17話 友達の距離感
「あっそうだ。悪いけど皆で食材買い足してきてくれる? 俺、その間に少し仕込みしとくから」
もう少しで家に着く前に俺は、蒼月さん達にマンションの隣りにあるスーパーで買い物を頼む。
俺と蒼月さんとはいえ二人分なら余裕はあるが、四人分ともなると少し量が心許ない。
「うん。わかった」
「ご馳走になるんだからそれくらいは良いわよ」
「そうだね。何買って来るの?」
「すき焼きの素材なら適当になんでも。ホイ、財布。三万入ってるから予算内なら内訳は自由で良いよ。高い肉オンリーでも野菜含めてバランス良くでも」
「はーい」
「ちょっ!? 普通に財布投げ渡すのね」
蒼月さんに財布を渡すと何故か星宮さんが驚いている。
最近普通に買い物して来て貰う事も多いので、ちょっと感覚が麻痺したらしい。
「まあ、信用してるから」
「信用って……はぁ、真白も大概だけど貴方もなかなかね」
当然ながら褒め言葉ではないよな。
「ふふっ、そうだね。でも信用して貰ってるなら期待に応えないとね。でも本当に予算内なら好きに買っていいの? 金額結構大っきいよ?」
「良いよ。個人的な考えだけど、こういう時にケチるのが嫌なだけだから」
「そうなの?」
「うん。締めるところは締めるけど、出すべき所ではちゃんと出す。その方が気分良いしね」
これは相手が蒼月さん達だからではなくて本心からだ。
相手にも強要する気はないが、自分がその立場なら、奢ると言っておきながら、気を使えとか言われるとなんだかなぁという気分になる。
俺の考えを話すと全員納得してくれたようだ。
「でも私も買い物に来るのはこのスーパーだから、もしかしら知らない内にすれ違ったりしてたのかな? そしたら今度からは友達になったし、天城くんのこと見つけられるね」
「そうだね」
うん。エヘヘと顔を赤くして可愛く笑いながらそんな事を言わないで欲しい。
日向さんが俺の事を覗き込むように歩きながらそんな事を言ってくる。
なるべく反応しないようにしたが、これでなんの反応もしないのは、コミュ障には無理と言うものだ。
だから脇腹つねるのはやめてくださいお嬢様。
蒼月さん達と分かれた俺は、家に帰ると速攻でご飯をおひつに移し、ご飯を炊き始める。
そして材料を適当に切ると、前もって先に白菜の芯の部分や焼き豆腐、しらたきを軽く煮込む。
人数が多いからすき焼きと言うよりも、すき鍋にした方が食べやすいだろうと思ったからだ。
「ただいまぁー」
そうして準備を進めていると、買い物を終えた蒼月さん達が帰っきたようだ。
「……もう普通にただいまなのね」
「本当だね。もう勝手知ったるって感じ」
そんな声に改めて全く意識してなかった事を理解する。
そういやいつからただいまとか言ってたっけ? 全く意識してなかったわ。
「天城くん買ってきたよ」
「ありがとう」
買ってきて貰った食材を受け取り中身を軽く確認する。
うん。まあまあ高い肉買ってる。もっと高いのでも良かったのに二人が遠慮したのだろうか?
「それにしても、ここ思ってよりも凄いのね」
「うん。本当だよね。中にジムまで入ってると思わなかったよ」
「ああ、入んないとわかんないよね」
このマンションの中層には、とある理由で住人専用のジムとプールが入っているのだ。
「ねえねえ天城くん。まだ出来るまで時間かかる?」
「もう少し掛かるけどなんで?」
「えへへ。シャワー借りて良い?」
「チョッ!? 流石にそれは」
「そ、そうだよ真白ちゃん!?」
蒼月さんの爆弾発言に慌てる二人。
「……ふぅー。ご自由にどうぞお嬢様。タオルは洗面所にあるから好きに使って」
しかし俺は息を深く吐くとその提案を受け入れた。
「わーい。ありがとう。服も借りるねー」
そう言って躊躇なく俺の部屋に入り、パーカーを持ってシャワーに向かう蒼月さん。
それを驚きながら見送った星宮さん達が俺の顔を見る。
「これ、もしかしなくても私達の方が土下座するべきかしら?」
「そうだね。天城くんよりも真白ちゃんの方がやらかしてそう」
「やめろ! ただでさえいっぱいいっぱいなのに、クラスの美少女二人から土下座されるとかキャパオーバー過ぎる!?」
「その光景をスマホで撮れば今後は楽しく会話が出来そうね」
「謝りたいのか脅迫したいのかハッキリしてくれませんかねえ!?」
「冗談よ」
「紫音ちゃん……冗談に聞こえないよ?」
「あら、失礼ね?」
「目が全く悪ってないからだよ!?」
マジ勘弁してください。
「まあ少し……からかいすぎたわ。でも、その割には冷静に対応したわね」
いや、少しじゃなくない?
