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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第1章 異世界転移とスローライフの始まり

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第16話 いざ辺境へ! 冒険者たちとの旅

 翌朝。

 俺たちは王都の門前にいた。

 目の前には、これから俺たちを辺境まで運んでくれる馬車。

 その周囲には、見慣れない4人組の男女が立っている。

「こちらの4名が、皆様の護衛を担当する冒険者です」

 王国の文官が紹介してくれた。

「まず、俺がガルド。今回の護衛ではリーダーを務める」

 そう言ったのは、30歳くらいの男性だった。

 腰には剣。

 体格もよく、いかにも冒険者という雰囲気だ。

「ミリアです」

 隣の女性が頭を下げる。

 彼女は大きな盾を背負っていた。

「ロイド」

 短く名乗ったのは、弓を持った男性。

「セラです。魔法担当になります」

 最後に、杖を持った女性が微笑んだ。

「よろしくお願いします」

 俺たちもそれぞれ挨拶する。

「佐藤海斗です」

「武藤唯衣です!」

「佐藤慎之助だ」

「真田蝉丸です」

「こちらこそ」

 ガルドが頷いた。

「今回の護衛は、ネリス村への到着までだ。道中で何かあれば、俺たちに任せてくれ」

「ありがとうございます」

 俺は頭を下げた。

 王国がわざわざ冒険者を雇ってくれた。

 それだけでも、辺境への道が王都周辺ほど安全ではないことが分かる。

「どうして護衛が必要なんですか?」

 唯衣が尋ねた。

「魔物が出るからですか?」

「それも理由の1つです」

 文官が頷く。

「ですが――」

 少しだけ表情を引き締めた。

「危険は魔物だけではありません」

「……?」

 俺たちが顔を見合わせる。

「盗賊です」

「盗賊?」

 唯衣の声が少し低くなる。

「はい」

 文官は淡々と続けた。

「王都周辺では騎士や衛兵の巡回も多く、街道を利用する人も多い。しかし、王都から離れるほど人の目は少なくなります」

「なるほど……」

「そのため、商隊や旅人を狙う盗賊が出ることがあります」

 日本にいたころなら、旅行で盗賊を警戒するなんて考えたこともなかった。

 だが。

 ここは異世界だ。

 そもそも、道路の脇に警察がいるわけでもない。

 街道を馬車で移動するだけでも、命の危険がある。

「盗賊って、結構いるんですか?」

 唯衣が不安そうに聞く。

「毎回遭遇するわけではありません」

 ガルドが答えた。

「むしろ、何事もなく目的地へ着くことのほうが多い」

「じゃあ、大丈夫なんですね」

「ただし――」

 ガルドが続けた。

「一度遭遇したら、相手が何人いるかは分からない」

「……」

「5人かもしれない。10人かもしれない。もっといるかもしれない」

 唯衣の顔が引きつった。

「怖い……」

「だから護衛がいるんです」

 ミリアが穏やかに言った。

「盗賊だけではありません」

「まだあるんですか?」

 蝉丸が尋ねる。

「ああ」

 ガルドが指を折っていく。

「魔物」

 1本。

「盗賊」

 2本。

「野生動物」

 3本。

「崖崩れや落石」

 4本。

「悪天候」

 5本。

「道そのものが悪くなることもある」

 6本目。

「雨が降ればぬかるむ。橋が壊れていることもある。山道なら霧で視界がなくなることもある」

「……」

 俺は黙って聞いていた。

「つまり、色んな危険があるんですね」

「そういうことだ」

 ガルドが頷く。

「冒険者にとっては当たり前のことだが、初めて旅をするなら覚えておいたほうがいい」

「ありがとうございます」

 俺は素直に頭を下げた。

 これから俺たちが向かう場所は、王都のように安全ではない。

 それを改めて実感する。

「それから、意外と厄介なのが――」

 ロイドが口を挟んだ。

「人間同士のトラブルだ」

「人間?」

「盗賊だけじゃない。旅人同士の喧嘩。商人同士の揉め事。酒に酔った冒険者。道を譲る、譲らないでも揉めることがある」

「……それは確かに面倒ですね」

 慎之助が苦笑した。

「魔物より人間のほうが怖い場合もあるってことか」

「そういうこと」

 ロイドが頷く。

「だから俺たちは、魔物だけを警戒しているわけじゃない」

 なるほど。

 護衛というのは、単純に魔物を倒す仕事ではないらしい。

 周囲を観察し。

 危険を予測し。

 問題が起きる前に避ける。

 それも冒険者の仕事なのだろう。

「ちなみに、何か危険を感じた場合はどうすればいいですか?」

 俺が聞いた。

「皆さんは馬車から出ないでください」

 ガルドが即答する。

「戦闘になった場合も、勝手に動かないこと」

「分かりました」

「特に――」

 ガルドが唯衣を見る。

「前に出ないように」

「……はい」

 唯衣が素直に頷いた。

