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東京壁  作者: 朝月
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浮塵

「1945年2月、ファシズム軸心国の無恥なる拡張に対し、同盟国はヤルタにおいて歴史的会談を開催。会議はソ・米・中・英の四カ国共同出兵により、日本軍国主義を徹底的に砕く偉大なる決議を確立した!これぞ我ら東日本人民が、ソ連の老兄の助力を得て天皇貴族の搾取の枷を打ち砕き、新しき歴史を迎えた偉大なる幕開けである……」


掌に収まるほどの木箱ラジオが、荒々しい赤煉瓦の壁根に置かれている。スピーカーの網布はとうに黄色く擦り切れ、カビの匂いを漂わせていた。


黄銅色の指針は周波数の目盛り線の真中央に固まり、電流の雑音が「ザザッ」と底鳴りする中で、立て板に水のような宏大かつ機械的なアナウンスを吐き出している。終日煤煙と水蒸気に包まれたこのボイラー室において、その声は湿気と混じり合い、濁って耳障りに響いていた。


私は歯を食いしばり、湿った炭塊をスコップで炉くちへ力任せに放り込む。狂暴な火舌が一瞬で舐めしゃぶり、煤と汗にまみれた私の顔を熱く照らした。


首にかけた汚れた手ぬぐいを外し、目角の汗を拭うと、熱を帯びた赤煉瓦の壁に背を預けて滑り込むように座り込んだ。


昨夜の高台で見た、佐々木正雄先輩の打ち砕かれた眼鏡——鼻梁に虚しくひっかかっていたあの歪んだ金属フレームが、脳裏から離れない。昨日跳ね飛んできた焦炭の破片で切った額の傷が、今も鈍く痛む。昨日まで高炉の温度計の読み方を教えてくれていた人が、一夜にして他人の口から「反革命」と呼ばれるようになったのだ。


「おい!開けろ!」


重い鉄扉がガンガンと鳴り響き、こびりついた鉄錆が雨のように落ちてくる。


遮熱扉を開けると、そこに立っていたのは門番の小林健だった。普段は大門の長椅子から腰を上げることすら稀なこの老いぼれが、こんな油汚れたボイラー室に現れるのは珍しい。


「秀雄の旦那、何をぼんやりしてやがる」小林健は黒ずんだ炉の中を覗き込み、顔にしわを寄せる。「長谷川の工場長がお呼びだ。今すぐ行政棟へ行け。ここは俺が見ててやる」


私は答えず、壁から前掛けを外すと、汚れた手ぬぐいで手の黒灰を拭い、重い鉄扉を閉ざした。


ボイラー室から行政棟へ向かうには、敷地を横切らねばならない。


頭上には数え切れない蒸気配管が縦横に交差し、継ぎ目の赤錆が剥がれ落ちていた。右手の平炉からは聞き慣れた轟音が響き、天車が傾けた灼熱の鋼水が鋳型へと注がれる。弾けた刺すような白い光が灰色の空を瞬間的に照らし、またすぐ暗がりへ戻っていく。


冷却塔の脇を通ると、コンクリートの柱に白い塗料で大書された標語が目に飛び込む——『一トンでも多く製鋼し、美帝の野心狼を叩き潰せ』。文字は半人ほどの大きさがあり、ペンキの刷毛跡がコンクリートの隙間に残っていた。空気には焦炭と硫黄の匂い、そして冷却水が蒸発した湿った冷気が満ちている。嗅ぎ慣れた匂いは、もはや苦にもならない。


ふと、百メートルほど先へ視線をやった。高圧有刺鉄線の向こう、コンクリート板を積み上げた高い壁が天に向かって聳え立っている。壁の上の鉄製監視所では、探照灯のガラスカバーが曇天の光を冷たく反射していた。「東京壁」だ。


行政大楼の人造石の階段は、労働靴の底で中央がくぼんでいる。最上階へ上がり、一番奥の部屋の木造ドアを押し開けた。安タバコと古い木造家具の匂いが漂ってくる。


正面には軍用緑のペンキが塗られた大きな木製デスク。その背後の壁には指導者の巨大な肖像画が掲げられている。大きな窓のガラスは綺麗に磨かれており、外の濁った江水と遠くの灰色の壁が見えた。


工場長的长谷川隆は白磁のアッシュトレイに吸い殻を押し消し、私にあごをしゃくった。「秀雄か。入れ」


木椅子に腰を下ろす。「工場長、お呼びでしょうか」


「今日呼んだのは二つある」長谷川は腹の上で両手の指を組んだ。「一つ目だ。今日からお前が生産主任の職を引き継げ。ボイラー室で炭をくべる必要はもうない。東側の奥の部屋がお前の執務室だ——正雄が使っていた部屋だ」


