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異世界に転移したら、何のスキル?スキル名が文字化けで役立たず扱いなんですけど?  作者: 奈汪翳芳
第1章 異世界転移とスローライフの始まり

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第11話 異世界の酒と、酔っ払いの大騒ぎ

 村を出てから、しばらく歩いた。

 振り返ると、さっきまで立ち寄っていた村が少しずつ遠ざかっていく。

 村人たちは最後まで手を振ってくれていた。

 俺たちも手を振り返す。

「いい村だったな」

 俺がそう呟くと、唯衣さんも頷いた。

「はい。みんな親切でしたね」

「甘い物も喜んでもらえましたし」

 蝉丸も笑う。

  朝から歩き続け、昼過ぎに村へ立ち寄り、そこで少し休憩。

 そして、物々交換までしてもらった。

 その結果。

「……これか」

 俺は自分の荷物を確認する。

 そこには、村で手に入れた小さな瓶が入っていた。

 果実酒。

 この世界に来て、初めて手に入れた酒だ。

 しかも、日本円では買えない。

 村人たちが作った酒と、俺たちが持っていた甘味を交換して手に入れたもの。

 つまりこれは――。

 正真正銘、俺たちが自分たちの手で手に入れた異世界の酒だった。

「……」

 俺が瓶を見ていると。

「海斗さん」

「ん?」

「それ……」

 慎之助さんが、じっとこちらを見ていた。

 目が怖い。

 いや。

 正確には、目が輝いている。

「その瓶……」

「ああ。村でもらった果実酒です」

「…………」

 慎之助さんが無言になった。

 そして。

「飲みましょう」

「今ですか?」

「今です」

 即答だった。

「まだ昼過ぎですよ?」

「関係ない!」

「関係ないんですか?」

「異世界で初めて手に入れた酒ですよ!?」

 慎之助さんが力説する。

「しかも! 自分たちで物々交換して手に入れた酒!」

「まあ、そうですけど……」

「だったら飲むしかないでしょう!」

「いや、だからまだ昼……」

「異世界初の酒を前にして、時間なんて関係ありますか!?」

「ありますよ」

 唯衣さんが冷静に突っ込んだ。

「私はあります」

「唯衣ちゃん、そこは空気を読もう!」

「慎之助さんが読んでください」

「ぐっ……」

 完全に正論だった。

 蝉丸さんも苦笑している。

「まあ、気持ちは分かりますけどね」

「蝉丸さん!」

「でも、今から飲んだら眠くなりますよ」

「……」

 慎之助さんが黙った。

 しばらく考えた後。

「……夜まで我慢します」

「おお」

「偉いですね」

 唯衣さんが笑う。

 慎之助さんは悔しそうな顔をしながらも頷いた。

「分かりましたよ。夜まで待ちます」

 それから俺たちは、再び街道を歩き始めた。

 目指すのはペーリンド王国の王都。

 騎士さんの話では、今日中に王都近くまで進めるらしい。

 そこから王都に入るのは明日の朝になる予定だった。

 歩きながら、俺は時々荷物を確認した。

 果実酒の瓶は無事だ。

 割れてはいない。

 よし。

 これなら夜に飲める。

 ……俺も少し楽しみになってきた。

 日本にいたころなら、異世界の酒なんて一生飲む機会はなかっただろう。

 それが今は、自分の荷物の中に入っている。

「異世界の酒か……」

 思わず呟く。

「海斗さん」

「はい?」

「今、楽しみになりました?」

 唯衣さんがニヤニヤしている。

「……少しだけ」

「ですよね」

「唯衣さんも飲むんですか?」

「少しなら」

「蝉丸さんは?」

「僕も味見程度なら」

 3人で話していると。

「俺は全力で飲みます!」

 後ろから慎之助さんの声が飛んできた。

「まだ飲んでないのに、なんでそんなに元気なんですか……」

 俺はため息をついた。

 その後も歩き続けた。

 街道沿いには時折、小さな集落や農地が見える。

 日本とはまるで違う景色だ。

 石造りの建物。

 木製の荷車。

 馬車。

 農作業をする人々。

 そして、遠くに見える大きな森。

 異世界。

 改めてそう思う。

 俺たちは本当に、とんでもない場所に来てしまったらしい。

 やがて日が傾き始めたころ。

 騎士さんから声が掛かった。

「今日はこの辺りで野営にしましょう」

「分かりました」

 俺たちは街道から少し離れた場所に移動した。

 簡単な野営地を作る。

 薪を集め、火を起こす。

 食事の準備をする。

 もう何度目かの野営だ。

 最初のころに比べれば、かなり慣れてきた。

 そして――。

「……海斗さん」

「はい」

「そろそろですよね?」

 慎之助さんが俺の隣に座った。

「何がですか?」

