第25話 家造り再開! ……インターネット検索、便利すぎないか?
翌朝。
「よし! 今日から本格的に家造りを再開するぞ!」
俺はテントの前で、勢いよく宣言した。
「おー!」
唯衣が元気よく手を挙げる。
「待ってました!」
慎之助さんも拳を握った。
「ようやく酒を安心して保管できる場所ができるんだな!」
「いや、家造りの目的が違いませんか?」
蝉丸が眼鏡を押し上げる。
「違わないぞ。酒の保管場所は生活の質に直結する」
「それなら、まずは普通の生活空間を確保しましょう」
「むう……」
慎之助さんは不満そうに唸った。
俺は苦笑しながら、昨日までに集めた木材へ目を向ける。
昨日はスキルの検証に時間を使ったが、得られたものは大きかった。
俺のストレージは、収納した物の時間を止められる可能性が高い。
一方、蝉丸の収納では時間が経過する。
その代わり、蝉丸は収納の中に入れた木材に錬金術を使える。
さらに、慎之助さんの危険察知と空気、唯衣のテイムや幸運も、使い方次第では役に立つかもしれない。
問題は――。
「具体的に、どう使えばいいかだよな」
「そこは海斗さんのスキルに期待しています」
蝉丸がさらりと言った。
「俺の?」
「昨日、インターネット検索が使えると分かったじゃないですか」
「まあ、そうだけど」
「分からないことを調べられるなら、家造りの方法だって調べられるでしょう?」
「……確かに」
言われてみれば、その通りだ。
俺は昨日、スキルの使い方を確認しただけで、実際の家造りに活用するところまでは試していなかった。
せっかく使えるようになったのだから、もっと活用しないともったいない。
「よし。まずは家の構造から調べてみるか」
俺は目を閉じ、頭の中に浮かぶ検索画面を意識した。
昨日と同じ、半透明の文字列。
そこへ、検索したい言葉を思い浮かべる。
――丸太小屋の建て方。基礎。柱。屋根。
すると。
『検索結果を表示します』
「おっ!」
頭の中に、いくつもの情報が流れ込んできた。
丸太を組み合わせる方法。
建物の基礎を作る手順。
雨水を逃がすための土地の整え方。
屋根の傾斜や、雨漏りを防ぐ工夫。
さらに、必要な道具や材料まで。
「……すごいな」
思わず声が漏れた。
単純に知識を文章で読むだけではない。
図解や手順を含めて、必要な情報を整理して確認できる。
これなら、素人の俺でも作業の見通しを立てられそうだ。
「海斗さん、何か分かりました?」
唯衣が覗き込んでくる。
「うん。まずは地面を整えて、建物の基礎を作る。それから壁と屋根だな」
「基礎って、石を並べるんですか?」
「それも方法の一つみたいだ。ただ、地面の状態によって適した方法が違うらしい」
俺は検索結果を確認しながら、土地の状態についても調べた。
ここは緩やかな斜面にある。
すぐ近くには小川が流れているが、だからといって川の近くに家を建てればいいわけではない。
大雨が降ったときの水の流れも考える必要がある。
「……なるほど。家を建てる場所を少し調整した方がよさそうだ」
「それなら、先に地面を確認しましょう」
蝉丸が頷く。
「水が流れ込む場所や、ぬかるみやすい場所を避けるべきですね」
「そうだな」
俺たちは土地を歩き回り、地面の傾きや水はけを確認した。
村長からも、この辺りの雨の降り方や、過去に水が溜まった場所について話を聞く。
その結果、予定していた場所を少しだけ移動することにした。
家を建てる前に気づけてよかった。
何も考えずに建て始めていたら、後から大変なことになっていたかもしれない。
「よし。場所はここでいこう」
俺が決めると、唯衣が周囲を見回した。
「前より少し高い場所だね」
「雨が降ったときのことを考えると、その方がいいらしい」
「なるほど!」
「じゃあ、次は材料の加工ですね」
蝉丸が木材を見た。
「ここからは僕の出番です」
「頼むぞ、蝉丸」
「任せてください」
蝉丸は木材のそばに立つと、収納の中へ必要な丸太を入れた。
それから、昨日と同じように錬金術を発動させる。
淡い光が、彼の手元に集まった。
しばらくすると――。
「できました」
取り出された丸太は、表面が滑らかに整えられていた。
「おおっ!」
唯衣が目を輝かせる。
「すごい! 昨日よりきれいじゃない?」
「寸法をそろえて、表面も整えました。もっと細かく調整することもできます」
蝉丸が得意げに胸を張る。
「これなら、組み合わせるときの隙間も減らせるはずです」
「普通なら、木を削って形をそろえるだけでも相当な手間がかかるからな」
俺は加工された丸太を手に取った。
表面に触れると、ささくれもほとんどない。
