第22話 家造り開始! ……そして、俺のスキルが動き出す
翌朝。
俺たちは、村の外れにある土地へ集まっていた。
「よし。今日から本格的に家造りを始めよう」
俺がそう宣言すると、3人がそれぞれ頷いた。
「おー!」
唯衣が元気よく手を挙げる。
「まずは可愛い家を建てたい!」
「俺は酒を保管できる場所が欲しいな」
慎之助さんが真剣な顔で言った。
「いや、まだ酒の話をする段階じゃないでしょう」
「何を言う。住居に酒の保管場所は必要不可欠だ」
「その必要性は人によると思います」
蝉丸が眼鏡を押し上げる。
「私は作業机と本棚が欲しいですね。錬金術の道具も置きたいですし」
「なるほど。じゃあ、やっぱり4軒別々に建てるのがよさそうだな」
「4軒も建てるんですか?」
唯衣が目を丸くした。
「そのつもりだけど?」
「いや、みんなで1軒の大きな家に住むのかと思ってた」
「それも考えたんだけどな」
俺は慎之助さんを見る。
「この人、寝てるときに結構うるさいんだよ」
「おい!」
「この前、馬車でうとうとしてたときも寝言を言ってましたよね」
蝉丸も頷く。
「『もう1杯……』って」
「それは寝言じゃない! 夢の中で注文してただけだ!」
「余計に駄目じゃないですか」
唯衣が笑い出す。
「じゃあ、私も別の家がいいかな。寝る場所くらいは静かな方がいいし」
「お前ら、俺を何だと思ってるんだ……」
「酒好きで、寝言がうるさい人?」
「海斗君まで!」
そんなやり取りをしながら、俺たちは家造りの計画を確認した。
まずは寝る場所。
次に調理場と食料の保管場所。
それから、トイレと風呂。
このあたりは生活するうえで欠かせない。
特にトイレは最優先だ。
日本にいたころは、当たり前のように水洗トイレを使っていた。
だが、この世界ではそうはいかない。
衛生環境を整えることは、快適さだけじゃなく健康にも関わる。
「家の細かい部分は、住みながら改良していけばいい」
俺はそう結論づけた。
「問題は、まず建てることだな」
「ですね」
蝉丸が周囲を見回す。
「土地はあります。水場も近い。あとは建材と道具です」
「木材は村の製材所に頼むんじゃなかったか?」
慎之助さんが尋ねる。
「頼むと、かなり時間がかかるらしいんだ」
「四軒分ですからね」
「だから、できるだけ自分たちで用意できないかと思ってる」
俺は森の方へ目を向けた。
木はたくさん生えている。
石もある。
土だってある。
材料そのものには困らなさそうだ。
問題は、それを建材として使える形にすることだった。
「とりあえず、村長さんに相談してみよう」
俺たちは村へ向かった。
◇ ◇ ◇
「なるほど。ご自分たちで木材を用意されると」
村長は少し驚いた顔をしたものの、すぐに頷いた。
「それでしたら、村の者を何人か案内につけましょう。木の種類や、切り倒してよい場所もありますからな」
「ありがとうございます。助かります」
「ただし、森の奥には入らないでください。魔物が出る場所ですから」
「分かりました。危険な場所には近づきません」
そうして俺たちは、村人3人と一緒に森へ向かった。
村人たちは、それぞれ斧や鋸、縄などを持っている。
俺たちも村から道具を借りた。
斧。
手鋸。
木槌。
それから、切った木を縛るための縄。
現代の道具と比べれば不便かもしれないが、何もないよりはずっといい。
「このあたりの木なら、建材に使えます」
村人の1人が太い幹を指差した。
「ただし、切り倒す方向には十分気をつけてください。大木は倒れるときに枝が跳ねることもありますから」
「分かりました」
俺は真剣に説明を聞いた。
キャンプの経験はある。
薪を割ったり、簡単なシェルターを作ったりしたこともある。
だが、本格的な伐採となれば話は別だ。
ここは素直に、経験者の言うことを聞こう。
「よし、まずは細めの木から始めよう」
「任せろ!」
慎之助さんが斧を握る。
「こういう力仕事は得意なんだ」
「慎之助さん、張り切るのはいいですけど、安全第一ですよ」
「分かってるって!」
慎之助さんが斧を振り下ろす。
――コンッ!