「分かってるでしょう?」

「……」

「酒ですよ」

 慎之助さんの目が完全に酒飲みの目になっている。

「まだ夕食もできてませんよ」

「食事と酒は別です!」

「別なんですか?」

「むしろ食事があるから酒が美味い!」

「理屈がめちゃくちゃですね」

 俺は笑いながら荷物を開いた。

 そして。

 果実酒の瓶を取り出した。

「おおおおおおおお!」

 慎之助さんが叫んだ。

「ちょっと!」

「ついに!」

「声が大きいです!」

「異世界の酒だぁぁぁぁぁ!」

 周囲の騎士たちが一斉に振り返った。

「すみません……」

 俺が頭を下げる。

 慎之助さんは気にしていない。

 むしろ瓶を見つめている。

「海斗さん……」

「はい」

「これ、飲んでいいんですよね?」

「俺が手に入れた物ですからね」

「つまり――」

「みんなで飲むならいいですよ」

「よっしゃあああああ!」

 また叫んだ。

「だから声!」

「すみません!」

 俺は苦笑しながら瓶を開けた。

 栓を抜いた瞬間。

 ふわりと甘い香りが漂った。

「おお……」

 思わず声が出る。

 果物のような甘い香り。

 それだけではない。

 発酵した酒独特の香りも混ざっている。

「これが……果実酒か」

 慎之助さんが真剣な顔になった。

 さっきまで騒いでいたのが嘘みたいだ。

 俺は持っていた器に少しずつ注いだ。

 まずは自分。

 次に唯衣さん。

 蝉丸さん。

 そして最後に慎之助さん。

「それでは……」

 俺たちはそれぞれ器を持つ。

「異世界で初めて手に入れた酒に」

 慎之助さんが言った。

「乾杯!」

「乾杯」

「乾杯です」

「乾杯」

 器を軽く合わせる。

 そして。

 俺は一口飲んだ。

「……」

 甘い。

 まず最初に感じたのは果物の甘さ。

 その後に、ほんのりとした酸味。

 そして鼻に抜ける、発酵した酒の香り。

「……うまい」

 思わず呟いた。

 強い酒ではない。

 それでも、ちゃんと酒だ。

 喉を通ったあと、身体の中にじんわりとした熱が広がっていく。

「これは……」

 唯衣さんも驚いた顔をしている。

「美味しいですね」

「ジュースみたいなのに……ちゃんとお酒ですね」

「そうなんですよ」

 蝉丸さんも器を傾けながら頷く。

「果実の糖分を発酵させているんでしょうね。かなり飲みやすいです」

 そして。

「…………」

 慎之助さんが固まっていた。

「慎之助さん?」

「…………」

「どうしました?」

 慎之助さんは器をじっと見つめていた。

 そして。

「うっっっっっまい!!」

 叫んだ。

「うわっ!」

「びっくりした!」

「声、大きいですって!」

「いや、これは叫ぶでしょう!」

 慎之助さんが立ち上がった。

「海斗さん!」

「はい!」

「これです!」

「何がです?」

「これですよ!」

 慎之助さんが瓶を指差す。

「異世界に来て!」

 さらに指を立てる。

「初めての村に行って!」

 もう1本。

「初めて物々交換して!」

 さらに1本。

「初めて自分たちで手に入れた!」

 最後に瓶を指差す。

「異世界の酒だぞ!?」

「はい」

「うっっっっっまい!!」

「分かりましたから!」

 俺は笑いながら座るよう促した。

 慎之助さんは興奮したまま座り直す。

「いやあ……」

 もう一口。

「これは危険な酒だ」

「そんなにですか?」

「飲みやすい」

「はい」

「甘い」

「はい」

「でも酒」

「そうですね」

「つまり、いくらでも飲める」

「それは危険ですね」

 唯衣さんが苦笑する。

 慎之助さんは満足そうに頷いた。

「最高です」

「そんなにお酒好きだったんですね」

「今さら?」

「今さらですね」

 蝉丸さんが即答した。

 俺たちは笑った。

 異世界に来てから、初めて心から気が抜けた気がする。

 不安はある。

 日本に帰れるかどうかも分からない。

 これから何が起きるのかも分からない。

 それでも。

 今だけは、酒を飲みながら笑っていてもいい気がした。

「ところで」

 俺は騎士さんに聞いてみた。

「この世界って、他にはどんな酒があるんですか?」

 騎士さんは少し考えて答える。

「一般的なものなら、ワインや麦を使った酒、果実酒、蜂蜜を使った酒などでしょうか」

「なるほど」

「東の地方へ行けば、穀物を使った酒や薬草を使った酒などもあります」

「穀物……?」

 慎之助さんが反応した。

「米とか?」

「さあ。地域によって原料は違いますので」

「ほう……」

 慎之助さんの目が怪しく輝いた。

「慎之助さん?」

「いや」

 慎之助さんは笑った。

「何でもありません」

 絶対に何か企んでいる。

