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断界のネーデ  作者: 萱 景一
第0章 始まり

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団長

突如現れた美女が、俺に「戦え」と言い放った。

 女性の背後を見ると、起き上がっていた凪が、俺に向かって顔を真っ青にして首を激しく横に振っている。絶対に断れというサインだ。


「戦えと言われましても……まだ操作にも慣れてないですし、初めてのリンクで余白が消耗してて……」

「嘘だな」


 女性は冷たく言い放つと、俺に疑いの目を向けた。


 「お前の『余白』は底が見えん。先に聞いておくが、お前は『不正プログラム』を使用していないだろうな」


 ピリッ、と空気が凍りついた。

 不正プログラム――俗に言うチートの事だ。SNSでも、この世界にそういう不届き者がいるというニュースは見たことがある。勿論そんな物は使っていないし、そもそもやり方も知らない。


「失礼ですね。そんな事、やってませんよ」


 俺は思わず語気を強めて言い返した。

 その言葉を聞き、女性は口角を三日月に歪め、猛禽類のような笑みを浮かべた。


「安心しろ、殺しはしない。お前の実力を知りたいだけだ。コイツらの様子を見るかぎり、お前には『何か』がありそうだからな」

【ねぇねぇこの人ちょっと怖いよぉ……】


 獲物を見るような視線に、脳内のコモが怯えた声を上げる。


「零人君。申し訳無いけど、少しだけ付き合ってあげてくれないかな。この人、僕らのボスなんだ」


 アーサーが冷や汗を流しながら平謝りしてくる。

 皆の反応からして、恐らくそうだろうとは思っていたが。

 女性はアーサーを一瞥すると、再度俺に向き直った。


「まぁそういう事だ。自己紹介がまだだったな。私は赤井 緋音(あかい あかね)。このギルド『空亡』の団長をしている」

「俺は綴 零人(つづり れいと)です。今日から、この世界に来ました」


 緋音さんが差し出した白く美しい手を、俺は握り返す。

 挨拶を終えて離そうとしたが――ガシッ、と万力のように掴まれて離れない。


「それで? 戦うんだろ?」


 俺が返事をせずに悩んでいると、徐々に握る力が強くなっていき、俺の手がミシミシと嫌な音を響かせる。


「ハイ。ヤラセテイタダキマス」


 俺は大量の冷や汗を垂らしながら、カタコトで頷くしかなかった。

 このままでは戦闘前に右手が粉砕されてしまう。


「私は手加減するが、お前は全力で来い。多少訓練所が壊れようとも気にはしない」


 なんとも安心できない言葉を残し、緋音さんが手を離す。

 俺はくっきり赤く跡がついた右手をヒラヒラさせながら、両手で封幻を握り直す。

 すると俺の戦意に反応し、刀を縛る包帯の隙間からチロチロと紫の炎が漏れ出した。

 

「じゃあ中央に立て。アーサー、仮想空間を展開してくれ」

「緋音さん。零人君の力はどうやら仮想空間の根幹に影響があるようで……展開しない方がいいですよ」


 アーサーの進言に、緋音さんは眉間に皺を寄せた。


「ふむ。ならば仮想空間は止めておこう。アーサー、悪いが訓練所の結界を、お前の盾で強化しておいてくれ。私も念の為、リンクしておくか」


 緋音さんは俺の対面に立つと、右腕を天へと高く掲げた。


「来い、シグ。――Soul Link――『緋律銃棍(ひりつじゅうこん)』」


 直後、訓練所の上空から甲高い鳥の鳴き声が響き渡った。

 赤い流星の如く燃え上がる怪鳥が、緋音さんの元へ急降下し、爆炎を撒き散らしながら彼女の手元で変質する。

 炎が晴れた時。緋音さんの両手には、深く血のように紅い『トンファー』が握られていた。

 しかし、ただのトンファーではない。持ち手の部分にはリボルバーのようなシリンダーと引きトリガーが備わっており、肘を覆う部分にも無骨な銃口が上を向いて付いている。近接武器と銃火器を融合させた、凶悪なフォルムだ。


