光の魔法少女VS疾風のアスリート
「Huh〜♪」
という俺のきれいに整った口笛で後ろの扉に寄りかかっている俺の存在に気づいて二人の魔法少女は、振り返った。
一人は、緑の迷彩柄のフリフリのミニスカドレス。もう一人は、白の迷彩柄のフリフリのミニスカドレス。だいぶ昔の007に出てくるロシア兵の軍服をモチーフにしたのかな? さすがは、109が首都にあった国のファッションだ。ガングロ、コギャル、汚ギャル、アムラー、シノラー、平成が終わっても、やっぱあの国のファッションは、ぶっ飛んでいる。アジアンテイストとも違うまさにジャパンテイスト。コスプレ文化が域づいている。
サウスジャパンニーズユニオンの魔法少女二人は、言葉もなく、唖然とした表情で一瞬で自分たちの背を取った俺を見つめ、思考停止。固まっている。
「おいおい、そんな顔するなよ。箱推ししてるファンにさ」
ひょっとしたら、彼女たちは、付けていたスマートウォッチを破壊されたことに激おこぷんぷん丸なのかもしれない。ちょっと古い? 仕方ないだろ。こっちは、アグネス・チャンの時代からYouTubeで追い始めて、日本の知識が令和初期で止まってるんだから。まぁさ、俺みたいな歩くIPのような超有名な若いインフルエンサーがあえて、おっさんムーブをかました方がさ。俺のバイブス的に大バズりすると思うんだよね。わかるっしょ?
それにさ、何がそれにかは、そこのベリーダンサーの彼女にでも聞いてほしいんだけど、俺的にね、スマートウォッチは、わざと壊したわけではないナリよ。ちょっと超高速で動いて、触れようとしたら、たまたまクセで発動していた風のバリアーが二人のスマートウォッチを粉々に砕いちゃっただけでさ。俺にいたいけな少女たちの私物を破壊して、興奮する性癖はないわけ。わかるっしょ? 信じてよ。神に誓って、俺はフル勃起していないよ。
「ちょっと何だんまりムーブかましてんの? ひょっとして、俺の自動翻訳シール、機能してない? フゴウコーポレーションは、中国企業じゃなく、日本企業だろ? 不良品はないはずだぜ? 今は、この生体シールを喉奥に全世界の人が貼ってるから、どの言語でも意思疎通が可能なはずなんだけど、初めて使うからな。ちょっと不安になってきたぜ。ここまで、ちゃんと聞き取れてる?」
緑色の迷彩柄の少女がぴくりと瞬きし、サンルーフの奥の眼光を強くして俺を睨む。Uh〜。Sっ気の強いタイプなのかな? どこかあの業火の魔女と似た雰囲気。もっとも、あの女は、こんなフリフリのミニスカドレスなんて、三池崇史監督演出でも着ないだろうけど。まぁ、白の迷彩柄の少女は、どこか牛乳臭くて、鼻水出っぱなしだから、比較対象にしたら、二択的に緑の方が似てるだけだろうけど。おいおい、マジで信じてくれよ。俺は、神に誓って、フル勃起はしていないよ。そんな目をするなよ。
ゴールドメダリストが魔法少女でヌくわけないだろう。日本旅行もとい任務でジャパニーズユニオンに訪れた時に梅田キディランドで魔法少女のポラロイドコレクションカードを大量に買って、ニヤニヤ見せ合って、笑ってる我が祖国のオタクたちを見たけどさ。俺は、あんなのと同類じゃないわけ。日本女性は好きだけど、少女に熱視線を送るほど、見境なしに誰彼構わず射程に捉えることはしないわけだよ。そんなことしなくても、モテまくりの人生送ってるからね。
だいたいさ、10代女子をそういう目で見る連中ってのは、想像力に乏しいよ。一度でも結婚して娘を持ったなら、もしくは、その年頃の姉妹を持つ身なら、少女好きの成人男性なんて、みんなモンスターだよ。社会的にそう見られてるって自覚が無いから、今にもよだれを垂らしそうな目をしながら、鼻息荒く少女を見られるんだよ。彼らはね。
もちろん、俺のような英国紳士の血が流れる生粋のジェントルマンは、そこらへんは、節度を持って、距離感を間違わず、ちゃんと列に並んで、はがしにイラつくこともなく、何度も時間をかけて、握手会に参加するから、公式の愛でる対象として推奨されている魔法少女へのオタ活が許されてるのだよ。決して、彼らのように性的対象として、眺めてるわけでも、握手前に自家発電してるわけでもないから、変態紳士じゃない英国紳士二世のニューヨーカーがわざわざ日本まで来て、魔法少女のポラロイドトレーディングカードを収集したり、タオルやフィギュアなどのグッズを買って、魔法少女のイラストの痛車を発注するのは、法的にも社会的にも認められ、許されている尊い行いなわけだよ。ここまでは、おわかり?
「あんたのバターの池に浸けた長靴ような粘っこい英語は、ちゃんと日本語に翻訳されている。アメリカ人らしい余計なお喋りは止めて、私の質問にだけ正直に答えろ。あんたのその能力はなんだ? あんたは、魔人なのか?ジョン・カールソン」
Oh! 魔人と来たかっ! イイね! その疑惑を向けた容赦ない眼差し! 勃起してきたぜ! Mじゃないから、安心しなよ! ただの生理現象のいつもの朝と変わらない健康的なスタンダップだからさ!
