14話 私も話してみたかった
「あら、私の名前、知っててくれたのね?」
「そりゃあ、星宮さんたちは目立ってるからね。それにどちらかと言えばそれは俺のセリフだよ」
目の前に立つクラスメイト、星宮紫音と視線を合わせながら会話する。
星宮さんはクールな雰囲気を纏った切れ長の目の大人っぽいスレンダーな見た目の美少女。
腰の辺りまで伸びた黒髪は艶やかでとても印象的なモデルのような人だ。
「クラスメイトだもの。ちゃんと知っているわ」
会話をしながら星宮さんと遭遇したことをメールで蒼月さんに連絡する。
気づくかどうかは分からないがやらないよりいいだろう。
「でも、こうして話すのは初めてよね?」
「そうだね。挨拶すらたまにある程度だからね」
実際、蒼月さんとこうして遊びに来ているが、本来関わりなんてほとんどないはずだからなぁ。
「どうかした?」
なんとなくいつも堂々としたクールな印象の星宮さんが、躊躇うような空気を出しているのが気になり聞いてみる。
すると星宮さんは少し驚いた顔をした後、意を決したように声を出した。
「その……貴方とは一度ちゃんと話したかったのよ」
「俺と?」
蒼月さんと似たようなことを言われて少し驚いたが、浮かべる表情が同じ意味の言葉ではないことを証明している。
「ええ、もしかしたら恨まれてるかもって思ってたから」
その言葉に少し考えて理由に思い至る。
「もしかして小鳥遊……というか、噂のこと?」
「ええ。内容が内容だったからちゃんと聞いて知っているわけではないけれど、大まかには把握してると思う」
「なるほど」
表情から察するになかなかの内容のものを聞いたのだろう。
俺に対する噂、蒼月さんは知らなかったようだが、実は結構出ているらしい。
しかもその中には面白おかしくあることないこと付け足したものもある。
例えば、俺があの二人のどちらかと付き合っていてこっぴどくフラれたとか、目の前でイチャつきを見せられて逆恨みしているとかそんな感じだ。
酷いものだと寝盗られたなんてものもある。
その中の一人は一応義妹なのだが、噂好きたちにはそんなものは関係ないらしい。
彼女とはお互いに両親の前ではそれなりに仲良くやろうと決める程度には、極めて不自由で表面上は良好な家族関係で、そんなことは一切ないのだが噂は広まっている。
俺としては全く気にしていないのだが、星宮さんはどうやら俺が恨んでいるかもしれないと考えているのだろう。
ぶっちゃけ、噂の通り付き合っていたのなら多少思うところはあったかもだが、事実そんな関係ではない。
他人の好いた惚れたも勝手にすればいいと思っているが、世の中には見ず知らずの人間に好意を持って、その人に相手がいるだけで逆恨みする人間もいる。
そう考えれば大して仲の良くない俺がそう思っていると、星宮さんが考えてもおかしくはないだろう。
「星宮さんが信じられるかどうかはわからないけど、俺としては何も思うところはないから気にしなくていいよ」
これは紛れもない本心だ。
ぶっちゃけ悪い人間がいるとすればそれは他の誰でもなく俺だろう。
仮に彼女たちを好きだったのだとすれば、俺は彼女たちが自分から去らないように努力する必要があったが、特別な感情を抱いたこともなく繋ぎ止めようとも思わなかった。
まあ、面白おかしく噂を立てられまくっているのは正直面倒だが、それこそ星宮さんたちを恨むことではない。
「……そう」
正直に思っていることを全部話したが、星宮さんはやはりどこか引っ掛かりを覚えているようだ。
本当に気にしなくていいんだけど……。
「ねぇ、その缶ジュースってどうしたの?」
「えっ? これはさっき飲もうと思って買ったものよ」
話題がいきなり変わったことに驚きながらも答えてくれる星宮さん。
「ちょうど喉乾いててさ。まだ口つけてないならもらってもいい?」
「いいけど……」
「ありがとう」
厚かましくも俺が言うと、訝しみながらジュースを差し出してくる。