「慎之助さんもです」

「俺も?」

「はい」

「俺は大人しいですよ?」

 ガルドが無言で慎之助を見る。

「……」

「……」

「分かりました。大人しくします」

 俺は思わず笑ってしまった。

「海斗君も笑ってないで、ちゃんと守ってもらえよ」

「分かってますよ」

 そんなやり取りをしていると、文官が声を掛けてきた。

「では、そろそろ出発しましょう」

「はい」

 俺たちは馬車へ乗り込んだ。

 荷物はすでに積み込まれている。

 食料。

 水。

 調理道具。

 衣類。

 2張りの大型テント。

 寝袋。

 地面に敷くマット。

 ロープ。

 その他の野営道具。

 家が完成するまでの生活を支えるための道具が、馬車いっぱいに積まれていた。

 これだけ準備してもらえるのは、本当にありがたい。

「では、ネリス村へ向けて出発します」

 御者の声。

 馬が歩き出す。

 ゆっくりと。

 俺たちは王都を後にした。

 ◇ ◇ ◇

「王都とも、これでお別れかぁ」

 馬車の窓から外を眺めながら、唯衣が呟く。

「寂しいですか?」

「ちょっとだけ」

 唯衣が振り返った。

「でも、これから自分たちの家を作るんですよね?」

「ああ」

「楽しみ!」

 その顔は、本当に嬉しそうだった。

「まずは土地を見てからだな」

 俺は答える。

「どこに家を建てるかも、実際に見てから決める」

「お風呂も作りたい!」

「それは欲しいな」

「台所も!」

「必要だな」

「トイレも!」

「それも必要」

「あと――」

「まだあるのか?」

「畑!」

「まあ、それもいいな」

 唯衣が嬉しそうに笑う。

「なんか、本当に田舎暮らしって感じ!」

「そのために行くんだからな」

 俺も笑った。

 馬車が王都の門を抜ける。

 少しずつ建物が減っていく。

 代わりに草原が広がっていった。

 さらに進むと、道の両側に森が増えていく。

「景色が変わってきたな」

 蝉丸が窓の外を見る。

「王都周辺はかなり整備されていましたからね」

 ガルドが答えた。

「ここから先は少しずつ道が悪くなる」

 実際、道は少しずつ狭くなっていた。

 石畳だった場所も、いつの間にか土の道へ変わっている。

「辺境へ近づくほど、街道を利用する人も減ります」

 ミリアが説明する。

「その分、危険も増える」

「魔物が?」

 唯衣が聞く。

「魔物もです」

 ミリアは頷いた。

「ただ、魔物だけではありません」

「盗賊ですよね」

 俺が言う。

「そうです」

 ミリアが笑う。

「さっき説明したばかりですからね」

「ちゃんと覚えてますよ」

 俺は苦笑した。

 だが。

 それだけではなかった。

 道が狭くなれば、馬車がすれ違うのも難しくなる。

 森が近ければ、視界も悪くなる。

 雨が降れば道はぬかるむ。

 山が近づけば、落石や崖崩れの可能性もある。

 そして、そこに魔物や盗賊まで加わる。

「……異世界の旅って、結構大変なんですね」

 俺が呟く。

「そうですよ」

 セラが笑った。

「でも、だからこそ冒険者が必要なんです」

「なるほど」

「危険を全部なくすことはできません。でも、危険を減らすことはできます」

 その言葉は妙に納得できた。

 ◇ ◇ ◇

 昼頃。

 街道脇の開けた場所で休憩することになった。

 馬を休ませ、水を飲ませる。

 俺たちも簡単な昼食を取る。

 干し肉。

 豆。

 硬いパン。

 質素ではある。

 それでも、外で食べると妙に美味かった。

「こういうところで食べる飯も悪くないな」

 慎之助が干し肉をかじる。

「もう少し酒があれば最高なんだけどな」

「昼から飲む気ですか?」

「旅の昼酒は最高だぞ?」

「今は旅の途中というより、移住の途中ですよ」

「似たようなもんだろ」

「全然違います」

 蝉丸が苦笑する。

「というか、護衛の人たちも仕事中ですよ」

「……そうだった」

 慎之助が干し肉を置いた。

「すみませんでした」

「分かればいい」

 ガルドが笑った。

 そんなやり取りをしながら、俺は周囲を見渡した。

 平和だ。

 鳥の声。

 風の音。

 遠くに森。

 何も起きていない。

 だが――。

「こういう場所でも、警戒するんですか?」

 俺が聞くと、ロイドが頷いた。

「もちろん」

「何もいないように見えますけど」

「何もいないように見えるから危ないんだ」

「……」

「盗賊は、こっちが油断する場所を選ぶことがある」

 ロイドは森を見た。

「魔物だって同じだ。人間が気を抜いているところを狙うこともある」

「なるほど」

 ガルドが続ける。

「旅では『何もない』と思わないことが大事だ」

「常に何かあるかもしれない、と?」

「ああ」

「それは疲れそうですね」

「慣れる」

 ミリアが笑った。

「冒険者を続けていると、自然とそうなる」

「俺には向いてないかもしれない」

 俺が苦笑する。

「海斗さん、でも結構周り見てますよ」

 唯衣が言った。

「そうか?」

