第14話 スキル鑑定の結果と、俺たちの進路
スキル鑑定が終わった。
俺たち4人は、いったん広間の隅に集まっていた。
周囲では、まだ他の転移者たちの鑑定が続いている。
「……終わったな」
慎之助さんが小さく呟いた。
「はい」
唯衣さんが頷く。
「思ったより普通でしたね」
「まあ、俺たちは結果を知ってたからな」
そう言って、慎之助さんが俺を見る。
「海斗君のだけは相変わらず謎だけど」
「それは言わないでください」
「だって読めないんだもん」
「俺だって読めませんよ」
俺は苦笑した。
自分のステータス画面に表示されている文字。
何度見ても意味は分からない。
ただ――。
それが何らかの能力を持っていることだけは、何となく分かっている。
問題は。
その能力が何なのか。
まだ俺自身が理解できていないことだ。
「それにしても、蝉丸は凄かったな」
慎之助さんが言った。
「16個ですよ、16個」
「いや、俺も驚いたよ」
蝉丸さんが眼鏡を押し上げる。
「自分では確認していたけど、実際に読み上げられると多いな」
「ですよね!」
唯衣さんが身を乗り出す。
「錬金術って凄そう!」
「まあ、使ってみないと何とも言えないけどね」
「何でも作れるの?」
「何でも、というわけじゃないと思う」
蝉丸さんが少し考える。
「素材や魔力、知識なんかも必要になるだろうし」
「なるほど」
俺は頷いた。
やはり。
スキルを持っているからといって、それだけで何でもできるわけではないらしい。
この世界では。
スキルと知識。
そして経験。
その3つが重要なのだろう。
そんな話をしていると。
「佐藤海斗さん」
後ろから声がした。
「はい?」
振り返る。
そこには、先ほど鑑定を担当していた文官が立っていた。
「少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「俺ですか?」
「はい」
俺は3人を見る。
慎之助さんが小さく肩をすくめた。
「行ってこい」
「大丈夫ですよ」
唯衣さんも笑う。
「私たちはここにいますから」
「分かりました」
俺は文官の後をついていく。
広間の隅。
そこには、小さな机と椅子が用意されていた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
向かいに座る。
文官も椅子に腰を下ろした。
「先ほどの鑑定結果について、少しお話をさせてください」
「はい」
「まず、皆様のスキルについてですが――」
文官は手元の書類を見る。
「王国としては、皆様の能力を確認したうえで、今後の生活や仕事についてご希望を伺うことになっています」
「仕事……ですか?」
「はい」
「強制ではありませんよね?」
俺が聞く。
文官はすぐに首を横に振った。
「もちろんです」
「よかった」
「皆様は突然この世界へ来られた方々です。帰還方法が確立していない以上、王国として生活を保障するだけではなく、この世界で暮らすための道を用意する必要があります」
「なるほど」
「戦闘能力に優れた方には騎士や冒険者という道もあります」
文官は続ける。
「魔法に適性がある方には、魔術師や研究職。錬金術の才能がある方には、錬金術師としての道もあります」
「……なるほど」
「商業や事務、教育など、戦闘以外の仕事もございます」
「かなり幅があるんですね」
「はい」
俺は少し安心した。
異世界召喚といえば。
勇者だの魔王だの。
戦うことを強制されるイメージがあった。
だが。
この王国はそういう感じではないらしい。
「そこで」
文官が書類を置く。
「佐藤さんには、いくつか確認したいことがあります」
「何でしょう?」
「まず、先ほどのスキルについてです」
「ああ……」
「現在の鑑定では、3つとも効果が判別できませんでした」
「はい」
「そのため、現段階では戦闘職や研究職などを判断することができません」
「でしょうね」
俺は苦笑する。
何ができるのか分からないのだから、当然だ。
「ただし」
文官が少し考えてから続ける。
「佐藤さん自身の身体能力は、一般的な成人男性より高いようです」
「そうなんですか?」
「はい」
俺は内心で少し驚いた。
身体能力強化のスキルがあるからだろう。
もっとも。
俺自身は転移する前から、それなりに身体を鍛えていた。
