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いわい

朝日の光を浴びてリヒトーは目覚め、起き上がりまず自分の身の回りを確認する。肉体は傷一つないが服はボロボロで土埃に返り血や自身の血で汚れている。

次に周りを見渡す。右を見れば瓦礫。左を見れば瓦礫。後ろを振り返れば瓦礫。下を見れば瓦礫。廃墟街は瓦礫の山へと変わった。


「シーダ。」


そして次は疲労感を感じながら立ち上がり名前を呼ぶ。返事は返ってこない。


「シーダ。」


瓦礫の山の上を歩きながらリヒトーは名前を呼び続ける。


「シーダ。」


居そうな場所を探しながらリヒトーは名前を呼び続ける。


「シーダ。」

「…こ、こ。」


何回か名前を呼んだ後、返事が返ってきた。リヒトーは声がした方へ向かうと半壊した建物の壁にめり込んだ状態のシーダをリヒトーは発見する。


「ここにいたか。」


リヒトーはシーダの体を掴み引っ張り出す。シーダが壁から離れたと同時に建物が崩れ落ちる。咄嗟にリヒトーがシーダを抱え離れた為巻き込まれることはなかった。


「生きてるか?」

「なんとか。」


弱々しいがシーダの意識ははっきりとしている。


「…こうなるとは思わなかった。」


リヒトーがシーダから視線を外し、改めて周りを見渡す。周りは瓦礫瓦礫瓦礫瓦礫だらけ。無事な建造物がほとんど見当たらない。


「俺も。女王の時以来かな。ここまでやったの。」


街を破壊した原因はリヒトーとシーダの喧嘩によるものだ。

街としての形がはっきりと残っていた廃墟街が二人の喧嘩に巻き込まれ事によって完全に崩れていた。


「疲れたな。」

「うん。」


二人は揃ってその場で座る。瓦礫の上は座り心地が良くなかったが喧嘩をして疲れている二人はとにかく休みたかった。


「喧嘩はこれで終いにしよう。」

「じゃあ、仲直りしてくれる?」

「もちろんだ。今までの事はお互い水に流すぞ。」

「うん。ありがとう。リヒトー。」


自己再生によって傷は完治していたがそれによって指を動かすのが億劫になる程の疲労感を二人は感じていた。

しかし、二人共晴れ晴れとした様子だ。


「さて。これからどうするシーダ。」

「どうしよっかリヒトー。」


寄り添う二人は考える。この先の事を。

強大な力を手にした二人には大層な野望も願いも目標も無い。今まではそれらを抱く余裕などなかった。今を生きる事に精一杯だった。


「とりあえず今は休みたい。」

「俺も。」

「休んだら麻井の所に行こう。陽斗らを突き出す。」

「生きてるの?」

「遠くに縛って置いてきた。巻き込まれてはいない。」


これからの二人がどうなるのか分からない。

これから先、人間ではない二人がどうなるのか誰にも分からない。

だからこれからも今を生きようとする。未来の事が分からないなら今を生き抜く事をこれからも考えようと二人揃ってそう思った。


「立てるか?」

「…もう少しこのままがいい。」

「分かった。」


寄り添って座る二人は今はお互いもう少しこのままでいたいと思っていた。



◆◇◆◇◆



「というわけで自分達は吸血花として生きる事になった。陽斗らはすぐ近くに連れて来て外に転がしてある。後で拾っておいてくれ。」

「待て待て待て! 情報量が多すぎる!」


しばらく休んだ後、二人は瓦礫の山となった元廃墟街から麻井の研究室へ移動した。

身の回りで起きた状況を麻井に説明している途中、麻井は頭を抱えてリヒトーの話を遮る。


「え? 何? あの騒ぎはあんたらがやった事で、喧嘩で街を木っ端微塵? え怖。何それ。…あれ? リヒトー。あんた夫婦喧嘩するって言ってたっけ?」

「言った。それがどうした?」

「いやちょっと待て。何? あんたら結婚してたの?」

「そうだ。」

「おい! 初耳なんですけど!」

「言ってなかったか?」

「言ってないよ言えよもっと早くに! 結婚おめでとう!!」

「ありがとう。」


早口で思った事をぶつぶつと独り言を口にする麻井に対してリヒトーは我関せずといった態度で要求する。


「それと悪いが服をくれ。自分とシーダの分もな。」

「…服。服ね。おーし分かった。用意してあげる。それから騒ぎは適当に知らんぷりしておく。」


早朝から大騒ぎだった正体不明の廃墟街崩落の原因がリヒトーとシーダの夫婦喧嘩によるものだと知られたら二人を排除しようとしたり利用しようとする者達が続出すると考えた麻井は二人を守る為に真実を誤魔化そうと決めた。

