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断界のネーデ  作者: 萱 景一
第0章 始まり

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暴走

 凪の様子を伺っていると、外野が騒がしいことに気付く。


「さーどっちが勝つでしょう!!当たった人は昼ごはんを大盛りにしてあげよう!!」


 紗奈さんが何処からか取り出してきた、丸ブチのサングラスを掛けて怪しい商売を始めていた。


「じゃあ僕凪君!!」

「ワシは零人じゃな」


 ガルとコモが、しゃがみ込んだ紗菜さんの持っている箱に紙のような物を入れている。

 おいコモ、そこは俺に入れろよ……。

 凪の奴も同じ事を思ったのか、俺と同じくらい渋い顔をしていた。

 だが、すぐに凪は気を取り直すかのように鋭くこちらを見つめる。


「いいねぇ。じゃあ次は、少し本気で行く」


 凪が姿勢を低くし、棒を構える。

 空気がビリビリと震えるのを感じた。場に明らかな緊張感が漂う。

 凪の足元と腕の周囲に、陽炎のような空気の歪みが見えた。

 何か、仕掛けてくる……!

 

 突然、凪が構えていた棒を俺の方へ力強く投擲した。

 武器を手放した!?

 俺は飛来する棒をギリギリで躱すイメージを描きながら、丸腰になった凪へ向かって一気に踏み込む。

 ここで決める!

 

「【改式-雷燕】、そして【水膜】!」


 凪が目にも留まらぬ速さで駆け出し、なんと自ら投げた棒へ追いついた。

 棒を掴んだと同時、足元に【水膜】を発動させ、摩擦を無くしてスケートのように地面を滑りながら、突っ込んでくる俺の懐へと潜り込んでくる。


「クッ!?」


 投擲はフェイントか!

 まさか自分の投げた武器に追いつくとは思っていなかった俺は、何とか眼前へと迫る棒を短刀で弾き飛ばす。

 だが、凪はそれを読んでいたようにニヤリとほくそ笑んだ。

 空いている左手を、俺の目の前へとかざす。

 

「【改式-点火】+【水膜】……からの【雷燕】!」


 目の前で、極限まで圧縮された炎と水が衝突し、激しい水蒸気爆発が発生した。

 視界が真っ白な蒸気に包まれ、凪の姿を見失う。

 しまった、目眩まし――!

 熱風を切り裂いて見つけ出した時には既に遅かった。滑るように俺の死角へと回り込んだ凪が、俺の首筋に手刀をピタリと寸止めしていた。

 ……負けたのか、俺。

 凪の思惑にマンマとハマってしまった。技術、経験、発想力。全てにおいて完敗だ。

 めっちゃ悔しい。


「降参だ……」

「ふーっ。いやでも、すげぇよお前。俺が武器を投げた瞬間に、前へ突っ込む判断ができるとはな。普通は動揺して足が止まるぞ」


 凪は手刀を解くと、俺の背中をバンバン叩きながら息を吐いた。

 痛ぇよ。

 

「凪の足と腕に、空気の歪みみたいなのが見えたんだ。投げてくるとは思わなかったけど、何かデカいアクションが来るって構えてたから反応できただけだ」

「それは『余白』の動きだね。視覚で余白の流れを捉えられた時点で及第点だよ。もっと研ぎ澄ませば、肌で感じることもできるようになる」


 アーサーが拍手しながら歩み寄ってくる。

 その後ろで、コモが「大盛り! 大盛り!」と奇妙なダンスを踊って喜んでいた。

 ガルは食事にそこまで興味が無いのか、賭けに負けた事を気にしていないようだ。


「でも、初心者のれいくんが凪の小技を引き出したのは凄いよ。経験値の差を純粋な身体能力だけで喰らいついてたんだから」

「そうだね。零人君、改式の使い方はある程度分かったかな?改式もそうだし、他にも色々術式があるから後々覚えていこうか」

「改式って使い方によって色々出来るって事がよく分かりました」


 まさか凪が足に水膜を出して、地面を滑るように向かってくるとは想像もしていなかった。

 全ては発想次第ということなのだろう。


「俺はここまでするつもりは無かったんだけどなー。零人なら普通にカウンターしてきそうな気がしてな」


 そう言ってもらえるのは嬉しいが、それでも俺は普通に負けたことが悔しかった。


「それじゃあ、本題の『Soul Link』に移ろうか。凪、ガル、手本を頼めるかい?」


 アーサーの言葉に、ガルがコモの横を離れ、凪の元へトコトコと歩いていく。


「あいよ。おいガル!! お前さっき、なんで俺に投票しなかったんだよ」

「なんじゃ? ワシに入れて欲しかったのか? 可愛いヤツじゃのう」


 詰め寄る凪の言葉を、ガルはやれやれといった様子で聞き流している。


「まぁいいや。やるぞ」


 凪はそう言い、腕を前に突き出した。

 

「――Soul Link――『焔潮輪(えんちょうりん)双槍(そうそう)』!!」


 凪が真名を告げた瞬間、赤と青の炎と水が周囲に渦巻く。ガルは一瞬の内に光の粒子となり、俺がネーデで初めて凪と会った時に持っていた、あの特殊な形状の槍へと姿を変え、凪の手の中へと収まった。


