22話 ゆっくり歩いて帰りたかった
「わぁー、これが天城くんのバイク? かっこいいね。私、バイクなんて乗るの初めて」
停めてあるバイクの前ではしゃぐ蒼月さん。テンションが高い。
最初に蒼月さんを帰らせることになり、星宮さんと陽向さんはマンションの前にあるカフェで待っていて貰うことにした。
家でも良かったのだが家主が居ないのに居座る訳にはいかないと二人に固辞された結果だ。
「えっと、どうやって乗れば良いの?」
「ちょっと待って、今ステップ出すから」
ステップを出してからバイクに乗り、良いよと言う。
「俺の肩辺り掴んで、左のステップに左足乗せて跨ぐように……そうそう」
「乗れた。わぁー、思ったよりも高い感じがするね」
「そうかもね。じゃあ出発するから捕まって」
「はーい」
思い切り抱き着いて来る蒼月さん。
うん……何も問題は無い。
「じゃあ行くよ」
「天城くん天城くん。一つ言っても良い?」
「嫌です。駄目です」
「天城くんのエッチ」
「嫌って言ったのに!?」
くそう。俺は何もしてないのに、自分から思いっきり抱き着いてこんな事を言うなんて。どうやっても回避不能の罠じゃないか!
しかしここで反応すれば更にいじられるのが目に見えている。
ならば答えは一つ。
「はーい。出発しまーす」
「明らかに誤魔化してるよね!?」
うん。何も聞こえません。
「わ〜、もう着いちゃった」
いつも徒歩で帰る所をバイクでとなると数分で着いてしまう。
一応バイクだと音もデカイので、待ち伏せ対策として少し遠回りをで逆方向から来たがそれでもこんなもんだ。
「バイクって風気持ちいいね。また乗せてもらいたいな」
「うん。何時でも」
バイクから降りた蒼月さんは少し興奮気味だ。時間は短かったが本当に楽しかったのだろう。
「あっ、そう言えば、今までも少し遅くなったから早めに帰ろうって日あったのに、なんで今までバイクでって話にならなかったの?」
「……いや、特に理由はないけど」
しまった! 思わず顔をそむけてしまった!?
「恥ずかしがってる色。つまりはバレたくなかった事……」
「いやいや、そんな事はないですよ」
くっ、厄介な特殊能力持ちめ。どれだけ反応しないようにしても感情がバレるから意味がねえ。
「あっ、まさか私とゆっくり歩いて帰りたかったからとか? って、もしかして当たった!?」
……一発で正解当ててきやがった。
「へー、ふーん、そうなんだぁー。そっか、そっか、天城くんは、私とそんなに歩いて帰るのが良かったんだぁ」
一番バレたくない相手にバレた。
蒼月さんは思った通り、俺の顔を覗き込みながらニヤニヤと笑う。
くっ、こうなったら。
「メット!」
「へっ?」
「メット寄越せい!」
「えっと、はい」
蒼月さんが困惑している内にメットをひったくるように奪う。
そして───。
「これで勝ったと思うなよーーー!」
「なんて見事な捨て台詞!? 天城くんまた明日ねー!」
ちくしょう! バレた。顔あっつい。
逃げるように走り去った俺は、目的地に着くまでにこの顔の熱さが冷めれば良いと思いながら、バイクを走らせ続けた。
「天城くん。なんか疲れてそうだけど大丈夫?」
「うん。平気だから気にせんといて」
「そっか」
喫茶店の前に着いた俺は、スマホで陽向さんに連絡を取り合流した。
残念ながらまだ頬は少し熱い。
「はい。これメットね」
「うん。ありがとう。私、ヘルメット被るのもだけど、バイク乗るの初めてかも。ここに足掛けて乗れば良いの?」
「そうだよ。俺の肩に捕まって左足で乗ってみ」
「う、うん」
今日の陽向さんはデニムのショートパンツに白Yシャツ、ニットのカーディガンとラフな格好ながら、そのスタイルの良さからそう感じさせない格好だ。
そんな陽向さんがバイクに乗ると実に様になる。
蒼月さんも似合ってたけど、見た目との相性は陽向さんが一番似合ってる気がする。
「結構高くて少し怖いかも」
「大丈夫?」
「う、うん平気だよ。大丈夫」
「じゃあ出発するよ」
「は、はい!」
俺の言葉に返事をした陽向さんが思い切り抱き着いた瞬間、背中に感じた柔らかな感触が俺の思考を一瞬で奪い去る。
───やわ……いやいや違うそうじゃない。
「あ、あの、陽向さん? そんなに抱き着かなくても大丈夫だよ」
「えっ、そ、そうなの? ……あの、天城くんが嫌じゃなければ、初めてで少し怖いからこれでも大丈夫かな?」
