ネバダ州レイチェル アメリカ空軍ネリス試験訓練場内ホーミー空港
最悪。サイヤク、サイアク、サイアク、サイアクサイアクサイアクの空はサファイヤ色だ。せっかく、アメリカに来たんだ。本当なら、私は、はじめての海外だし、自由の女神でも見て、ゆっくりアメリカ中を観光して周りたかった。それが16歳の少女として正常な感情だということを私は、主張するし、異論は認めない。
ああ、このエリア51が今日どしゃ降りの雨だったら、良かったのに。そしたら、自由の女神を見ることは出来なくても、本場アメリカのカラフルで異常な糖度の美味しさがぶっ飛ぶ甘さのアイスクリームを味わったり、本当にコンビニの店員やウエイトレスがガムを噛みながら接客して、デービッド・ベッカムのヴィジュアルじゃないと許されないような粘っこい英語を喋るのか確認できたのに。
あーなんで晴天なんだっチキショーめ!!これじゃあ、作戦を決行するしかねーじゃねーかよ!!
私がスパイスのババアの思い通りに動かされるなんて、癪に触りやがるっ!!
私、魔法少女フェアリーフラッシュは、日々のストレスの全てを光に変えた。
「マジカル テラ・アトミック サンシャイン!!」
エリア51空軍基地は、南極の白夜光の塊が突撃してきたかのような騒ぎになり、ある者はミサイル攻撃を疑い、ある者は核戦争の始まりの妄想に囚われ、いきなり天国や地獄に連れて来られたと思い込む者すらもいたが、実際は、私の光魔法で残酷にどこまでもどこまでも白く視界と視覚を奪われただけだった。
エリア51空軍基地の屋外にいる米兵たちの大半は、今の一撃で無力化することに成功したが、手に持つ銃をパニックでデタラメに乱射する兵士が何人かいたので、味方を撃ち殺す前にスパイス長官のマジカルスパイスストリングスの模倣の魔法防壁で作った透明のキューブを錯乱兵士の鳩尾にヒットさせ、おとなしくさせておく。
私たち南大阪自治区魔法少女特別遊撃隊は、スパイスクソ長官の方針で皆、不殺の誓いを立てさせられている。任務中の殺人行為を一切、許されていないのだ。
屋外にいる兵士を必要最低限に順におとなしくし終えて、私たちは、まっすぐにエリア51の秘密地下施設の入り口に向かう。
エリア51の秘密地下施設に繋がるエレベーターのうち、最深部の地下44階直通のエレベーターを私たち二人の魔法少女は、選択。
途中、武装した兵士の代わりに厳重なロックやパスワードが幾層にも仕掛けられ、フゴウコーポレーション社製のスプリングバルーンというヤドカリによく似た銀色のセキュリティロボットに何度も遭遇したりしたが、その全てを電脳空間内の私たち南大阪自治区魔法少女特別遊撃隊の18人目のメンバー加鳥花子に処理、クリア、解除、無力化してもらい、私と後輩の2名は、地下44階の目的地点へと飛行魔法ですいすいと進んでいく。
加鳥花子は、北大阪府シティにあった魔法少女課を落第した非魔法少女で自らをピクシーサイバーと名乗り、魔法少女狩りの蟬川秀一と協力・共謀し、北大阪府シティの魔法少女課が壊滅した起因となったテロリストで、すでに魔法少女大戦で死亡している。
しかし、自分に落第の烙印を押した北大阪府シティの魔法少女課に復讐する為、魔法少女課に所属する魔法少女全員を始末するという目的を果たす為、狂ったエリート意識の持ち主、まさにサイコパスだった加鳥花子は、電脳空間上に自分のバックアップとなるAIを残していた。
全ては、万が一自分が死んだ時用にそのAIに魔法少女への復讐を代わりにしてもらう為だったが、加鳥花子より圧倒的頭脳の持ち主、現在IQ258の元魔法少女課最強の魔法少女で南大阪自治区特別軍事作戦部参謀本部長の弥馬田グフ子にあえなくハッキングされ、そのピクシーサイバーのコピー、電脳空間内の加鳥花子は、今、南大阪自治区魔法少女特別遊撃隊の手足となっている。
加鳥花子は、生前、現南大阪自治区魔法少女特別遊撃隊の司令官スパイス長官と長官がまだ魔法少女ピクシースパイスだった頃に一戦交えたことがあるらしいが、スパイスクソ長官は、北大阪府シティの魔法少女課時代の事をろくに語りたがらないので、加鳥花子がどういった人物だったかは想像する以外になく実際のところはわからないが、
「またパスワードを解除しろだぁ!?たっくちったぁテメェのミジンコみてぇな脳みそフル稼働させて、自力でやってみてから頼めやっ!!無能クソじゃり供がぁ!!」
というコピーのAI加鳥花子の口ぶりを見るかぎり、ろくな人物でなかったことは、確かだ。