「うん。さっきからずっと森とか道とか見てる」

「癖なんだ」

 キャンプをしていたころからの習慣。

 危険な場所では、周囲を見る。

 水場。

 風向き。

 足場。

 逃げ道。

 火を使う場所。

 それだけでも、生存率は変わる。

「冒険者向きなんじゃないか?」

 ガルドが冗談っぽく言った。

「いや、俺はスローライフをしたいんで」

「その割には警戒心が強いな」

「田舎暮らしほど、安全確認は大事だと思いますよ」

「確かに」

 ガルドが笑った。

 ◇ ◇ ◇

 午後。

 さらに道は細くなった。

 周囲には森。

 遠くには山。

 王都周辺と比べると、明らかに人の気配が少ない。

「今日はこの辺りで野営しましょう」

 ガルドが言った。

「この先は森がさらに深くなる。暗くなってから進むのは危険だ」

「分かりました」

 馬車が止まった。

 俺たちは荷物を降ろし、2張りの大型テントを設営する。

 海斗と慎之助。

 唯衣と蝉丸。

 それぞれ別のテントだ。

「思ったより簡単に張れますね」

 蝉丸がロープを結びながら言う。

「王国の備品、結構ちゃんとしてますね」

「助かるよな」

 俺も最後の杭を打ち込む。

 冒険者たちも自分たちのテントを張り、焚き火を準備する。

「夜は交代で見張ります」

 ミリアが説明した。

「4人で順番に担当します」

「そんなに警戒する必要がありますか?」

 唯衣が尋ねる。

「あります」

 即答だった。

「夜は特に危険です」

「魔物ですか?」

「魔物もあります」

 セラが火を見ながら言った。

「でも、盗賊も夜に動くことがあります」

「……」

「火を見つければ、人がいることが分かりますから」

「じゃあ、火を消したほうがいいんじゃ?」

「逆です」

 ガルドが首を振った。

「真っ暗にすると、こちらも周囲が見えなくなる」

「なるほど……」

「だから火を小さくして、見張りを置く」

 実に合理的だった。

 この世界の旅は、ただ馬車に乗って目的地へ向かうだけではない。

 夜になれば、夜の危険がある。

 森には魔物。

 街道には盗賊。

 自然そのものにも危険がある。

 そして、そのすべてを警戒しながら進まなければならない。

「……護衛を頼んで正解だったな」

 俺が呟く。

「だろ?」

 ガルドが笑った。

「俺たちがいる間は、できるだけ安心してくれ」

「お願いします」

 俺は頭を下げた。

 ◇ ◇ ◇

 夜。

 焚き火を囲んで、簡単な夕食を取った。

 干し肉。

 豆。

 硬いパン。

 質素ではある。

 でも、外で食べると妙に美味い。

「……星、綺麗」

 唯衣が空を見上げた。

 王都では建物や明かりが多く、ここまで星は見えなかった。

 夜空には無数の星が輝いている。

「いいな」

 俺も見上げる。

「こういう場所なら、静かに暮らせそうだ」

「でしょう?」

 唯衣が笑う。

「私、ここ好き」

「まだ村にも着いてないけどな」

「でも好き!」

「気が早い」

 慎之助が笑う。

「まあ、俺も嫌いじゃないぞ」

「慎之助さんは酒場があれば、どこでも好きでしょう」

「それは否定できない」

 蝉丸も笑った。

「僕としては錬金術の材料が手に入りやすそうなのが楽しみですけどね」

「結局、みんな目的が違うな」

 俺は笑った。

 そんな穏やかな時間だった。

 ――そのとき。

「……」

 ガルドが突然、顔を上げた。

「どうした?」

 俺が尋ねる。

「静かに」

 ガルドが立ち上がった。

 ロイドもすぐに弓を手に取る。

 ミリアが盾を構え、セラも杖を握った。

「何かいるんですか?」

 唯衣が小声で聞く。

「分からない」

 ガルドが森を見る。

「まだ距離がある」

 俺も森へ視線を向ける。

 暗い。

 何も見えない。

 風で木々が揺れているだけだ。

「……グルルル……」

 低い唸り声。

 森の奥から聞こえてきた。

「……!」

 唯衣が息を呑む。

「魔物……?」

 ガルドは答えなかった。

 剣を抜く。

 ロイドが矢をつがえる。

「まだ分からない」

「え?」

「魔物とは限らない」

 ガルドが低い声で言う。

「野生動物かもしれない」

「……」

「あるいは――」

 ガルドが森の奥を睨む。

「盗賊がこちらを窺っている可能性だってある」

 その言葉に。

 俺たちは一瞬、息を止めた。

 森の奥から。

 もう一度。

「……グルルル……」

 低い唸り声が響く。

 魔物なのか。

 野生動物なのか。

 それとも、人間なのか。

 まだ誰にも分からない。

「全員、動くな」

 ガルドが低い声で言った。

「何がいるのか確認する」

 俺は無意識に短剣へ手を伸ばした。

 異世界の旅は。

 どうやら、まだ始まったばかりだった。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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