淑女への第一歩
馬車は学園の寄宿舎へ到着した。今までは家の者が何もかも世話してくれていたが、これからは自分のことは自分でやるのだ。普通の学園生活を送るためにも、それくらいはできなければならない。
周囲にはリリシアと同じように、学園に入学する貴族の子弟達が各々馬車を降りて荷物を運んでいるところだった。
「あの〜、私、リリシア=アイゼルヴェルトと申します。あなたは……」
「ひっ?!アイゼルヴェルト?!しっ、失礼いたします!」
どの新入生も、リリシアが声をかけて名乗ると同じ反応を示した。無理もない、アイゼルヴェルト家は他の貴族達からは酷く恐れられている。
アイゼルヴェルト大公家は帝国で唯一、私兵団を持つことを許され、帝国の歴史における数々の戦争でその名を轟かせてきた。軍事一辺倒の家風から、貴族らしからぬと思われているのだろう。
「……でも、そんなことでめげてはいけないわ!私、普通の青春を送るためにこの学園に来たんですもの!」
リリシアは一人奮起する。父が護身用にと持たせてくれた剣は、とにかく人目につかないように布で厳重に巻いて隠した。後は、自分を「アイゼルヴェルト大公の娘」という色眼鏡で見ない、本当の友情を築くだけだ。
「あの〜……」
後ろを振り向くと、少し小柄で大人しそうな少女がオドオドとしながら声を掛けてきた。
「何か御用かしら?」
「しゅ、しゅみません!私……多分貴女と相部屋で、そっ、その!よろしくおねがいします!」
少女はリリシアから目を逸らしながら何とか伝えたい事を伝えたようだった。
「あら、そうだったの。私、リリシア=アイゼルヴェルトよ。よろしくね」
リリシアは手を差し出した。
「シェリー=フォルク……です」
シェリーと名乗る少女は、リリシアの差し出した手にちょんと触れると、三歩ほど後ろに下がった。
「大公家のリリシア様と同部屋なんて……き、恐縮です」
「お気になさらないで。それに「様」付けは無しにいたしましょう?私達、同級生なのですから」
「はっ、はいぃ!リリシア様!」
シェリーは大慌てで自分の鞄を放り出し、リリシアの荷物を運ぼうとする。リリシアはそれを制止し、自分の荷物を両肩で担ぐと、駆け足で寄宿舎まで向かった。




