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断界のネーデ  作者: 萱 景一
第1章

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ブンブン地獄

 俺たち一番隊は、鬱蒼と生い茂る森の中を進んでいた。


「なぁ、まだ街に着かねえのかよ……いい加減、疲れたんだが。そろそろ代わってくれよ」


 凪が、さっきから頻繁に襲いかかってくる握りこぶしほどの巨大な蜂を槍で叩き落としながら、うんざりした声で愚痴をたれる。

 俺たちは魔獣の森での体力を温存するため、交代でバディとのリンク状態を維持しながら進んでいた。


 「アタイ歩くの疲れちゃったんだけど……さなぁ~肩に座らせてよぉ~」

 

 紗奈さんのバディであるケットシーの『シー』が、地面をトボトボと歩きながら甘えた声を出す。


「シー、そんなこと言ってるとまた太っちゃうよ。任務の時ぐらい、ちゃんと歩いて運動しなきゃ」

「アタイは美しいから太ることなんてないもん。コモは零人の肩に乗せてもらってるじゃんか」


 シーの言うとおり、俺はリンクを解いている間、実体化したコモを肩車して歩いていた。

 コモは俺の頭の上にちょこんと顎を乗せ、完全にぐーたらモードを満喫している。文句を言っているシーを上から見下ろし、コモは「どうだ」と言わんばかりの勝ち誇った表情を浮かべていた。


 「ハハハ。地図を見る限り、もうそろそろ着くはずなんだけどね」


 コモたちのやりとりに苦笑しながら、アーサーがホログラムの地図を広げて顎に手を当てる。

 正直、早く着いてほしいところだ。

 今は凪が露払いをしてくれているが、ずっと耳元でブンブンと羽音が聞こえるのは鬱陶しくてしょうがない。


「凪〜、そろそろ代わろうか?」

「代わってくれ〜……精神的にしんどくなってきた」


 俺が声をかけると、凪は「やっとか」という表情で安堵し、リンクを解いた。

 俺は頭の上のコモに問いかける。


「十分休憩したろ? リンクするぞ」

「えぇ〜、僕もうちょっと休んでたい〜……」

「ほら、仕事だ。――Soul Link――『封幻』!」


 コモが激しい紫色の炎とともに光の粒子となり、俺の両手に見慣れた刀とナイフが具現化する。


「にしても、なんでこんなに蜂が多いんだ! 近くに巣でもあんのか?」


 凪が実体化したガルを頭に乗せ、周囲を警戒して見渡す。

 だが、木々が生い茂っているため視界が悪く、遠くは見通せない。

 

「ずっと右方向から襲ってきているから、巣があるとしたら右の奥だね」

 

 アーサーが地図から目を離し、右の茂みを見る。

 すると、そこからまた一匹、巨大な蜂が猛スピードで飛んできた。


「フンッ! あーもう鬱陶しい! 1回、巣があるか確認しにいかないか? このままじゃキリがない」


 俺は飛んできた蜂を封幻で両断し、みんなへ提案する。


「このまま進んでもいいけど、今いる場所が街に近いなら、原因を絶っておいた方が街のためになるよね〜」

「まぁ、このまま体力を削られ続けるよりかはマシかもね」

「しゃーねーかぁ……」


 アーサーと紗奈さんは俺の意見に賛成してくれた。

 凪は少しうんざりした表情だったが、同意してくれるようだ。

 俺たちは踏みならされた獣道を外れ、腰まである草木をかき分けて進む。

 道中、何度か蜂の群れに襲われたが、俺の封幻で全て叩き落とした。


――ギャオオオオオンッ!!


 不意に、進行方向の奥から、森を震わせるような異様な獣の叫び声が響き渡った。


「なに、今の声……」

「……蜂の鳴き声ではないな」

「そりゃそうだ」


 紗奈さんが困惑した表情で身構える。凪が当たり前すぎるツッコミを入れた。

 すると、声がした方向から『バキバキッ!』と太い木をなぎ倒す音と共に、ドスンドスンと巨大な質量がこちらへ突進してくる地響きが聞こえてきた。

 俺は咄嗟に先頭に立ち、封幻を構える。


――ギャヤァァァアンッ!!


 茂みを吹き飛ばして現れたのは、巨大なイノシシだった。

 だが、ただの魔獣じゃない。

 イノシシの全身には無数の巨大蜂がびっしりと群がり、あろうことか、その背中の肉には『巨大な蜂の巣』そのものがグロテスクに癒着していた。


「なんだアイツ!? 寄生されてんのか!?」


俺は驚愕しながらも、猛スピードで突っ込んでくるイノシシの牙を、封幻で真正面から受け止める。


――ギチギチギチッ!!