「多少慣れもあるけど、二人が居てくれなかったら流石にもっと動揺したよ。一応言っておくと今回が初めてだからな」
「それ聞いて少しは安心した……と、言えるのかしら? それにしても、真白から惚気と言うかなんというか色々聞いた時は、とんだヘタレだと思ったけど」
「唐突なディスリ!?」
「あのやらかし具合を見るとヘタレと言うよりも、自制心の塊ね。あらゆる意味で貴方で良かったわ」
言いたい事はわかるけどイマイチ納得しかねる。
「紫音ちゃん言い過ぎだよ」
「でも琥珀だってそう思うでしょ?」
「そりゃまあ……アレだと天城くん以外だったらって思っちゃうよね」
「友達に良からぬことなんざしないから安心してください」
オレ、トモダチ、カンチガイダメ、ゼッタイ。
その言葉に二人は微妙な反応をする。
「友達ねぇ……」
「……なにか? 蒼月さんから話し聞いてるなら、二人も蒼月さんが友達だって言ってるのは知ってるだろ?」
「まあ……確かに執拗に友達って言ってたわね。正直、今は何言ってんのこの子って感じだけど」
「紫音ちゃん正直過ぎ……」
「でも、琥珀もそう思うでしょ?」
「まあ、確かに付き合って何年目のやり取りだろうとか、天城くんの方がよっぽど幼なじみっぽいなとは思うけど……」
どうやら俺の勘違いではなく、二人から見ても蒼月さんの距離感はおかしいようだ。
「「「ハァ……」」」
三人で吐いたため息はとても廊下に響いた。
「わぁー、いい匂い」
十分後、シャワーから帰ってきた蒼月さんは、まさに風呂上がりというような無防備な姿で現れた。
シャワーで落としたのか髪色もいつも通りの色に戻っている。
どうやらこれをしたかったらしい。
うん。俺のパーカーが男物だしビックサイズで大きいのはわかるけど、それだけなのはどうかと思います。目のやり場に困る。
「天城くんのエッチ」
視線を少し逸らすと同時にそう言われたが、これやっぱり俺悪くない気がする。
「真白ちゃんから聞いてて天城くんってエッチなんだって思ってたけど……」
なんたる風評被害!?
「これ悪いの真白ちゃんだよね?」
「そうね。明らかに罠でしかないわね」
「わかって貰えた!?」
良かった。これで向こうに味方されたら一生勝てない戦いに挑むところだった。
「むー、なんか二人に味方になって貰えて嬉しそう」
「そりゃまあ、こんだけ回避不可能な悪辣な罠に毎回かかればね」
「悪辣じゃないもーん」
「はいはい。飯ね飯。用意出来てるよ」
「はーい」
「手馴れてるわね」
「だね」
「ご飯食べる人」
俺が聞くと全員手を挙げたので四人分用意する。
「あっ、手伝うね」
「ありがとう」
「うっ、わ、私も手伝う!」
「あんたは髪を乾かしなさい」
「あー、好感度稼がれるぅー」
何を言っとるんだあのお嬢様?
「あれ、それって?」
「……蒼月さんのです」
「じ、自分の茶碗まで!?」
「……本格的にこの家に侵食してるわね」
「てへっ」
分かりやすくあざといポーズで誤魔化す蒼月さんに呆れる二人。
まあ、そうなるよね。
おひつのご飯を移し、炊飯器も近くにスタンバって準備完了。
「それじゃあ」
「「「いただきまーす」」」
「遠慮せず食べて」
「もちろん!」
うん。貴女はいつも通りだね。
食べ始めると三人ともとても満足してくれたようだった。
そして俺も───蒼月さんと一緒に食べる時もそうだったが、一人で食べる時よりも、皆でわいわい騒ぎながら食べるいつも通りのご飯は、何故だかいつもより美味しく感じるのだった。