何個目かの地下44階の格納庫の扉を開くと中は、ハズレでスプリングバルーンなどのセキュリティロボの姿はなく、中はリアルな人間兵士で溢れていて、彼ら彼女らは、皆、銃火器で武装し、フゴウコーポレーション社製の旧式の非ナノテク防弾スーツを着込んで、準備万端だった為、ロボや機械やシステムを操る以外に無力な毒舌AI加鳥花子の出番は今回はなく、私たちは、たった二人で40人近くのエリート米兵との戦闘に入った。
私たち二人の戦い方は、至極簡単で単純なワンパターン。
まず、私の光魔法による巨大な閃光で相手を目潰し。これだけで大概の人間は大勢いようが数は問題ではなく無力化できるが、ダメ押しで私は、いつも発射された銃弾を通さない硬さの魔法防壁で作ったレンガ1ブロックほどの大きさのキューブを鳩尾などの急所めがけて飛ばし、相手を完全な静止状態に追い込む。今回は、相手が防弾スーツやヘルメットを付けている為、唯一空いている急所の顎先に当て、上手に脳を揺らし、エリート米兵たちをあらかた気絶させる。
完全なスパイス長官の戦闘スタイルのもろパクリだが、私はキューブは作れても、スパイスクソ長官のように全ての物体を切断する強度のマジカルスパイスストリングスのような魔法防壁を凝縮した糸状の魔法は作れない。魔法防壁の中に魔法防壁を作り、それを幾層にも重ね、強度を上げる。それを小さく細く凝縮できれば、何物をも通過させるだけで、ピアノ線が肉を切断するように切断できる。
原理さえ聞けば、魔法防壁は飛行魔法と同じく、魔法の初歩的魔法なので、どの魔法少女でも実現可能に思えるがとんでもない。強度はともかく、魔法防壁を凝縮して糸状にするだけでも並の魔法少女はできないのだ。それを可能にするには、とてつもない瞬発的かつ持続可能な化物級の集中力と精密動作が必要だ。並の魔法少女でなくとも、スパイス長官以外でそれができた魔法少女を私は知らない。
あのIQ258の最強の魔法少女と呼ばれていた弥馬田グフ子参謀本部長でさえ、
「アチシがもし、現役の時に原理を思いついていても、スパイスちゃんの魔法の再現は不可能だったでそうな。よく人は努力できるのも才能とか言いますな。でも、あれは、一種の偏執的しつこさの集中力を持つ精神構造をしてないと、努力しても身につくものではないでやんすよ。マジでガチなお話、あの魔法ができた魔法少女は、100%発狂するっす」
と言っていた。
だから、私が魔法防壁を幾層にも重ねるという原理を知っていて、再現できるのは、単純な構造のレンガ1ブロックほどの形まで。マジカルスパイスストリングスのような魔法で作った糸は再現できない。気が狂うほどの集中力など私は持ちたくないのだ。
と私がスパイス長官の能力を解説してる間に私と同じように光魔法対応の特殊ゴーグルを付けた後輩は動き出し、無力化した米兵たちを完全無力化へと誘う。
私の憎たらしい後輩、フェアリーソフトは、視力を失ったエリート米兵たちに次々と手で触れていき、触れられたエリート米兵は悪夢を見てるような表情になり、上下左右の感覚を失い、ふわりと宙に浮き上がる。
フェアリーソフトに触れられたものは、重さを失い、地球の重力から解き放たれるのだ。ここは、地下だから、天井があるからまだいいが、屋外ならこの魔法をくらったものは、フェアリーソフトが魔法能力を解除しないかぎり、宇宙空間までふわりふわりと浮かんでいく。それは、ゆっくりとした確実な死だ。
そんな彼女についた二つ名は、恐怖の魔法少女。
「いつも通り、死傷者ゼロだず。ぜんぱい」
「私を万年負け犬みたいな呼び方するな」
「ずんまぜん。あだす、生まれつき、鼻水がひどぐってぇ」
それは、本当らしく彼女の田舎者っぽい喋り方は、方言ではなく、常時出てる大量の鼻水によるものだ。
私は、この後輩と任務でやたらとバディを組まされることが多いのだが、こいつのことが気に入らない。
何故なら、この鼻水娘は、私の大嫌いなスパイス長官のお気に入りだからだ。私たち魔法少女特別遊撃隊のオリジナルメンバーは全員、緑の迷彩柄のミニスカドレスが戦闘服なのに、こいつだけ白の迷彩柄のミニスカドレスを着せられて、特別視されている。おまけについた二つ名が恐怖の魔法少女。
私たち魔法少女特別遊撃隊の魔法少女の二つ名は、スパイス長官が名付けるのだが、私なんて怒りの魔法少女だ。
なんだよ。怒りの魔法少女って。ランボーかよ。ふつう、使える魔法が光魔法だったら、もうちっと、主人公っぽい名前つけるだろ! あのババア、私がただの目潰し要員で戦闘力ゼロカスだからって、ナメてやがんだっ! なんだかんだわかんだってよぉ!!
