30話 保護者との秘密の会話
「はぁ、悪いな呼び出して」
「まあ、別に良いですが。あのまま居ても面倒臭い事になってただけだと思うので」
ホームルームが終わってすぐに生活指導室に呼び出された俺は、香坂先生と向き合って会話を続ける。
ちなみに次の教科の先生には許可を取ってあるらしい。
「……あの、りっくん怒ってる?」
「怒ってないが? 口調が素に戻ってんぞ」
「あっ、コホン。済まない」
香坂先生こと香坂蓮は俺の母親の妹、つまりは叔母にあたる。
一応、親元を離れて暮らしている俺の保護者でもあるのだが、義妹である奈々も知らないし学校にもとある理由から黙っている。
まあ、奈々に関しては都合が合わなくて会わせる機会がなかっただけだが、学校には意図的に隠している。
そしてこの女、皆の憧れ、出来る女で通しているが、教師という役割を離れると途端にポンコツになり、家事全滅、金の管理も苦手である。
一応名目上の保護者ではあるが、面倒を見ているのは俺の方だったりする。
そして住むところも提供しているというね。
「天城?」
「いや、なんでもない。それよりも呼び出し理由はやっぱあれ?」
「ああ、そういう事になるな。誰と誰がどうなんて教師が口を出す事ではないが、放置しても面倒になりそうだと思ったからな」
「呼び出しが俺だったのは?」
「あー、その、済まない。こんな事を言う立場ではないが、指導のためだとしても私もあれと二人にはなりたくない。何度言っても話を聞かない、理解しない。根本的に女の事しか考えていないなアレは」
「まあ、だろうな」
「どうかしたのか?」
「いや、やっぱお前でもそうなのかと思って」
うーん。言葉にするのが難しい。
「ここまで評価が二極化する奴も珍しい。しかもただの一般人がだ」
俺の言葉にうなずく蓮。
どうやら心当たりがあるようだ。
「俺自身、真白と話すようになるまでは、この学校のほとんどの女がアイツに惚れてるのも、特におかしいとも思わなかった。けどそれ……おかしくないか? 生徒の女子だけならまだしも教師まで、しかもそれが黙認されてるし」
「……確かにそうだな。私も今言われるまで特におかしいとも思ってなかった」
まあ、特になんでもないのだが。
「まあ、とにかく助かった。挑発した後はノープランだったから」
「いや、挑発するならその後のプランも考えてくれ。喧嘩沙汰になったら流石に庇えないぞ」
「悪い。ちょうど良かったから利用した」
「ふーん……それは蒼月さんの為かな。ん?」
随分とまあ楽しそうに。
「だから口調戻ってるぞ」
「いいのよ。これは教師としてじゃなくて……そう、大事な大事な姉さんの子供を預かっている、保護者として聞いてるんだから」
「……ずいぶんと都合よく身分変えてくれるな」
「まあまあ、それでどうなの? 学生の癖に今まで浮いた話の一つもないから聞きたかったのよね」
「明らかな興味本位!? しかも学生の癖にとか教師の言葉じゃねえだろ」
蓮は俺の家に真白が来て遊んでいるのも知っていて、黙認してくれている。ある程度の事情も話してあるから良いんだけど。
「はぁ……そうだよ。前にも言ったけどアイツストーカーじみてるからな、俺の知らないところで真白に何かするかも分からないし、あの状況を利用して俺を恨むように仕向けた」
「褒められた手段じゃないけど確かに有効ね。あの子、思い込み激しいし、いざとなったらどんな手段取るか分からない怖さもありそうだもの」
「だよな。人間、あそこまで自分に都合の良い解釈ができて、それが都合よく周りにもそう見えるもんかね。まじで漫画の主人公のようだな」
「あー、確かにラブコメ漫画の主人公なんて、恋愛感情のない人間から見たらあんな感じかもしれないわね」
二人してため息をつく。
とても嫌な心理に至ってしまった気分だ。
それからも根掘り葉掘り聞かれ、解放されたのは授業が終わる直前だった。
「と、もうこんな時間。今日はここまでね」
「いや、既にほとんど話終わりましたが?」
「まだまだ聞き足りないし、これからは更に増えるでしょ。引き続き随時報告を聞きます」
「……今までで一番ウキウキしてんなオイ」
ニッコニコじゃねえか。
「まあまあ、それより行きましょ。次はお待ちかねのアレなんだから」
「むっ、そう言われたら従うしかないか」
確かに今日はそれを楽しみに学校に来ているのだ。
生活指導室を出た俺達はその足で教室に向かう。
「大丈夫だった。リトくん」
「遅いから心配したよ」
「そうね。次までに戻って来られないかと思ったわよ」
「わり。少し話が長引いた。って、なんか怒ってる?」
紫音と琥珀の二人は普通だったが、何故か真白だけは不機嫌なオーラを隠さずにいる。
「だって……あれのせいでリトくんが連れて行かれたのに、向こうはお咎めなしでリトくんだけ怒られるなんて……ふえっ!?」
真白の不機嫌な原因を理解すると同時に、それが嬉しくて思わず無意識で頭を撫でてしまった。
「あっ、悪い」
「うっ、う、ううん。大丈夫! っていうか、もっと撫でて欲しい」
頭を差し出して上目遣いに言う真白。
「えへ〜……」
嬉しそうにしながらすっかり上機嫌になった姿に逆らえる訳もなく、言われた通りに頭を撫で続けながら会話を続ける。
「それでどうだったの?」
「端的に言うと説教はされてないし、世間話してただけだよ」
「そうなの?」
「ああ、ぶっちゃけ、原因が二人で、どっちかを連れていけば良いだけなら、俺が選ばれただけだからな」
「「どういう意味?」」
「なるほど、アレと理人どっちの方が話が通じるかって事ね。理人なら大丈夫でしょうけど、アレを連れてったらあれこれ自分に都合のいい妄想聞かされるだけだもの」
「まっ、そういう事」
流石、よくわかってらっしゃる。
「それにアレと二人になりたくなかったっていうのもあるかもしれないわね。教師でも好みなら構わず粉かけるくらい分別がないもの」
「私も前に、三年の先生を名前で呼んで楽しそうにしてるの見たなぁ」
わぁー、大正解。皆、勘がいいな。
「そこまでは聞いてないから分からないけどね」
一応、教師という役割上本当のことでもぼかしておく。
「遅くなったが全員揃っているな。移動を開始するぞ」
「「「はい!」」」
前の教科の教師と話を終えた香坂先生が号令をかけると、クラスの全員がいい返事を返す。
心なしか全員がソワソワとしているのは勘違いではない。
なんと言ってもこの学校を選んだ最大の理由が次の授業なのだから当たり前だろう。
整列したまま移動するのは校舎の外、同じ学校の敷地内にあるもう一つの専用の施設だ。
「「「おぉ〜!!」」」
中に入ると、所狭しと置かれたタマゴ型の機械を見て、全員の口から興奮した声が上がる。
それもそうだ。
このタマゴ型の機械───通称、キューブは、VR世界へフルダイブできるものなのだ。
様々な分野で活用されているこのキューブを、授業の一環として取り入れている学校は日本に六か所しかない。
そのせいもあってこの学校の倍率はとても高い。
医療や教育、スポーツなどの分野でも活用されるVR授業は、卒業後の進路にも強みになる。
その技術を学習できるこの学校を卒業すれば将来も明るいというわけだ。
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