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断界のネーデ  作者: 萱 景一
第1章

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18/34

カジノ

 俺達は大通りを歩き、街の中心にそびえ立つひときわ豪奢で巨大なカジノの前にやって来た。


「おらぁ! 金のねぇやつはとっとと失せやがれ!!」


 あっ……。今、パンツ一丁しか履いていない男の人が、屈強な黒服の男たちに入口からゴミのように放り出された……。

 やべっ、黒服と目が合った!

 俺は咄嗟に顔を横に向けた。

 隣を見ると、凪たちも全く同じように顔を逸らしていた。

 パンツ一丁の男はフラフラと立ち上がり、トボトボと路地裏へと消えていった。


「……やめとかないか?」

「……そうかもな」

 

 俺と凪は顔を見合わせ、無言で深く頷き合った。

 なにここ、怖い。

 俺達も負けたらあんな風に身包み剥がされちゃうの? 絶対嫌なんだけど。


「リスクあってのリターン! 挑戦しなきゃ始まらないよ!!」

「まぁこれも経験だね。引き時は間違えないようにね」


 あぁ駄目だこりゃ。

 紗奈さんの両目には、すでに『金』の文字しか写っていない。

 アーサーが止めてくれるかと思ったが、全くそんな気配はなかった。


「僕達は先に行くけど、強制はしないよ。零人君はお金ないだろうし、ちょこっとだけど貸してあげる」


 アーサーはそう言うと、懐からおもむろに『犬の顔がプリントされた可愛いガマ口財布』を取り出し、俺へ数枚の金貨を渡してくる。

 そのイケメンな顔でガマ口財布愛用してんのかよ。

 ……というか、これいくらなんだろう。大体1リンが1円ぐらいの感覚らしいんだけど。


「うわ! いいな~3万リンかよ! アーサー、俺にも頂戴!」

「凪はお金持ってるだろ。自分で遊びなさい」

「ちぇ~」


 ってことは、3枚あるから1金貨=1万リンか……。

 ありがとうアーサー。君は顔だけではなく心もイケメンなんだね。財布は可愛いけど。

 これならかなり遊べそうだぞ。


「ありがとうアーサー。絶対に倍にして返すよ」

「うーん、それ典型的な負けフラグのセリフだね」


 アーサーがなんかメタいことを言っているが、俺は気にしない。


「よし! そうと決まればチョチョイとお金を増やしましょうか!」

「姉ちゃん、俺絶対に金は貸さないからね」


 俺達はガヤガヤと騒がしい店内へと、夢と希望(と一抹の不安)を持って足を踏み入れた。

 中には、トランプやスロット、ルーレットの他に、闘技場や『競魔獣(けいまじゅう)』など、ありとあらゆるギャンブルがひしめき合っていた。

 闘技場や競馬などの巨大な設備を必要とするものは、どうやら別の場所で開催されているものを巨大モニターで生中継しているようだ。

 ギャンブルの魔力に当てられた人々が、目を血走らせながら店内を彷徨っている。


「じゃあ、それぞれ分かれて好きな物を楽しもうか」


 アーサーはそう言うと、競魔獣のモニターエリアへと歩いて行った。

 紗奈さんと凪も、それぞれ目を輝かせながら人ごみの中へ消えていく。


「んー、どうしようかな……」

「ねぇ! あれってなに?」


 コモが指を指したのは、ルーレットのテーブルだった。


「俺も詳しくないけど、玉が落ちる数字とか色を予想して、当たるとその確率に見合った倍率でお金が返ってくるゲームだよ」

「あれやってみたい!」


 まぁ特にこれがやりたいって物もないし、コモの言うとおりルーレットでもやってみるか。

 コモがスキップしながらルーレット台へと近づいていく。


「いらっしゃい坊や。ルーレットは初めて?」

「あ~はい。はじめてです」

「じゃあ、そこの球体に触れてね」


 ディーラーのお姉さんに言われるがまま、俺はテーブルの端にある水晶のような球体へ触れる。

 すると、脳内にルーレットのルールや配当が自然とインプットされた。

 すげぇなこの機能。

 学校の勉強とかもこれを使って一発で覚えられたりしないだろうか……。

 俺は自然と頭に入ってきたルール通りに、チップに変えたい硬貨をテーブルに置く。

 手持ちの3万リンのうち、まずは1万リンを両替してみた。

