16話 独りの理由
思うところあって武本、深見の名前をそれぞれ日向、星宮に変更しました
「もう。天城くんは本当にもう!」
「はい。申し訳ありません」
現在俺はむくれる蒼月さんに平謝りしてる最中である。
「しかし、本当になんの下心もなく普通に誘われるのね」
「だねー」
星宮さんと日向さんの二人は初日の事を聞いていたのだろう、少し興味深そうに俺達を見ながら話していた。
「まあ、良いわ。お言葉に甘えてお邪魔しようかしら。私も行きたいと思っていたし」
「なんで!?」
星宮さんの言葉に蒼月さんが素早く反応する。
「そりゃそうでしょ。内容知ってるとはいえ、仮にも親友が初日から連れ込まれて泣かされたなんて聞いたら───」
「その節はお宅のお嬢様に大変失礼な振る舞いをしてしまい申し訳ありませんでした!」
もう素直に椅子の上で速攻土下座である。
人生で何度本気の土下座をすることがあるのだろうと考えた時、ここ最近でやりすぎな気もするが、全部本当のことなのでしょうがない。
「あはは、大丈夫だよ。ちゃんと聞いてるから」
「そうだよ天城くん。泣かされたのも本当だし、からかわれたりもしたりしたけど大丈夫」
「フォローになってないよね!?」
「でも本当のことだし」
蒼月さんがとてもいい笑顔なのは仕返しだろうか? うん、そうだろうな。
しばらくからかわれた後、全員で俺の家へと向かう事になった。
電車で移動している最中、星宮さん達は軽くだが蒼月さんに普段どんな報告を受けているかを教えてくれた。
なんと驚く事に、蒼月さんは俺と友達になった三日後には、既に二人に俺のことを話していたらしい。
その内自分から話すとは言っていたがまさかの速さである。出来れば教えて欲しかった……。
そう考えるとこの約二週間、教室で蒼月さんと星宮さん達がキャッキャッしてる時、俺が澄まし顔で気にしないようにしてるとか思われていたのだろうか?
何それすごい恥ずかしい。なんの羞恥プレイだろうか。そんな趣味はないのでやめて頂きたい。
聞けばメールの内容も共有してるという恐ろしい事実まで付いてきた。うん。マジで恥ずかしい。
他にもどんなことを聞いているのか聞きたい気もするが、女子の会話を聞くのも躊躇われる。
だから結構聞いてますみたいな空気を出すのはやめて欲しい。
そしてそこのお嬢様はあからさまに顔逸らしてないでこっち見ろや。
「でも驚いたなぁ。天城くんってあのマンションに住んでたんだね。私の家からも見えるし、おっきいマンションだなぁって思ってたんだよね」
「確かにそうね。あそこかなり高いでしょ? もしかして君、おぼっちゃま?」
「えっ、天城くんそうなの?」
「いや、違いますが。とはいえ、多少他の家よりはあるかもだけど。共働きだしね」
「へぇー、でもマンションって、家族で住むと一軒家と比べて結構狭そうなイメージあるけど、あそこはそんな事なさそうだよね」
「まあ、普通のマンションより広いけど。俺、一人暮らしだぞ?」
「「「えっ!?」」」
いや、なんで蒼月さんまで驚いてるの? 貴女、結構な頻度で家に来てるよね?