指がズボンの縫い目を強く掴んだ。「私が……ですか?では……正雄先輩は?」


「正雄は死んだ」長谷川は茶碗の茶をすする。「昨晩、夫婦で鴨居に縄をかけたそうだ。今朝、保衛科が行って見つけた。空けておくわけにもいかん。お前は二年付き添って技術も仕込んである。お前を選んだのは、身元が清白で仕事が堅実だからだ」


正雄先輩が、死んだ。


一瞬、頭の中が白くなった。昨夜の高台で声をかけられなかったのが、永遠の別れになった。


「では……二つ目は何でしょう」声が乾いて掠れた。


「二つ目だ——出てきなさい」長谷川は部屋の隅の厚い緑色のカーテンに向かって声をかけた。


カーテンの隙間から、黒い丸頭の革靴がのぞく。綺麗に磨かれ、靴紐がきっちりと結ばれていた。


小さな手がカーテンを押し開ける。


十二、三歳ほどの少女が足を踏み出してきた。濃紺のプリーツスカートに、洗濯の行き届いた白いブラウス。襟元にはパリッと糊の効いた赤いスカーフ。おかっぱ頭に質素な鉄の髪留め。小さな顔には感情の起伏がなく、肌は白い。


油と黒灰に塗れた工場の中で、その子は異質なほど清潔だった。


「正雄が遺した子、佐々木恵子だ」長谷川が机の上の灰を指で弾く。


少女は半歩前に出た。足音は聞こえない。お腹の前で両手を重ね、膝を揃え、深くおじぎをした。


「初めまして、おじ様。佐々木恵子と申します。生前、父が大変お世話になりました。これより、よろしくお願いいたします」


その所作と口調はあまりに几帳面で、古風ですらあった。日頃私の周りにいる人間とはまるで違う。


「お前は現場で正雄と一番近かった」長谷川が机を叩く。「工場で検討した結果、この子はお前が引き取れ」


息が詰まった。「工場長、それは……」


「わかっている」長谷川は手で制し、身を乗り出して私を睨みつけた。「生産主任になれば、毎月の幹部用加給配給をお前に一口分多くつけてやる。秀雄、もし嫌だと言うなら……ふん、この主任の椅子と配給を欲しがる奴など、いくらでもいるんだぞ」


退路を断つ言い方だった。


主任の立場と増える配給は抱き合わせだ。家には育ち盛りの子が四人。以前の一般工員の配給では、食卓に出したそばから飯が消え、妻は毎日細引きの粉にふすまを混ぜてパンを丸めていた。この話断れば、私を押し破って上に立とうとする奴はごまんといる。そうなれば増える配給どころか、ボイラー室の仕事すら危うい。


それに、正雄先輩が生前、高炉の数値の読み方を教えてくれた時によく言っていた——素人が上に立って炉を焼き切らせたら、全員があ腹を空かせることになる、と。


「……承知いたしました」私は干からびた唾を飲み込んだ。


「それでこそ労働者階級の鑑だ!」長谷川の頬の肉が緩み、机をポンと叩いた。「今夜の班会で発表する。恵子、これからはこの人がお前のおじさんだ。言うことを聞くんだぞ」


長谷川は引き出しを開け、牛皮紙で束ねられ赤い印章が押された書類を「バサッ」とデスクの真中央に放り投げた。


「今年の工場の生産ノルマだ。持っていけ」長谷川は真皮の背もたれに寄りかかり、タバコ箱から一本抜き取った。「浦安工場の高炉の出湯量は、これからお前の腕にかかっている」


私は手を伸ばし、ずっしりと重い牛皮紙の束を受け取った。赤い朱肉の印は、まだツンとするインクの匂いを放っていた。


振り返り、黙って立っている少女に手を振る。「おいで。一緒に行くぞ」


恵子は何も言わず、従順に半歩前へ踏み出し、私の斜め後ろについた。羽毛のように軽い足取りだった。


工場長室を出ると、廊下の突き当たりにある狭い小窓から冷たい風が吹き込んでいた。私は足を止め、ふと外を見やった。


百メートル先の高い壁の上では、厚手のコートを着た巡回兵が鉄梯子をゆっくりと登っていく。探照灯のガラスが曇り空の下で冷たく光っていた。敷地内の高炉は相変わらず「ズズン」と低い音を立てて黒煙を吐き出し、空気には焦炭の匂いが満ちている。


上着のポケットの中の牛皮紙の重みを感じながら、後ろでスカートの埃をそっと払っている恵子を振り返った。


「よし、まずは現場へ戻ろう」私は低く声をかけた。「定時になったら、家に連れて帰る」

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