「ハァッハァッハァッ。ぶひゃっぶひゃひゃひゃひゃっ!!うぴょぴょぴょぴょっ!!魔法少女や魔人は、日本にしか生息していないよぉ。最高に笑えるジョークだね。このジョン・カールソンが魔人だなんて。OK。オーケー。親切なお兄さんが説明してあげよう。俺らの住処である地球は、フォトンブラスタという宇宙光エネルギーの海を絶賛通過中だ。その影響で地球の生物の数パーセントは、百億年に一度あるかないかの急激な進化の途中なわけだ。かくゆうYO! 俺もその数パーセントのうちの一つなわけよ。古くゆかしきわかりやすい言葉を使うなら、突然変異ってやつぅ。俺が使ってるのは、だから、魔法や魔力じゃなくて、進化で得たいわゆる超能力に分類されるものだよ。まぁ、俺もチャールズのおっさんにそう説明されただけで、自分でも自分自身がなんなのか理解できてないけど、たぶん、いわゆる特別な存在? 選ばれし者なんだと思うよ。ほら、俺って、どっからどう見ても、THE主人公じゃんっ!」
緑の迷彩柄のどこかあの女に似た魔法少女は、目をぎょっと開き、俺に惚れ惚れしたようで、
「超能力……だとっ!?」
と言葉のお漏らしをした。
まぁ、仕方ないね。俺ほどの魅力的大人の男性なら、10代の多感な女子が下半身が思わず、ウェットに濡れることは、致し方ないことだよ。うん、なんせ、相手が俺だし。
緑の迷彩柄の美少女は、俺へのアプローチの仕方がわからず、無闇やたらにマジカルステッキを振り回す。俺は、大人の余裕を持って、それを風で軌道を右に左に逸らして避け、最後の大振りの力強い一撃を風の膜で受け止めた。あの生意気な小僧のように見下した視線を上から振り下ろし、魔法少女の顔の表情は、みるみるうちに恥辱でいっぱいになった。これこれ、これだよ。やっぱわからせプレイが一番興奮するねっ。
おっと、俺も地下生活が長いからか、だいぶ、歪んでるねっ。左曲がりに。
「肉体強化系の能力でスピードを上げてるんじゃない……こいつの能力は、ひょっとして、空気を操ること?」
「ビンゴ!!」
俺は、鼻水を垂らしていない方の魔法少女の明察に感嘆の声を上げる。なんてハイスペックな洞察力。そういう少女をわからせてこそ、英国紳士風ニューヨーカー冥利に尽きるというものだ。
「俺の能力は、風を操ること。でも、でもでも、それがわかったから、なんだとゆうんだい? 俺が無敵であることには、変わりないだろう?」
そう、俺の能力は無敵すぎる。風のブーストをつけて、誰よりも速く動けるし、攻防一体で風のバリアーで相手の攻撃を防ぐこともできれば、かまいたちを発生させ、無惨に切り裂くこともできる。
風、つまりは、空気だが、空気は全ての生物の生きる源。これを操る俺が最強じゃなくて、いったい誰が最強だというんだ? チャールズのおっさんが例外中の例外なんだ。あとは、あの女とガキと陰陽師と詐欺師ぐらいで俺に勝てそうな奴なんて、5本の指で足りる程度の人数しかいない。
「自称無敵の男、風のスピードで光が避けられるか?」
「ワッツ?」
緑の迷彩柄の魔法少女が俺に決めゼリフを吐くように言うと、俺の困惑をかき消すように、そこを中心に閃光が走り、部屋全体を飲み込んだ。
白い光が晴れた時、
「目がぁっ目がぁっ……!!」
と叫びながら、地面をのたうち回っているのは、俺じゃなく、緑の迷彩柄の魔法少女の方だった。
さすがの俺も光より速く動くことはできないが、チャールズのじいさんに行かされた任務で修羅場をいくつもくぐって来ているから、魔法少女が二人とも似合いもしないサングラスを付けてることから、だいたいどんな攻撃手段に出るか予想できる程、戦闘頭脳が優れている、わけでもないのだが、スマホに送られてきた監視カメラの映像で二人がどういう戦いをするのかは、チェック済みだし、二人がここに辿り着くまでの兵士たちの役割は主にそれだし、超大国のアメリカ兵士がただのやられ役のわけもない。だから、あとは、タイミングの問題で、わざと、この地面をのたうつ少女に魔法を発動させ、自滅させ、失明状態にさせるのが俺の作戦だったわけで、それを成立させるのには、コンマ1秒あれば、少女からサングラスを奪い、装着するのは、一流アスリートであり疾風のアスリートである俺にとって、造作もないことで、限りなくイージーゲームだった。
俺は、風を巻き起こして、のたうち回る少女を端に寄せ、壁に衝突させておとなしくさせると、白の迷彩柄の魔法少女に
「君に勝ち目はない。降参しなよ」
と提案した。
それに対して、白の迷彩柄の魔法少女は、鼻水を大量に垂らしながら、
「勝ち目がないのは、あなだのほうだす」
と答えた。
「はぁ?」
呆れかえる俺に魔法少女は、さらに言葉を重ねる。
「宣言しまず。あなだは、あだすに一度も触れることなく、敗北するでじょう」
少女の鼻水がきらきら不気味に輝く。
「あなだに恐怖を教えてあげまずっ」
Huh〜♪俺は、口笛を吹き、疾風と共に走り出した。




