見て選んでくれると助かる」
「分かった!」
こうして、それぞれが役割を分担しながら作業を進めた。
石の配置を確認し、地面の状態を見直し、必要に応じて修正する。
インターネット検索で知識を得られるとはいえ、実際の土地の状態は、自分たちの目で確かめなければならない。
そこを忘れてはいけない。
そして、昼前。
「……よし。ひとまず、ここまでだな」
俺は作業を止め、基礎の状態を確認した。
まだ完成ではない。
建物の重さを支えられるか、地面が沈まないかなど、慎重に確認する必要がある。
だが、何もなかった土地に、少しずつ家の形が見え始めていた。
「なんだか、家を建ててるって実感が湧いてきたね」
唯衣が嬉しそうに言った。
「ああ」
俺も頷く。
「昨日までは、木を集めて加工するだけだったからな」
「この調子なら、意外と早く完成するかもしれませんね」
蝉丸が言った。
「問題は屋根と水回りだな」
俺はそう答えた。
そして、その言葉を口にした瞬間。
あることを思い出した。
「……そうだ。水だ」
「水?」
唯衣が首を傾げる。
「ああ。水場は近くにあるけど、毎回川まで汲みに行く生活は大変だろ?」
「確かに……」
唯衣の表情が変わった。
「料理をするときも、お風呂に入るときも必要だもんね」
「そう。飲み水だけじゃない。洗濯や掃除にも使う」
俺は腕を組んだ。
現代日本なら、蛇口をひねれば水が出る。
当たり前すぎて、普段は意識もしない。
だが、この世界では違う。
水を使うたびに、誰かが汲んで運ばなければならないのだ。
「……やっぱり、井戸が必要かな」
「井戸なら、村にもありますよね」
蝉丸が言った。
「ああ。ただ、ここから村の井戸まで毎回水を運ぶのは面倒だ。自分たちの土地に井戸を作れれば便利なんだけど……」
「掘れば水が出るんですか?」
唯衣が尋ねる。
「それが分からないんだよな」
俺は正直に答えた。
井戸は、ただ地面を掘ればいいというものではない。
水脈の位置もあるし、周囲の衛生環境も考えなければならない。
特に、トイレや汚水を処理する場所との距離は重要だ。
せっかく水を確保しても、汚染されてしまっては意味がない。
「……村長さんに相談してみるか」
「それが一番ですね」
蝉丸が頷いた。
◇ ◇ ◇
昼食を済ませた俺たちは、村長の家を訪ねた。
「井戸を作りたい、ですか?」
「はい。家の近くに水場があれば、生活がかなり楽になると思いまして」
俺が説明すると、村長は顎に手を当てて考え込んだ。
「確かに、この辺りなら井戸を作れる可能性はあります。ただし、水が出る場所を見極める必要がありますな」
「やっぱり、簡単ではないんですね」
「ええ。土地によって違いますからな。村の井戸も、昔の者たちが何度も場所を調べて、ようやく見つけたものです」
「なるほど……」
「よろしければ、井戸掘りを知っている者を紹介しましょう。実際に地面を調べてもらうのがよいでしょう」
「本当ですか? ありがとうございます!」
思わず頭を下げた。
やはり、地元の人の知識は重要だ。
インターネット検索で一般的な知識を調べることはできる。
しかし、この土地にどれだけの水があるのか、どこを掘ればいいのかまでは、実際に調査しなければ分からない。
その後、村長は井戸掘りを知る村人に声を掛けてくれることになった。
「これで、水の問題も少し前進したな」
村長の家を出て、俺はほっと息を吐いた。
「よかったですね!」
唯衣が笑う。
「うん。あとは水をどうやって家まで運ぶかだな」
「そこまで考えているんですか?」
「もちろん。せっかく井戸を作るなら、できるだけ便利にしたいだろ?」
俺はそう言いながら、頭の中でインターネット検索を起動した。
井戸から水を汲む方法。
手押しポンプ。
水を高い場所へ運ぶ仕組み。
配管。
いくつもの情報が浮かび上がる。
「……おお」
思わず声が漏れた。
「どうしたんですか、海斗さん?」
「水を汲む仕組みも、いろいろあるみたいだ」
「魔法を使うんですか?」
「いや、魔法を使わなくてもできる方法がある。もちろん、魔法が使えれば選択肢は増えるだろうけど」
