お茶を一杯いかがですか?
家具だけが並んだ部屋は、まだ生活の気配がなくがらんとしていた。リリシアが荷物を置くと、少し遅れてシェリーが息を切らしながら部屋に入る。
「シェリー、ここが私たちの新しい生活の場所ですよ。ベッドはどちらになさいます?」
「あっ……えっと、リリシア様が先にお選びください」
「それでは不公平ですわ。そうです、ゲームで決めるというのはいかがでしょう?」
リリシアはそう言うと、張り切って鞄を漁り始め、ボードを取り出した。
「ルールは簡単!シャハトで勝った方がベッドを選べますの!」
シャハトとは、いわゆるチェスのようなゲームであり、帝国では一般的な頭を使う娯楽だ。
「で、でも……私あまりやったことがなくて」
「お気になさらないで。でも、私は故郷では負け無しでしたから、手加減はいたしませんわ」
「お、お手柔らかにお願いします……」
盤上に駒を並べ、リリシアは自信満々だった。シェリーは仕方なくリリシアの対面に座る。
「さぁ!負けませんわよ!」
十分後、リリシアは窮地に立たされていた。既にこの段階で、彼女の持ち駒はたった一つになっていた。
「そ、そんなはずありませんわ!ええい!逆転の一手です!」
力強く駒を盤上に置く。
「あの……詰みです」
シェリーが申し訳なさそうに右手を挙げた。詰み、つまりリリシアの負けである。
「そ、そんなはずは……!?もう一局!もう一局お願いいたします!」
そう、彼女の故郷で彼女よりこのゲームが得意な者は、父と兄だけだった。それが今、完膚なまでに叩きのめされた。
何度やっても結果は同じであった。それどころか対局を重ねる毎に、シェリーの手はどんどん鋭くなっていき、十局目にはたった二手でリリシアは詰みを宣言される。
「か……完敗ですわ。まさかこの私が……」
「ご、ごめんなさい……」
なんとも気まずい沈黙が流れる。リリシアはハッと思いついたかのように笑顔になった。
「そうですわ!頭を使ったことですし、お茶を一杯淹れてさしあげます!」
彼女はまたガサガサと鞄を漁り、ティーセットを取り出す。あの小さな鞄にどれだけものが詰まっているのか、シェリーは苦笑いをしながら考えた。




