12話 勘違いしたくなる距離
すいません。仕事で少し更新が遅れました
デート。
交際中、または互いに恋愛的な展開を期待しており、日時や場所を決めて会うこと。
どちらか片方が相手を完全な友達として認識しているなど、約束の段階で既に「恋愛的な展開を期待していたのは片方だけ」なら、デートではないとされる。(サイト調べ)
スマホでその意味を調べながら、去り際に告げられたその一言がずっと頭の中をグルグルと回る。
蒼月さんは距離感がおかしい。
友達とはいえ異性の家に入り浸り、家でも普通にくっついてくる。
そんな蒼月さんの距離感で勘違いしないため、俺は定期的に友達であることを再確認する。
そしてその返事は決まって肯定だ。
それなのにデート?
いや、どうなんだ。結局俺が自意識過剰なだけなのだろうか? いや、多分そうだ。
友達同士でも二人で出かければデートとか言ってる女子を見たことがある。女子同士でも二人で出かける約束をしてデートとか言ってるのも見たことある。
きっと蒼月さんのあの発言もそれと同じようなものなのだろう。
「ふうー。危ない危ない。勘違いしそうになる」
自分の中でそう決着をつけてもどうにも寝付けず、結局朝を迎えてしまった。
「……眠い。今から寝たら……うん。寝過ごすな」
そう結論づけた俺は濃いめのコーヒーを飲み干し、いつも通りの日課をこなして時間まで過ごすことにした。
汗をかいたのでシャワーで軽く流すと、ちょうどいい時間になった。
しかし……。
「デートとか言われても何を着りゃいいんだろ?」
いかんせん経験のないことだ。
何が正解なのかも分からず、とりあえず考えすぎるとドツボにはまると思い、普段の格好にした。
普通のジーンズに黒のシャツとシンプルな格好。少し薄着な気もするが、まあ大丈夫だろう。
「変……ではないよな?」
何もかも初めてすぎて分からないから深く考えるのはやめ、待ち合わせ場所に向かう。
ちょうどいい時間かと思ったが、駅に着いたのは20分も前だった。
……うん。素直に緊張してるな。
友達と待ち合わせするのも初めて、それが異性で、しかもデートなんて言われて舞い上がってるのか?
頭の中で考え込んで、何やら恥ずかしい答えに行き着きながら頭を抱えそうになる。
しかし───
「おはよ。早いけど……そんなに私とのデート楽しみだったの?」
「おは……よ? 蒼月さん……だよね」
「そうだよ。えへへ、分かんないもんでしょ」
デニムのショートパンツにオーバーサイズのパーカー。大きめのリュックを背負い、帽子を目深に被った黒髪の女の子。
ありきたりな格好でも、素材がいいとこんなにも可愛いのかと思わせるのはさすがだと思う。
「髪はそれカツラなの?」
「違うよ。今は髪を傷めずに、一日だけ簡単に色を変えられるスプレーとかもあるんだよ。まあ、簡易的なものだからシャワーでちゃんと洗うとすぐ落ちちゃうけどね」
「へぇー」
そんなのがあるのか。
「どう? 似合う?」
その場でくるりと回ってみせる。
「うん。黒髪も似合ってる。けど、俺はやっぱりいつもの髪色のほうが蒼月さんらしくて好きかな。光に当たると輝いて見えて、本当に蒼月さんに似合ってるし」
「ふえっ!? そ、そうなんだぁー。そんな風に思ってくれてたんだぁ。ふ、ふーん、そっかそっかぁ……そっかぁ……」
髪の毛をクルクルといじりながら顔を逸らす蒼月さん。
やべ。気持ち悪かったか。
「そ、そうだ。服、服はどう? 可愛い格好はできなかったけど、こういうのもいいでしょ?」
「うん。それもすごく似合ってる。さっきも素材がいいと普通の格好でもこんなに可愛いのかって思ったし」
「フニュッ!?」
「フ、フニュ?」
「な、ななな、なんでもない。なんでもないから! さっ、行こう。すぐ行こう今すぐ出発」
「いやでも」
「何も聞こえなーい」
「えぇ……理不尽」
なぜかいきなり背中を押されるようにして、そのまま電車に乗り込む。
手で顔を扇いでいるが暑いのだろうか?
