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断界のネーデ  作者: 萱 景一
第1章

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目覚め

 雷鳴轟く曇った空から、雨がポツリ、ポツリと、降ってくる。

 灰路の灰が舞い落ちる中で、退廃的な雰囲気を醸し出す。

 体が、雨に濡れる。

 すずの血を、洗い流すかのように。

 

 俺は、コモの力の使い方がなっちゃいなかった。

 発想次第で何でも出来るこの世界で、斬撃を飛ばすしか脳が無かった俺に、つくづく呆れる。

 

 ――【狐幻(こげん)】――

 

 俺は俺の分身を出して、金冠騎士を挟み込むように動く。

 紫焔は、俺の体を介して発動出来る術式だ。

 なら……。

 あの分身も、俺の筈だ。

 出せねぇはずが、ないんだよ。

 

 ――【紫焔(しえん)】――

 

 俺は脳内で、分身を動かす。

 精密に、寸分の狂いもなく。

 分身は、封幻に紫焔を纏わせる。

 こいつは、囮だ。

 絶対にこの手で、アイツを消さないと気が済まない。

 そのまま、金冠騎士へ、分身が斬りかかる。

 

 ――【隆起(りゅうき)】――

 

 俺は走った姿勢のまま、足から地面に隆起の余白を流し込む。

 それは、地面に足が付いた瞬間に発動された。

 地面が、金冠騎士の方向へ横へと伸びる。

 俺はその柱に足を乗せ、爆発的に金冠騎士へ近づいた。

 目指すは、金色煌めくその首。

 金冠騎士は、俺の分身に気を取られ封幻を分身へ振るっている。

 

 ――貰った。

 

 しかし、金冠騎士は横目で俺を捉えると、少し膝を屈め、封幻を横薙ぎに振るう俺の腕を、タイミング良く剣を持っていない左腕で下から押し出す。

 剣の軌道を逸らした勢いそのままに、左足で俺を蹴り飛ばす。

 

 ……分かっている。

 それぐらい。

 お前は、プログラムだ。

 最適な行動を取れる筈だよな。

 だから――。

 

 俺は蹴り飛ばされた姿勢のまま、空中で体を捻り、左手に持つソードブレイカーを金冠騎士へ投げつけた。

 封幻は、柄に付く鎖をジャラジャラと鳴らしながら、金冠騎士の体へ纏わり付いていく。

 ソードブレイカーの櫛状になった背面が、鎖に上手く引っかかり、金冠騎士を拘束する形となった。

 ……これで、終わりだ。

 

「【紫焔(しえん)】」

 

 俺の手から、鎖で繋がる封幻へと、紫焔の炎が伝って燃え広がっていく。

 その炎は、金冠騎士の体を瞬く間に埋め尽くし、金冠騎士は、声にならない悲鳴の様な、謎の音を奏でた。

 

 ――しかし。

 

 ゴーン……ゴーン……。

 

 また、鐘が鳴った。

 俺は思わず、門を見た。

 そこには、先ほど見たのと全く同じ、金冠聖列の部隊が、増援として向かってくる姿が見えた。

 

 ……いいぜ。

 どんどん来やがれ。

 すべて、消してやる。

 そうじゃなきゃ、俺の気が、収まらねぇんだよ。

 その時――。

 

 ドゴォオン!!

 

 いきなり、世界が揺れた。

 街の方向の空間に、大きく罅が入る。

 

 ドゴォオン!!

 

 その罅は、大きく広がっていき、罅の隙間から、赤い炎が漏れ出てくる。

 

 バキィイィイン!!

 

 空間が、大きく割れた。

 その割れた先の空間は、今のように曇ってはいない、晴れているこの場所の空間、そのものだった。

 そして、その割れた空間の中心で立っているのは、赤く燃え上がる様な髪をした、女性。

 

 ……緋音さんだった。

 

「回収部隊に、嗅ぎつけられた様だな……。生きてるか、零人」

 

 緋音さんは、この状況を見渡しながら、ゆっくりとした歩調でこちらへ向かってくる。

 

「アイツは……」

 

 空中で翼装女騎士を相手にしていた灰路が、横目で緋音さんを見て、驚いた表情をしていた。

 彼にとっても、緋音さんの存在は何かを意味するらしい。

 

「……」

 

 俺は、何も言えなかった。

 緋音さんに、当たってはいけない。

 頭では、分かっている。

 しかし――。

 

