けんか
「喧嘩? 喧嘩ってあの殴り合ったり怒り合ったりするあの喧嘩?」
「そうだ。」
「それを今から俺とリヒトーがやるの?」
「そうだ。」
「なんで?!」
リヒトーからの思いがけない提案にシーダは混乱している。
「なんで俺がリヒトーと喧嘩するの? 俺嫌だよリヒトー殴ったり怒ったりするの!」
「前まで殺し合っていたのを忘れたのか。」
リヒトーはため息を吐きシーダの方へと歩み寄る。
「リヒトー?」
「仕方がない。」
シーダに近づいたリヒトーは手を振り上げシーダの頬を目掛けて振り下ろした。
吸血花であるシーダですら反応が出来ないほどの速さによるビンタはリヒトーの狙い通りシーダの頰に当たり、その衝撃によってシーダは吹っ飛び老朽化した窓ガラスを割って外へと強制的に飛び出された。
「??!」
突然の事に思考が追いつかないシーダ。それでも空中で体制を立て直し、地面に着地する。
「??!」
引っ叩かれた頬を手で押さえ混乱している様子のシーダをリヒトーは見下ろした後、自身も廃墟ビルから飛び降り難なく着地すると真っ直ぐとシーダの方へ視線を向ける。
「どうした。反撃しないのか?」
リヒトーはそういうがまだ混乱していて状況を何一つ分かっていないシーダは動かないまま。それに焦れたリヒトーは再びシーダに近寄りもう片方の頬を引っ叩いた。今度は先ほどよりも弱い力でやったため吹っ飛びはしなかった。
「!!?」
「何をぼーっとしている。喧嘩をしているんだ。やり返せ。」
「…え。え?」
両頬を叩かれたシーダはさらに混乱し、両頬を両手で押さえる。
「けんか? え? 喧嘩ってこんなのだっけ?!」
「うだうだ言うな。構えろ。」
「構えろって。何をすればいいんだよ。」
両頬を叩かれても怒らないシーダにリヒトーはため息を吐いた。
「シーダ。なぜ自分を吸血花にした?」
「…それは。」
リヒトーはその理由を知っている。だがそれを伝える事なく再び理由をシーダから聞こうとする。
問いに対してシーダは目線を下に向けながらも小さな声ではあるが答えた。
「リヒトーに、死んでほしくなかった。」
「そうか。だが自分は頼んでいない。なぜ自分に死んでほしくなかった?」
「…冷たくなったリヒトーに触わってて、今まで一番嫌な気持ちになった。苦しくて。何も考えないままリヒトーを吸血花にした。」
「つまりお前自身の為に自分を生き返らせたのか。吸血花として。」
「…はい。」
青ざめた顔でうつむき罪悪感から背を丸めるシーダに容赦する事なくリヒトーは質問攻めを続ける。
「自分が死んでお前は死を知った。そして悲しんだ。そこまではいい。だがそこから先はどうだ。お前は自分を吸血花にした。何の断りも無く。しかも目覚めた後には何の説明が無い。」
リヒトーからの追及にシーダは体を縮こませる。
「何故何も言わなかった?」
「…怖かった。リヒトーに嫌われるのも、リヒトーがいなくなるのが。」
「だから言わなかったと。だがそのせいで手間が掛かった。お前がやった事は状況を悪化させる他無い。」
シーダの顔色がだんだん悪くなっていく。
「…ごめんなさい。」
「何故謝る?」
「俺が。たくさん悪い事をしたから。リヒトーとあと麻井に迷惑かけたから。」
「違うだろシーダ。」
「え?」
「謝罪の言葉はもう十分受け取った。今お前がするべき事は謝罪じゃない。」
「じゃあ、何を?」
「開き直れ。」
「へ?」
リヒトーから思いがけない事を言われシーダは目を瞬かせる。
「お前がやった事を今更どう言おうと自分が吸血花になった事は変わらない。お前が願った事を無かった事には出来ない。今、うだうだ言っても過去は変わらない。」
リヒトーは真っ直ぐとシーダを見続ける。
「だったらいっその事開き直れ。俺はリヒトーを吸血花にした事を後悔していないと言い切れ。」
「…リヒトー。」
シーダの目にうっすらの涙が浮かぶ。それがどういった感情によって出たものかはシーダ自身分からない。
「まぁそれはそれ。これはこれ。無断で吸血花にされた事についてはむかついている。」
「う。」
が、リヒトーの言葉にシーダの涙が止まる。
「だからやるぞ喧嘩。お互い納得する為に殴り合って言いたい事を言って、体力が無くなるまでやって」
話の途中でリヒトーから感じていた圧が和らぐ。
「最後は仲直りだ。」
無意識にリヒトーは表情を柔らかいものへと変える。
「…リヒトー。」
顔を上げたシーダはリヒトーを見る。今度は真っ直ぐと目を見て。
「だから構えろシーダ。」
「…分かった。」
リヒトーから目を離さずシーダは身構える。
「手加減はしない方がいいよな。」
シーダに続いてリヒトーも身構える。
「そうだな。この体になったんだ。そう簡単には死なない。遠慮するな。自分もしない。」
これから行われるのは喧嘩。
これから起こるのは喧嘩という言葉で収まれないほどの大騒動。
見つめ合う二人がこれから引き起こす周囲を破壊する大喧嘩を止められる者は誰もいない。