例えば、手押しポンプ。
人力で水をくみ上げる仕組みなら、この世界でも工夫次第で作れるかもしれない。
ただし、部品の精度や材料の問題もある。
俺が知識を得たからといって、すぐに完成するわけではない。
「蝉丸。錬金術で、金属の部品を作ったり加工したりできるか?」
「素材と形状によりますね。試してみないと断言はできませんが、加工自体は可能かもしれません」
「そうか。じゃあ、井戸の調査が終わったら相談しよう」
「分かりました」
蝉丸は真剣な顔で頷いた。
この世界には、現代日本にはない技術がある。
魔法があり、スキルがあり、錬金術がある。
それらを組み合わせれば、現代の道具を完全に再現できなくても、似たような便利さを実現できるかもしれない。
そう考えると、少し楽しくなってきた。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
俺たちは作業場へ戻り、翌日の予定を確認していた。
「明日は井戸の場所を調べてもらうとして、こっちは基礎造りの続きを進めよう」
「分かりました」
蝉丸が頷く。
「木材の加工も続けます。必要な寸法が決まれば、まとめて処理できますから」
「助かる」
「私は何をすればいい?」
唯衣が尋ねた。
「唯衣は、道具や材料の整理を頼めるか? それと、村の人に必要なものを聞いてきてくれると助かる」
「任せて!」
唯衣が元気よく答えた。
「慎之助さんは、引き続き運搬をお願いします」
「了解!」
慎之助さんは胸を張った。
「そして、俺は――」
「海斗さんは検索ですね」
蝉丸が先回りして言った。
「……まあ、そうなるな」
「便利なスキルですからね」
「便利すぎて、逆に使いどころを考えないといけないけどな」
何でも検索できる。
そう聞くと万能に思えるが、実際にはそうでもない。
情報が多すぎれば、どれを選べばいいのか迷う。
現地の材料や技術が違えば、そのまま使えない知識もある。
だからこそ、調べた情報を自分たちの状況に合わせて判断する必要がある。
「……まあ、焦らずやっていこう」
俺は空を見上げた。
夕日が山の向こうへ沈みかけている。
日本にいた頃なら、仕事を終えて家に帰る時間だった。
明日の仕事を気にしながら食事をして、風呂に入って、眠る。
そんな毎日を送っていた。
だが、今は違う。
自分たちが住む家を、自分たちの手で作っている。
不便なことは多い。
大変なことも多い。
それでも――。
「……悪くないな」
自然と笑みがこぼれた。
「海斗さん、何か言いました?」
「いや。何でもない」
「怪しいですね」
「怪しくないって」
唯衣が笑い、慎之助さんが大きく伸びをする。
「よし! 今日はここまでにして、飯にしよう!」
「賛成です!」
蝉丸も頷いた。
「……その前に、道具を片付けましょうね」
「分かってる、分かってる」
慎之助さんはそう言いながら、手近な道具を片付け始めた。
俺たちは協力して作業場を整理し、テントへ戻った。
夕食を囲みながら、明日の予定を話し合う。
基礎造り。
木材加工。
井戸の調査。
そして、いつかは風呂とトイレも整えたい。
やるべきことは、まだまだたくさんある。
けれど、少しずつ前に進んでいる。
それが嬉しかった。
こうして、異世界での2日目の家造りも終わった。
明日は、いよいよ水の確保に向けて動き出す。
……もっとも。
俺たちが作ろうとしている家が、ただの丸太小屋で終わるのか。
それとも、この世界では見たこともないほど快適な家になるのか。
それは、まだ誰にも分からない。
ただ1つ確かなのは――。
「……やっぱり、トイレと風呂は譲れないよな」
寝袋に潜り込みながら呟いた俺の言葉に。
「「「それは絶対!」」」
隣のテントから、3人の声が返ってきた。
……どうやら、意見は一致しているらしい。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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