 もっと速く来てくれていたら、すずは死ななかったのではないか。

 そんな身勝手な思いが、一瞬頭をよぎってしまったのだ。

 だけど、すぐに考えを改め直す。

 本当は、俺が弱いから。

 すべては、俺のせいですずは死んだ。

 そんなことは、分かっているんだ。

 感情と意識のせめぎ合いで、俺は、何も喋れなかった。

 

 ――ジリジリジリ……。

 

 何かが、俺の中で、暴れている。

 俺の目の前で、金冠騎士が、燃え尽きようとしている。

 しかし、その光景が、少しずつ変化していき――。

 文字の羅列の様な物が、薄らと、俺の視界に映し出されていく。

 

『どうして……僕を、信じてくれなかったの……。どうして……』

 

 俺の脳内で、何かの声が、聞こえた。

 それは、酷く悲しそうな声で、世界に訴えかけるようでもあった。

 

「グゥッ!!」

「おい……どうした、零人」

 

 <SYSTEM ALERT:Unauthor(不正な)ized interven(介入を)tion detect(検知)ed>

 

 突然、頭をバットで殴られたような痛みが、走る。

 それと同時に、この世界の情報が、頭の奥へと津波のように流れ込んできた。

 緋音さんは、俺の近く、しかし少し距離のあるところで、足を止める。

 

「グアアアァァァ!!!」

 

 <SYSTEM ALERT:Out of con(制御不能)trol>

 

 封幻の包帯が、シュルシュルと、独りでに解けていく。

 包帯が解けていくと共に、記憶が、少しずつ、取り戻されていく。

 解けきった刀身は、紫色に発光し、紫焔を溢れんばかりに吹き出していた。

 

 ……ハハ。そういうことかよ。ここは、アイツの……。

 

「……なんだ、この余白量は」

「オイオイ……あれが、アイツの本気かよ……」

 

 ……あぁ。ムカつくな。

 

 俺は、門の先にいる、金冠聖列を、見つめる。

 こんなプログラムに、手こずっていた俺が、情けない。

 あんな物は、消してやる。

 俺の瞳が、極彩色に光る。

 

 ――突如。

 金冠聖列の全員に、紫焔が一斉に、纏わり付いた。

 そして、悲しい鐘の音と共に、彼らは、燃えカスとなって、消えていった。

 

 ……門を、閉じるか。

 俺は封幻を地面に突き刺し、手に紫焔を纏わせる。

 そして――この世界のプログラムを、掴んだ。

 

「零人……一体、何を……」

 

 緋音さんが、困惑した表情で、俺を見つめる。

 

 ――ギリギリギリィ……。

 

 俺は、重い扉を閉めるような動きをした。

 巨大な門は、軋む様な音を立てながら、強制的に、閉じられていく。

 

 ……さすがに、重いな。

 俺は、奥歯を噛みしめながら、最後の一押しに、力を込めた。

 そして巨大な門が、バタンと大きな音を立てて、完全に閉じられた。

 

 あとは……あの空に飛んでる、翼装女騎士の連中だけか。

 俺は、奴らを消す為に空を見上げようとした。

 その時――。

 

 バキン!!

 

 何か、金属が弾けるような音が、辺りに響き渡った。

 

 それは――。

 封幻、だった。

 封幻は、独りでに浮き上がり、いきなり俺の全身をその鎖で拘束し始める。

 

 ……おい。

 何してる。

 俺は、プログラムに触れようとする。

 

 <SYSTEM ERROR>

 

 俺は、奥歯を噛みしめた。

 ……まだ、信用出来ないのか。

 俺が。

 未だに、俺を……信じてくれねぇってのかよ……!!!

 

 ソードブレイカーが、蛇の様に、俺の眼前へと迫る。

 そこには――。

 アイツの顔が、浮かんで見えた。

 

 ……これだけは、言う。

 俺はもう守られるだけの存在じゃない。

 オマエを無くした。

 すずを無くした。

 家族を亡くした。

 俺は……すべてを失った。

 ……俺は、もう一度誓う。

 強くなる。

 この手で、守りたい人を、守れるほどに。

 だから――。

 覚えとけ。

 俺の記憶を、封印しても。

 オマエを、絶対――――。

 

 ――グサッ。

 

 ソードブレイカーが、俺の額に突き刺さり、紫焔を頭の中へと注ぎ込んでくる。

 空中に漂っていた包帯が、スルスルと封幻へと巻き付き、俺の記憶と共に再び、封印されていく。

 

『……私も、同じ気持ち』

 

 そんな声が、俺の耳に、聞こえた、気がした。

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