第13話 いよいよスキル鑑定……って、何だこの文字?
翌朝。
俺たちは、王国が用意した大きな広間に集められていた。
理由は――。
「これより、皆様のスキル鑑定を行います」
昨日説明された、スキル鑑定だ。
広間の中央には、大きな水晶玉のような魔道具が置かれている。
その周囲には、数人の文官と魔術師。
そして、俺たち転移者が488人。
かなりの人数だ。
「鑑定では、皆様の身体能力、魔力、魔法適性、スキルなどを確認いたします」
説明を聞きながら、俺は水晶を眺めていた。
……いよいよか。
実は、俺たち4人はすでに自分たちのステータスを知っている。
この世界に転移した直後。
騎士たちから教えられたわけではない。
俺たち自身で試してみたのだ。
異世界なのだから、もしかしたらゲームのようなステータス画面が出るんじゃないか。
そんな話になって。
試しに確認してみた。
すると、本当に表示された。
俺たちはそこで、それぞれのステータスを確認した。
そして――。
お互いに、ある程度の内容を教え合った。
だから俺は、唯衣さんのスキルを知っている。
慎之助さんのスキルも知っている。
蝉丸さんのスキルも知っている。
もちろん、向こうも俺のスキルを知っている。
ただし。
そのことを騎士たちには話していない。
自分たちの能力について、こちらから積極的に教える必要性を感じなかったからだ。
この世界のことを何も知らない。
そんな状況で、自分の手の内をすべて明かすほど無警戒ではない。
騎士たちが信用できないと決めつけているわけではない。
ここまで護衛してくれたことには感謝している。
だが――。
念のため。
それだけだ。
だから今日の鑑定は、俺たちにとって「自分のスキルを知るため」のものではない。
王国側が、俺たちの能力をどう評価するのかを見るためのものだ。
「では、順番に鑑定を行います」
文官が最初の名前を呼ぶ。
「武藤唯衣さん」
「はい!」
唯衣さんが元気よく手を挙げる。
……元気すぎる。
俺は思わず苦笑した。
もちろん、唯衣さんは自分のスキルを知っている。
俺も知っている。
だから、これから何が表示されるのかも分かっている。
それでも。
王国側には、そんなことを知られるわけにはいかない。
「こちらへどうぞ」
「はい!」
唯衣さんが水晶の前へ歩いていく。
魔術師が水晶に魔力を流す。
淡い光が広がった。
そして――。
「……出ました」
文官が表示された内容を確認する。
「武藤唯衣さん。スキルは3つですね」
唯衣さんが少しだけ身体を乗り出す。
「3つ?」
「はい」
文官が読み上げる。
「『幸運』『テイム』『身体能力強化』です」
「えっ……」
唯衣さんが目を丸くした。
……演技が分かりやすい。
俺は思わず顔を逸らした。
笑ってしまいそうだったからだ。
だが、唯衣さんは頑張っている。
「3つもあるんですか?」
「はい」
「すごい……」
自分で知っているだろう。
俺は心の中で突っ込む。
それでも文官は気づかない。
「特に『幸運』は珍しいスキルですね」
「そうなんですか?」
「ええ。かなり珍しい部類です」
「へぇ……」
唯衣さんは嬉しそうに笑う。
これは演技ではないだろう。
自分のスキルが珍しいと言われれば、そりゃ嬉しいか。
「『テイム』もありますので、動物や魔物との相性も良い可能性があります」
「動物……」
唯衣さんの目が輝く。
「犬もですか?」
「犬?」
「あっ」
唯衣さんが慌てて口を閉じた。
「いえ、何でもありません!」
……犬好きは隠せないらしい。
文官が苦笑する。
「では、次の方」
「佐藤慎之助さん」
「はい!」
慎之助さんが立ち上がる。
こちらも妙に堂々としている。
俺たちは慎之助さんのスキルも、すでに知っている。
『危険察知』
そして――。
『空気』。
ステータスを確認したとき、本人が俺たちに教えてきた。
だから、この結果も当然知っている。
「こちらへどうぞ」
「失礼します」
慎之助さんが水晶に手を置く。
光が走る。
「……『危険察知』」
文官が読み上げる。
「そして……」
一瞬、文官の眉が動いた。
「『空気』」
「…………」
慎之助さんが固まった。
俺も固まる。
唯衣さんも固まる。
蝉丸さんが眼鏡を押し上げる。
もちろん。
全員、知っている。
それでも。
「……『空気』?」
文官が首を傾げる。
「はい」
「これは……どういうスキルでしょう?」
「いやぁ……」
慎之助さんが頭を掻く。
「俺にも分かりません」
……まあ、これは本当だ。
慎之助さん自身も、具体的な効果までは分かっていない。
「効果は不明ですか?」
「そうですね」
慎之助さんが困った顔をする。
「俺も名前を見たときから、何だこれって思ってました」
俺は内心で笑いそうになった。
確かに。
最初にステータスを見たときも、全員で同じ反応をした。
ただ――。
それ以上は分からなかった。
「『危険察知』は有用そうですが……」
「でしょう?」
慎之助さんが胸を張る。
「危ない場所とか、何となく分かるんですよ」
「それはかなり有用ですね」
「ですよね!」
慎之助さんが満足そうに頷く。
「では、『空気』については現時点では効果不明として記録します」
「お願いします」
慎之助さんが席へ戻ってくる。
俺と目が合う。
「……あれ、絶対もっと凄いと思うんだけどな」
小声で言う。
「俺もそう思います」
これは4人だけの会話だ。
王国側には聞こえないようにする。
そして――。
「真田蝉丸さん」
「はい」
蝉丸さんが前へ出た。
俺は蝉丸さんのスキルも知っている。
というより。
4人の中で、一番多い。
水晶に手を置く。