私が弱いのは、認めるよっ! でも、そんなのこいつだって、同じじゃねーかっ! 直接触れなきゃ発動できない魔法なんて、離れたまんまじゃ、葉っぱ1枚浮かせらんない魔法なんて、マジゴミじゃんっ!
なんで私が怒りの魔法少女で、こいつが恐怖の魔法少女なんてちょーかっこいい名前なんだよっ!!
ずっちーぞっ!!
「くたばれ! クソババア!!」
「フラッシュぜんぱい。スパイス長官は、言っでも、そんなにあだすたちと年齢かわんねっず」
「え? また、私、こころの声出てた?」
「はい。えっど、あだすからすっと、恐怖の魔法少女よりぜんぱいの怒りの魔法少女の方ががっごいいっず」
「え? マジで?」
「はい。ランボーみたいでがっごいいっず」
「ぶち殺すっ!! こいつ、マジでっ!!」
「あばばばっ」
私は、轟 奏の首を強く両手で締め付けるが、何故か、こいつは、嬉しそうにしている。
ああ、マジで殺してぇ。私に理性があって、よかったなぁ。私の両親に感謝しろよ。親の育て方がよかったんだからなっ!
「ドブカス娘供っ!!ふざけるのも、大概にしろっ!!任務中だぞ!!前方の高エネルギー反応に気づかないのかっ!!」
私たちの左手首のマジカルウォッチの電脳空間から加鳥花子が怒鳴る。
「わーってるよ。この扉の一枚向こう側だろ?」
ぷかぷかと浮いてる米兵たちの中から起きた者が何人かいて、時々、銃弾が飛んでくるが、私たちは、それを魔法防壁で軽く防いで、魔法防壁のキューブを飛ばして、再び、沈黙させるのをくり返しながら、この格納庫の奥にある銀行強盗ものの平成ハリウッド映画みたいなのに出てきそうな円形に縁取られたどデカい銀色で分厚そうな扉を見つめる。
「おい、じゃあ、開けていーんだな? 本当に大丈夫なんだな? お前ら、ザコンビ魔法少女で対応できんだな? 開けるぞ? いーんだなっ!?」
「もち」
「OKだす」
しつこい加鳥花子に私たち二人は余裕で答える。
アメリカに魔法少女や魔人はいないはずだが、さて、何が待っているのか?
電脳空間内の加鳥花子が扉をロックしてるシステムにアクセスして、ゴゴゴっと音を立てながら、目の前の大きな扉が回って開いた。
すると、そこには、地下施設には不似合いなルームランナーが1台だけ置いてあり、それを稼働させて、一人の男がただ一人だけで走っていた。爽やかにスポーツドリンクのCMのような汗を流しながら、短距離走のようなスピードでずっと走り続けていた。
その室内には彼一人。他に武装した米兵の姿もなく、彼は、短パンにランニング姿でビーチサンダルでルームランナーの上を疾走し、耳栓のような古いエアポッズで音楽を聴いているのか、終始リラックスした様子で口笛を吹いている。
「ジョン・カールソン??」
私は、その男に見覚えがあった。
アメリカ代表の陸上選手。突如、失踪した伝説のゴールドメダリスト。疑惑のワールドレコード50m走2秒。
誰もどこに行ったか知らず、宇宙人に攫われたのだという都市伝説すら囁かれていたが、まさか、このエリア51にいたとは……
私は、言葉を失い、しばらく疾走し続けるその男を黙って見つめ続ける。隣で奏も同じようにしている。
その男、ジョン・カールソンに見える男は、私たちの視線に気づいたようで、ゆっくりに見える動作でエアポッズを外し、高速で流れるルームランナーから音も立てずに降りた。
そして、ハリウッド女優に三股をかけたと噂される必殺の爽やかなスマイルを私たちに向けて浮かべ、
「ワオ、日本の魔法少女か。俺ぶっちゃけあんたらのファンだよ。でも、悪いね。チャールズのおっさんにここに入ってきた奴は、誰であろうとぶっ殺せって俺、脅されてるんだ」
とイギリス訛りの英語で言った。
私たちの間を一陣の疾風が通過し、AI加鳥花子と南大阪自治区魔法少女遊撃隊の本部との唯一の通信手段であるマジカルウォッチが二ついっぺんに粉々に砕けた。