 すると硬貨がテーブルの中に吸い込まれ、代わりにカチャカチャとチップがテーブルから湧き出てきた。

 すっげぇ~。ちょっと感動。

 俺が感心していると、コモが俺の横の椅子にちょこんと座ってきた。


「ねぇ零人。『赤の24』にしてよ」

「ん? なんでだ?」

「いいから、いいから!」


 コモが俺の耳元でコソコソと指示を出してくる。

 36個の数字の中から『24』の一点賭けとか、絶対当たるわけないだろ。

 だが、試しに両替した1万リン分のチップを、全部『24』のマスの上に置いた。


「おい坊主。初っぱなから全ツッパで行くのかぁ!? 普通は赤黒の色とか、奇数偶数で様子を見るやつが多い中で、良い根性してんじゃねぇか!」


 同じルーレット台に座っていた、気のよさそうなおっちゃんに笑いかけられた。

 コモに言われなかったら、俺も絶対にそうしてるよ!


「ノーモアベット……では、回します」


 ディーラーのお姉さんがルーレット盤に玉を弾き入れる。

 カラカラカラ……と小気味良い音を立てて玉が転がり、俺とおっちゃんが固唾を呑んで見守る。


 俺は、玉の行方を見つめるコモの横顔をふと見た。

 その瞬間、コモの澄んだ瞳の奥で、無数のシステムログや数式のようなものが、滝のように高速で流れた……気がした。


 カチャン。


 玉が弾かれ、一つのポケットに吸い込まれるようにスッと落ちた。

 ……。

 …………。

 『赤の24』だった。


「ッッ!?」


隣のおっちゃんは、目ん玉が飛び出る勢いでルーレットを凝視したまま固まっていた。

 俺の目ん玉も飛び出た。


「お、お見事でございます。……配当は36倍、36万リンとなります」


 ディーラーのお姉さんの声が、微かに震えていた。

 ……?

 さんじゅうろくまん??

 あれ、俺1万しか賭けてないよな? 36倍ってそういうことか!

 隣のおっちゃんを見ると、まだ息を止めたままルーレットを凝視している。

 ……びっくりしすぎて死んでない?


俺はコモにヒソヒソと小声で問い詰めた。


「おいコモ。お前、なんで分かったんだよ。今の、絶対なんかやっただろ」

「んー? カンってやつかな!」


 あ。こいつ絶対はぐらかした。

 どうやってるのか全く分からないが、コモにはどうやら『玉の落ちる場所』が完全に分かるらしい。

 これ、コモが居たらカジノ無敵なのではないだろうか。


「……で、次は?」

「『黒の2』」


 俺は無言で、手元にうず高く積まれた36万リンのチップを、すべて『黒の2』に押し出した。


「「「…………!!?」」」


 周囲の空気が凍りついた。

 1点賭けの連続全額ベット。隣のおっちゃんは、化け物を見るかのような目つきで俺を凝視していた。

 ディーラーのお姉さんに至っては、顔面がサァッと蒼白になっている。

 するとおっちゃんは、何かを悟ったように深く頷き、俺の真似をして『黒の2』に自分のチップの半分を震える手でベットした。


「……兄貴。俺たちは、一蓮托生だよな」


 なんか急に『兄貴』とか言い出し、俺の賭けに便乗してきやがった。

 俺もコモの言いなりだし、人のことは言えないが、なんとも調子の良いおっちゃんである。


「……で、では、回します……」

 

 ディーラーのお姉さんが、明らかな緊張と冷や汗を浮かべながらルーレットを回す。

 奥の方で、黒服の男たちがインカムで何事かを話し始めているのが見えたが、俺は気にしないことにした。

 俺とおっちゃんは目を血走らせながら、玉が転がる様子を見つめている。

 ……。

 …………。

 『黒の2』に落ちた。


「どわああああああ兄貴いいい!!! 一生ついて行きます!!!!」

「やめろ! うっとうしい!!」


 おっちゃんが号泣しながら俺へと抱きついてくる。

 俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味はねぇ! それと兄貴はやめてくれ、年上の人に言われると落ち着かない。


 とういうか、コモ。

 配当36倍の連続的中で、1296万リン……。

 これ、絶対カジノの裏の人たちに目ェつけられるやつだろ……!

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