刃が木に食い込んだ。
「おお、いい音!」
「感想が職人みたいですね」
蝉丸が感心したように言う。
「だろう?」
「褒めてません」
「海斗君まで冷たい!」
俺も村人に教わりながら作業を進めた。
唯衣は切り落とした枝を集め、蝉丸は木材の長さを測って使い道ごとに分けている。
慣れない作業ではあったが、思ったよりも順調だった。
木の香り。
鳥の声。
木漏れ日。
汗をかきながら身体を動かすのは、なかなか気持ちがいい。
会社で働いていたころとは、まるで違う時間が流れている。
「……こういうのも、悪くないな」
思わず呟く。
「海斗さん、何か言いました?」
「いや。なんでもない」
俺は笑って、作業に戻った。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
俺たちは、何本かの木を切り倒すことができた。
「よし。これだけあれば、柱や梁に使う分は確保できそうだな」
俺が木材を見渡す。
もちろん、まだ必要な量には足りない。
それでも、最初の一歩としては十分だろう。
「問題は、ここからですね」
蝉丸が言った。
「枝を落として、必要な長さに切りそろえる。さらに、製材所まで運ばなければなりません」
「……運ぶ、か」
俺は地面に横たわる木を見た。
太いものは、大人が数人で抱えようとしても簡単には動かない。
「これ、どうやって運ぶんだ?」
慎之助さんが腕を組んだ。
「人力では限界がありますね」
「荷車があればいいんだけど……」
唯衣が辺りを見回す。
村から荷車を借りる方法もある。
だが、これだけ太い木を何本も運ぶとなると、荷車の大きさや道の状態も問題になるだろう。
そもそも、木を積み込むだけでも一苦労だ。
「うーん……」
俺は頭を掻いた。
切るところまでは何とかなる。
でも、その先が難しい。
現代日本なら、チェーンソーで切って、トラックに積んで運べばいい。
必要な道具も、知識も、調べようと思えばすぐに手に入った。
スマートフォンを開いて検索すれば、初心者向けの解説だって見つかる。
「……スマホ、か」
もう、あの便利な道具は使えない。
少なくとも、今のところは。
「海斗さん?」
唯衣が不思議そうに顔を覗き込んできた。
「どうしたの?」
「いや……ちょっと考え事」
俺は改めて木材を見た。
せっかく異世界に来たんだ。
家を建てるくらい、何とか自分たちの力でやってみたい。
村の人たちには親切にしてもらっている。
だからこそ、何でもかんでも頼るのではなく、できることは自分たちでやりたいのだ。
とはいえ――。
「……困ったな」
運び方が分からない。
道具を作るにしても、効率のいい方法が思いつかない。
何か参考になる知識があればいいのだが。
そのとき。
ふと、昔の習慣が頭に浮かんだ。
分からないことがあれば、まず検索する。
料理の作り方。
キャンプ道具の手入れ。
木材の加工方法。
何でも、インターネットで調べていた。
俺は思わず、空を見上げた。
「……インターネット検索が出来たらなぁ……」
その瞬間だった。
頭の奥で、何かが切り替わった。
――カチッ。
「……え?」
視界の端に、半透明の文字列が浮かび上がる。
いや。
視界に映っているというより、頭の中に直接表示されているような感覚だった。
「…………」
俺は目を瞬かせた。
文字が見える。
あの文字だ。
スキル鑑定のときに表示された、誰にも読めなかった文字。
異世界の言葉とは違う。
日本語でも、英語でもない。
それなのに――。
その下に、見慣れた文字が浮かび上がった。
『検索ワードを入力してください』
「…………は?」
思わず声が漏れた。
「海斗?」
慎之助さんがこちらを振り向く。
「どうした?」
「い、いや……」
俺は慌てて首を振った。
だが、目の前の表示は消えない。
検索ワード。
入力。
検索。
その意味を、俺は理解していた。
「……まさか」
スキル鑑定で、俺のスキル名は文字化けしていた。
王国の鑑定士にも読めず、役立たずかもしれないと判断された。
俺自身も、何ができるのか分からなかった。
けれど。
もし、この表示が本当に意味するものが――。
