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20話 夢物語に賭けた七千万

 それは夢物語のようなものだった。


 荒唐無稽、子供の絵空事。


 当時誰からもそう言われていたあまりにも突拍子もない計画。


 そんなものに俺は興味を惹かれた。


「どんなものだったの?」


「本当に子供の夢を実現したいみたいなものだったよ。誰からも見向きされなくて、俺が金を出すかどうか検討したいから話を聞かせて欲しいって、連絡入れたら速攻飛び付いて来るくらいね」


 実際、俺が話を聞く前にも何人か同じようにコンタクトを取ってきた人間は居るが、誰も彼もが否定し、俺でダメだったら諦めるつもりだったらしい。


 そして話を聞いた結果、俺は即金で手持ちの金を全て賭けることにした。


「……因みに幾らくらい?」


「手元にあった五千万と、投資してた分からも二千万追加して計七千万」


「「「七千万!?」」」


「け、桁が違う」


「ふわー、もう想像すら出来ない」


「天城くんって変な所でギャンブラーだよね。ちょいちょいそんな感じするよ」


「なんでだろうね。よく言われる」


 まったく失敬な話である。


「まあ、会って話して俺自身にも興味を引かれたらしくてね。そこからは一緒になってその計画を進めたんだけど、結果だけ言えば大成功したよ」


 当初の計画とはだいぶ違う形にはなったが、計画は大企業にも認められ、専属の部署も作られる程にまでなった。


「それって凄い事だよね」


「うん。まあ、ここまでは本来の形と違ってそれを実現させるための動きだから、俺らの夢を形にするのはまだこれからなんだけどね」


「どんなのか凄い気になる」


「うーん。教えたいのはやまやまなんだけど、一応社外秘の話になるからゲーム系とだけ言っとく」


「じゃあしょうがないわね。気にはなるけど……」


 教えられないんだけど、多分その内分かる事ではある。むしろどんなものかという事なら結構な人間が知っている。


 まあ、それに俺が関わってるとは誰も思わないだろうけど。


「さっき話した株の配当ってのもそれ関連のがほとんどなんだよね。つってもその当時だから七、八年前くらいの情報だけど」


「そうなの?」


「本当に下がる時は下がるし、上がる時は上がるから、それで一喜一憂してたら精神持たないよ。小学生の時に一日で五百万減ってた時のトラウマは忘れない……うん。むしろ忘れられない、の方が正しいな」


「そう聞くと株って怖いね」


「俺の場合、配当金は全部追加で買い足ししてるから、余計に気にしないんだけどね。まあ、本人も会社は順当に成長してるって言ってるから心配してないし」


 ついこの間も新しいプロジェクトが上手くいって忙しいとボヤいていたくらいだ。


「そうして計画を実現するために忙しくしてたけど……ちょうど三年前かな。父親が事故で亡くなったんだ」


「「「えっ!?」」」


 そしてその時になって初めて知ったが、俺の両親は二人とも何かあった時の為に色々な保険に入り、その受け取りを俺にしていたのだそうだ。


 今でも父親の話をすると、少しだけ喉の奥が詰まる。


 そうして俺は父親の死亡保険で、また約一億の金を手に入れた。


「流石に全部は貰えないって母さんにも言ったけど、『自分にも蓄えは沢山あるし、それは自分達が俺の為に用意したものだから、大事に使ってくれればそれでいい』って、そう言われてね」


