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19話 転機の始まり

「ついでだから聞いても良いかしら?」


「何?」


「答えにくかったら良いけど、不動産投資なんてなかなか出来るものじゃないわよね? 私達の歳で株やバイト程度の稼ぎじゃ出来ないでしょ?」


「ああ、それね。うーん……ここに暮らしてるのにも繋がるけど、まあ、一言で言えば運が良かったのと親が出来た人だったって事がでかいかな?」


「それってどういう事なの天城くん?」


「えっと、少し長いけど聞く?」


「聞きたい!」


「りょ、了解」


 俺の問いに何故か前のめりで気圧されながら、俺は昔のことを話し始めた。


「俺、実は幼稚園までは日本に居たけど、中二までアメリカに居たんだ」


「じゃあ天城くんって帰国子女だったんだ」


「うん。そうなるね。んで、向こうは株とかも結構子供の頃から積極的に教えてんだよね」


「そうらしいわね。日本でも結構増えてきたけど、やっぱりまだ忌避感の方が強い印象よね」


「それで俺の両親も郷に入っては郷に従えって感じで、それまでの小遣いとかお年玉とか、将来的の為にって貯蓄してた30万くらいかな? を、軍資金として渡されて勉強だってやり始めたんだ」


「……ある意味凄いわね」


 話を聞いた星宮さんは素直に驚いている。


 まあ、そうだろう。


「そうだね。自分のお金だったとはいえ、子供にそんな大金渡すのすごいね」


「まあ、後から聞いた話しだけど、もしその時俺が全部スったとしても補填するつもりだったらしい」


「そうなんだ?」


 十年くらいかけて補填すれば月々の貯蓄は三千円以下。それくらいの年月をかければ、無理なく貯められると計画していたらしい。


「なるほど。じゃあ天城くんは株やってお金いっぱい稼いだの?」


「まあそんな感じ。俺が最初にやってたのはFXって奴で、簡単に言えば、一分後にウン百万稼げる可能性もあるもの」


「「「凄っ!?」」」


「その代わり五分後にマイナスウン百万とかも有り得るけど」


「「「怖っ!?」」」


「よくそんなのやる気になったわね」


「マネーゲームとはよく言ったもんで、本当にそんな感覚の方が強いからね。いちいち一喜一憂してたら精神持たないし、株の中でもFX選んだのは折れ線グラフがゲームっぽいとかそんなだったし」


 そうして親に教わりながら株の勉強を始めた俺は、勝ったり負けたりを繰り返しながら、資産を増やし100万程になった。


「わぁー、凄いね天城くん。子供の時にそんなに稼げるって想像できないよ」


「オススメはしないけどね」


「そうなの?」


「でも、そうやって増やせる辺り、センスあったんでしょうね」


「個人的にはビギナーズラックの類いだと思ってるけど。今同じようにやれって言われても出来る気しないし。まあ、そうやってなんだかんだとやっていた理人少年は、とある失敗をやらかします」


「何したのよ理人少年……」


「ここで一つ前情報。FXにはレバレッジっていって、自分の持ってる金以上の取引が出来る制度があります。日本では確か25倍くらいまで、海外では100倍以上も珍しくない」