見れば少し顔が赤い気もする。
「そういえば天城くんも、今日の格好似合ってるしかっこいいね」
「そう……かな? いつも通りの格好だから自分じゃ分からん」
「そうなんだ。でもよかったよ」
「なにが?」
「んー。天城くんならジャージとか、いつものよれっとしたTシャツやパーカーで来ちゃうかもってちょっと思ったから、そしたらデートって言ったのに悲しくなっちゃうところだったよ」
「いや、まあ、さすがにね」
友達同士で出かけるんだし、実は若干それでもいいかと一周まわって頭をよぎったが、それを却下したさっきの自分グッジョブ。
やはり考えすぎというのはよくないんだな。
「そういえばこれからどこ行くの? 全く聞いてなかったんだけど」
「んー、私たちがいつも遊んでるところに行こっかなって」
「……それ、学校の連中に見つからない?」
「そのための変装です」
エヘンと胸を張る蒼月さん。
うん、可愛い。じゃなくて。
「な、何?」
改めて蒼月さんを見ると、確かに俺は正体を知っているから分かるが、一見すれば蒼月さんには見えない。
黒髪にすることで、人の印象の大半を占める見た目をうまく誤魔化している。
そのうえで、普段の蒼月さんからはあまり想像できない、ボーイッシュな格好は確かに分からないかもしれない。
今も少し顔を赤くして俺を見上げる姿に、気恥ずかしさから思わず顔を逸らしそうになるが、やはり一目で蒼月さんだと分かる人は少ないだろう。
「ううん。可愛いなって思っただけ」
「ファッ!?」
心配事がなくなった俺は、真っ赤になる蒼月さんに気が付かず、二人で遊びに行く状況に自然と緩みそうになる頬を、必死に引き締めるのだった。
「ここが天城くんがよく来る場所なんだ?」
「あんまり楽しくないと思うぞ?」
電車の中で既に俺が普段行っているところに行ってみたいと言われたが、普段の買い物はネットか近くのスーパーで事足りる。
しかも友達付き合いもないため、こんなところまで来ても、行く場所など片手で数えるほどしかない。
そんなわけで来たのが、たまにゲーセンに行くときについでに寄るこの古本屋。
大型のものではなく、今となっては珍しい個人商店の小さい古本屋は、たまに掘り出し物が売っているので俺的には結構楽しかったりする。
「へー、この辺、皆とたまに来るけど全然知らなかったよ。天城くんこういうところ好きなんだ?」
「まあね」
「そういえば天城くんの部屋の本棚って、漫画とか小説とかいろいろ置いてあるもんね」
他愛のない話をしながら店内を見て回る。
蒼月さんにはつまらないのでは? そう思ったが、意外にも楽しそうに棚を眺め、前に探していてどこにも売っていなかった昔の推理小説を見つけて喜んでいた。
その後もたまに行く古着屋を回り、今度は蒼月さんが行く小物屋や服屋、目についた店を散策する。
そうこうしているうちに昼になったのでファーストフード店で昼食にする。
途中、蒼月さんが手を繋いで「早く行こう」と急かしてきた時は、ドキドキして心臓がうるさかった。
こんなことされたら勘違いしたくなるんですが?
今日は、いい肉を知り合いからもらったからすき焼きにする予定と言ったら、便乗する気満々らしく、昼はほどほどにしておこう、ということになったからだ。
まあ、最近は贅沢になったのか、一人で飯を食べてもあまり美味しいと思わなくなっているので、全然いいのだが。
今までは一人でいろんなことをしても普通に楽しめたが、最近は一人でゲームをしてもどこかつまらなさを感じてしまう。
一人暮らしを始めた時だってこんなことにはならなかったのに、いつの間にか随分と一緒にいることに慣れてしまったものだと思う今日この頃。
ただ、最近は俺の家で飯を食って帰ることが多い。家のほうは本当に大丈夫なのだろうか。
前に聞いた時はちゃんと許可は取っていると言っていたからいいんだけど、さすがに最近は多い気がする。
美味しそうにハンバーガーを頬張る蒼月さんを見ながら、なぜだか知らないうちに外堀だけは埋まっていっている気がすると、そんなことを考える俺だった。