「……なんで真白まで驚いてるのよ」
「いや、だって知らなかったし……」
「でも……その。あっちの、天城奈々は実家に住んでるわよね?」
星宮さんは少し言いづらそうに聞いてくる。
あー、そういや一人暮らしになったこと、学校にも言ってなかったっけ。主要な人間には知らせてたから忘れてた。
「え? なんであの人?」
「あれ、真白ちゃん知らなかったの? あの子、天城くんと兄妹だよ。同じ名前だから知ってると思ってたよ」
「知らない!? な、仲良くした方が良いかな!? ……でもそうするとあれも付いてくるしだろうし」
どうやらあのメンバーの事は全く頭になかったらしく、衝撃の事実に頭を抱えて悩み始める蒼月さん。
聞いてみるとどうやら蒼月さんは、ここに居る三人以外のフルネームはほとんどうろ覚えらしい。
……俺でさえそれなりに知ってるのに。
まあ、蒼月さんは学校では極力人と関わらないようにしてるから余計だろう。
「まあ、別に仲良くする必要はないと思うよ。俺も高校になってからはほぼ話してないし」
「そ、そうなんだ」
あからさまにホッとする蒼月さんを横目に俺は星宮さんの質問にも答える。
「あんまり大した話ではないけど、高校入ってすぐに俺は家を出て一人暮らしを始めたんだよ」
「……入ってすぐって事は、やっぱり予定してた行動ではないのよね? それって向こうが原因?」
「半分正解ってところだね。そうとも言えるしそうじゃないとも言える」
俺の答えに首を捻る三人。
まあ、そうなるよな。
星宮さんが言った通り、俺が一人暮らしをする事は予定通りの行動という訳では無い。
半分正解と言った通りその理由は義妹の奈々だ。
高校受験の際に小鳥遊に一目惚れした奈々は、入学後同じクラスになった事を切っ掛けに猛烈なアタックを開始した。
そして運良くハーレムメンバー入りした奈々にとって、同じ家で暮らす義兄の存在が邪魔になった。
「……もしかして、その為に天城くんを家から追い出したの?」
蒼月さんの冷たく硬い声が響き、空気が少し重く伸し掛る。
「いや、そこが少し違う」
「どういう事?」
「最初に一人暮らしをすると言い出したのは奈々の方だったんだよ」
「「「えっ!?」」」
「それでなんで天城くんの方が追い出されてるの!?」
高校生の女子が通える距離に居るのに一人暮らしなんて、当然義父も母さんも大反対した。
それでも奈々は一人暮らしを主張し続け、義父と喧嘩にまで発展、そこで折衷案として、俺が一人暮らしをすることを自分から提案した。
「と、言う感じで一人暮らしになりましたとさ」
「確かに半分正解ではあるのかもしれないけど、元を正せば天城くんを邪魔にさえしなければ良かっただけよね?」
「まあ、そう言えなくもないけど、俺も高校卒業したら一人暮らしする予定だったからなぁ……」
「そうなの?」
「二人共再婚だからね。この歳の子供が居たら気を遣うと思って、そこは当初から奈々とも少し話してた。まあ、暴走して早まったのは早まったけど」
「んー、納得出来ない部分もあるけど、天城くんが納得してるっぽいから何も言えないのが悔しい」
「ありがとう。まあ、俺は普通に納得してるよ。義父も気を使って多少仕送りしてくれるし」
そもそも俺に収入がある事を知ってる母さんに至っては、全く心配しておらず、むしろバイトもしていなければその辺の算段も全くない、義理の娘を一人暮らしさせる方が心配してたほどだ。
「むしろその状態で一人暮らしをさせて欲しいって言う方がよっぽどよね」
あまりにも無計画な行動に、星宮さんがため息を吐きながら呆れる。
俺もそう思う。
「まあ、本人はその辺全く考慮せずに、一人暮らしして小鳥遊を家に招いて───的な事を考えてたみたいでめっちゃ恨まれたけど」
「……逆恨みもいい所ね。ギリギリの生活なんて、そんな事してる暇ないでしょうに」
「その辺も全く考えてなかったぞ。仕送りだけで暮らす予定っぽかったし」
「怖いわね」
しみじみと言う星宮さんの言葉に全員で頷く。
今もバイトする様子はないから、早晩破綻するか、親の金を食い潰してただろう。
しかもなにより恐ろしいのが考えていたアイツが部屋が全て高級マンションだった事。
部屋が広い、二桁の所に平気で住もうとしてたからな。
「そう言えばさっき収入って言ってたけど、天城くんアルバイトとかしてるの?」
「まあ、ちょこちょことね」
「私、入り浸ってるけどもしかして邪魔してた?」
「その辺は上手くやってるから大丈夫。むしろストレス発散になってるくらいだから」
「なら良かった」
「どんなバイトしているの? あそこの家賃を多少の仕送りじゃ無理でしょ?」
なんか食い気味?
「興味でもあるの?」
「……まあ、一方的に教えて貰うのはフェアじゃないものね。私の家も母子家庭で少し家計が苦しいの。だから今、色々と探してるのよ」
「そうなのか……うん。もうすぐ着くし、それは後で詳しく話すよ」
どうやら結構話し込んでいたようだ。いつの間にやらもうすぐ目的の駅に到着するところだった。
「ええ、ありがとう」
ニコリと笑いかける星宮さんの笑顔にドキリとすると、次の瞬間には脇腹をつねられた。
視線を向けると同じ笑顔なのに蒼月さんからは圧を感じ、さっきとは違う意味で心臓がドキドキする。
これは不可抗力です!