「へぇーそんなのあるんだ」


 俺の説明に蒼月さんは興味深そうに相槌を打つが、星宮さん陽向さんはこの後の展開がわかったようだ。


「すっごい嫌な予感しかしないんだけど」


「聞くのが怖いよぉ」


「うん。予想通り、行けそうだから絶対買いたいと思った理人少年は、いつも親に頼んで買ってたのに、その時は急いで買いたいから自分でやるというね」


 その結果、見様見真似で取引を行った俺は、いろいろな警告文もすっ飛ばして、レバレッジ最大で取引をしてしまったのだ。


「やっぱり」


「なんで警告文すっ飛ばしちゃったの理人少年!?」


「いやだって、海外サイトだから日本語じゃなくて読めなかったし」


「あっ、そっか」


「そこだけはちゃんと子供してるのね……」


 警告文から何から全て外国語だったので、本当にその時は見様見真似でやっていただけだったのだ。


「だ、大丈夫だったの!?」


「まあ、結果を先に言うと、目論見通り跳ねて1億近い儲けになったんだけどね」


「い、1億円!? 凄い……」


 蒼月さんがその額に驚き指で数えようとしているが、流石に1億を指で数えるのはどうかと思う。


「今だからこうやって話せるけど、当時は丸一日飯抜き正座で説教受けたよ」


「そりゃそうだよ」


「私なら吊るしてるわね」


「んー、でも子供だった天城くんがやった事だし、結局大丈夫だったんだから良いような?」


「いや、ダメだからね? 蒼月さんがそう言ってくれるのは嬉しいけど、下手したら億単位の借金してたからね? 実際売るのが五分遅かったら、マイナス2億位だったし」


「「億単位っ!?」」


「ほ、本当なの?」


「うん。良いタイミングで売れたから良かったけど、売ってすぐから下がり初めて五分後にはそうなってたよ」


「本当にギリギリのタイミングだったんだね」


「うん。それで両親は両親で、子供がそれだけ儲けても、どういう経緯でもそれは俺が稼いだ金なんだから好きに使えって言ってくれてね」


「へぇー、確かに出来たご両親ね。それだけ稼いだら普通に寄生しようとする親も居るものね」


「だよね。だからまあ、出来た人って言うか、普通に自慢の両親です」


「……なんか良いね」


 陽向さんがぽそりと言って俺の顔を見る。


「クラスの人とかと話してても、私達くらいの人は皆、親がウザったいとかそんな事ばっか言う人が多いから、天城くんみたいにちゃんと人に自慢の両親って言えるのなんか良いなって」


 真正面の心の底からの褒め言葉は流石に照れる。


「あ、あはは。なんか恥ずかい事言っちゃったね」


「い、いや、そのありがとう」


 陽向さんも自分の言葉が恥ずかしくなったのか、お互いに顔を赤くして何やらこそばゆい空気が流れる。


「……てりゃ!」


「ひゃう!?」


「グハッ!?」


 そんな俺達二人の脇腹に蒼月さんの手刀が突き刺さる。


「こういう空気は認めません」


「どんな空気と!?」


「むー、ラブコメ禁止」


「そ、そんな空気出てないよ! わ、私が天城くんとなんてそんな……」


「えーい、だからそんな空気を出すなぁー」


 途中から顔を赤くしてゴニョゴニョと口ごもる陽向さんに、蒼月さんが襲い掛かる。


「モテてるわね」


「からかわないで!?」


 いや、マジで。凄い睨まれてるから!?


「それでそのお金を不動産投資に回したって事?」


「半分正解」


 助け舟なのか星宮さんが話を進めてくれる。


 それに全力で乗っかりながら俺も話を続ける。


「半分ってどういうこと?」


「えっと、その後半分を資産運用に回して、もう半分を自分のために使うことにしたんだ」


「自分のため?」


「そうそう。本買ったりなんか習ったりみたいな? まあ結局、それよりも有意義と思える使い方を見付けたからやらなかったけど」


「どんなことに使ったの?」


「クラウドファンディングに使った」


「「「クラウドファンディング?」」」


「簡単にいえば、やりたい事があるけど金がないって人が、複数人に金を出して貰うってものだね。こういう事をやりたいって出して、それに興味がある人間が金を出す。それでいろいろな特典を貰うって感じ」


 俺が特に投資したのはスタートアップ企業や、本当に趣味の延長線上のようなこれを調べたいからお金が欲しい、あれが作りたいからお金が欲しいという系統だ。


 そうして何個かに投資していったお陰で、専門家やいくつかの企業のトップと知り合いにもなった。


「凄い。社長さんとかにも知り合い居るの!?」


「うん。何人か居る。ぶっちゃけ利益よりも、そんな感じの人達と繋がれたのが一番の財産だね」


「なるほどそんな考え方もあるのね。正直お金よりも縁なんて考えたことなかったわ」


 そう言った星宮さんはどことなく尊敬の念を抱いたように俺を見る。


 ちょっとこそばゆい。


「まあ、中には金持って逃げたり、途中で計画自体がなくなったのも結構あったけど」


「えぇー、それって大丈夫なの? というか、天城くんでもそうやって騙されるみたいのあるんだね」


「いや、もちろんあるからね。俺、全部成功するほど優秀じゃないし。言ってないだけでまあまあ失敗もしてるから」


 これは本当だ。


 運良く、いくつかのものがいい感じに利益になってくれたが、それ以外は結構ハズレを引いたこともある。


 まあ、それでも中には面白い奴も居て、そんな奴と知り合えたのは大きいのだが。


 そして俺は、転機とも言えるようなある一つの案件と出会った。

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