その時だった。
その時だった。
ガタン。
突然、大きな音が部屋に響いた。
真尋はその音に驚き、一度大きく体を震わせる。
「何? 何の音?」
思わず声を挙げていた。
音は頭上から聞こえた気がした。視線を上に上げる。
天井は五十センチ四方くらいの四角いパネルが敷き詰められたような意匠になっている。真尋が立つ位置から少し離れたところにある天井の隅で、その中の一つが揺れていた。そのパネルは回転式の扉のようになっていたようで、完全に開かれていて、壁に設けられた蝶番を中心にして行ったり来たりを繰り返している。そのパネルが開いた時の音のようだった。
真尋はしばらく固まったままその揺れる扉を見つめていた。
この扉は、なぜ突然開いたのか。
真尋がこの部屋に入るためのドアを開けてから、ある一定時間経つと自動で開くように設定されていたのか。
あるいは、この部屋にいる真尋を観察する誰かがいて、その誰かがロックを解除したのか。
もし後者だとしたら、その意図の裏に、絶望的な何かが隠れているような気がした。だから、真尋はしばらくその場を動くことができなかった。息を潜めるようにして、ただじっとしていた。
振り子のように揺れていた扉は、やがて完全に止まった。
それからしばらくは、静寂がこの部屋を埋め尽くしていた。
何も起きない……。
このまま待っていても何も起きないようだった。
真尋は、その扉が開いた理由を探る必要があると思った。そうしないと、この閉じ込められた部屋に関する重大な何かを見落としてしまう可能性がある。
意を決して、一歩一歩その扉に近づいて行く。視線はその扉からは決して外さなかった。
その扉のすぐ下までたどり着くと、顔を上に向け、その扉で開かれた中を覗き込む。
奥には空間があるようだった。だけど部屋の照明がその中まで届かず、闇に包まれていて、真尋の目にはよく見えなかった。
ただ、その奥に何か鈍く光るものが見えた気がした。
真尋は両手で目の周りを筒のように覆う。部屋の照明をその両手で遮り、暗闇に目を慣らすようにして、その扉の奥の空間をじっと凝視した。
少しずつ、その鈍く光るものの正体が見えてきた。
それは金属製の円形の筒のようなもので、大きさは直径十センチくらいのものだった。その円形の開いた口を下側に向け、その奥の天井に設置されていた。
突然開いた天井のパネルの奥に隠されていた、金属製の筒状の何か。
真尋は、過去に似たようなものを見た記憶があることに気づいた。
確か通っていた小学校の校舎の中だった。
必死になって思い出そうとする。
教室の前の廊下。
その廊下をまっすぐ行った先の突き当たり。
そこにその金属製の何かが設置されていた。その何かは、いつもは扉で隠されている。だけど、一度だけその扉が開くのを見たことがある。その上にはそれを説明するプレートが張り出されていた。そしてそのプレートには、『放水口』という文字が印刷されていた。
そうだ……、『放水口』だ……。
廊下の突き当たりに黄土色の金属製の箱が取り付けられていて、その箱の上に赤色のプレートで『放水口』と表示されていた。いつもはその蓋は閉じられて中を見ることができない。だけど一度だけ、避難訓練の際に、近くの消防署からきた消防署員がその蓋を開けて、中を見せてくれた。
「火事が起こった際は、ポンプ車のホースを校舎の前に設けられた送水口に接続します。そして建物の中では、この放水口に消防隊所有のホースを連結します」
まだ若いその消防署員は金属製の放水口を右手で示す。
「ポンプ車がその放水口に加圧給水をし、それで建物の中の消化活動を行います」
確かそのように説明してくれたはずだ。
普段は見ることのなかった金属製の放水口が真尋の目にはやけに物珍しく見えた。そのときに見た放水口と、この部屋の天井の奥に設けられている金属製の何かはそっくりだった。
なぜそのようなものがここにあるのか。
そして、なぜ突然その扉が開いたのか。
真尋はその先を想像する。
そして、もし、この天井に設けられているものが本当に『放水口』だったとしたら……。
真尋はその先の想像をかき消すように首を小さく横に振った。
もしこれが本当に『放水口』だったとしたら。
その先には、薄暗い想像しか浮かんではこなかった。