だから、どこまでがスキルの効果なのかは分からない。
「戦闘訓練などの経験はありますか?」
「多少は」
「武器は?」
「ナイフ程度なら」
「ナイフ……」
文官が微妙な顔をする。
「剣や槍は?」
「使ったことはありません」
「魔法は?」
「使えません」
「なるほど……」
文官が書類に何かを書き込んでいく。
そして。
「もしご希望でしたら、騎士団で基礎訓練を受けることも可能です」
「……」
俺は少し考えた。
騎士団。
確かに魅力的ではある。
この世界で生きるなら、戦う力を身につけるのは悪くない。
だが。
「すみません」
「はい?」
「俺、できれば戦闘職には就きたくありません」
「……そうですか」
文官が意外そうな顔をした。
「理由をお聞きしても?」
「単純です」
俺は答えた。
「俺は、できるだけ静かに暮らしたいんです」
「静かに?」
「はい」
日本にいたころ。
毎日仕事をして。
会社と家を往復して。
気がつけば29歳になっていた。
そして今。
俺は異世界にいる。
だったら。
今までとは違う生き方をしたい。
「都会より、自然の多い場所がいいです」
「……」
「できれば山の近く」
「山ですか?」
「はい」
俺は頷く。
「自分で家を建てて、畑を作って。できる範囲で自給自足をしてみたい」
口にしてみると。
意外なほど、しっくりきた。
俺は元々、キャンプが好きだった。
道具を揃えて。
火を起こして。
料理をして。
自然の中で過ごす。
そういう生活に憧れがあった。
「なるほど……」
文官が少し考え込む。
「辺境での生活をご希望ということですね」
「はい」
「魔物の危険がありますが?」
「承知しています」
「街から離れるほど、生活環境も厳しくなります」
「それも分かっています」
「食料や水、薪なども自分で確保する必要があります」
「むしろ、そのほうがいいです」
俺が答えると。
文官が少し驚いた顔をした。
「……本当に変わった方ですね」
「よく言われます」
俺は苦笑した。
すると。
「それならば」
文官が書類をめくる。
「王都から少し離れた地域に、いくつか候補があります」
「本当ですか?」
「はい」
地図が机の上に広げられた。
王都。
そこから街道が伸びている。
「この辺りは比較的安全な地域です」
文官が指を動かす。
「村もありますし、最低限の生活基盤もあります」
「山は?」
「あります」
「森も?」
「あります」
「川は?」
「あります」
「……」
俺は地図を見る。
かなり魅力的だった。
「ただし、王都からはかなり離れています」
「構いません」
「魔物も出ます」
「気をつけます」
「村の外れになりますが?」
「むしろ、そのほうがいいです」
文官が苦笑した。
「本当に辺境生活がお好きなんですね」
「まだ住んだことはありませんけどね」
「それでも?」
「はい」
俺は即答した。
そのとき。
「海斗さん!」
遠くから声がした。
唯衣さんだった。
「どうですか?」
「今、辺境の土地について話を聞いてる」
「辺境?」
唯衣さんの目が輝く。
「山がありますか?」
文官が答える。
「ありますよ」
「森は?」
「あります」
「川は?」
「あります」
唯衣さんが俺を見る。
「海斗さん」
「なんだ?」
「そこ、行きたいです」
「……即答だな」
「だって楽しそうじゃないですか!」
「魔物がいるぞ」
「気をつけます!」
「家も自分たちで建てることになるかもしれない」
「頑張ります!」
「畑もやるかもしれない」
「やります!」
「本当に?」
「はい!」
迷いがない。
俺は思わず笑ってしまった。
「じゃあ、一緒に行くか」
「はい!」
唯衣さんが嬉しそうに頷く。
すると。
「おいおい」
後ろから慎之助さんがやってきた。
「何の話だ?」
「辺境で暮らす話です」
「辺境?」
慎之助さんが俺を見る。
「海斗君、本気か?」
「本気です」
「山?」
「あります」
「森?」
「あります」
「川?」
「あります」
「酒場は?」
「……知らないです」
「行こう」
「判断基準が酒場なのかよ」
「重要だぞ」
慎之助さんが真剣な顔をする。
「俺、王都みたいな人の多いところより、のんびりした場所のほうが好きなんだよ」
「意外ですね」
「俺だって静かに飲むことくらいある」
「それは静かに飲むだけですよね?」
「そうとも言う」