「……検索したいことを、入力すればいいのか?」
誰に聞かせるでもなく呟く。
返事はない。
ただ、入力を待つように文字が浮かび続けている。
俺は恐る恐る考えた。
――丸太を運ぶ方法。
すると。
表示が一瞬、明るくなった。
続いて、頭の中に新しい文字列が現れる。
丸太の運搬方法。
滑車を利用する方法。
丸太を転がして運ぶ方法。
てこを利用して持ち上げる方法。
さらに、簡単な道具を使った運搬方法まで、いくつもの情報が並んでいた。
「……うそだろ」
俺は息を呑んだ。
これは、間違いない。
俺が知っているインターネット検索に、あまりにもよく似ている。
いや。
似ているどころではない。
「俺のスキル……これ、インターネット検索なのか?」
胸の奥が、どくんと鳴った。
役立たず。
文字化け。
正体不明。
そう言われたスキルが、今、目の前で動いている。
俺はもう一度、表示された情報に意識を向けた。
すると、必要な情報を選ぶような感覚が伝わってくる。
使い方も、少しずつ分かってきた。
検索したい内容を思い浮かべればいい。
それだけで、知りたい情報が表示されるらしい。
「……はは」
思わず笑いが漏れた。
何だ、これ。
とんでもないスキルじゃないか。
少なくとも、木材の運搬方法が分からずに困っていた俺にとっては、これ以上ない助けになる。
「海斗さん?」
唯衣が心配そうに声を掛ける。
「さっきから黙ったり笑ったりしてるけど、大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
俺は顔を上げた。
「ちょっと、いい方法を思いついた」
「本当ですか?」
蝉丸が興味深そうに近づいてくる。
「どんな方法だ?」
「それは……」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
スキルのことを、正直に話すべきだろうか。
でも、まだ確信が持てない。
それに、このスキルの正体を知られたら、今後どうなるのか分からない。
王国で役立たず扱いされたことを思い出す。
あのときは、誰にも読めないスキル名を見て、俺自身も落胆していた。
けれど、今は違う。
この力が本当にインターネット検索なら――。
使い方次第で、生活を大きく変えられるかもしれない。
いや。
もしかすると、この世界で生きていくうえで、想像以上に役立つ力なのかもしれない。
「……まずは試してみよう」
俺は小さく呟いた。
丸太の運搬方法。
それから、簡単な滑車の作り方。
必要な材料。
木材の加工方法。
頭の中で次々と検索していく。
情報が表示されるたびに、驚きと興奮が大きくなっていった。
もちろん、知識が手に入ったからといって、すべてをすぐに実現できるわけではない。
材料も道具も限られている。
実際に作るには、工夫が必要だろう。
それでも――。
何も分からない状態とは、雲泥の差だった。
「よし」
俺は拳を握った。
「これなら、何とかなるかもしれない」
「だから、何がです?」
蝉丸が首を傾げる。
「まあ、見ていてくれ」
俺は笑って答えた。
こうして。
俺の異世界生活は、ようやく新しい段階へ進み始めた。
誰にも読めなかった文字化けスキル。
その正体は、どうやら俺の知っている『検索』に関係しているらしい。
だが、このときの俺はまだ知らなかった。
この力が、木材の運搬だけで終わるようなものではないことを。
そして、もう1つの疑問が残っていることも。
鑑定で表示された、残り2つの文字列。
あれは一体、何を意味しているのだろう。
……まあ、それは後で考えよう。
今はまず――。
「家を建てるぞ!」
「おー!」
唯衣が声を上げる。
「その前に、運ぶ方法を説明してくれ!」
慎之助さんが叫ぶ。
「具体的な仕組みも確認したいですね」
蝉丸も興味津々だ。
俺は苦笑した。
「分かった、分かった。順番に説明するから」
こうして俺たちは、木材の運搬方法を考えることになった。
そして俺は、まだ誰にも明かさないまま、自分のスキルを少しずつ試していくことにした。
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