光が広がった。
「……これは」
文官が目を見開いた。
「どうしました?」
「少々お待ちください」
文官が表示を確認する。
隣にいた別の文官も覗き込む。
さらに魔術師まで近づいてくる。
「……多いですね」
「そうなんですか?」
蝉丸さんが首を傾げる。
……知ってるでしょうに。
俺は心の中で突っ込む。
蝉丸さんは自分のステータスを確認したときから、この16個を知っている。
俺たちも知っている。
それでも、今は知らないふりだ。
「読み上げます」
文官が口を開く。
「『錬金術』」
周囲から小さなどよめき。
「『魔力上昇』」
「『状態異常耐性』」
「『分解』『合成』『生成』『再構成』『変成』『抽出』」
ざわざわと声が広がっていく。
「まだあります」
文官が続ける。
「『鑑定』『レシピ解析』『スキル付与』『属性付与』『魔法付与』『収納』『魔力操作向上』」
最後まで読み上げる。
「合計16個です」
「16個……」
誰かが呟く。
「そんなに?」
「錬金術関連ばかりじゃないか」
「凄いな……」
蝉丸さんは眼鏡を押し上げる。
「……そんなに多いんですね」
いや。
知ってる。
俺は心の中でまた突っ込んだ。
だが。
蝉丸さんの顔には、少しだけ嬉しそうな表情が浮かんでいる。
「特に『錬金術』に関する適性が非常に高いようです」
文官が言う。
「王国の錬金術師として、かなり期待できるでしょう」
「そうですか」
蝉丸さんは落ち着いて答えた。
だが、眼鏡の奥の目は少し嬉しそうだった。
まあ。
自分の得意分野を褒められれば、嬉しいよな。
「では、最後です」
文官がこちらを見る。
「佐藤海斗さん」
「はい」
俺は立ち上がった。
そして、水晶の前へ向かう。
俺のスキルについても。
もちろん、すでに知っている。
3つ。
ただし――。
その名前が読めない。
俺が最初にステータスを確認したときから、ずっとそうだった。
水晶に手を置く。
魔力が流れ込んでくる。
光が広がる。
「…………」
文官が表示を確認する。
そして。
「……え?」
小さな声を漏らした。
「どうしました?」
俺が聞く。
文官が表示を覗き込む。
「これは……」
別の文官を呼ぶ。
「こちらを見ていただけますか?」
「はい」
「読めますか?」
「…………」
呼ばれた文官が首を傾げる。
「読めません」
「やはり……」
魔術師も近づいてくる。
「古代文字では?」
「分かりません」
「魔族語?」
「違うと思います」
「神代文字という可能性は?」
「判別できません」
俺は表示された文字を見る。
そこにあるのは――。
گەڕان بە ئینتەرنێت
هەڵگرتن
بەهێزکردنی جەستە
相変わらず。
俺には意味が分からない。
ただ。
自分のステータスを最初に確認したときから、何度も見ている文字だ。
見慣れてはいる。
だが。
読めないものは読めない。
「……何が書いてあるんですか?」
俺は尋ねる。
「それが……」
文官が困った顔をする。
「分かりません」
「分からない?」
「はい」
「効果も?」
「現時点では判別できません」
「そうですか……」
俺は少しだけ俯いた。
これは演技ではない。
本当に何も分からない。
ただ。
自分がすでに知っていることを、ここで知らないふりをする必要がある。
「おそらく、何らかの特殊な言語で記述されたスキルでしょう」
文官が言う。
「異世界由来の特殊スキルである可能性もあります」
「俺たちが異世界人だから……ですか?」
「その可能性はあります」
「なるほど……」
俺は水晶を見る。
結局。
王国側にも、この3つの正体は分からない。
「現時点では『効果不明』として記録させていただきます」
「分かりました」
俺は頷いた。
席へ戻る。
すると唯衣さんが小声で話しかけてきた。
「海斗さん、大丈夫ですよ」
「何が?」
「きっと凄いスキルです」
「根拠は?」
「……ありません!」
「ないのかよ」
思わず笑ってしまう。
慎之助さんも小声で口を挟んだ。
「まあ、俺の『空気』も何だか分からないしな」
「それと一緒にしないでください」
「酷い!」
蝉丸さんが小さく笑う。
「効果不明というだけで、役に立たないとは限りませんよ」
「そうですね」
俺は頷いた。
実際。
その通りだと思う。
この3つのスキルが何なのか。
まだ分からない。
だが。
わざわざスキルとして存在している以上、意味がないとは思えない。
それなら。
自分で調べるしかない。
こうして。
俺たち4人の正式なスキル鑑定は終わった。
唯衣さん。
『幸運』『テイム』『身体能力強化』。
慎之助さん。
『危険察知』『空気』。
蝉丸さん。
16個ものスキル。
そして俺。
読めない文字で表示された、3つの正体不明スキル。
俺たち4人は、すでに結果を知っていた。
だからこそ。
今日の鑑定で驚いたのは、スキルそのものではない。
王国側が、それをどう評価するのか。
何を危険だと考え。
何を価値があると判断するのか。
それを見ることができた。
そして――。
俺のスキルについては。
王国側も、まったく意味を理解できなかった。
これは。
ある意味では好都合だった。
少なくとも今のところ。
俺の本当の能力を、誰も知らない。
それが後に。
俺自身も想像していなかったほど大きな意味を持つことになる。
このときの俺は。
まだ、そのことを知らなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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