情報
「にしてもよ~。よくあのヤバそうな4人に囲まれた状態から逃げ切れたよな。コモの奴、一体どういう能力なんだ?」
並んで歩きながら、凪が不思議そうに首を傾げる。
確かに、俺自身もコモの能力の全容を全く把握していない。
『紫焔斬』にしても、ただ漠然と「物を切断する斬撃を飛ばす!」というイメージで放っているだけだ。
俺が初めてあの技を使った時、緋音さんが『斬撃を受けた感覚ではない』と不可解そうに言っていた。
その言葉通りであれば、あれはただの炎や剣撃とは根本的に「何かが違う」のだろう。
「コモ本人に聞いてみるか。おーいコモ。お前って自分の能力のこと、どう認識してるんだ?」
俺は歩きながらスマホを取り出し、コモのアプリを立ち上げる。
画面の中央に、腕を組んで少し考える表情をしたコモが表示された。
【う~ん……僕も、自分の能力がどういう理屈なのか、よく分かってないんだよね。ただ感覚としては、この世界の『システムそのものを騙す』能力だと思うんだけど】
システムを騙す能力……。
そう言われると、確かにそんな気もしてくる。
俺は物理的な斬撃を飛ばしていると思っていたが、実際は全く違う概念を飛ばしているのか。
もしくは、相手のシステムに「斬られた」と思い込ませているだけなのか。
実際、奴らに囲まれたとき、ピンチを切り抜けた『狐幻』も、敵の視覚を騙すような能力だった。
「だけどよ、前にお前が暴走した時、紫色の炎を水膜の盾で防いだんだけどよ。炎に触れた水が、蒸発したんじゃなくて……空間ごと食い破られたみたいに不自然に消滅したんだよな。あれもシステムを騙した結果なのか?」
【うーん。そう言われても僕も分からないよ。水が存在しているというデータを消したとか、消えたように錯覚させたとか……かな?】
「なんだそりゃ。ていうか、自分の能力が分からないってどういうことだよ。ガル、お前も最初はそうだったのか?」
凪は胸ポケットに入れていたスマホを取り出し、ガルを呼び出した。
【そんなわけ無かろう。己の能力や特性は、一番己自身が理解しておるに決まっとる。コモよ、お主、自分の能力が本当に分からないのか?】
【うん……僕、記憶がなくって……】
コモの記憶喪失は、こんな自身のステータスにまで影響しているのか。
……そういえば、凪達にはコモの記憶がない事をまだ伝えていなかったな。
俺が記憶喪失であることを知っている凪は、ハッとしたように目を見開き、どこか罰の悪そうな表情でポリポリと頬を掻いている。
変な空気にさせてしまった。
これは伝えていなかった俺が悪い。
「ごめん、凪。言ってなかったんだが、実はコモも俺と同じ『記憶喪失』なんだ。俺も、コモが自身の能力の事まで忘れてるとは思ってなかったけど」
「あっ、いや……ごめんな、コモ。俺、そうとは知らなくて無神経なこと聞いちまった。でも、記憶がない者同士だからこそ、波長が合ってバディになれたのかもな。ほら、ガルも謝れ」
【うむ……コモよ、デリカシーが無く申し訳なかった。いつか記憶が戻ると良いな】
凪とガルが、画面越しに二人そろってシュンと落ち込んでいる。
いつもガルが凪を怒っている姿ばかり見るが、こういう根が素直な所は本当に似た者同士のバディだなと思う。
【そんな! 全然気にしてないよ! 謝らないで!】
コモが画面の中でアワアワと両手を振り、慌ててフォローを入れていると、スマホの上部にピコンと通知が流れた。
緋音さんからだ。
恐らく、さっきのプレイヤーに関する続きだろう。
「おっ、緋音さんから返信が来たな。どれどれ……」
俺と凪は足を止め、一つのスマホの画面を覗き込む。
『アカネ:さっき零人が言っていた4人組だが、私の抱えるネーディアの情報屋を使っても、何一つ有用な情報が得られなかった。細心の注意を払え』
ん? 情報が手に入らなかったのに、注意を払うのか?
どういうことだろう。
『れいと:情報が得られなかったのが、そんなに危険なことなんですか?』
『アカネ:あぁ。その情報屋はネーデの裏事情にかなり精通しているんだが、特定のプレイヤーの足取りが完全に掴めなかった事は今まで一度もない。恐らく奴らは、意図的にシステムのログを消去して回っているか……奴らを目撃した者を、一人残らず物理的に『消して』いるか。どちらかでしかない』
なるほど……。背筋がゾッとした。
一瞬、『最近始めたばかりの初心者だから情報がないのでは?』と楽観視しそうになったが、俺が対峙した時の奴らの放つ殺気は、間違いなく強者のそれだった。
初心者が纏えるような生半可なオーラではない。
そうなると、非常にまずいな。
俺は奴らの能力を「目玉を出せる」ことしか知らないが、奴らは俺が「分身を出せる」事を知っている。
さらに最悪なのが、俺が着ていた空亡の制服だ。
もし、同じコートを着ているアーサーや紗奈さんが奴らの視界に入れば、即座に俺の仲間だとバレてしまう。
明らかに、こちらが情報戦で圧倒的に負けている。
『れいと:マズいです。俺、あの時空亡の制服を着てたんで、アーサーや紗奈さんが奴らに見られたら、速攻で俺の仲間だとバレるかもしれません』
『なぎざっぷ:そうなると、あんまり戦力を分散して別行動するのは良くないかもな。カテナに断章があるようだし、まとまって動いて警戒しようぜ』
『アカネ:……おい。待て』
緋音さんからの返信が、不自然に途切れた。
『アカネ:……なぜそれを今言った。カテナに【断章】があるだと?』
あ……。
そういえば、誰も緋音さんにその最重要事項を報告していなかった気がする。
『れいと:そうなんですよ。アーサーが持ってる章探機の針が、狂ったように反応してました!』
『アカネ:それを一番最初に言え!! 私も大至急、カテナに向かう』
『なぎざっぷ:団長! おねがいしまっす!!』
相変わらず凪はラフだな。
だが、あの規格外の強さを持つ緋音さんが直接来てくれるなら、これほど心強いことはない。
「よし、そうと決まれば、一刻も早くネーデにダイブしてアーサー達と合流し、断章を回収するか。じゃあな、また後で!」
通学路の分岐点に差し掛かると、凪は気合いを入れるように拳を打ち鳴らし、自分の家の方角へと走り去って行った。
寝不足で頭は重いが……俺も気合いを入れて、ネーデに戻るとしよう。