 俺はそう確信した。

「これは……」

 慎之助さんが小さく呟く。

「酒の種類を増やすしかないな」

「聞こえてますよ」

「しまった」

 そんなやり取りをしながら、俺たちはその夜を過ごした。

 果実酒はそれほど多くなかった。

 だから、全員で少しずつ味わった。

 慎之助さんだけは、最後まで名残惜しそうに瓶を眺めていた。

「海斗さん」

「はい?」

「この瓶、空になったら俺が買います」

「何でですか?」

「記念に」

「空き瓶ですよ?」

「異世界初の酒の瓶ですよ?」

「……まあ、好きにしてください」

「ありがとうございます!」

 そこまでして欲しいものなのか。

 俺には少し分からなかった。

 でも。

 楽しそうだから、まあいいか。

 こうして俺たちは、異世界で初めて手に入れた酒を飲みながら、その日の夜を過ごした。

 そして翌朝。

「……眠い」

 唯衣さんが目をこすっている。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫です……」

 その横では。

「おはようございます!」

 慎之助さんが妙に元気だった。

「……昨日あれだけ飲んでたのに」

「いやあ、いい酒でしたね!」

 爽やかな笑顔。

「慎之助さん、昨日何回『異世界初の酒だ!』って言いました?」

 蝉丸さんが聞く。

「え?」

「僕が覚えているだけでも10回以上です」

「そんなに?」

「もっと言ってましたよ」

「……」

 慎之助さんが気まずそうに笑った。

「まあ、嬉しかったんですよ」

 俺たちは笑った。

 そして荷物をまとめる。

 いよいよ王都だ。

 街道を進むことしばらく。

 遠くに、大きな城壁が見えてきた。

「あれが……」

 唯衣さんが立ち止まる。

「王都ですか?」

「ああ」

 騎士さんが頷いた。

「ペーリンド王国の王都です」

 近づくにつれ、その大きさがはっきりしてくる。

 高い城壁。

 いくつもの見張り塔。

 大きな門。

 門の前には、馬車や商人たちが列を作っている。

 想像していたよりも、ずっと活気がある。

「何人くらいいるんですか?」

 俺が聞く。

「王都だけなら、1万数千人ほどでしょうか」

「1万数千……」

 日本の都市と比べれば小さい。

 けれど、この世界の人口規模を考えれば、それなりに大きな都市なのだろう。

 門を通る。

 すると。

 一気に人の数が増えた。

 商人。

 職人。

 冒険者らしき人。

 子供。

 馬車。

 露店。

 見慣れない服装。

 見慣れない種族。

 そして――。

「うわ……」

 唯衣さんが目を輝かせた。

「本当に異世界の街ですね」

「まあ、俺たちが異世界人なんだけどな」

「それはそうですけど」

 笑う唯衣さん。

 俺は街を見渡した。

 ここから、俺たち488人の人生が大きく変わる。

 そう考えると、少しだけ緊張する。

 仕事。

 住む場所。

 生活。

 そして、これからの人生。

 俺は小さく息を吐いた。

「……できれば、静かなところで暮らしたいな」

 ぽつりと呟く。

「じゃあ、私もそこに行きます」

「……え?」

 隣を見る。

 唯衣さんが当たり前のような顔をしていた。

「私も、静かなところがいいです」

「いや、でも……」

「海斗さん、私たちもう仲間じゃないですか」

「まあ……そうですけど」

「だったら一緒に行きましょう」

 その言葉に、俺は少しだけ笑った。

「そうだな」

 その後ろから。

「おーい!」

 慎之助さんが声を上げる。

「お前ら、なんか夫婦みたいだぞ!」

「「違います!」」

 唯衣さんと俺の声が重なった。

「おお、息ぴったり」

「慎之助さん!」

「はいはい」

 蝉丸さんが眼鏡を押し上げながら笑う。

「僕も田舎暮らしには興味がありますよ」

「蝉丸さんまで?」

「錬金術の研究には静かな環境のほうが向いていますから」

「なるほど……」

 気が付けば。

 俺たち4人は、同じ方向を向いていた。

 このときはまだ知らなかった。

 王都で行われる技能確認。

 そこで告げられる、それぞれの未来。

 そして。

 俺の「文字化けしたスキル」が、この世界でどう扱われるのかを。

 ただ、この時点で俺が考えていたのは。

「できれば、山の近くで静かに暮らしたい」

 それだけだった。

 ……まさか、その願いが。

 後に、とんでもなく忙しいスローライフへと変わっていくことになるとは。

 このときの俺は、まだ知る由もなかった。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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