それを少しひったくるようにもらって一口飲む。
「うん。美味い。じゃ、これでこの話は清算終了ってことで」
「えっ、あっ!?」
一瞬面食らった星宮さんは少し遅れて俺の言葉の意味を理解する。
「貴方はそれで良いの?」
「良いも何ももうお詫びの品をもらって飲んだからね。これ以上何か言えないでしょ」
それを聞いた星宮さんは何がツボに入ったのか、口元を隠して笑いを堪える。
そして───。
「はぁ、天城くんって意外といい性格してるのね」
先程とは違い吹っ切れた顔で目元の涙を拭い、なかなかに失礼なことを言う星宮さん。
「なんでだろうね。知り合いからは結構言われる」
「ねぇ、良かったら私とも仲良くしてくれる? 貴方ともっと話してみたいし」
黒曜石を思わせる瞳で俺を真っ直ぐに見ながら、美少女に手を差し出され、そんなことを言われて否とは言えない。
しかし……星宮さんが俺の前に立ち、俺は座っているので、何がとは言わないが必然的に視界に入ってしまう。
……いや、別にさっきの話を思い出したとかじゃないから。
「どうしたの?」
「なんでもない。よろしく……で、良いのかな?」
頭を振って邪念を追い払い差し出された手を握る。
蒼月さんに負けず劣らずの容姿を持つ、美人や綺麗系と言われるモデルのような星宮さんと向かい合って手を握るとか少し照れる。
「そうね……なんか改まると無駄に照れるわね」
それ、星宮さんが言う? というか今更だけど私"とも"って言わなかったか?
ふと浮かんだ疑問。
その疑問の答えは向こうからやってきた。
「あ、天城くんと紫音が仲良く握手してる……!?」
戻ってきた蒼月さんが驚いて固まる。
「ごめんね紫音ちゃん。足止めできなかったよ」
「大丈夫よ。話したいことは終わったから」
蒼月さんより少し遅れて現れた陽向さんが、そんなことを言いながら登場する。
蒼月さんのもう一人の幼馴染、陽向琥珀。
教室では太陽な笑顔を振りまくプラチナブロンドの美少女。
モデル顔負け、グラビアモデルと言っても通用するようなプロポーションの持ち主だが、誰にでも優しく人気がある。
どうやらここで会ったのは偶然ではなく、蒼月さんもここに遊びに来ることを言っていたのだろう。
「もー、二人ともなんでここにいるの!」
俺と星宮さんの手を引き剥がすと、間に入るようにして蒼月さんがずいっと星宮さんに詰め寄る。
少し機嫌が悪そうだが、いかんせん迫力が不足しているので可愛いとしか思わない。
まあ、そもそも怒っているというよりも、怒っているアピールに近い感じで、どちらかと言えばじゃれていると言った方が近そうだ。
「天城くん。突然でごめんね」
その隙を縫い、陽向さんが俺にコソッと謝ってくる。
「別に大丈夫だよ」
「私も紫音ちゃんと一緒で謝りたかったんだ」
「星宮さんにも言ったけど、そんなこと気にしなくて大丈夫だよ」
「そうなの?」
「うん。全く」
第一、これで謝罪を要求したら、今こうして蒼月さんたち三人と会ってるのすら、小鳥遊に謝れと?
そんなもん絶対に嫌だから、俺もむしろ謝らないでほしい。いやマジで。
そう言うと、陽向さんは笑いながら「確かに」と同意する。
「まあ、それとは別で私も天城くんと話してみたかったんだけどね」
「へっ?」
突然の急カーブに思わず変な声が出る。
内容は違えど、学校で有名な美少女三人から同じようなことを言われるとか、そろそろ死ぬのではないだろうか?
「誰なのかは最近まで教えてもらえなかったけど、天城くんの話はずっと真白ちゃんから聞いてたから。真白ちゃんがそんなに気にする人、私もずっと話してみたいと思ってたんだ」
「そうなんだ」
「うん。最近の真白ちゃん楽しそうだから……それにね。私も紫音ちゃんも謝りたかっただけじゃなくて、天城くんにはすっごい感謝もしてるの」
「感謝?」
今度こそ意味が分からない。俺は今の今まで彼女たちと大した接点はないはず、それなのに何を感謝しているのだろうか?