俺たちの会話を聞いていた文官が苦笑する。
「では、佐藤慎之助さんも辺境での生活を希望されるのですか?」
「そうですね」
「理由は?」
「海斗君と唯衣ちゃんが行くなら、俺も行きますよ」
「……」
俺は少し驚いた。
「いいんですか?」
「何が?」
「王都のほうが便利ですよ」
「そりゃそうだろうな」
慎之助さんが肩をすくめる。
「でも、俺たち3人はもう仲間みたいなもんだろ?」
「……」
「だったら一緒にいたほうが面白い」
慎之助さんらしい。
軽い言い方だったが。
俺は少し嬉しかった。
「ありがとうございます」
「礼を言うほどじゃないって」
そして。
「俺も行きます」
蝉丸さんが言った。
「蝉丸も?」
「はい」
蝉丸さんは眼鏡を押し上げる。
「錬金術の研究をするなら、王都の工房に行く手もあります」
「じゃあ、どうして?」
「素材です」
「素材?」
「辺境なら、薬草や鉱石、魔物の素材などを自分で集められる可能性があります」
蝉丸さんが少し楽しそうに話す。
「それに、静かな環境で研究できるなら、そのほうが僕には合っています」
「なるほど」
これで。
4人全員が同じ方向を向いた。
「……分かりました」
文官が苦笑する。
「皆様、かなり仲がよろしいのですね」
「まあ」
俺は3人を見る。
転移してから、まだそれほど長い時間は経っていない。
それでも。
気がつけば、自然と一緒にいる。
たぶん。
この世界で最初にできた仲間だからだろう。
「では、4名とも辺境での生活を希望ということで記録します」
「お願いします」
「ただし、土地の最終決定には少々時間がかかります」
「分かりました」
「候補地をいくつか選定し、村や領主とも確認を取ります」
「ありがとうございます」
文官は書類をまとめる。
「それと――」
「はい?」
「皆様には、生活に必要な物資をある程度支給する予定です」
「物資?」
「衣服、食料、調理器具、寝具などです」
「助かります」
「貨幣についても、一定額をお渡しします」
「お金まで?」
「はい」
異世界生活。
土地。
家。
食料。
金。
思ったより、王国はしっかりしている。
「ただし、1つお願いがあります」
文官の表情が少しだけ真剣になる。
「皆様のスキルについては、できる限り他人へ不用意に話さないことをお勧めします」
「……」
俺は黙った。
「特に、特殊なスキルを持つ方は、その能力を利用しようとする者が現れる可能性があります」
「なるほど」
「王国としても皆様の権利を守りますが、すべての人間を監視できるわけではありません」
「分かりました」
それは。
俺たちが最初から考えていたことでもある。
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
文官も頷く。
「こちらこそ」
こうして。
俺たち4人の進路が決まった。
王都に残るのではなく。
騎士になるのでもなく。
冒険者になるのでもない。
俺たちは――。
山の近く。
森と川のある場所で。
自分たちの家を建てる。
そんな生活を目指すことになった。
「……楽しみですね」
唯衣さんが笑う。
「そうだな」
「家を建てるんですよね?」
「そうなるな」
「畑も作りたい!」
「最初から欲張るなよ」
「犬も飼いたい!」
「まだ犬がいるかどうかも分からないぞ」
「でもテイムがあります!」
「そういう問題か?」
「そういう問題です!」
唯衣さんが笑う。
慎之助さんが口を挟む。
「俺は酒場が欲しい」
「自分で作ればいいじゃないですか」
蝉丸さんが真顔で言った。
「……その手があったか」
「いや、酒場を作る気なのかよ」
「だって辺境なんだろ?」
慎之助さんが腕を組む。
「酒が足りないなら、自分で作るしかないだろ」
「そこまで考えてるんですか……」
俺は呆れながらも笑った。
不安がないわけじゃない。
帰れる保証もない。
この世界のことも、まだ何も分からない。
それでも。
少しだけ。
未来が見えた気がした。
そして――。
俺たちはまだ知らなかった。
この「辺境で静かに暮らす」という選択が。
後に王国を巻き込むほど大きな騒動の始まりになることを。
俺たちが望んだのは。
ただの――。
スローライフだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。