 「ぐおっ、重ぇ……!」


 圧倒的な突進力。足元の土が抉れる。

 俺はイノシシを押し返そうと力を込めるが、背中の巣から怒り狂った蜂の大群が湧き出し、俺を刺そうとまとわりついてきた。


「くっそ! アーサー、凪! 手伝って――」


 俺が後ろを振り返ると、アーサー、紗奈さん、凪の三人は、少し離れた安全な巨木の陰に隠れて、ヒソヒソとこちらを見物していた。


「いや一緒に戦えよ!!」

「『街のためになるよね〜』とは言ったけど、戦うとは言ってないし!」

「ぐぬぬ!」


 紗奈さんに清々しいまでの屁理屈をこねられてしまった。

 クソ、どいつもこいつも!

 俺は仕方なく、刀身に紫の炎を纏わせる。ここで『紫焔斬』をフルパワーで放てば森ごと吹き飛んでしまうため、俺は炎の出力をギリギリまで絞り、物理的な衝撃だけをイノシシの顔面に叩き込んだ。


「――シッ!!」


 紫の閃光が弾け、イノシシの巨体が宙を舞って後方へ吹き飛ばされる。

 ドスゥン! と地面に激突したイノシシは、すぐさま起き上がると、背中の蜂の巣からポロポロと蜂を落としながら、来た道を悲鳴を上げて逃げ去っていった。

 

「あぁ〜、逃げられちゃった」


 木の陰から、紗奈さんがいけしゃあしゃあと残念そうな声を出す。


「あのイノシシ……背中に蜂の巣が融合してやがったぞ」

「たしかに、あんな悪趣味な姿、見たこともないな」


 凪とアーサーも、何事もなかったかのように木の陰から出てくる。

 ……こいつら、マジでサボってやがった。


「深追いするのも面倒だし、元のルートに戻って街を急ごうか」

「……」


 一丁前にリーダー風を吹かせて提案するアーサーを、俺はジト目で睨みつける。追うハメになるのは俺だろうに。

 少し不貞腐れながら、俺は来た道を戻る。

 不思議なことに、あの寄生イノシシを追い払ってからというもの、パタリと蜂に襲われることがなくなった。あれがこの森の異変の元凶だったのだろうか。


 アーサーのホログラム地図を頼りに進むこと数十分。

 木々の隙間から、街を囲む巨大な城壁が見えてきた。


「おっ! あれが俺たちの目指す街じゃないか!?」

「くぅ〜、疲れたぁ! 早くお風呂入りたい!」


凪は遠くに見える城壁を指さして大はしゃぎし、紗奈さんも背中を大きく伸ばしてウキウキしている。お前ら大して戦ってないだろ。


「にしても、あの蜂とイノシシ……なんだったんだろうな」

「ん〜、魔獣同士が寄生・融合するなんて聞いたことないんだけど……新種かな。それとも、やっぱり『断章』の影響か」


 もうすぐ街に着く安堵からか、凪とアーサーが気の抜けた考察を交わす。

 やがて、大きく頑丈な木製の門が目の前に現れ、二人の警備兵が槍を持って立ち塞がった。


「止まれ! 通行証を見せてもらおう」


 俺はアーサーを見る。

 アーサーは俺の視線に気づくと、なぜか首を横に振った。

 え? マジ? 持ってないの?


「え〜と……すみません、持ってないんですけど」


 俺が正直に答えると、警備兵たちの目の色が変わり、一斉に槍の穂先をこちらへ向けた。


「なんだと? 通行証を持たずに武装して近づくとは……貴様ら、何をしにここへ来た!」

「落ち着いてください。私たちは『空亡』の者です。街からの依頼を受け、調査と防衛のために参りました」


 アーサーが一歩前に出て、静かに告げる。

 『空亡』という名を聞いた瞬間、警備兵たちはハッと息を呑み、槍の切っ先をわずかに下げた。一人が懐から通信用の結晶を取り出し、急いで本部に確認を取り始める。


 しばらく結晶に小声で喋りかけていた警備兵は、やがて通信を終えると、慌てて槍を引き、深く頭を下げた。

 

「こ、これは大変ご無礼いたしました! 確認が取れました。空亡の皆様、どうぞお入りください!」


 道を開ける警備兵たちに、アーサーは「ご苦労様」と優雅に微笑みながら門の中へ入っていく。

 ……あれ? だったら最初からアーサーが対応すればよかったのでは?

 俺は心の中で盛大にツッコミを入れつつ、彼らの背中を追って、ついに目的の街へと足を踏み入れたのだった。

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