「さて、始めようか。初手はお前に譲ろう。アーサーが弾いたコインが落ちた瞬間が、合図だ」


 アーサーが懐からコインを取り出し、親指で高く弾き飛ばす。

 高く舞うコイン。

 俺は封幻を構え、腰を深く落とした。


 ――キンッ。


 金属音が響いた瞬間。俺は【改式-雷燕】を発動させ、爆発的な加速で距離を詰める。

 先程の凪との戦いで、直線的な動きは読まれると学習した。俺は少し左へ弧を描くように回り込み、緋音さんの死角へ急接近する。


 【僕の使い方分かるよね。頭に浮かび上がる術式こそ、今の僕が出せる力だよ】

――あぁ、分かってる。


 暴走していた時は痛みと恐怖しかなかったが、今は違う。封幻の重心、炎の熱量、そして『技の形』が、データとして脳内に直接流れ込んでくる。

 俺は棒立ちの緋音さんを下から掬い上げるようにして、封幻をカチ上げた。


「甘いな」


 緋音さんは表情一つ変えず、斬り上げの軌道に合わせ、右手の緋律トンファーの側面を盾のように合わせる。

 だが、俺はそれを読んでいた。

 防がれた緋律を支点にし、体を捻って左脚で緋音さんの顔面へ強烈な回し蹴りを放つ。


「反射神経は大したものだな」


 だが、緋音さんは微かに屈むだけで蹴りを透かした。

 空中で体勢を崩し、無防備な背中を向けた俺に向かって、緋音さんが左手の緋律を突き出す。


「っぐ!?」


 打撃ではない。背中に緋律の先端が触れた瞬間、緋音さんが『トリガー』を引いたのだ。

 カチッ、という硬質な音と共に、緋律の銃口から圧縮された衝撃波が至近距離で炸裂した。

 俺は凄まじい衝撃を背中に受け、前方に吹き飛ばされる。

 宙を舞いながらも、俺は封幻を地面に深く突き刺し、火花を散らしながらブレーキをかけて体勢を立て直した。


「私はそんな小細工が見たい訳じゃない。お前の『本当の力』が見たいんだ」


 緋音さんが挑発するように緋律を回す。

 俺は無言で立ち上がり、封幻を構えて意識を集中させた。

 イメージは、初めてコモとリンクした時に暴発させた、あの圧倒的な力の奔流。

 俺の『余白』を、封幻に限界まで注ぎ込む。

 呼応するように封幻の炎は激しさを増し、巨大な刀身に紫の炎が竜巻のようにとぐろを巻き始めた。

 それを見た緋音さんは、満足そうに口元を歪めた。

 

 ――コモ、行くぞ。

 【うん!ブッパなしちゃえ!】


 俺は紫の炎塊となった封幻を大きく振りかぶり、緋音さん目掛けて全力で振り下ろした。

 脳裏に浮かんだ『術式』を叫ぶ。


紫焔斬(しえんざん)!!」


 封幻から放たれたのは、三日月型の巨大な紫色の斬撃。

 それは轟音を響かせ、訓練所の地面を深く抉りながら、圧倒的な質量となって緋音さんへと襲いかかった。


「ふむ……【改式(かいしき)-焔帝(えんてい)】」


 緋音さんが緋律のトリガーを引く。シリンダーが高速回転し、銃口から人を丸ごと包み込めるほどの巨大な火球が撃ち出された。

 紫焔斬と焔帝。互いの極大の術式が衝突し、辺り一帯に鼓膜を破るような衝撃波が吹き荒れる。

 一瞬の拮抗。

 だが、紫焔斬が焔帝を『切り裂いた』。

 いや、違う。緋音の放った巨大な炎が、紫の斬撃に触れた部分から『無かったこと』にされていく。

 焔帝はその場で形を崩し、大きな爆破とともに呆気なく消滅した。

 勢いを弱めながらも、紫焔斬はなお緋音さんへと突き進む。

 緋音さんは目を見開き、両手の緋律をクロスさせて受け止める体制に入った。


 ――ギギギギギィィィンッ!!!


 緋音さんに紫焔斬が直撃した瞬間、金属が削れるような耳障りな音が響き渡る。

 受け止めようとした緋音さんだったが、その尋常ではない圧に耐えきれず、ブーツで地面を削りながら後方へズルズルと押し込まれていく。

 彼女の表情に、初めて『焦り』が浮かんだ。


「チィッ!」


 緋音さんは力で弾き返すのを諦め、体を捻って紫焔斬の軌道を斜め上へと受け流し、自らは横へと飛んで回避した。

 受け流された紫焔斬は訓練所の分厚い壁に激突。

 巨大な衝撃音と共にアーサーの防壁結界を粉砕し、壁を大きく削り取ってようやく消滅した。

 その衝撃で、巨大な戦艦『ルミナス』全体がグラグラと揺れ動く。

 もうもうと立ち込める砂煙の中、緋音さんは壁に穿たれた異様な傷跡をジーっと見つめ、考え込む様な仕草をした。


「……やめだ。私の負けでいい。零人、お前うちに来い」


 緋音さんは不意にリンクを解いた。手元の緋律が赤い光の粒子となり、彼女の肩に小さな怪鳥『シグ』となって留まる。

 急な降伏宣言と入隊の誘いに、俺がポカンとしていると、続けざまに緋音さんは口を開いた。


「お前の攻撃に乗った『余白量』を見て、私は完全に相殺出来る威力の術式を飛ばした。……なのに、結果はアレだ。お前の術式は、根本的なシステムが違う。私が直に受けた時も、斬撃や熱を受けた感覚では無かった。まるで、自分の余白が『書き換えられる』ような……」

「自分ではただ斬撃を飛ばした感覚だったんですけどね」


 戦闘が終わったことを悟り、俺もリンクを解除して緋音さんへと近づく。


「緋音さん。さすがにいきなり誘っても、零人君は困惑するだけですよ。僕らが何をしている集団なのか、ちゃんと説明しないと」


 防壁が破られて冷や汗を拭っているアーサーが、緋音さんを嗜めるように言った。


「それもそうだな。よし会議室へ行くぞついてこい」


 緋音さんは有無を言わさぬ態度で踵を返し、コツコツとブーツの音を響かせて出口の方へ歩いていった。

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