それとあまりに一気に知らされた大量の情報と現実離れした現実から目を背けたい気持ちが多々あった。


「で。まぁ、吸血花になったの納得したんならあたしから文句は無い。」


そう言って麻井はシーダの方をちらりと見る。

麻井からの視線に気がついたシーダは一瞬体をこわばらせるが、すぐに姿勢を正して視線を真っ正面から受け止める。


「…今度は大丈夫そ。」


麻井は聞き取れないほどの小声で呟く。


「何か言ったか?」

「なんでもなーい。」


すぐにおちゃらけた様子に戻った麻井は別の話題を二人に振る。


「それでそれで? 二人はこれからどうするつもりかな?」


麻井の問いかけに対して最初に答えたのはリヒトーだ。


「シーダと話し合いしながら少しずつ決めるつもりだ。」


それに続いてシーダも答える。


「まずはいろんな場所に行ってみようかなって思ってるんだ。」


嬉しそうに口元を緩めるシーダ。

リヒトーもどこか楽しげな様子だ。

二人の様子を見た麻井もそれに釣られてか微笑む。


「いいじゃん。新婚旅行みたいなものだし時間はたくさんあるみたいだからゆっくり楽しみな。」

「そうするつもりだ。」

「じゃあお祝いしなくちゃ。服のついでにあんたらが飲めるの持ってくるから待ってて。扉の鍵閉めておくから絶対に外に出ないでよ。」

「分かった。」


麻井は研究室から出てしっかりと施錠の確認をすると二人の服と飲み物などを取りに向かう。その足取りはとても軽やかだ。


現在の時刻は早朝。

麻井の研究室付近にはほとんど人がいない。原因はリヒトーとシーダの大喧嘩によって崩壊した廃墟街がどうしてそうなったのか何も知らない人々が原因を調べる為に人手を割いているせいだ。

そのおかげで麻井は堂々と歩き目的の品を誰にも邪魔される事なく手に入れる事ができた。窓から差し込む朝日を浴びながら麻井は鼻歌を歌いながら上機嫌で品々を持って研究室へと戻って行った。


「お待たせー! ご所望の物を持って来たよ。着替えたら乾杯よ乾杯!」

「いいだろう。」

「俺、乾杯初めて。」


麻井から服を受け取ったリヒトーとシーダは早速着替える。

二人が着替え終わったのを確認した麻井は人数分のグラスに飲み物を注いでいき二人に渡すと自分のグラスを手にして少し上に掲げる。


「それじゃあ二人の門出を祝して乾杯!」

「乾杯。」

「乾杯!」


三人がグラスをカチンと鳴らして当て、三人がそれぞれのペースでグラスの中身を飲んでいく。


「これ美味しい。」

「…今度のは毒入りじゃないようだな。」

「リヒトー! 友達に失礼だろ。」

「いやいや。当然の反応でしょ。今度のは安全だから安心しな。」

「そうみたいだな。」

「麻井。おかわりいいか?」

「もちろん。じゃんじゃん飲みな。」


会話の内容はともかく穏やかでささやかなお祝い。

人間ではなくなり、これから吸血花として生きていくリヒトーとシーダの門出のお祝い。

二人ぼっちを先の見えない未来へと送りだす為のお祝い。


親友とその伴侶の行末を案じている麻井はそれを二人に気取られないよう気をつける。


「リヒトーも飲め飲め。今日はあたしの奢りなんだからさ。」

「では貰おう。」

「どーぞどーぞ。」


せめて自分だけは二人の味方でいよう。可能な限り支援しよう。

二人を祝福しよう。

麻井は強くそう決めた。

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