「Soul Linkを行うと、こんな風にバディが固有の武器に変わるんだ」


 凪は手の中で槍をクルクルと回して見せる。

 矛が両端に付いており、矛先の手前には奇妙な輪が付いている。時折その輪が回転し、ジャリジャリと重々しい音を鳴らす。

 何かかっこいいな。

 俺とコモも、あんな風になるんだろうか。


「俺とガルの場合は、炎と水の適性が上がって純粋な身体能力が向上する。あと、ガルの特性を俺も使えるようになる。空も飛べるしな」


 凪が黒いコートをはためかせると、背中に半透明の龍の翼が展開し、ふわりと宙へ浮かび上がった。

 すごいな。空を飛ぶという、誰もが一度は夢見るロマンを体現しているじゃないか。


「それじゃあ、次は零人君とコモもやってみよう。発動条件について説明するね」


 アーサーは空中にホログラムのタブレットを呼び出し、ペンで何かを書き始める。

 壁に備えつけてある巨大なホワイトボードに、アーサーが書いた図がリアルタイムで浮き出てきた。


「まず、Soul Linkを発動させるためには『互いの同調』が必要だ。心を通わせ、共鳴する事で初めてシステムが起動する。どちらかが拒絶、あるいは波長が合わなければ発動しない」


 アーサーは俺とコモの似顔絵を描き、間に太い線とハートマークを書き足した。

 ……要するに、互いを深く理解し合わないと発動しないらしい。あのハートマークが無駄にムカつくが。


「互いに同調出来た時、システムから脳内に『真名』が提示される。凪で言う『焔潮輪双槍』だな。その浮かんだ真名を唱えればいい」

「でも、同調って具体的にどうやれば良いんだ?」

「1番簡単なのは意識の共有かな。例えば二人が『この敵を倒したい』とか『誰かを助けたい』と強く願えば、同調しやすい。ただ、それは根源の感情だ。思考の深くに潜らなければならない。……とりあえず、やってみようか」


 アーサーは近くにいたコモの背中を押し、俺の正面へと立たせる。

 コモは腕をグルグルと回し、意気揚々としていた。


「よし零人! 頑張ろうね!」

「あぁ。コモは準備いいか?」

「ばっちし!」

 

 コモがサムズアップしてくる。

 不安しかない。


「じゃあ、お互いに目を瞑って。リンクすることを強く意識しながら、リンクする相手の存在を内側から感じるんだ」


アーサーの指示に従い、俺は凪がやったように腕を前に出し、目を閉じて頭の中で『リンクする事』を強く念じた。

 ……………………

 しばらくの静寂。

 何も起きない。何も感じない。 

 俺はさらに深く、自分の思考の奥底へと意識を沈めていく。

 過去の記憶、コモの笑った顔、色々なものがゴチャゴチャに混ざり合い――


【……れて!…………人……あなただ……は……】

 

 突如、脳内に『全く身に覚えのない映像』がフラッシュバックした。


「――ッ!?」


 とてつもない頭痛と、眼球を裏側から抉られるような激痛。

 脳内で、何処かで聞いたような、それでいて絶対に忘れてはならない『誰かの悲鳴』が木霊する。

 それと同時に、システムログではない、まるで魂に刻み込まれていたかのような『ある名前』が脳裏へと焼き付いた。


「うぁ……が……!『(ふう)……(げん)』!!」


 俺がその名を叫んだ瞬間。

 俺とコモを中心に、爆発的な『紫色の炎』が渦を巻いて吹き上がった。

 

「なッ!? なんだあの炎は!?」

「アーサー! 仮想空間の結界が……削られてる!!」


 凪と紗奈さんの焦燥に満ちた声が遠くで聞こえる。

 訓練場全体が地震のようにビリビリと震え、空の景色にノイズが走ってヒビが入り始めた。

 俺の意思に反し、紫の炎は狂ったように燃え盛り、止めることが出来ない。

 頭を抑えて蹲っていたコモの身体が崩れ、異形の形へと再構成されていく。


 <Soul Link(ソウルリンク) : ACTIVE(アクティブ)

 <BIOLOGICAL(生体) REACTION(反応) : ABNORM(異常)ALITY>

 ――WARNING――WARNING――WARNING――


 脳内に無機質な女の声で警告が鳴り響く。

 頭と目の激痛に耐えながら、俺は両手にズシリと現れた質量を見下ろした。


 それは、呪文のような禍々しい文字が血で描かれた包帯に、刀身をぐるぐる巻きにされた刀。

 柄尻からは鎖が伸び、俺の背中を通って、左手に握られた凶悪なナイフへと繋がっている。

 紫色の炎が包帯の隙間から間欠泉のように吹き出し、俺の力では到底制御しきれない。


「ぐ、ぅぅ……ッ!!」


 俺は、ガタガタと悲鳴を上げるように震え続ける『封幻』を、暴走させまいと両腕で必死に抑え込むことしかできなかった。

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