 流石にそれ以上は俺も言えなかった。


 それから暫くは向こうで変わらず暮らしていたが、父親の思い出が数多く残る家に居る母さんは辛そうだった。


「だから元々父親の仕事の影響で向こうに行ったから、日本に戻ろうって俺から言ったんだ」


 最初こそ驚いていたが、母さんも思うところがあったのだろう。思いのほかすんなり受け入れ、二年ほど前に日本へと帰ってきた。


 住む場所は昔暮らしていた近く、家はとりあえず落ち着くまで安いマンションに暮らす事にした。


「そして俺は母さんのツテで良い物件を紹介してもらって、不動産投資に手を出しつつ、ネットでアルバイトも色々やり始めたんだ」


「そこでアルバイトするって凄いね。私だったらそんなに沢山お金あったら遊んじゃうかも」


「私も何もしたくないなぁ」


「アンタ達はまったく……」


 その後はほとんど話した通りだ。


 元々知り合いだったらしい今の義父と母親が再婚し、そして今年になって一人暮らしがスタートした。


「って、どうしたの蒼月さん?」


「んー。天城くんって、一人暮らしを始めたからって、こんな高そうな部屋に住みたがるタイプには見えないのに、なんでこんな広くて高そうな所に住んでるのかなって思って」


 うーむ……鋭い。


「ここに暮らすようになった経緯は、さっき話した奴に家を出ること伝えたら、日本に進出する為にマンション建てたから、どうせならここ使えって言われたんだよね」


「えっ、凄い。じゃあここってその人のマンションなんだ」


「そうなんだけど、正確に言えば社員寮兼ねてる」


 このマンションは全22階建てで、中間部分にジムとプールが入っている。それを境に下層が貸し出し区域、上層が社員寮となっている。


 なので中層階以降は一般の人間は立ち入り禁止なのだ。


「なるほど、だから中層にジムとプールがあるのね」


「うん。デスクワークだけじゃなく、適度に運動もしろという感じ」


「でもこんな所貸してくれるなんて凄い人だね」


「まあね。最初は無料でいいって言われたけど、それじゃ悪いからってこの部屋買い取る事にしたんだけど、そこでも一悶着あってね」


 無料で良いという向こう側と、金を払うという俺。


 真っ向から対立して話し合った結果、相場より少し安く買い取ることになったのだが……。


「何かあったの?」


「いや、その。書類改ざんされて、一部屋の値段でこのフロア全体買ったことになってたんだよね」


「改ざんでプラスになるって聞いた事ないわね」


「本当にね」


 呆れたように言う星宮さんに俺も同じく呆れたように返す。


「つまり……この階全部、天城くんのもの?」


「所有としてはこの階全部だけど、横二つは向こうが来た時に使う予定らしい。だから俺が普段自由に使えるのは、この部屋と向かいの五室って感じだね」


「……真白。何回もここに来てるのに気づいてなかったの?」


「えへへ」


「もう通い妻みたいな行動してるくせに、そういう所は抜けてるのね」


 後から聞いた話だが、前々から高校を卒業するくらいには一人暮らしすると言っていたため、実は最初から俺を囲い込む気満々でこのマンションを建てていたらしい。


「ああ、だから構造が変だったのね」


「えっ、変って何が?」


「……いや、百歩譲って陽向は良いとしても、何回も来ている真白は気が付きなさいよ」


「最上階だけ構造が違うんだよ。こっち側は部屋を潰して一部屋を広くしてる」


「だから天城くんのお家こんなに広い部屋なんだね」


「……知らなかった」


「流石に気が付こうよ真白ちゃん」


「何気に屋上まで付けてくれたのは嬉しかった」


「屋上もなんだ?」


「うん。お陰で普通だったら出来ないことも出来るしね」


「出来ないこと?」


「安全には気を付けてるけど焚き火台使って焚き火しながら、ゆったりソロキャン気分で本読んだり飯食ったり」


「わぁー、良いなぁ。ここくらい高ければ夏には花火も見やすそうだね」


「その時は皆も一緒に見てくれると嬉しいです」


「あら、良いの?」


「むしろ花火なんざ一人で見ても侘しいだけなのだが?」


「あはは、確かにそうかもね。って、どうしたの真白ちゃん?」


「……天城くん。私が帰った後に一人でそんな楽しそうな事を!?」


「だって聞かれなかったし」


「もー!」


 蒼月さんにポカポカと叩かれながら、コレで一応ほとんど話したと会話を終えると、星宮さんが一人何かを考え込んでいた。


「どうしたの?」


「ちょっとね。天城くんって重婚認められてるんだなって思って」


「「「ブファッ!?」」」


 何気なく聞いた言葉がまさかの爆弾発言に繋がり、俺達三人は盛大に飲み物を吹き出した。

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