血染めの百合
星のない空、焼け崩れる営み、そして……血の臭い。
その日、村を襲った盗賊達はたった一人の少女によって全滅した。
少女の周囲に散らばる、盗賊「だった」もの。剣を持つ者、盾を持つ者、歴戦の傭兵、無法者の中でも選りすぐりだった。
少女が握っていたのは、たった一本の剣だけだった。
誰かが叫んだ。
誰かが逃げ出した。
誰かが命乞いをした。
だが、少女の剣は止まらなかった。
刃が煌めくたびに、一人、また一人と崩れ落ちていく。彼らが生き延びるために積み重ねてきた経験も技量も、少女の前では全く無意味だった。
少女はただ剣を振った。
考えるよりも先に身体が動いていた。
やがて静寂が訪れる。
勝利の喜びも、殺戮への愉悦も無い。何が起きたのか少女自身も理解できず立ち尽くしていた。
少女の名は、リリシア=アイゼルヴェルト。
年齢八歳。帝国五大公の一角、アイゼルヴェルト大公家の令嬢である。そして人々は、やがて少女を「血染めの百合」と呼ぶようになった。
それから七年。
帝都に一人の令嬢がやってきた。
アイゼルヴェルト大公家の娘。帝国最強と称される軍事貴族に生まれ、剣を取れば必殺の一撃を放つ少女。その名を聞けば、人は畏怖と好奇心を抱くだろう。
「ここから……私の青春が始まるのね!」
帝都の街中を走る馬車の中で、リリシアは固く決意していた。
剣は握らない。無用な争いには近付かない。淑女として己を磨き、素敵な友人を作る。……できることなら、心ときめく恋だってしてみたい。
そう、ここは帝都だ。
故郷のように、力だけが全てでは無い場所だ。
少なくとも、彼女はそう信じていた。
車窓から、真新しい鉄骨の塔が見える。その向こうには、帝国内の貴族の子弟が集う学園がある。
リリシアは高鳴る胸を抑え、窓の外に目を輝かせた。