これを人力で仕上げようとしたら、何日かかることやら。
「……蝉丸、お前、家造りに関しては相当な戦力だな」
「家造りに関しては、ですか?」
「いや、もちろん普段から頼りにしてるぞ?」
「今、付け足しましたよね?」
「気のせいだ」
「絶対に気のせいじゃないです」
そんなやり取りをしながら、作業を進めていく。
俺はインターネット検索で調べた手順を確認し、丸太の長さや組み方を指示する。
蝉丸は錬金術で材料を加工する。
慎之助さんは加工済みの木材を運び、唯衣は小さな枝や道具を集めて整理する。
俺も身体能力強化を使いながら、重い丸太を持ち上げた。
「……おお」
思ったより軽い。
いや、正確には丸太が軽くなったわけではない。
俺の身体が、以前よりずっと力を発揮できるようになっているのだ。
「これなら、運搬もかなり楽になるな」
「海斗君、そっちの丸太を頼む!」
「はい!」
慎之助さんと協力して、丸太を所定の場所へ運ぶ。
そして、加工が済んだ材料は、必要に応じて俺のストレージに収納していく。
これなら、作業場所が木材で埋め尽くされることもない。
しかも、収納した木材が雨に濡れる心配もない。
「……待てよ」
俺はふと思いついた。
「蝉丸。錬金術で、木材以外も加工できるのか?」
「素材によりますが、できるものもあると思います」
「石とか?」
「試してみないと何とも言えませんね。ただ、錬金術は素材の性質を変えたり、形を整えたりするのが得意なようです」
「なるほど……」
もし石材も加工できるなら、基礎造りがもっと楽になるかもしれない。
ただし、何でもできるわけではないだろう。
魔力の消費もあるし、素材によっては失敗する可能性もある。
「じゃあ、木材の加工が一段落したら、石でも試してみよう」
「分かりました」
俺たちは、まず目の前の作業を進めることにした。
昼頃には、4軒分の建物に使う丸太の一部が、きれいに加工された状態で並んでいた。
まだ壁も屋根もない。
だが、昨日まではただの木材の山だったものが、少しずつ建材へと変わり始めている。
「……なんだか、本当に家が建ちそうだな」
俺が呟くと、唯衣が嬉しそうに頷いた。
「うん! 楽しみ!」
「俺は楽しみというより、早く屋根のある場所で酒を飲みたい」
慎之助さんが真顔で言った。
「テントでも飲めるでしょう」
「違うんだよ、蝉丸君。自分の家で飲む酒には、特別な味があるんだ」
「それは家が完成してから確認してください」
「むう……」
慎之助さんは腕を組み、しばらく考え込んだ。
「よし。家が完成したら、俺は酒造りを始める」
「急に話が飛びましたね」
「いや、ずっと考えていたんだ。こっちの世界の酒は、どうにも選択肢が少ない」
「ワインやエールはあるじゃないですか」
「ある。でも、俺が飲みたい酒は、まだない!」
力強い宣言だった。
……まあ、気持ちは分からなくもない。
俺だって、日本にいた頃に当たり前に使っていた道具や食べ物が恋しい。
それに、インターネット検索が使えるなら、酒造りについても調べられるかもしれない。
「酒造りの情報も、後で調べてみるか」
「本当か、海斗君!」
慎之助さんが食いついた。
「まだできると決まったわけじゃないですよ。材料も設備も必要ですし、法律や衛生面の問題もあります」
「分かってる、分かってる!」
「その顔は分かっていませんね」
「大丈夫だ。俺は真面目にやる!」
「……その言葉、忘れないでくださいね」
蝉丸がため息をつく。
唯衣はそんな俺たちを見て、楽しそうに笑っていた。
こうして、家造りの初日は順調に進んでいった。
もちろん、まだ課題は山積みだ。
基礎をどう作るか。
屋根をどんな材料で葺くか。
水をどう確保するか。
そして、あの最優先事項――トイレをどうするか。
だが、昨日までと違って、今は調べる手段がある。
試す手段もある。
仲間のスキルもある。
「……よし」
俺は加工された丸太を見渡した。
「明日は基礎造りから始めよう」
「賛成!」
「異論ありません」
「その後は酒造りの相談だな!」
「それは家ができてからです!」
蝉丸のツッコミが、辺境の空に響いた。
俺たちの異世界スローライフ。
その第一歩は、少しずつ形になり始めていた。
そして俺は、まだ知らない。
家を快適にするために調べた知識が、いずれ家造りだけでは収まらなくなることを。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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