「……そうか。じゃあしょうがないな。そのままでも大丈夫」
うん。怖いならしょうがないね。怖いなら。
そう。これは不可抗力であり、俺が望んだ事ではなく陽向さんからのお願いだ。
決してやましい気持ちはなく、純粋に陽向さんを怖がらせたくないだけなのだ。そうだからしょうがない。しょうがないったらしょうがない。
「じゃあ行こうか」
「うん」
出発して途中までは蒼月さんを送る道順と同じ、何度か陽向さんの指示の元曲がると程なくして陽向さんの家の前に着いた。
「あっという間だったね。送ってくれてありがとう天城くん」
「どういたしまして。にしてもおっきい家だね」
陽向さんの家はかなり大きく、庭も大きい。
なんなら月一くらいでホームパーティーでもしてそうな感じのオシャレな家だ。
俺の間違いじゃなければ、蒼月さんの家まで歩いて数分くらいの場所にあった。
「あはは。うん、そうかも。家って結構お客さんとかも多くて、たまにパーティーみたいのもするから」
わぉ、本当にしてた。
海外に住んでた時も馴染みのなかったホームパーティーが、身近なクラスメイトの家で行われているとは。
「こーはーく!」
陽向さんのある意味見た目通りのお嬢様っぷりに、ちょっとした戦慄を覚えていると、俺達の後ろから若い女の人の声がかかる。
その声の方に振り向くと、そこには陽向さんより少し上、大学生くらいの女の人が立っていた。
「もしかして琥珀の彼氏!?」
「ち、ちちち、違うよお姉ちゃん! 天城くんは友達だし、私となんて失礼だよ!」
「あれ、そうなの?」
お姉ちゃんと呼ばれた人が俺に視線を送ってくる。
なので俺は俺で素直に答える事にした。
「はい。友達ですよ。ただ、釣り合う釣り合わないって言うなら、陽向さんは可愛いし綺麗だし、性格も明るくて俺の方が不足してると思いますけど」
「そ、そんな事ないよ! 天城くんだって優しいし色々出来るし、わ、私はカッコイイと思うもん!」
「あ、ありがとう?」
物凄い勢いで詰められ、思わず口ごもるが、こんな真正面から褒めちぎられるとめちゃくちゃ照れる。
「くぅ〜、何このアオハル。これが私が無くした若さかぁ。こちとら大学で獲たものなんて、面倒な人間関係とお酒を飲める身体だけだっつうに」
わざとらしく天を仰いでそんな事を言うものだから、思わず勢いで言ったっぽい陽向さんが顔を真っ赤にしている。
「魅那、二人とも困ってる。いい加減にする」
もう一人の声。
そこに目を向けると、美稲と呼ばれた陽向さんのお姉さんの後ろからもう一人、同じ年頃の女の人が現れた。
「初めまして私は陽向凪那。これからも妹と仲良くしてあげて欲しい」
「私は魅那。凪那の妹で琥珀のお姉ちゃんだよ。姉妹共々よろしく」
「俺は天城理人って言います。えっと、お二人は双子ですか?」
「よくわかったね。私達あんまり似てないってよく言われるのに」
「うん。最近では滅多に言われなくなった」
確かに二人とも雰囲気は真逆だし、見た目も結構違うからパッと見はそう思うかもしれない。
凪那さんの方は大人しそうな印象で、服も落ち着いた感じの結構前にあった森系ファッションに近い。
逆に魅那さんの方は、陽向さんとは違うタイプの元気系、言ってしまえば少しギャルっぽい雰囲気と露出多めの派手な服装だ。
「パッと見はそうかもしれないですけど、纏う空気なんかがなんとなく、姉妹ってよりも近い気がしたんで」
「へぇー、理人くんだっけ? 面白い事言うね」
「うん。いい子そう。琥珀ちゃんとこれからも仲良くしてあげて欲しい」
「むしろ良くして貰うのは俺の方ですけどね」
「もう、またそんな風に、天城くんは自己評価低すぎだと思うよ」
「そう?」
めっちゃ冷静な評価だと思うが、陽向さんは少しだけ不機嫌そうにそう言う。
「うんうん。いい感じいい感じ」
「お似合い」
「もう、お姉ちゃん達!」
「はぁー、羨ましい。そうだ理人くんって年上は興味ない?」
「うえっ!?」
何故かそんなことを言いながら魅那さんが腕を絡めてくる。
「今なら三姉妹が付いてくる」
それを見た凪那さんまで反対側から腕を絡めてきた。
明らかに面白がっている雰囲気だったが、次の瞬間、俺達全員の空気が凍り付く。
「……お姉ちゃん?」
「「「ひっ!?」」」
その瞬間、陽向さんの怒りがこもった声が響いた。




